第九話 よいちのゆみ その6
「うわ。すごい煙」
静が驚いた声をあげる。
「このような場所は見たことありませぬ」
皆鶴姫も驚いていた。
二人が驚くように岩の裂け目から白い湯気が絶えず噴き上がり、風に流されて森の木々を霞ませていた。
鼻を刺すような硫黄の匂いが濃くなる。
「気を付けてくださいよ。この辺りは魔王 玉藻御前の縄張りに近いですからねぇ。下手に縄張りに近づくと毒煙であの世行きですからねぇ」
吉次が注意を促す。
魔王というワードに対してピクリと反応する片岡春。
彼女は怨念の魔王 崇徳天から受けた精神ダメージから回復してはいない。
ぎゅっとクロウの着物の端をつかんだ。
「また、魔王? しかも玉藻御前。有名な奴じゃん」
静がため息をついた。
「有名なのか?」
クロウが首をかしげる。
「あんね。そんなんだと天神様の補習をくらうよ」
静が呆れたようにクロウを見る。
「む。 皆鶴姫、知ってるか?」
「え、ええ。玉藻御前は有名ですから」
皆鶴姫は頷き、クロウのために説明を始めた。
事情通の吉次や駿河が玉藻御前のことを当然知っていたが、それ以外のメンバーは無学にて知らない。皆、耳を傾けた。
「傾国の魔王 玉藻御前が有名なのは当時の帝や朝廷の乗っ取りを企てからです」
「乗っ取り? そういうことができるのか?」
「ええ、絶世の美女に化け帝や朝廷の重臣を魔法の力で徐々に精神を支配していったと言われています。」
「精神攻撃による乗っ取りか」
「ちなみに怨念の魔王 崇徳天もその被害者と聞いています」
ここで片岡兄妹がぴくりと反応した。
「崇徳天は当時の帝の子でした。初めは親に愛され帝の位も譲られたようです。ところが玉藻御前の精神魔法を受け乱心した親に帝の地位を追われました。その後、親と子である崇徳天との争いになり……その結果、崇徳天は世を恨んで魔王と化したと聞いています」
「ちょっと待った。するとその玉藻御前という魔王は崇徳天と言う魔王が生まれた元凶ってことかな」
伊勢三郎が尋ねる。
「一般的にはそう言われていますなぁ」
吉次が伊勢三郎の疑問に答えた。
「その玉藻御前はその後、どうなったのです? まだ帝を操っているのですか?」
片岡八郎が難しい顔で訪ねる。
「いや、さすがに朝廷も無能じゃなかったようですなぁ。精神魔法で帝や重臣が乗っ取られていることに気づいたようです。あそこには陰陽師という専門家のいる部署もありますしねぇ」
吉次が答える。
「そうだったら……。その玉藻御前はすでに倒されたんだな?」
熊井太郎が尋ねる。
「いえ、玉藻御前はその動きを察知し、速やかに去ったようです」
皆鶴姫が答える。
「ええー。そんなら……魔王 玉藻御前はどうなったんだ」
「ここ那須の地ににて、坂東の勇者たちと戦ったそうです。その結果、倒すことは出来なかったようですが、封印されたと聞いています」
皆鶴姫が説明した。
「その封印された場所が近いんです。あれを見てもらえますかねぇ」
そう言って指をさした吉次。
その指の向こうには、明らかに湯気や硫黄の煙とは違う、瘴気が漂っているエリアがあった。
瘴気の量が異常だ。
まるであらゆるものを拒む瘴気の城壁だ
「あれが傾国の魔王 玉藻御前の封印された場所。まあ、縄張りですねぇ。決して近づかないでくださいよ。魔王は封印されたとはいえ、まだ生きています。その影響で毒煙のような瘴気も出ています。魔王の眷属のモンスターも出ているようです。明らかに外敵を阻んでますなぁ。決して近づかないようにしてくださいねぇ」
「へぇ。面白れぇ」
「まったくクロウは。また悪い虫が出たね」
「外観はまるで違いますが、魔王城と同じ雰囲気がします」
クロウ、静、皆鶴姫が興味を示す。
クロウは近所のクマラの魔王城に殴り込みにいったことがある。
静もそれに付き合っている。
皆鶴姫にいたっては魔王クマラを主君と仰いでいる。
この3人にとって魔王は畏怖の対象ではない。
傾国の魔王 玉藻御前はどんな魔王か興味と冒険心と好奇心が3人の心から湧き上がっていた。
それを知った吉次は珍しく語気を強めて念を押す。
「ダメですからね! 怪我を直すのが先ですからね!」
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【あとがき】
吉次が徐々におかんになってるなぁと思いつつ筆を進めている筆者です
こんな作品ですが、「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




