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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第一章 英雄集結
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第九話 よいちのゆみ その11

10人の皆鶴姫が一斉に上総に襲い掛かる。

「ふっ! 面白い」

上総が迎撃の構えをとった。


 

「面白れぇ。俺にも稽古つけてくれよ」

クロウが魔法剣を発動させる。


「あ、ちょっと」

静が制止しようとするが、クロウはとまらない。

「やれやれだぜ。このガキがっ。おらーっ!」

千葉も同じく魔法剣を発動させて応じた。


突如始まった皆鶴姫VS上総 クロウVS千葉の戦いに戸惑う残ったメンバーたち。


「あ、いやぁ。すいませんねぇ」

吉次は残った三浦にすり寄って頭をさげる。


「あ、いや。・・・なかなか、気苦労されていますな」

三浦も言葉を選びながら吉次に応じた。


「しかし・・・。我らを魔王を倒したと知り、挑んでくるとは剛毅というか……。率直に言って、すごいな」

三浦は感心したように言う。


「すいませんねぇ。我が主の敵はその魔王でしてねぇ。修練によいと思ったようですねぇ」

吉次が頭を下げながら答える。


「魔王? 聞き捨てならない言葉だね。どういうことだ?」

三浦が吉次に尋ねる。


「それは私が答えるわ」

静が前に出た。


「ん? お前は?」


「あの魔法剣をもって暴れているクロウってバカの姉貴分みたいなもんだよ。一番、この一党の棟梁であるクロウの事情がわかる奴だと思ってもらえたらいい」


「へえ。じゃあ聞こうか? 君の言うクロウの敵が魔王っていうのはどういうことだい?」


「クロウの敵は怨念の魔王 崇徳天」

「崇徳天だと」

「そう、ここに来る前に崇徳天と戦うことになり、撃退はしたけどクロウは傷を負った。その傷を治すためにここにきたの」

「よく、魔王と戦って傷だけで済んだな」

三浦は率直な感想を言った。

三浦たちは崇徳天と戦ったことはない。

しかし、同じ魔王の名を冠する玉藻御前と戦ったことがある。

その戦いで玉藻御前は坂東の強兵を主力とした軍隊を蹴散らした。

魔王とはそれほどの相手なのだ。


その魔王と戦って生き延びるどころか撃退したという。

三浦は素直に感嘆した。


クロウと千葉

皆鶴姫と上総

彼らが戦う音が聞こえる。


三浦は2組の戦に目を向ける。


皆鶴姫と上総は剣同士の戦い。鋼がぶつかりあう音が響く。

時に皆鶴姫は魔法を使用し10人となり、上総を攻め立てる。

対する上総はカウンターが得意なようだ。

10人相手という数的ハンデを全く感じさせず、皆鶴姫の全ての攻撃を弾いていた。

その弾く力が強力だ。

成人女性である皆鶴姫を吹き飛ばしている。


どう見ても皆鶴姫が魔法で10人になっているからこそ互角に戦えているが、1対1だと上総の方が上だというのは明らかだった。


クロウと千葉は両者とも機動力を使った戦いをしていた。

ただ、クロウは遠距離から攻撃を狙い、千葉は急速接近してから一撃を入れての離脱と戦法はかなり違った。


互角に見える。

しかし、クロウの本当の戦い方を知っている者にとっては悔しい戦い方だ。


(今までのクロウだったら、距離を取った後-霧-の魔法で勝負がついていたのに)

静は思わず唇を噛んだ。

血潮の味が口の中に広がった。


「おい。大丈夫か?」

それに気づいた三浦が気遣う。もっとも三浦も魔王を倒した勇者ではあるが神ではない。

静の唇から血が流れた理由はわからない。


静は黙っていた。自分の中にある激情を上手く説明できないからだ。

代わって吉次が答えた。

「悔しいのですねぇ」

「悔しい?」

「ええ、我らが主。クロウ殿は魔王 崇徳天と戦いました」

「それは聞いた」

「その戦いのとき、クロウ殿は傷を負い、魔法を封じられました」

「ん? 魔法を?」

「ええ、彼のもっとも得意とする魔法です。それが使えませぬ。それが我等には悔しいのです」

「んー。それは何か? クロウ殿はその魔法を封じられてなければ千葉に勝てると言いたいのかい?」

「実際のところはやってみなければわからないでしょうねぇ。しかしながら、クロウ殿が全力を出せぬというのは我等にとっては“悔しい”このことには変わりはしませぬ。三浦殿も全力を出せぬ戦いは悔しくはないですか」

「ああ、そう言われると気持ちはわかる……」


「私の所為なんです!」

ここで片岡春が叫んだ。

「どういうことだ?」

突如、話に入ってきた少女に三浦は尋ねる。

「私は……崇徳天に運命を定められていた」

「運命を?」

三浦の問いに春は頷く     

「私は崇徳天に魅入られていた。……今だからわかるけど……あの魔王は己の恨みを晴らすため世が乱れることを望んでいる」

「ああ」

三浦は頷いた。


三浦達3人の老将は崇徳天が魔王となった理由を知っていた。世を恨んでいる理由も知っていた。

全ては彼らが若いときに起きたことが発端。さらに言えば、三浦達が倒した傾国の魔王、玉藻御前も関係があった。

そのため怨念の魔法 崇徳天が世の乱れを望んでも“もっともだ”と思った。


「私の家は。領地は。家族は源頼朝に奪われました。源頼朝の打倒平家の勧誘を断った。ただそれだけのために。私は兄と共に奴隷にまで落ちました。私はそれを恨んだ。その恨みに。その心の隙に崇徳天はつけこみました。頼朝を呪い、世を乱せと」


「なにぃ」

三浦は驚いた。

三浦、上総、千葉の3勇者は源頼朝の味方をしようと考えていた。そのためかつてのパーティ仲間である資さんも誘うためにこの那須温泉にまで国王という身分でありながらきていた。

源頼朝の味方をする主な理由は覇王 平清盛が天下を獲る過程で取り込んだ都の朝廷勢力に含むところがあるからだ。

そして反覇王勢力になりそうな候補の中で源頼朝が一番マシと思えたからだ。


しかし、その源頼朝がこの目の前の少女の家を滅ぼしたとなると話が変わってくる。


片岡春は言葉を続ける。

「その運命をクロウ様達は崇徳天を退け断ち切ってくれた。だから、私は今、私の意思で運命を決めることができる。今だから解る。あのままだったら私は世を乱す運命の一因として滅んでいた!」


決して、流暢な言葉ではない。しかし、その言葉が

片岡春の言葉が真実だと告げていた。


「その運命をクロウ様達は断ち切った。でも、でも、その代わり……力を封じられた……私はそれが悔しい」


「・・・・」

三浦は決して妄動するタイプではない。

片岡春の言葉を全面的に信じたわけではないが

(これは源頼朝と組むのも、もう一度考え直したほうがよいかもしれない)

と頭を回転させた。


同時にこのクロウ一党に対しての警戒感を一段下げた。


彼等が出張ってきたのは那須温泉郷の人々から“野盗かも知れぬ一団が攻めてきている”という依頼を受けたからだ。

彼らはこの那須温泉郷では名前が通っていた。この那須の領主。資さんと共に傾国の魔法 玉藻御前を倒した勇者として。

そのため那須温泉郷の人々からすると老いたとはいえ彼らが守ってくれるなら安心であった。魔王を倒した勇者パーティに敵うわけはないのだから。

三浦達もそのことが分かっている。

大いに自尊心を満たし、また資さんの領民のため、その依頼を引き受けた。


そして実際にクロウ一党と会って見た三浦は。

(野盗ではない)

と判断した。


野盗ならば、このような話し合いにはならないし、片岡春が嘘を言っているとは思えない。

そして、その片岡春の話が本当であるならば、少なくとも野盗ではないだろう。

それに金はあるようだ。吉次の黄金のマスクがそれを示している。金がある一行が危険を冒して野盗まがいのことを行う動機が見当たらない。


「怪我を直すためここに来たと言っていたね」

三浦はしばらくたって片岡春が落ち着いたと思われる頃に吉次に聞いた。

黄金のマスクをかぶる筋肉マッチョという外見上のうさん臭さはあるが、一番、話が通じそうなのが吉次だ。


「ええ、今、春が申したとおり、我が主 クロウ殿が魔王との戦いで怪我をしましてねぇ。その怪我を少しでも癒せればと思いましてねぇ。やはり、一番の湯治場と言えばこの那須温泉郷ですからねぇ」


三浦は頷く。

傷を治すためなのであれば止める必要はない。


「もう一つ、伺ってもよいか?」


「ええ、何なりと」


「先ほど、魔王と戦ったと言っていたね? “魔王を倒す”それがお主らの目的かい?」


「まさか。そんな大それたことは考えてはおりませぬ。ただ……」


「ただ?」


「クロウ殿は覇王と戦って敗れた源氏の棟梁の子。血筋で言えば源頼朝殿の弟でございます」


「なにぃ」

三浦は驚いた。

この時代。貴族の子は多い。

一人っ子とは限らない。

むしろ一人っ子は稀だ。

血を絶やさぬため何人も子をなすのが普通。

なら、源頼朝に兄弟がいても不思議ではない。


そして源頼朝は源氏の棟梁の子として覇王打倒を目指して動き出している。

具体的には三浦達、坂東の勇者、戦士達を集めている。


ならば兄弟であるクロウも源頼朝と同じく打倒覇王を目指してもおかしくない。

いや、むしろそのために活動していなければおかしい。


「目的は覇王か…………」

「左様。」


三浦はあらためてクロウの一党を見る。少年少女が多い。

彼らが打倒覇王としてのクロウの股肱となることは容易に想像がついた。


【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

おかしい・・・よいちの活躍を書くつもりが、三浦、上総、千葉の活躍を書いている・・・迷走している筆者です。

こんな作品ですが、「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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