第九話 よいちのゆみ その3
資さんを訪ねてきた人達がいた。
相模国南部の王 三浦
上総国の王 上総
下総国の王 千葉
魔王 玉藻御前を倒した勇者パーティーメンバーだ。
かつての勇者達も翁といって良い年齢になっている。
それぞれ国の王であり、さらに言えば坂東平野の国々の中でも巨大な力を持つ王達だ。
「どうした? 皆が揃うなど只事ではない」
資さんは眉を八の字にした。
確かに勇者パーティーが揃うのはただ事ではない。玉藻御前のような魔王が現れるようなことがなければ集まらないメンバーだ。
そうでなくとも坂東平野の中での大国の王達なのだ。
「そう、只事ではないのだよ」
「うむ、少なくとも坂東の帰趨が決まる相談をしに来た」
「頼む、資さんの力を借りたいのだ」
三浦、上総、千葉がそれぞれに口を開く。
「久しぶりに会った言葉がこれかよ。話が重いわ」
資さんは益々、眉を八の字にした。
「そうかね?」
「俺達がそろって資さんのところに会いに来たって意味は分かるだろ?」
「頼む、資さんの力を借りたいのだ」
資さんは帰りたくなった。
といってもここが自宅だ。
「私の治める南相模の近くに源頼朝と言う人物がいる」
三浦は困っている資さんに構わず告げた。
源頼朝は資さんも知っている。
有名人だ。
時の覇王、平清盛と天下を争った源氏の子の遺児の一人だ。
生き残った遺児の中で一番の年上のはずだ。
「知っている。覇王様が情けをくれて死罪ではなく流罪になった。それで都を離れ……三浦。お前の近くに住んでるんだろう?」
覇王は子供には甘かった。
源頼朝以下の年齢の子は全て生かした。
資さんが考えるに“戦うべき戦士”と“憐れむべき遺児”を明確にわけているようだ。
源頼朝より年上の兄たちは“戦士”として倒されている。
「ああ、何と言っても相模国は住みたい町、第一位だからな」
三浦が自慢げに答える。
「その頼朝が覇王に挑戦するため準備を進めている」
上総が鋭い目を資さんに向けた。
玉藻御前に止めの一太刀を浴びせた男だ。老いたとはいえ眼光は鋭いままだ。
資さんは上総の言葉を聞きため息をついた。
親の仇か? 野心か? 動機はわからないが、戦いを欲しているらしい。
「武士というのは業が深いな」
とだけ言った。
「ふむ。なかなか含蓄のあるセリフだ。もっとも頼朝自身はかなり慎重らしい。どちらかと言えば彼を神輿に担ぎたがっている奴らが多いようだ」
十分にあり得ることだ。
今のままだと立身出世は現状のまま。
逆に担いでいた頼朝が覇王となれば、その側近として権力を振るうことが出来る。より富貴になれる。
そのことを思い資さんは重いため息をついた。
「権力を握ること、それが幸せになることとは限るまいに」
「資さんが言うと説得力があるな」
千葉は頷いた。
「そうなね。そういう考えもあるだろうね。一方で守るための戦いもある。先の魔王との戦いもそうだ。負けると全てを奪われる。大事な人の命もね」
上総が真剣な顔で言った。
「…………」
それに資さんは答えない。彼は身をもって“守るための戦”その意味を理解していた。
「うむ。頼朝は兵をいずれ挙げねば、その内、倒されると思っている」
「いや、正確には周りがそう焚きつけたのさ」
「覇王も老いる。老いると猜疑心が強くなる。平家の天下を伺うのではないかとあらぬ疑いをかけられ滅亡するってね」
「愚かな……。真実ではなく疑念で争いを始めるのか」
資さんはつぶやいた。
襲われるかもしれないから先制攻撃をする。
古今、それでどれだけの戦が発生し、どれだけの不幸がおきたことか。
人は疑念だけで争いを起こす愚かな化物だ。と資さんはため息をついた。
「疑念に欲が加われば十分、戦の原因となるだろう」
上総が鋭い眼光とともに現実をつけつけた。
「幸いと言っては何だけど……頼朝は若いが知恵者だね。あるいは側近に知恵者がいるのか・・・少なくとも扇動者に焚きつけられたからといってすぐに動くつもりはないらしい」
「その代わり、坂東平野の国王たちを勧誘している」
「たぶん、十分に味方が増え、勝ち目がでてくるまで動かないつもりだろう。そして、扇動者たちにもそう言って妄動しないようにしてるんだろう。焦って妄動しない老成した考えを持つようだ」
「……それで相談とは?」
資さんは訝し気に尋ねた。源頼朝を賛美する3人が何を言いたいのか読めないのだ。
「先日、源頼朝から俺に使者が来た」
「ん?」
「さっき言ったろう? 頼朝は坂東平野の国王たちを勧誘していると。それが俺のところまできた。」
「俺のところにもだ」
「以下同文」
「いや、以下同文って」
ツッコミを入れながら資さんは考えた。
この3人の勇者たちの相談内容が読めてきたからだ。
そして、その相談に対してどうすればよいか考える必要がある。
「……その勧誘にのるのか?」
資さんは探るように3人の勇者たちを見る。
「そう考えている」
「世が割れるぞ! せっかく戦乱も収まりかけているというのに!」
そう言った資さんの脳裏には千本と与一の笑顔が浮かんだいた。
「まだ、収まっていない!」
「ぬ」
「まだ、収まっていないのだ。資さん」
相模が労わるように資さんに言う。
「頼朝は若年ながら賢い。自らを立てようとする扇動者に対して、勝ち目が見えてからと抑えてはいるが結局、やっていることは事態の引き延ばしでしかない。いずれ、本人の意思に関わらず立ち上がらざるを得ない運命だ」
「つまり……源頼朝の挙兵は遅いか、早いかでしかないということなんだ」
「いずれ必ず起きるなら……。手を貸して早めに戦乱を収めたほうがよい。そう俺達は考えた」
「俺達も年だからな。生きている内に本当の意味で戦乱を終わらせたいのだ」
「覇王も魔王 崇徳天を倒した戦士だけどね、僕たちも魔王 玉藻御前を倒したんだ。戦力は互角……いや、覇王が魔王 崇徳天を倒したときは源氏の棟梁である源頼朝の父と一緒だったよね。その源氏の棟梁はいない。覇王自らが倒したからね。戦力は半分だ。だとすると私達の方が有利だ」
「俺達を誘った源頼朝は賢いよ。玉藻御前を倒した僕ら全員が味方したら、勝ち目が出てくる。そこで本題だ」
ここで三浦、上総、千葉が声をそろえる。
「「「資さん、お前も一緒にこい」」」
「ぬ。……なぜだ」
資さんは面食らっている。
「うむ。愚問だね
「何言ってるんだ? 俺達は共に魔王 玉藻御前と戦った仲間だろ?」
「頼む、資さんの力を借りたいのだ。 玉藻御前と戦った俺達が全員揃えば敵なしだ」
「敵なしか……」
資さんはつぶやき、聞く。
「なぜ覇王に味方しない。源頼朝に味方するも覇王に味方するも戦を早く終わらせるという意味では同じだろう。むしろ、覇王の方が仮にでも天下を全ているのだ。戦を早く終わらせるだろうに」
「資さん、アンタ本気でそれを言っているのか?」
上総が現役さながらの鋭い視線を浴びせる。
三浦と千葉も上総の言葉に頷く。
「平清盛は今の帝を擁して覇王となった」
「つまり覇王は今の帝、そしてその側近達のいる朝廷の守護者なんだ。覇王と今の帝、朝廷は同じだ」
「帝を、朝廷を 資さん。あんたは許せるのか」
「許せるわけがないっ!」
資さんは吠えた。恐ろしい剣幕。唾が飛ぶ。
「許せるわけはないだろう」
再び、今度は肩を落としたようにつぶやくように、それでいてはっきりと言った。
「覇王に味方するということは帝に、朝廷に味方するということだ。俺たちはそれを良しとしない。資さんもだろう」
資さんは口をつぐむ。
しかし否定はしない。
その態度が肯定していた。
「俺達がつくのは反覇王・反朝廷だ。覇王の味方はできない」
上総が鋭く言い放つ
「資さんも同じだろう」
「だから、誘いに来た。資さんも一緒に行こう。俺達4人が一緒なら誰にも負けないよ」
三浦と千葉が言葉をつづけた。
資さんは眉を逆ハの字にした後、絞り出すように
「少し考えさせてくれ」
と言った。
【モデル紹介】
■三浦義明
本作の三浦のモデルの一人
源頼朝の挙兵に呼応し、合流しようとしたが大雨で酒匂川で足止めを受け、石橋山の戦いに参戦できなかった。その後、当時、平家側だった畠山重忠と交戦、衣笠城合戦で討死
■三浦義澄
本作の三浦のもう一人のモデル
三浦義明の子
源頼朝を支え鎌倉幕府の合議制を構成する一人となった。
■上総広常
本作の上総のモデル
石橋山の戦で敗れた源頼朝の元へ、兵2万を率いて参上する。
金砂城の戦で活躍。その後、謀反の疑いありと暗殺された。
■千葉常胤
本作の千葉のモデル
源頼朝の挙兵に参陣。源範頼軍の将として活躍した。
上総広常と違い、戦後、多くの所領を得た。
【お知らせ】
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■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
源頼朝は上総広常のお陰で再起できたのに、暗殺するなんてなんだかなーと思っている筆者です。
ついでに千葉常胤はうまくやったよねーと思っている筆者です。
こんな作品ですが、「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




