第八話 クエスト:半端なヒーロー その9
「だから、ダカラぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
片岡春の感情が極まり
叫んだ。
同時にその小さな体から黒い瘴気が溢れる。
その瘴気は闇となって一面を覆う。
やがて、その闇から上下逆さの一つの端正な顔が現れた。
静はこの化け物を知っている。
「なんだ。この化け物は」
伊勢三郎が叫びながら少年少女の前に立った。
庇うためだ。駿河も伊勢三郎に倣った。
「怨念の魔法 崇徳天」
静が化物の名を告げる。
「ほう、余の名を知るか娘」
崇徳天が静を見る。
その端正な能面からは、崇徳天がどのような感情をもって静を見ているかは計り知れない。
「そりゃあね」
それだけを告げた。
代わりにクロウが静の前に立つ。
「お前が崇徳天か」
クロウが崇徳天を見る顔は無表情だ。クロウが崇徳天に対してどのような感情を抱いているか不明だ。表面からはうかがい知ることが出来ない。
「ほう。お前は知ってる。知ってるぞ。お前の母がこの世に絶望し破壊を望んだ。その贄だな」
「そうらしいな」
クロウは言った。
クロウの母は夫を倒した覇王を憎悪した。呪った。
そして降神魔法の使い手である静の師匠を通して神仏にその願いの成就を願った。
その願いに応えたのが怨念の魔王。
彼は願いを成就させるために幼子であったクロウに闇と瘴気を与えた。
しかし、クロウはそのことの記憶はない。
あまりに幼かったからだ。
母、そして静からそのようなことがあったと聞いてはいたが。
「わかるだろう。この娘の心が。お前もまた、父を奪われた。愛という名のぬくもりを知らぬまま、母は復讐だけを抱きしめ、お前を抱かなかった。世は冷たい、と知っただろう。
正しさは救いではない、と知っただろう。壊すことでしか、均衡を取れぬ夜があることを。
この娘も同じだ。正しさの代価として、両親を失った。光は、ときに人を孤独にする。お前と同じだ」
崇徳天は囁く。慰めにも、告発にも似た声で。
崇徳天は近づく。闇から細い、細い腕が現れクロウの頬をなぞる。
「……もう、我慢しなくていい。正しさに裏切られた者が、それでもなお正しくあろうとする理由など、どこにある。この娘の心を救える者がいるか。お前もまた、救われなかった。親の愛を求めることは、罪ではない。それを恥じる必要もない。壊したいのなら、壊せばいい。余は、その手を取ろう」
闇からもう一方の手が現れる。
そしてクロウの左手をつかもうと手を伸ばす。
クロウはその手を……
「南無八幡大菩薩!」
斬った。
クロウの手には崇徳天の発する瘴気の闇の中で緑に光る魔法剣「薄緑」があった。
崇徳天の手は吹き飛ばされ、その斬られた腕からは血の代わりにどす黒い瘴気が噴き出ていた。
さらにクロウは一歩踏み込み、魔法剣を横に振るう。
崇徳天を覆う闇が切り裂かれる。
崇徳天もまずいと思ったか、意外なスピードで後ろに下がった。
「甘い。南無八幡大菩薩 ―霧-」
クロウの手から緑に光る短いレーザーが無数に発射された。
放たれたレーザーが崇徳天の体を穿った。
「なぜだ? そなたは余の闇を受け入れたはず……」
崇徳天の目が黒く光る。
「かかること、あるまじき! 余が与えた運命が消えている」
「驚いている暇はないよ」
静はおかめの神の魔法“降神魔法”を発動していた。
今回、降した神は静が降ろせる神々の中で最高峰。天神様だ。
相手は怨念の魔王
いわばラスボスだ。手加減はできない
天神様が放った雷が崇徳天に降り注ぐ。
「俺もいることを忘れるな。南無神変大菩薩―前鬼-」
伊勢三郎が鬼神の魔法を唱える。
伊勢三郎の体から赤い鬼神が現れる。
鬼神がフットワークを使い、崇徳天に迫る。
鬼神のパンチのラッシュ
一つパンチを撃つごとに衝撃波が放たれる。
その衝撃波が崇徳天の瘴気を消滅させていく。
横からクロウと伊勢三郎が、頭上から静が攻撃を加え。
崇徳天を覆う闇が、いや崇徳天自身が消えていく。
そこで皆鶴姫が前に出る。
指を交差しクロスをつくる。
「エンガチョ エンガチョ 黒須!」
黄金の光が崇徳天を包む。
「これは外来の魔王 クマラの力。おのれ、おのれ! クマラの力にて我が運命から逃れたか」
「自分の運命は自分で決める。片岡の娘も同じだ。運命を弄ぶんじゃねぇ! 消えろ」
クロウが吠える。
「……余は怨念の魔王。世を恨み。世の破壊を望むもの也。せっかく、植え付けた世を破壊する因子を二つとも失うとは……だが、余も魔王の名を冠する者。ただでは消えぬよ」
そう言うと崇徳天は顔だけを発射した。
その先には片岡春がいた。
片岡春を狙ったのだ。
崇徳天の口がありえない大きさに開かれる。
人ならざる者であるとあらためて思い知らされた。
片岡春は身動きできない。
ただ
ただ
恐怖で身を竦めていた。
舌打ちして伊勢三郎が鬼神を呼び戻すが、崇徳天の顔の方が速い。
崇徳天は肩口に嚙みついた。
血の霧が宙に舞った。
噛みついたのはクロウの肩口だ。
クロウが片岡春をかばったのだ。
おそらく首を狙ったのだろう。
そのままでは片岡春は首を食われていた。
クロウはかばったが、それでも首に近い肩口を喰われた。
静と皆鶴姫が悲鳴をあげる
「ふん。捕まえたぞ」
クロウはそのまま崇徳天の顔を魔法剣で刺した。
「・・・大魔王となり、皇を取って民とし民を皇となさん……」
崇徳天は呪詛を唱え靄となり消えた。
【モデル紹介】
■菅原道真
本作の天神様のモデル
宇多天皇に才能を認められ、出世したが讒言により大宰府へ左遷された。
彼の死後、雷は落ちる 疫病がはやる 皇族貴族がなくなるなどが発生。
祟りを恐れた朝廷は神として祀った。今は学問の神様として有名。
■前鬼
修験道の開祖 役小角に仕えた鬼神
もともとは人々を苦しめる鬼だったが、役小角の法力で調伏され仕えることになった。
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