表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第一章 英雄集結
30/85

第八話 クエスト:半端なヒーロー その4

駿河は得意の隠密の業を駆使して様々なところに潜り込むことを得意としている。

そうやって情報を集めてパーティリーダーである伊勢三郎に伝えるのだ。


今回、キャッチした“情報”は使い方次第では今の伊勢三郎が抱える問題を解決できる可能性があった。


駿河はさっそく伊勢三郎のところに向かった。

「おい」

「ん? なんだ駿河か。 驚かせないでもらえるかな?」

伊勢三郎は駿河に苦情を言う。

急に背後から現れ、声をかけられたら誰でも驚くだろう。

「面白い情報がある」

「へえ、どんな情報かな?」

「この情報は片山兄妹にも関わる。彼らがいる場所で話したい」

「片山兄妹?」

伊勢三郎は怪訝な顔をした。

いつもなら真っ先に情報を伊勢三郎に届ける駿河だ。

その駿河が片山兄妹にも伝えたいと言ってきたことに一瞬、疑問がよぎる。

が、偶にはそういう事もあるだろうと思い、

「わかった」

と片山兄妹と元奴隷の少年少女達を呼びに行った。

伊勢三郎は頭は悪くないが、基本お人好しなのだ。



やがて駿河、伊勢三郎、亀井、片山兄妹、元奴隷の少年少女達が揃った。

ここで駿河が口を開く。

「源頼朝の件だ」


片山兄妹がその一言に反応した。

なにしろ源頼朝は片山兄妹の家を滅ぼし、彼らを奴隷身分に落とした張本人だ。


一応、場の空気を読んで口を開くのを抑えているが目を剥いている。

片山兄妹は貴族身分である武家の子から家を奪われ奴隷にまで落ちた。

既に子供らしさは失われていた。

代わりに攻撃的な心とそれを達成させるための慎重さとしたたかさという子供らしくない複雑な精神を得ていた。


伊勢三郎が眉をよせる。

基本、権勢には近づかないのが彼のスタンスだ。

坂東において”源頼朝”というワードは権勢のど真ん中だ。

だから、そんなものに近づきたくない彼は嫌な顔をした。


反対に亀井はニコニコしている。

もっとも、その笑顔からは本心は一切見えない。


「と言っても頼朝自身の情報ではない」

駿河が言葉を続ける。


「珍しくじらしますねぇ」

「もったいぶらずに言ってもらえるかな?」

亀井と伊勢三郎がちゃちゃを入れた。


「頼朝の弟の話だ」


「「「弟?」」」


「ああ、源頼朝には弟がいる。甲斐の蒲殿。三河の義円。そして鞍馬のクロウ」


「そうだろうな」

伊勢三郎は頷く。

源頼朝は覇王 平清盛と天下分け目の戦をした源氏の棟梁の子だ。

その棟梁の子が一人っ子というのはありえない。

英雄色を好むという。

そうでなくとも世継ぎを残すため複数の子を儲けるのは普通に考えられた。

だから頼朝に弟がいても不思議ではない。


「その弟がどうしたのかな?」

「弟の一人。クロウが坂東で暴れているらしい」


「ん?」

「さっきの話だとクロウって鞍馬……つまり都に近いところにいるはずなよな」

「それが坂東で暴れているとはどういうことでしょう?」

駿河の話を聞き、それぞれが疑問を口にした。


「事情までは分からん。ただ、陵介という平家に味方している戦士の家が襲われたらしい。全焼したという話だ」


「ん? 陵介ってもともと、都の方に行っていて、最近、坂東に戻ってきたと思ったら、鍛練という名目であっちこっちに喧嘩売ってた奴だよな?」

「ああ、そいつなら知ってる。なんでも火の魔法が使えるようになったらしく、腕試ししたくなったとか……喧嘩を売るもんだから周りの評判は良くなかったが、負けなしだったんだろ?」


伊勢三郎と亀井が自らの記憶を引っ張りだし、情報を補完しあった。


陵介という男は源頼朝ほどではないがちょっとした有名人だ。

四方に鍛練という名の言ってみれば道場破りみたいなことを繰り返していたからだ。

さらに無敗となれば噂は良くも悪くも広がっていた。


その悪名高い陵介がクロウに襲われた。

館が全焼したということは無敗の陵介が負けたということだ。


「クロウが強いということは分かった。それで、八郎と春にその情報を聞かせた理由は何かな?」


「クロウの元々の根城は鞍馬だ。それがなぜ坂東にきて平家方の有力な武士を襲う?」


「えーっと、それは……」


「片岡兄弟の家も平家方の有力な家だ。そして源頼朝に襲われた。似ている状況だと思わないか?」


「それは……」


「もし、源頼朝とクロウが同じ目的で、合流しようとしているとしたら……そのためにクロウが都に近い鞍馬を離れ源頼朝のいる坂東にきたという可能性がある。そうなれば片岡兄妹のような家が増える」


―それは全部、推論だよな。-


そう伊勢三郎が口にしかける前に話を聞いていた片岡八郎が立ち上がった。

「なるほど、クロウというのは源頼朝の先兵なのですね」


「それなら私たちの敵です。私たちのような人を増やさないためにもここで倒しておかないといけません」

片岡春も同調し立ち上がる。


そしてクロウの進攻ルートを駿河から聞き出すと飛び出した。

元奴隷の少年少女たちも片山兄妹についていった。


彼らは同じ苦境を味わった。家族よりも強い絆で結ばれていたのだ。

彼らは当然とばかりに片岡兄妹についていった。


伊勢三郎は片岡兄妹達の行動の速さに呆けて動けなかった。

駿河や亀井が動かなかったのもある。


「おい、今の話をなぜ八郎と春にした。こうなることがわかってたじゃないか!」

伊勢三郎は駿河につめよる。


「八郎と春にとって大事なことだからな」

駿河は平然と答える


「馬鹿野郎。あの無敗の陵介が負けた相手だぞ。負けるに決まってる」


「それでも八郎と春にとっては大事なことだ。行動を決めるのは八郎と春だ。それにお前も本心ではそれを望んでたんじゃないのか?」


「はぁ? なんだよそれ」


「八郎や春。そして少年少女の奴隷たち。俺達には彼らを養っていくことはできない。養っていくためには他の野盗と同じく、村を襲わなければ食を得ることができない。それを嫌がってたのは伊勢。お前だろう」

「それは……」


「よかったじゃないか。八郎と春は打倒源氏の道を進める。道半ばで倒れたとしてもな。おそらく仲の良い少年少女の奴隷たちも八郎と春についていくだろう。そして俺達はこれで八郎達とは縁が切れる。彼らを養うために村を襲うような真似をしなくてもいい」


「それは……」


「そうだね。半端はもうやめよう」

ここで亀井が口を開く。


「カメさん……」


「彼らと付き合うなら、戦士達の切った張ったに付き合う覚悟が必要だ。でも、ないだろ? 八郎や春は戦士の子だよ。なら俺達はここで彼らとは縁をきるべきだよ」


ここで伊勢三郎は頭に血が上った。思考停止した。

それは理性や知性ではなく片山兄妹や少年少女達がクロウとかいう奴に倒されたらどうするんだという感情からだ。


なにしろクロウという奴は陵介と言う常勝無敗の喧嘩屋を倒し、館を焼く危険人物だ。


感情は理屈ではない。

「バカヤロー。それで何かあったらどうすんだよ」

そういって伊勢三郎は片山兄妹を追いかけた。


亀井と駿河はお互いに顔を見合わせると深いため息をついて、伊勢三郎の後を追った。

何だかんだ言っても二人はお人よしの伊勢三郎が好きなのだ。


ただし、この件が終わったら、ちゃんと話ある必要があるとは考えている。

自分達では片岡兄弟や少年少女を食わせていくことができないというシビアな現実が残ったままなのだから。

【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【お願い】

源平というマニアックなお話をここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

「面白かった」「続きが気になる」と感じていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

これからも楽しんでいただける物語をお届けできるよう頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ