第八話 クエスト:半端なヒーロー その2
伊勢三郎義盛の登場です
伊勢三郎という男がいる。
職業は……堂々と名乗れるものではない。
野盗だ。
野盗と言っても様々な種類がいる。
一番多いのが、村で食い詰めて野盗になった者だ。
追い詰められて野盗に身を落としたのだ。
当然、生きる技術も戦闘技術も何もない。長生きできずに命を落とす確率が高い。
偶に運よく生き延びることができて、同じように食い詰めた者が集まり大勢力を築くことがある。
しかし、このパターンでも命を落とす確率が高い。
大勢力だと大量の食料が必要になる。
その食料を得ることが出来ずに飢え死にする。または食料を得ようと他の街を襲撃し、そこで反撃にあい命を落とす。
一方、元戦士・元騎士という野盗もいる。
元戦士なので戦闘技術はある。そのためモンスターとも戦える。生き延びる術がある。
しかし、命を落とす確率が高い。
一番多いパターンは身を守ってもらおうと、食い詰めた者が集まり大勢力を築くパターンだ。
元戦士の場合、戦士に戻ろうという野心がある。そのため大勢力を得たら街に戦を仕掛けるのだ。街を得て、領土を得れば野盗から領主にジョブチェンジできるのだ。
しかし率いるのは食い詰めた野盗だ。戦闘力では正規の武士に二歩も三歩も劣る。
そこで敗死する。
このように野盗の命は儚い。
伊勢三郎は野盗だが、どのパターンでもない。
彼は職業野盗だ。
依頼を受けモンスターを退治し、その素材を売却し、時には権力者に雇われ、機密文書を盗み依頼料を得ていたりしていた。
その伊勢三郎には仲間がいた。
弓の名手 亀井六郎と隠密に長けた駿河次郎だ。
亀井は闇夜で100mを超える標的を射抜く
通常60m~80mの射程距離と考えると恐ろしいスナイパーだ。
伊勢三郎は亀さんと呼んでいる。
駿河は闇夜に紛れ無音で移動できる。
剣の腕も高く。
防具ごと敵を斬る。
伊勢三郎はスルガと呼んでいた。
伊勢三郎自身は鬼神の魔法が使えた。
鬼神の魔法は便利だ。
具体態には鬼の体の一部を呼び出すことができる。
足を呼び出せば4本足、6本足となり走る速度を速めることができる。常人では不可能な高い跳躍も可能だ。腕を呼び出せば、単純に手数が増え攻撃力が増える。
彼らはこの3人パーティで職業野盗をやっていた。
3人なら依頼を受けた分で充分、飢えることなく生活できた。
彼らに一つ事件が起きた。
彼らは坂東平野から奥州大陸に向かう途中にある上野国を根城にしている。
その街道に騒ぎがあった。
たまたま近くにいた伊勢三郎のパーティは野次馬根性丸出しで近づいた。
野次馬根性丸出しではあるが、隠密に長けた三人だ。
見つかるようなヘマはしない。
見ると旅人がモンスターに襲われていた。
襲っているのは地元で”山の神”と呼ばれる銀狼の魔物だ。
群れで襲っている。
目に見えるのは4~5頭だ。
伊勢三郎は経験から目に見えないところにさらに5頭前後の銀狼が控えていることを知っている。
伊勢三郎のいる上野国は銀狼が多い。
銀狼に対処できなければ住むこともできないエリアだ。
目の前で銀狼に襲われている旅人は対処できずにやられている。地元民ではないのだ。
旅人は幾人かの護衛と荷車を引いていた。
伊勢三郎は野盗だ。
荷車の中身が気になった。
(さてさて、このままだと銀狼に倒されるだろうな。倒された後の積み荷を狙うかな? それとも助けて、褒美として積み荷の一部を貰うかな?)
伊勢三郎は野盗らしい思案をした。
シンプルに危険度と効率だけで考えるなら倒された後の積み荷を狙ったほうがいい。
積み荷を全部いただけるうえに面倒がない。
明日の糧を得るため他から奪うのが野盗だ。
(けどな……それをやっちゃ俺たちは魔物と変わらないんだよな)
「亀さん。スルガ。行くぞ」
伊勢三郎が号令をかける。野盗らしくはないが、助けることを伊勢三郎は選択した。
我がながら世渡りが下手だと伊勢三郎は自嘲した。
「そうこなくちゃ」
その伊勢三郎の煩悶を一切、気にせず亀井が弓を構える。
亀井はそういうお人よしの伊勢三郎が好きなのだ。
「承知した」
駿河が腰を低くし姿を消した。
速やかに伊勢三郎の指示に従って動いた。
「南無神変大菩薩!」
伊勢三郎が駆けながら静かに口ずさむように魔法を唱える。
得意とする鬼神の魔法だ。
鬼の足を増やし、一気に加速する。
背後から矢が放たれた。
亀井の矢だ。
その矢は一頭の銀狼の胴を射止める。
銀狼たちが慌てて振り向いたときには目の前に伊勢三郎が肉薄していた。
伊勢三郎はハイスピードで銀狼の群れに近づくと、そのままスピードを緩めず通過した。
通過した後には銀狼の首が二つ転がっていた。
伊勢三郎はUターンし、再び生き残った銀狼に迫る。
銀狼たちは不意の闖入者に脅威を感じたか、今まで街道脇の木々に隠れていた他の銀狼も姿を現した。
(ひい、ふう、みい……合わせて7頭が相手だな。さてさて、どうすっかな)
伊勢三郎は考えている。
が、別に困っているわけではない。
奥の手を使えばこの程度なら単独で対応できる。
ただ、ただ、この戦いを楽しみたいがために“いかに楽しめるか?”そのことを考えていた。
その証拠に伊勢三郎の口元は嗤っていた。
7頭の銀狼が伊勢三郎という獲物を見つけ駆ける。
その間に2頭の銀狼が短い悲鳴を上げ倒れた。
見ると矢が刺さっていた。
亀井が遠距離から弓で仕留めたのだ。
(残り5頭だな)
伊勢三郎が先頭を走る銀狼を正面から切り伏せる。
このように書くと伊勢三郎が剣の達のようだが実際は違う。
鬼神の魔法を駆使した結果だ。
鬼の腕を呼び出し、その常人を上回る力で斬った。
残り4頭となった銀狼たちは伊勢三郎の周りを取り囲む。
これは悪手だった。
伊勢三郎の左手の銀狼2頭が刹那の間に斃れた。
スルガが隠密の技を使い銀狼達の背後にまわり倒したのだ。
その間に亀井が一頭を倒し、残る1頭となった銀狼もまた伊勢三郎の魔法で斃れた。
伊勢三郎パーティの連携が上手くはまった。
魔法を使え、回避も防御もできる伊勢三郎がタンクの役目を担い、敵の注意を引き付ける。
引き付けられた敵を亀井が弓による遠距離攻撃で、駿河が背後から敵を仕留める。
これが伊勢三郎のパーティの基本的な戦い方だ。
この戦い方で負けたことは無い。
戦を終え、伊勢三郎が旅人に近づくと旅人は土下座する勢いで感謝の意を伝えてきた。
それを見て伊勢三郎は苦笑する。
純粋な感謝もあるだろうが、別な感情もあるだろうと推察している。
銀狼という脅威は去ったが、伊勢三郎達がそれ以上の脅威となる可能性もあるのだ。
機嫌を損ねないようにというのが本音だろう。なにしろ護衛達はすでに銀狼との戦いで戦死してしまっている。旅人を守る者は誰もいないのだ。
それを知ってか知らずか亀井と駿河が姿を現した。
旅人が怯えた感情を表に出した
旅人からすると、どこからともなく人が現れたように見えるだろう。
警戒するのも当然だ。
それを狙って亀井や駿河は姿を現したのだ。
(さてさて、亀さんやスルガも人が悪いな)
伊勢三郎は苦笑した。
「そう畏まりなさんな。偶然、騒動を聞きき駆けつけてみれば銀狼に襲われているじゃないか。これは大変だと思って余計なおせっかいをやいただけさ」
伊勢三郎は軽く手を振りフレンドリーに話した。
伊勢三郎は結構、人の目を気にする性分だ。
野盗をやっているが今回みたいに人助けもする。人に恨まれたりするのが嫌なのだ。
今回みたいに畏れられるのは伊勢三郎の精神衛生上、困るし、胃に穴が空く。
亀井や駿河は“甘い”と断じるが、この性分ばかりはどうにもならない。
「それにしてもひどい有様だな」
伊勢三郎は周囲を見渡す。
生きているのは伊勢三郎のパーティと旅人だけだ。
護衛は倒れ、荷車も荒らされている。
「へい。命を助けていただきありがたいのですが、途方に暮れております」
伊勢三郎は旅人の言葉に「そうだろう」と頷く。
このままでは旅人も再び魔物や他の野盗に襲われる未来が見える。
「そこで厚かましいお願いですが、もし、よければ私を近くの町まで護衛いただけませんでしょうか?」
旅人は下手に出つつもお願いしてきた。
伊勢三郎もそういう依頼がくるだろうなとは思っていた。
どう考えても、この旅人は旅を続行するのは不可能だ。
自分一人なら、「そら、大変。お供するかな」といって一も二もなく引き受けるのだが……
伊勢三郎のお人よし行動を危険視する亀井と駿河がいる。
彼らは無償の善意を否定するだろう。
伊勢三郎達も食わねば生きていけない。
弱肉強食の時代を生きている彼らにとって無償の善意は”間抜け”と変わりない。
善意では飯は食えないのだ。
伊勢三郎が思案していると旅人が提案してきた。
「もちろん、お礼はさせていただきます。その……荒らされてしまったのですが、よろしければその荷車の荷物を全部差し上げます」
「え? いいのかな?」
「実はその荷車の荷物をつかって奥州大陸で商売をしようと思ってたんですが、その有様じゃあ商売も難しいのです。それに他に支払えるものもありません……その代わり……」
「無事に送り届けてほしいっということだね」
亀井が頷く。
「まずはその荷物を改めさせてもらう」
駿河が荷車に近づいて荷物を確かめる。
「む。これは!」
駿河が驚きの声をあげた。
【モデル紹介】
■伊勢 義盛
本作の伊勢三郎のモデル 義経四天王の一人
木曽義仲を討ち取り、壇ノ浦の戦で平家の総大将 平宗盛を捕えるなど大活躍した人
義経に従い衣川で討ち死に
注:困ったことに上記の内容は各史料によって違います。興味がある方は調べてみると面白いかも
■亀井重清
本作の亀井六郎のモデル 義経四天王の一人 弓の名手
義経に従い衣川で討ち死に
■駿河次郎
本作の駿河のモデル 義経四天王の一人
低い身分から義経に抜擢された。その後、義経に従って転戦した。
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