第八話 クエスト:半端なヒーロー その3
「何があったのかな?」
「どうしたんです?」
伊勢三郎と亀井が荷車に近づく。
荷車の幌の中を除くと……
人・人・人……
人々が縄で拘束されつながれていた。
首にも縄がかけられている。
(奴隷だ)
伊勢三郎一党の誰もが思った。
歳は10歳を少し超えたあたりか?
少年少女の奴隷が8人“商品”として繋がれていた
(奥州大陸に向かうといってたな。奥州は金を産出する。人を売り金を得ようと思ったってことだな)
伊勢三郎達は悍ましい者でもみるように旅人……いや奴隷商人を見た。
「銀狼に襲われたモノもいますがいかがでしょう? 転売してもそれなりのお金になるとおもいます。見目の良いのは性奴隷としても……」
奴隷商人の言葉はそこで止まった。
首が落ちたのだ。
その背後には駿河がいた。
駿河が斬ったのだ。
「囀るな」
とだけ言った。
伊勢三郎は駿河をとがめることはしない。
駿河がやらなければ、自分がやっただろう。
「それにしてもどうすっかな」
伊勢三郎は奴隷の少年少女たちを見て頭を掻いたが、すでにやるべきことは決まっていた。
彼には奴隷を売ったり、使役したりする趣味はない。
かといって奴隷を集めて、兵力とし一大勢力をつくろうという野心もない。
であればこれから為すことは絞られる。
伊勢三郎達は奴隷たちを近くの町まで連れていった。
治療が必要な者には医者を手配した。
そして当座の金を渡して解放した。
その金は奴隷商人の金だ。
伊勢三郎は野盗らしく主のいなくなった金を拝借していた。
懐は痛まない代わりに得るものもない。
労力を考えると赤字だ。
それでも伊勢三郎の精神衛生上はこれがベストだった。
しかしながら、世の中は上手くいかないようにできている。
伊勢三郎にとって困ったことが2つ発生してしまった。
一つは少年少女の奴隷たちがそのまま伊勢三郎達についていきたいと希望したことだ。
野盗はこうやって人員を集め勢力を拡大していることは伊勢三郎も知っている。
伊勢三郎のいる時代は近代国家ではない。 国と野盗の差は僅かだ。
軍勢と言う暴力を持つという意味では共通だからだ。
あとは税を取るか、襲撃して奪うかの差でしかない。
税金を納めないと朝敵にされるので国の方がまだマシという程度だ。
伊勢三郎の時代の税金は行政サービスの対価ではないのだ。
村人は国に税金を納めたくないため、強い戦士に農地を渡し、その代わりに戦士に国から守ってもらうことが公然と行われていた時代だ。
村人からすると奪うだけの国や野盗よりも警察官や自衛官をしてくれる戦士の方がよい。
警察官のために税金を払うのであれば奪われるだけよりも納得はいく。
伊勢三郎の時代の感覚では国も野盗と変わらないのだ。
そのため、少年少女たちが伊勢三郎達についていきたいと言った理由もわからなくはない。
強い者に守ってもらおうとしているのだ。
(その気持ちはわかるけどな)
伊勢三郎は困った。
単純に食わせていくことができない。
食わせるためには他の野盗と同じことをしなければならない。
即ち、略奪だ。
そんな精神衛生上悪いことは御免被るというのが伊勢三郎だ。
そこで困っていたところに、もう一つの困ったことが積み重なった。
奴隷の中に毛色の違う少年少女がいた。
その少年は片岡八郎と言い、少女は片岡春と言った。
話を聞くと坂東平野の東。海沿いの地域を収める領主の子らしい。
(領主の子がなんで奴隷に?)
伊勢三郎は疑問に持ち質問した。
そして、聞いて後悔した。
厄介ごとだったからだ。
元気に思いつくまま話す片岡八郎とたどたどしい片岡春の話をまとめると
「源頼朝に家を滅ぼされ奴隷となった」
ということらしい。
源頼朝の名前は伊勢三郎も聞いたことがある。
坂東では有名人だ。
先の天下分け目の決戦で覇王である平清盛と戦い、そして敗れた源氏の棟梁の子の一人だ。
伊勢三郎の持っている情報だと、源氏の棟梁の子として処刑は免れたものの平家から厳しい監視を受けているはずだ。
その頼朝がどうして片岡八郎・片岡春、兄妹の家を滅ぼすことになったのか?
神の目をもっていない伊勢三郎にはまったくわからなかった。
源頼朝は亡き父に代わり平家と戦うための準備としていた。
その準備の一つとして坂東の勢力を併呑。または邪魔になりそうな勢力を排除していた。
その一環で片山兄妹の家は排除対象とされ滅ぼされた。
片山兄妹は幼いため命はとられなかったが、代わりに捕虜となった。そして奴隷として扱われ、奴隷商人に引き渡された。
伊勢三郎にはそのあたりの領主間の事情はわからない。
そのため片岡兄妹の話を信じていいのかどうなのか判断に迷った。
そして、仮に真実だとしたら欲望渦巻く権勢の世界を疎ましく思っている伊勢三郎は天を仰いだ。
下手をすると片岡家と頼朝の争いに巻き込まれるかもしれないと思ったのだ。
そして、身の上話を話し終えた片岡兄妹は伊勢三郎に「頼朝を倒すため力を貸してくれ」と頼んだ。
ここまで事情を話したのだからという理由も添えてだ。
伊勢三郎は窮した。
放っておけばよい。とは思ったが、それも伊勢三郎の感覚では目覚めが悪い。
野垂れ死ぬかもしれないからだ。
伊勢三郎は思案に思案を重ねた結果、問題を先送りにすることにした。
力は貸さないし、奴隷たちの棟梁にはならないが、彼らが自立するまでの面倒を見るという選択をした。
優柔不断の選択だ。
亀井や駿河は苦笑していた。
助けることはした。それ以上は深入りするべきではないとは分かっているが伊勢三郎が結果としてそういう選択をすることを彼らは知っていた。
そして、そういう甘い、伊勢三郎だからこそ彼らはリーダーとして慕っていた。
そういう伊勢三郎の対応に、片山兄妹は感謝しつつも不満を持った。
感謝は奴隷として売られるところを救ってもらったこと。
そして、安全と当面、飢えをしのげることができたこと。
更に魔物と戦うことで戦う力をつけることができたこと。
不満は伊勢三郎が打倒頼朝に協力してくれないことだ。
逆に「打倒頼朝なんて危険なことはやめて静かにくらしてはどうかな?」と暗に反対してくるのだ。
片山兄妹からすると伊勢三郎はヒーローだ。
人よりもはるかに強い魔物を余裕で倒せる実力を持つ。
そのヒーローが日和っているのが実に歯がゆかった。
その片山兄妹を少し困った顔で見ている人物がいる。
駿河だ。
元々、駿河は片山兄妹が伊勢三郎を頼ろうとしていることに否定的だ。
伊勢三郎は片山兄妹が奴隷として売られていこうとするところを救った。
それ以上を頼ろうとするのは、さすがにどうだろうと思っている。
伊勢三郎達は生きていくということで考えるとこの3人パーティがちょうどいい。
飢えることもなく生活できる。
これ以上の人数は文字通り足手まといでしかない。
食費もかかり、危険も増える。
とはいえお人よしの伊勢三郎では見捨てることもできないだろうということは分かっている。駿河自身、伊勢三郎のそのようなお人よしの部分が好きで組んでいる。
(さて、どうしたものか)
と思案しているとき、気になる情報をキャッチした。
【モデル紹介】
■片岡常春
本作の片岡八郎、片岡春のモデル
源頼朝に謀反の疑いをかけられ領土を没収された可哀そうな人
壇ノ浦の戦ででは三種の神器 八尺瓊勾玉をゲットしている。
※本作では片岡家が所領を奪われた事件を前倒ししてます。史実ではもっと後になります。
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