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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第一章 英雄集結
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第八話 クエスト:半端なヒーロー その11

「・・・私はそう割り切れない」

長い間があった後、春はそういった。


クロウは眉を寄せた。


春がそのように割り切れないように

常に最効率を考えるクロウに春の心情がわからないからだ。


ただ、崇徳天の呪縛がとかれたためか、前と違い片岡春に迷いがあった。

その視線はクロウの顔、クロウの肩口の傷、そして伊勢三郎の顔を何度も


少し間が空いた。


「少しいいかな?」

ここで口を開いたのが静の魔法によって現世に呼び出された天神様だ。


「クロウ。勉強不足だ」

そう言って天神様は笏でクロウの頭をたたいた。

傍目には軽くたたいているように見えたが、クロウが蹲っている。

クロウは大ダメージを受けているようだ。


「クロウ。君とこの娘さんは違うということを勉強しなければならない」

天神様は厳かに言った。


クロウは頭を押さえて上目遣いで天神様を見上げた。


「クロウ。君は親の愛を知らずに育った。父は戦死。母は夫の復讐しか考えず、クロウの育児を放棄した」


天神様の言葉に片岡春が目を大きくする

片岡八郎が眉を顰めた。


片岡兄妹は、クロウもまた親を倒された身の上だと知った。

だが境遇は同じではなかった。

片岡兄妹は少なくとも親の愛情を受けて育った。

だがクロウは、父を失い、母は復讐に囚われていた。

親の愛情すら知らずに育ったのだ。

その事実を知ったとき、片岡兄妹はクロウに胸の痛む思いを覚えた。


もっとも、クロウ自体はそれが当たり前の境遇で育ったのでそれに対してあまり思うところはない。

ただ、片岡兄妹から憐憫の情に近い視線を受けて「俺を憐れんでるんじゃねー」と内心、ふてくされていた。


「更には復讐心を持つ母が、その願いを叶えるために怨念の魔王を呼び出し、魔王はその呼び出しに応え、母の願を叶えるべくクロウに復讐を運命づけた」

天神様は言葉を続ける。


その言葉を受けて、片岡兄妹の憐みの情は深くなった。

母から家族の愛情を受けるどころか、魔王の贄にされたのだ。

両親の愛情を受けて育った兄妹にとって、その話はショックな出来事だ。


クロウは益々ふてくされた。

相手が天神様でなければ、そのおしゃべりな口を実力行使で塞いでいただろう。


「しかし、クロウ。君は運がいい。出会いに恵まれた」


クロウは首を傾げた。

これが漫画なら頭上に巨大な? が浮かんでんでいた。

幸運……

正直、ピンとこないのだ。


そこで天神様が再び笏でクロウの頭をたたいた。

尋常ではない音がした。少なくとも人の頭を叩いた音ではない。

クロウが涙目で蹲る。


「それは失礼だよ。クロウ」

天神様が嗜める。


しかしクロウは何で注意されているのかピンときていない。


「だから、勉強不足だというのだ。少なくとも君は3人の出会いに恵まれた」

(3人?)

クロウには見当もつかない。


「一人目は静君だ」

そう言って天神様は静を見てほほ笑んだ。


「え、え、私?? どゆこと?」

静はドギマギしている。


「えー。コイツが?」

とクロウが抗議したとたん、天神様の尺が頭に落ちた。

クロウは蹲っている。


「親の愛を受けなかった。家族愛を知らない君の心は通常なら壊れたかもしれない。壊れなくても歪んだかも知れない。でも壊れなかった。それはね。静君が代わりに君に家庭にぬくもりを与えてくれたからなんだよ。クロウ、君は肉親の情を知らずに育ったが、静君が家族となり、実の姉のように慈しみ育ててくれた。そのおかげで、君は心が壊れることなく健やかに育った。君は静君に感謝しないといけないよ」


「「えーっ!」」

天神様の言葉にクロウと静がブーイングした。


「こいつ、直ぐにお姉さんだからって偉ぶるんだぜ」

「こいつ、すでに手遅れなくらい心壊れていますから」


抗議したクロウと静の頭上に天神様の尺が落ちる。

二人が無言で悲鳴を上げて地面を転げまわった。


「みっともない。二人とも道徳の知識が足りません。照れ隠しに罵りあってどうするのです。二人とも補習です」


天神様の言葉にショックを受け項垂れるクロウと静。


それを無視して天神様が言葉を続ける。


「二人目は覇王ですね」


この名前が出たとき、ここにいる人の反応が分かれた。


クロウは「成程。」と納得顔だ。

静もそれに近い。「ほーん。」と言葉を漏らした。


片岡兄妹、そして片岡兄妹についてきた少年少女。伊勢三郎パーティは「覇王はクロウの仇だろう?」と思い、それがなぜ、良い出会いになるのか首を傾げた。


皆鶴姫は思い当たることがあるのか思案顔をしている。


「クロウは覇王に会った記憶があるだろう。どう思った?」


「そりゃ決まってる。天下の兵を集めて君臨してるんだぜ。痺れるじゃねえか。漢だったらああならなくちゃな」

クロウは不敵に笑みを浮かべた。


天神様はそれを見て満足げに頷いた。

「つまり、覇王はクロウにとって仇ではなく目標ということだね」

「まあ、そうだな」

クロウは頷く。


「若いうちに目指すべき目標となる人物に出会えた。人生にとってこれ以上の出会いはない。違うかい」


「そうだねぇ。クロウが目標持っていないと、ただ、そこいらで暴れてるだけの無頼漢だろうしね」

静がちゃちゃを入れた。

「ヲイ」

クロウの目が座る。


天神様が尺を出した途端、二人はおとなしくなった。

痛い思いは御免という共通した考えが二人を大人しくさせた。


「三人目は私だ」

「「は?」」

「健やかに育ち、目標を得たとしても、正しい知識が無ければ道を誤る。知識なくば騙されることも、判断を誤ることもある。違うかい?」

「……その通りだ」

「私の下で学問を学ぶ機会を得た。これは道を誤らぬための正しい道しるべを手に入れたの等しい」


言っていることは理解できるが、天神様の補習地獄を受け続けたクロウと静にとって素直に頷くことは難しい。

正論だと思ってはいる。


「クロウ。君は素晴らしい出会いによって半ば崇徳天の呪縛からは抜け出せていたのだよ。家庭のぬくもりを受け、心を壊されず、目標となる人物に出会い、人生の指針を定め、道を誤らぬよう正しい知識をつけた。しかし……」

「しかし?」

「呪縛の主が怨念の魔王とよばれるモノだ。如何に道を誤らぬように用心したとしても、魔王が運命の賽子を操作するならば、なかなか、定められた宿命から逃れることは難しい。しかし!」

ここで天神様は皆鶴姫を見た。


「君は魔王クマラの知己を得た。彼の”自由”たる権能によって、完全に崇徳天との縁が切れた。自分の運命の賽子を自分で振ることが出来るようになった」


天神様はクロウを見て、そして視線を片岡春にうつす。


「そこの娘さんはクロウ。君とは違う。実の親の愛情を受けて育った。その愛情を奪われたのだ。残酷な事実を告げれば最初から無かった君とは違う。そして君のような、代わりにぬくもりを与えてくれる出会いも無かった。目標を与えてくれる出会いも無かった。道を誤らぬ知識を与えてくれる出会いもなかった。君とは違うという事を学ばなければならない」


「・・・」

クロウは思案した。


クロウが普通の悪ガキでとどまらないのはこういうところだ。

反発・反抗するのではなく自分の頭脳で咀嚼し考えることができる。

天神様のお勉強の成果ではあるのが、クロウ自身は認めないその事実を認めない。


即断、効率重視のクロウにしては珍しい長考が終わった。

「片岡兄妹。俺達と一緒に来い。後ろの皆もだ」


静がクロウの肩をたたく。

「それがクロウの結論なのね」

「ああ」

クロウが頷いた。

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