第八話 クエスト:半端なヒーロー その5
クロウは呆気にとられた。
裏街道を進んでいたら野盗とエンカウントした。
これは想定内だ。
相手は10人程度だ。
これも想定内だ。
想定外なのは現れた野盗が年端もいかない少年少女だったからだ。
しかも、野盗らしい奇襲もなく正面からきた。
しかも、正々堂々名乗りを上げてきた。
「私は下総国の片岡八郎」
「同じく片岡春」
「「いざ尋常に勝負!」」
これにはクロウも面食らった。
毒気を抜かれた。
問答無用で襲いかかり、奇襲を仕掛けてくるのが野盗だ。
何せ生き死にがかかっている。正々堂々戦って負けたら死ぬのだ。
ルール無用。イリーガルな襲撃をしてくるのが当たり前だ。
そういう相手ならクロウも問答無用で斬り捨てることができる。
ところが今回の野盗は違った。
正々堂々と向かってきて、正々堂々と名乗りをあげる。
生きに死にの生存競争ではなく、まるで競技を競うかのような態度。
しかも年端もいかない少年少女だ。
その態度は野盗かどうかすら怪しい。
クロウは陵介の一件での鬱憤を晴らそうと、意気揚々と野盗を返り討ちでボコボコにしようと目論んでいたが完全にやる気をなくしてしまった。
「来い。弁慶」
クロウは護法童子を呼ぶ。
僧形の巨人がクロウの召喚に答え出現する。
「ひっ」
少年少女の中から悲鳴が聞こえた。
弁慶の姿を見て驚いたのだ。
その少年少女の態度にクロウは軽くため息をつくと弁慶に命じた。
「弁慶。武器を使わずにあいつらを制圧できるか?」
弁慶はちらりと野盗であることすら怪しい少年少女をちらりと見頷く。
クロウの意図を読み取ったのだ。
クロウの魔法剣は殺傷能力が高すぎた。
静の降神魔法からの雷撃も、皆鶴姫の剣技も同様だ。
弁慶は武器も使うが、その腕力だけでも戦える。
腕力で戦うなら無益な殺生はさけることができる。
「御意」
弁慶は短く頷くと少年少女に向き合う。
「我はクロウ様の護法童子、弁慶。いざ勝負」
弁慶は名乗ると片岡八郎や片岡春。そして片岡兄妹についてきた元奴隷の子達に向かっていった。
弁慶と片岡兄妹率いる少年少女達の戦い。
結果は弁慶の圧勝だ。
弁慶は護法童子。神の一人だ。レベルが違いすぎた。
少年少女が振るう棒っきれは空をきり、かすりもしない。
逆に武器をつかまれ、そのまま間合いに引き込まれ、地面に思いっきり叩きつけられた。
また別な者は背後を奪われ、そのまま首を絞められ気絶させられた。
カウンターで掌底をくらい昏倒したものもいた。
弁慶は本来、タンクでありパワーファイターだ。
攻撃を受ける。そして、それ以上の攻撃を叩き込む。
これが弁慶の戦い方だ。
その弁慶が一撃も攻撃を受けることなく戦いが終わった。
実力が隔絶しすぎていた。
弁慶が背中に背負っている葛籠から縄を出して、少年少女を縛り上げる。
「で、どうするの? コレ」
静が軽くため息をついてクロウに聞く。
クロウは眉を顰めている。
考えているのだ。
今回襲ってきたのは野盗ではあるが年端もいかない少年少女だ。
クロウは殺さないと静は考えている。
クロウには父はいない。
平清盛に倒されていたからだ。
母はクロウに愛情の代わりに平清盛に復讐せよという言葉を注いだ。
その復讐のために魔王 崇徳天の力まで借りようとしているほどだ。
つまりクロウは普通の愛情を親から受けてこなかった。
そのためクロウは“愛情”や“家庭”に飢えていた。憧れと言ってもいい。
同時に自分と同じ、“愛情”や“家庭”を知らない子供に対して救われなかった自分を見るような痛み。そして手を差し伸べずにいられない衝動にも似た感情を持っていた。
静はそれを知っている。
クロウは都に行ったとき、煌びやかな場所には目もくれず、まっさきにスラムにむかった。
そしてスラムの子供たちを見た。
その時のクロウの行動は静は忘れない。翌日そのスラム子供達のために飯を用意したのだ。
静が考えるに、その動きは衝動に近い。脳みそのどこも通っていないだろう。
もっとも、クロウに料理など出来るわけがない。
味はあまりにもめちゃくちゃだった。静は毒物か? これと感じたレベルだ。我慢できなくなった静が料理を手伝う羽目になった。
静は、クロウの本質がどのようなものかを理解している。
親の愛を知らずに育ったその子はそれに憧れ捻くれることなく、他者に親の愛を与える真似事をしようとしていた。
その傾向は外来の魔王 クマラに出会ってから顕著だ。
それ以前のクロウは陵介と喧嘩するなど攻撃的だった。
その原因を静は知っている。
何せその原因に立ち会っている。
クロウが幼子の時だ。
夫を平清盛に倒されたクロウの母、常盤は平清盛に対して復讐したいと考えていた。
ただし、相手は覇王だ。
並の方法では為しえない。
そこで神を頼ろうとした。
神降魔法の使い手である静の師匠を招聘し、神降ろしの儀式を行った。
しかしー
“復讐”という目的の所為か。
降りてきたのは神ではなく魔王であった。
怨念の魔王 崇徳天
人心を惑わし、都を炎につつみ、死を振りまく存在。
魔王崇徳天は『その者に恨みを実現できる権能を授けよう』
といい幼子の復讐を成せるクロウに力を与えた。
そのためかクロウは非常に攻撃的に育った。乱暴者というレッテルもはられた。母である常盤もその暴れっぷりに育児放棄した。
このころのクロウを静は知っている。
魔王 崇徳天がクロウに与えた力がどんなものかは分からなかったが、クロウは母 常盤や魔王崇徳天の思惑には乗らなかった。
暴れん坊ではあったが、崇徳天が曲げた運命に逆らっていた。
その証拠にクロウは復讐という言葉を使わなかった。覇王になる。という言葉を使った。
クロウの母 常盤はどちらも同じことだと気にもしてなかったが、静にとっては、この言葉の違いは重要だ。
クロウの心が復讐に縛られていないということなのだ。
静は安堵した。
静は幼いころから魔王に運命を捧げられたクロウに憐みを覚え、「お姉ちゃんが守ってあげる」と心の中で誓った。
そしてクロウは何の因果か二人目の魔王に会った。
外来の魔王クマラだ。
外来の魔王クマラはどうやらクロウを気に入ったらしい。
護法童子の弁慶と
“定められた運命からの解放”
この二つをプレゼントした。
外来の魔王クマラは
「君がどのような人生を歩もうとも、最後には復讐に終わる運命。そのようにルートが定まっていたんだ。」
と言った。
そして、その運命を解放したとも言った。
そこからクロウは変わりつつあった。
スラムの子に炊き出しをしたのもそうだ。
乱暴者のクロウにはない行動だ。
これが本来のクロウなのだろう。
と静は思う。
そんなクロウだからこそ、この状況に困っていた。
少年少女を斬るという選択肢はない。
乱暴者と呼ばれたころは別だが魔王クマラによって解放されたクロウはそういうことはしない。
かといって相手は襲ってきたのだ。解き放つと再び襲ってくるだろう。
では、どうするか?
縛ったまま街まで連行するとう選択肢はNOだ。
クロウ自身、陵介の館の焼き討ちで追われている可能性がある。下手に街にいくと捕まる危険がある以上、その選択肢はとれない。だから裏街道を進んでいるのだ。
縛ったまま放置する。という選択肢もクロウはとらない。
そのようなことをしたら少年少女は裏街道にでる魔物の餌になる。
間接的に殺したも同然だ。
そんな考えは今のクロウにない。
静はここまで思案し、一つの違和感に気づいた。
(あれ? この裏街道って普通に魔物出るよね?)
クロウ達も移動中、何度か魔物に襲われた。
クロウ達には魔物を倒す方法がある。だから逆に食料がきたと喜んで狩っていた。
しかし、目の前の少年少女では無理だろう。弁慶に一撃すら与えることが出来ないのだ。
(じゃあなんで、この裏街道に彼らはいるの? 彼らの力じゃ無理。とっくに魔物の餌になっていなきゃおかしい)
ここで一つの考えにたどり着く。
(野盗は彼らだけじゃない。他にもいる。いなきゃおかしい)
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