第九話 よいちのゆみ その10
クロウ達は ―吉次を除いて― あまり自覚はないが目立っていた。
なにせ10人を超える人数だ。
しかも武装している。
それが堂々と道を進んでいる。
野盗またはどこか国の分隊と受け取られても仕方なかった。
吉次はそのことを知っていた。
場合によっては那須の温泉宿に入る前に野盗と間違われ、ひと悶着あるかもしれないとは予想していた。
しかし、彼は楽観視していた。
彼は“金”という魔法の鉱物をもっている。
これがあれば、人々は目の色を変え、融通を聞かせてくれることを経験から知っていた。
今回も大丈夫だろうと高を括っていた。
ところが“金”も万能ではないということを吉次は知ることになる。
例えば国王のように吉次以上に資産を所有している人物に“金”の魔力は通用しにくい。
それが清廉潔白な人物であればなおさらだ。
その国王が3人いたことが吉次の計算を狂わせた。
相模国南部の王 三浦
上総国の王 上総
下総国の王 千葉
彼らが温泉宿の手前でクロウ一行の行く手を遮った。
彼らは武装し、歓迎とは程遠い対応をしようとしているのは明らかだ。
「とまれ!」
三浦がクロウ一行をとめる。
「これは何事でしょう?」
吉次が進み出ようとする、懐には万能トラブル解決アイテムの”金”を潜ませている。
「とまれと言ったはずだ」
三浦が再度、告げる。
隣で上総がスラリと剣を抜く。臨戦態勢だ。
「穏やかではないですねぇ。理由を聞いても?」
吉次は内心、舌打ちをした”金”は近づかないと威力を発揮しない。
その内心を少しも表に出さず低身のまま尋ねた。
「あのねぇ。自分たちを見てごらんよ。そんな武装した連中が大勢出来たから。温泉宿の人たちが驚いてね」
「それでちょうど宿に泊まっていた我らに依頼がきたのだ。確認そして危険であれば撃退してくれってな。まったく、酒と焼肉でまったりしていたってーのに」
三浦と千葉が言葉を続ける。
「それは、それは驚かせたようで申し訳ございませぬ。我々の中に怪我人がおりまして、ただ、ただ湯治に寄らせてもらっただけでございます」
吉次は強かに、あくまで低姿勢を貫く。
これが吉次一人ならこの交渉は成功していた。
しかし
しかし
吉次は失念していた。
吉次の後ろにガラの悪い連中が仏頂面で突っ立ってたことを。
営業スマイルのスの字も理解していない連中が逆に威嚇するように立っていたことを。
彼らは吉次の邪魔をしようとしていたわけではない。
決して。
逆に吉次の援護をしようと考えていた。
しかし“交渉”の概念のない彼らは相手を威嚇することで吉次の援護になると考えたのだ。
発想が昭和のツッパリ君なのだ。
「ただ、湯治にきたといっても……」
吉次以外の全員が睨みつけている状況をみて三浦が戸惑いを見せる。
その様子に吉次は異変を感じ背後を振り向き……三浦の戸惑いの原因を深く理解した。
三浦の戸惑いをもっともだと肩を叩いて同意したい気分だ。
初めて吉次はクロウ達を連れてきて失敗したと思った。
「一つ聞きたい」
ここで皆鶴姫が口を開いた。
「我々が危険だということで温泉宿の人々から依頼を受けたとお聞きしました。つまり、皆様方は依頼を受ける程の強者なのですね」
おだててるのか挑発しているのか良くわからない皆鶴姫の質問に顔を見合わせる三浦、上総、千葉。
ただ……
彼らも老いたが男子だ。若い女子に強者と言われて悪い気はしない。
ここで三浦が小声で上総、千葉に話しかける。
(名乗ってみるのも一つの手かなと思いますがいかがでしょう?)
(名乗る??)
(私達は自分で言うのもなんですが俺たちは有名です)
これは事実だ。魔王を倒した勇者パーティだ。さらには国王でもある。
つまり皆鶴姫の言う強者というのが名乗るだけで証明されるのだ。
そして強者に喧嘩を売る馬鹿はいない。
名乗ることで不要な争いを回避できるのではないか? 三浦はそう考えたのだ。
(いいだろう)
上総が三浦の提案に同意する。千葉も頷いた。
自分たちの名前が不要なたたかいの抑止力になることをこの勇者たちは知っていた。
そして、抑止力になるなら無用に躊躇うことはない国王と言う名の為政者でもあった。
「強者かどうかはさておき、魔王 玉藻御前を倒したことはある」
上総が反応を見ながら鋭い視線で答える。
「聞いたことがある」
駿河が驚いた声をあげた。
皆が一斉に駿河を見る。
「都を混乱に落とした傾国の魔王 玉藻御前。それを倒した四人の勇者がいると。その勇者は相模国南部の王 三浦様。上総国の王 上総様。下総国の王 千葉様 そして下国の那須様。軍勢をも退けた魔王 玉藻御前をその四人で倒したという」
駿河が解説する。
クロウ一行は二つの意味で驚いた。
魔王を倒したということ
そして
どちらかと言えば無口な駿河が急に饒舌に説明役をしはじめたことだ
クロウ、静、皆鶴姫は正面の老戦士を見る。
クロウ達は魔王を身近に見てきた。
怨念の魔王 崇徳天
外来の魔王 クマラ
クロウ達から見ると神にも匹敵する次元の違う力を持つ者たち。
先日も奇妙な縁で怨念の魔王 崇徳天と交戦したが、とても倒しきれる相手ではない。
逆にクロウは首近くに傷を負った。
幸い、命は拾ったが、術を封じられた。
その魔王と称される一人を目の前の老戦士たちは倒したことがあるらしい。
それだけでも彼らの実力がわかる。
同じ老戦士ではあるが道中でであった熊坂長範とは別次元の強さだろう。
「その勇者の皆さまでお間違いないでしょうか」
吉次が平身低頭の姿勢を崩さずに尋ねた。
「おう。俺は三浦だ」
「上総という」
「千葉です」
老戦士が名乗る。
その名は、先ほど駿河の説明にあった勇者パーティメンバーの名前だ。
「なるほど、魔王を倒した勇者であるなら、依頼を受けるのも頷けます」
皆鶴姫が頷く。
「一つ勇者の皆様方に相談があります」
続けて皆鶴姫が問いかける。
問いかけられた三浦たちもクロウ一行も皆鶴姫がこの状況で何を相談するかが気になった。
状況が状況だ。
クロウ一行はクロウの傷を治すため那須温泉で湯治を希望している。
一方、那須温泉側では多数の武装した戦士が現れ略奪されるかもしれないという疑いがあり、ちょうど那須温泉にいた勇者パーティに武装勢力からの防衛を依頼した。
そして勇者パーティーはその依頼を受け、クロウ達と対峙している。
これが今の状況だ。
那須温泉や勇者パーティ側からすると物騒な人々は立ち去ってくれというのが本音だ。
しかし、クロウ達も治療目的で訪れていた。
魔王を倒した勇者が塞いでいるからといって立ち去るわけにもいかない。
そのため皆鶴姫の相談は通常であれば「何とか湯治させてもらえないか?」という内容になると思われるが、皆鶴姫の雰囲気がそれを否定していた。
お願いする雰囲気ではない。
強いて言えば戦意を高ぶらせているという表現があう。
その皆鶴姫がどのような相談をするのか皆、気になった。
「私と戦ってくれませんか?」
???
皆が首をひねった。
意図がわからない。
(戦って勝ったら湯治宿に入っても良いという条件をだすつもりか?)
三浦が辛うじて皆鶴姫の目的にあたりを付けた。
「私は剣士です」
そう言って皆鶴姫はスラリと剣を抜く。
三浦達が警戒し、臨戦態勢となる。
「私が今、この仲間と一緒にいる理由はいろいろありますが、一つには強い相手と戦い、剣の腕を磨きたいというのがあります」
皆鶴姫がむき出しの剣を手に取り語る。
静は思い出す。
皆鶴姫の養父 護法童子 鬼一法眼をクロウは倒した。
鬼一法眼は魔王クマラのガードマンを務めるほど、優秀な剣士だ
皆鶴姫にとって養父 鬼一法眼は父であり、師匠であり、超えるべき目標、憧れだった。
その鬼一法眼をクロウが倒したのだ。
衝撃であったし、世の中は広いと痛感した。
そしてクロウに興味を持ち、同行を願った。
皆鶴姫の趣味は剣だ。
その剣技を高めるには高い技術をもった相手との実践稽古が手っ取り早い。
そのために同行し、暇があればクロウと剣を打ち合った。
皆鶴姫はクロウとの稽古の中で自分の剣の腕があがることを実感。
充足した日々を得ることができた。
ところがだ。
世の中は広い。広すぎた。
都で平家の将に襲われたとき、得物が無かったとはいえ何もできなかった。
陵介の館でも無様に不意をうたれ捕らわれた。
先日の魔王 崇徳天との戦いでも満足に剣技を使ったとは言い難い。結果、クロウは負傷し、一部の術を封じられた。
(不甲斐ない。私にもっと力があれば)
と思った。
悔しかった。
皆鶴姫はいわばクロウのスパーリングパートナーだ。
クロウは魔王、崇徳天に一部の術を封じられた後、特訓を自らに課した。
その特訓に当然、皆鶴姫は付き合うことになる。
その特訓で、クロウが苦しそうな。悔しそうな表情を見せた。
余裕綽々。COOLを絵にかいたようなクロウがだ。
皆鶴姫はその表情を見るたびに悔しくなった。
剣の道に進みながら、強敵との戦いでは役に立たず、クロウにこのような表情をさせていることにだ。
皆鶴姫は力を欲した。
それこそ魔王を倒せる力を
クロウと並びたてる力を
陵介に守られずともよい力を
そこに魔王を倒した実績をもつ3人の勇者が現れた。
3人とも老域に達しているようだが、その覇気を見るに力はそれほど衰えていないように思えた。
それならば、皆鶴姫は自分の剣技を磨く相手として丁度良いのではないかと考えた。
何しろ魔王を倒しているのだ。
彼らを倒すことが出来たら魔王も倒せるという事だ。
そう皆鶴姫は考えた。
だから―
「戦って欲しいのです」
そう言って皆鶴姫は突っ込んだ。
上総が前に出て剣を抜く。
皆鶴姫の剣と上総の剣がぶつかる。
二つの鋼の剣が火花を散らせる。
「フン。要は稽古をつけて欲しいということか」
上総が鍔迫り合いの中で問う。
「ええ、あなたほどの実力者を倒すことが出来たなら、魔王を屠ることができるでしょうから。」
皆鶴姫はその問いに不敵な笑みで答える。
「ほう、魔王を屠るか。その向上心! その野心! 嫌いではない! だが!」
上総は剣に力を込める。
「ぬりゃあぁ!」
気合と同時に鍔迫り合いの態勢のまま皆鶴姫を吹き飛ばす。
「そもそも俺に稽古をつけてもらうだけの実力が伴わねば意味がないぞ」
上総が仁王立ちで睥睨するように堂々と立ち吠えた。
「元より承知」
皆鶴姫が不敵に応じ、魔法を唱えた。
皆鶴姫が10人に増えた。
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【あとがき】
皆鶴姫がバトルジャンキー化して困っている筆者です。
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