第二話 クエスト:魔王城の秘宝を入手せよ その2
クロウ、静、陵介の一行は「外来の魔王」が住むと言われる魔王城へ向かった。
RPG風に言えば魔王討伐に向かう勇者一行だ。
実態は冒険心から住居侵入をしようとしている不審者だ。
途中で出会う魔物を倒しながら歩を進める一行。
多少、魔物が強くなってきたが、クロウ達をあきらめさせるほどではなかった。
やがて魔王城が見えてきた。
城というがいわゆるRPG風・西洋風の城ではない。
寺という方が現代の感覚では正しい。
伝聞ではここに外国からきた魔王が住んでいるらしい。
そして「六韜」とか「虎の巻」とか呼ばれている秘宝を所持しているらしい。
それは何でも戦いの役に立つものらしい。
クロウの言っている「お宝」とはこのことを指しているのであろう。
やがて魔王城の門にたどり着くと二人の戦士が待ち構えていた。
門番だろうとクロウ一行は予測した。
その門番は魔王の城らしく人ではなかった。
漆黒の翼をもつ鳥人であった。
鴉天狗や堕天使とも呼ばれるモンスターだ。
モンスターの中では高位の存在で人語も解し、魔法も使い、悪魔とも称される恐ろしい相手である。
一般人にとっては。
その悪魔と称されるモンスターも陵介はともかくクロウと静の敵ではない。
戦闘開始一番。
既に降神魔法で雷神をその身に降ろしていた静は雷神の力を借り、雷を二体のモンスターに落とす。
落雷は200万ボルト以上の威力だ。
通常の生物では死傷は必須。少なくとも一撃で戦闘不能だ。
さすがに悪魔と称されるだけあって、その一撃では倒れなかったが、大ダメージを受けた。
すかさずクロウが八幡神の魔法を唱える。
「南無八幡大菩薩 ―錬-」
何もなかったクロウの手に緑色に光る長剣が現れる。
クロウの愛剣「薄緑」だ。
クロウが接近し「薄緑」を横なぎする。
その一撃で二人の門番は両断された。
「ひゅーっ。相変わらずすげーな」
陵介が軽口をたたく。
「この程度じゃ。凄い内には入らねぇよ」
クロウもまた軽口で返す。
(鴉天狗を一刀両断か。言うほど簡単なモンスターではないんだけどね)
静は半分呆れ、半分感心した。
「さあ、いこうぜ」
陵介が門をくぐろうとする。
その襟首をクロウが掴んで後ろに引っ張った。
陵介の目の前を剣閃が通過する。
「えっ!」
驚く静と陵介。
今まで門の前には何もいなかったはずだ。
ところが赤い衣装をまとった。剣士がいつのまにかその場に出現していた。
そして抜刀。
あのまま陵介が門に向かっていたら首と胴が離れていたのは間違いない。
「面白れぇ! お前が真の門番か」
クロウはそのまま魔法剣である薄緑を維持し、新たに現れた赤い剣士に斬りかかる。
クロウの剣が振り下ろされた。
刃が届いたと思った瞬間、赤い剣士がふわりと消えた。
「クロウ。後ろっ!」
静が叫ぶ。
朧のようにクロウの後ろに赤い剣士が現れた。
クロウは演舞のように回転。
魔法剣「薄緑」の残光が緑の光の線を引き、背後の赤い剣士を両断しようと円を描く。
赤い剣士が抜き放った剣と交錯する。
ぶつかり合った剣は、そのまま持ち主を吹き飛ばした。
敵はシンプルに強かった。
姿を消し、相手の背後に出現し剣を放つ。
敵が行っている行動はこれだけだ。
それだけだが単純に強い。
さっきのクロウの動きから、クロウも背後に敵が来ることは読んでいたと思われる。
それでも仕留められない。
静はイライラしていた。
静の雷撃は雷の速度。
敵が消える前に攻撃できる。
しかし、今、雷を撃てばクロウに当たる。
そのため撃てない。
ここで静は閃く。
(クロウごと撃っちゃえばいいのでわ? どうせクロウは電撃の一つ二つ喰らっても死なないでしょ。)
静は魔法の準備のため魔力を籠める。
「おい! 変なこと考えちゃいないだろうな」
クロウが静が魔力を籠めたことを察知したらしい、確認を入れる。
クロウはおよそ静がやろうとしていることはわかっていた。
幼馴染ならではだ。
「オン アロマヤ テング スマンキ ソワカ」
赤い剣士が魔法を唱える。
分身の術だ。
赤い剣士が10体になった。
それぞれクロウと静・陵介をに向かって剣を構える。
静は困った。
2体ぐらいなら今、降ろしている雷神で同時に倒すことはできるが、10体同時に倒すことは厳しい。2体倒している間に敵に倒されている自信がある。
かといってもっと強力な神に変更するには時間が必要だ。
陵介が健気に静の前に立った。
盾役をやろうとことだろう。
しかし一般人でしかない陵介では役不足だ。
1体相手でも厳しい。
「おおっし! どっからでもこい!」
と陵介は気炎をあげているが、それで実力差が埋まるわけでもない。
「おい」
クロウは敵の剣士に声をかける。
「・・・ナンダ?」
敵の剣士は意外にも答えた。
普通のモンスターで会話ができる個体はいない。相当高位でなければ。
このモンスターは相当、高位であることがわかる。
「俺は源氏の棟梁の息子 クロウという。お前の名は?」
「ドウシタ キュウニ?」
「いや何。お前が強いからな。お前を倒した自慢に名前ぐらいは知っておこうと思ったんだ。自慢しようにも名前がわからんと自慢のしようがないからな」
「フソン。フソン。カツキデイルノカ? コノ ジョウキョウで?」
10体の赤い剣士は剣をクロウにむける。
クロウはニカっと笑みを浮かべ
「当然」
と言い放った。
「ヘン ナ ヤツ」
赤い剣士は心底、困ったように言った。
静と陵介もうん、うんと頷いた。
多数に無勢でこんな事を言い放つ神経がわからない。
ただ、静は少しほっとした。
先ほどまで向けられていた敵の刃が全てクロウの方を向いたからだ。
(まさか、あたし達を庇うためにヘイトを自分にむけた?)
と静は想ったが、
(いや、あのクロウにそれはないよね)
と自分の考えを打ち消した。
「ソノ バンユウ ニ コタエヨウ ワタシハ ゴホウドウジ ノ キイチホウガン。コノシロ ヲ シュゴスルモノナリ」
(護法童子?)
静は驚いた。
それが真実ならとんでもない高位の存在だ
高僧などの魔法使いが使役する使い魔の一種ではあるが歴然とした神の一体だ。
よく、重要な人物や宝物を守護するために使役されることが多い。
要約するならガードマンの神だ。
(これは勝ち目がない)
静は思った。
ちょっと調子に乗りすぎた。
まわりのモンスター相手では物足りなく、ちょっとした冒険のつもりだった。
宝物があるというのも冒険心をくすぐった。
しかし、よくよく考えれば重要な宝物がある場所ならガードマンの神である護法童子がいてもおかしくないのだ。
静はどうこの神の怒りを鎮め、この場を逃げ出すかを思案し始める。
「鬼一法眼か。いいねぇ。強そうだ」
クロウはニカっと笑う。
心底楽しそうだ。
鬼一法眼と名乗った護法童子は奇妙な顔をした。
こいつ馬鹿かという顔だ。
先ほどまで一対一互角の戦いだった。
むしろ、クロウは鬼一法眼に一撃も与えることができていない。
今は十対一だ。
どう考えてもクロウに勝ち目はない。
それすらも理解できないのだろうか? と鬼一法眼はクロウを憐れんだ。
(実際に実力差が理解できれば逃げるだろう)
鬼一法眼はそう思った。
彼は護法童子だ。
彼はSSSアイテムを狙ってくる挑戦者を追い払うのが仕事である。
守るのが仕事であり、むやみに殺生をする気はない。
「イクゾ」
十体の鬼一法眼が一斉にクロウに向かう。
「南無八幡大菩薩 ―霧-」
クロウは魔法を唱える。
クロウの手から緑に光る短いレーザーが発射された。それも1発ではない。一度にシャワーのように幾筋もの短いレーザーが発射された。
その緑に光る短いレーザーは十体の鬼一法眼達を貫き、一瞬で倒した。
「うっそ」
静は思わず声をあげた。
繰り返すがクロウガ使った魔法は源氏の固有魔法「八幡神の加護」だ。
この固有魔法は武器の攻撃力をあげる魔法として知られる。
ところがクロウは剣を生み出したり、レーザーを生み出したりしている。
その威力も恐ろしい。
仮にも神の一員である護法童子を倒した。
「だから言ったろう。俺が当然勝つってな」
クロウは気負うことなく、当然のように言い放った。
「ブラボー! いや、この国の言葉では天晴! だったかな?」
魔王城から大勢の鴉天狗と呼ばれる堕天使を伴って一人の人物が現れた。
その人物は見るからに異様だった。
6枚の翼を持ち、金色に全身が輝いていた。
そして静にとって困ったことがあった。
一糸まとわぬオールヌードだった。
「ああ、自己紹介が遅れたね。僕の名はクマラ。この城の主だ」
やばい。
この城の主。つまり魔王だ。
静は慌てて平伏した。陵介もだ。
クロウだけが不遜に対峙していた。
「お前が魔王か」
「そうだね。外来の魔王と呼ばれているものだよ。皆、どこに行っても僕のことを魔王って呼ぶんだ。このような魔の者達を見捨てられなくって、庇護していたらそう呼ばれてるだけなんだけどね」
「お前の事情はどうでもいい。ここでは力を示すとお宝が手に入ると聞いた。次はお前が相手か?」
「いやいや、僕はごめん被るよ。鬼一法眼を倒したんだろう? 彼は最強の剣士だよ。彼に勝った人に僕が敵う訳ないだろう」
そう言ってクマラは3つの巻物をクロウに手渡した。
「君が欲しいのはこれだろう? 君は最強の剣士を倒し、その力を示した。この宝を得る資格がある」
「3っもくれるのか?」
「君のパーティは3人だろう? 一人だけ宝物を独占すると喧嘩になるよ。だからパーティ分あげるよ。僕は前途ある若者が好きなんだ。その若者が喧嘩するのは困るんだよ」
「へん。判ってるじゃねぇか」
クロウは無造作に静と陵介に巻物を渡した。
「それが褒美のアイテムだよ。「六韜:虎の巻」と呼ばれる魔法のスクロールさ。使い方は簡単、それを広げながら念じればいいよ」
魔王クマラに従い魔法のスクロールを使用する3人。
「おお?」
クロウが驚く、魔法のスクロールが光ったと同時に燃え消滅した。
「これはすげー。俺の護法童子を作れるのか?」
クロウは驚く。
クロウは「六韜:虎の巻」によって護法童子をクリエイトするスキルを手に入れた。
「なるほど。面白いスキルを得たようだね。他の二人はどうだい?」
「私は降神魔法で降ろせる神が一体増えたわ。神の雷霆ラミエルというらしいんだけど」
「俺は火の魔法が使えるようになった! やったぜ魔法だ!」
静と陵介がそれぞれ答える。
「ねえ。君はクロウと言ったね」
「ああ、それが?」
「クロウというのは僕の国では鴉を意味するんだ。ほら僕の配下は鴉天狗が多いだろう。だから気になってね」
「ふん。配下に成る気はないぞ」
「いやいや、そんな気はないよ。それよりも、なぜこの城にきたのか? いや、この城に来るということは更なる戦の力を求めてきたんだと思うけど、なぜ更なる力を求めたのかを知りたいんだ」
(ごめんなさい。深い意味はないです。単なる冒険心です。)
と心の中で謝る静。
「あん? 深い意味はねぇよ。男が名乗る夢は一つだろ? 覇王――それ以外に興味ねぇ」
クロウはそう言って啖呵をきった。
金色の魔王クマラは目を細める。
「覇王か。当代の覇王と呼べるものは源氏を破った平家の棟梁 平清盛だね。彼を超えるのが目標かい?」
「おう! てっぺんを目指す。それには力が必要だろ?」
「そうだね。ところで、君は鬼一法眼との戦で源氏の棟梁の子と名乗ったね」
「ああ、それがどうした?」
「源氏の棟梁は平氏の棟梁である平清盛に敗れた。つまり今の覇王 平清盛は君のパパの仇になるわけだ。復讐したいのかい?」
その魔王クマラの問いにクロウは明らかに不快の顔を作った。
「どうしたんだい? 答えにくい質問だったかな?」
クマラは快活に笑うが、目だけが笑っていない。
静は困った。
魔王クマラがクロウの急所ともいうべき質問を投げかけたからだ。
クロウの母 常盤は当代の覇王 平清盛を恨んでいる。
それこそ魔王クマラが指摘したように復讐したいと考えている。
その復讐のために魔王崇徳天を呼び出し、実の息子であるクロウがどのような影響を受けても構わないと考えるほどに。
では、その息子のクロウが復讐したいと考えているかとなると微妙だ。
クロウはおそらく父を見たこともない。
父が死んだとき、まだ幼子だったからだ。
見ず知らずの人のために復讐という感情を持てるかと言ったら微妙なところだ。
ただ、クロウは母、常盤と過ごしていた期間。常盤から「復讐せよ」と子守歌のように言われ続けてきた。
そういう教育を受けてきたと言い換えてもいい。
「復讐したいか?」
という質問はクロウにとって告だ。
と静は思った。
したい訳ではないが、そのように教育を受けて育ったクロウには。
クロウが変に悩まないように静が割って入ろうとしたとき、クロウが口を開いた。
「母はそういう気持ちがあるみたいだな」
クロウは他人事のように言った。
「そうだろう。それだけ君のパパを愛していたということだね。だけどね、僕が知りたいのは君の気持ちなんだ」
「ふん。益荒男の心がある男はな、覇王以外に目なんて向かねぇんだよ」
「ほう」
「俺の父が負けたのは弱かったからだ。平清盛が覇王となったのはその力があったからだ。それを恨む? 違うだろ」
そう言ってクロウは片眼でニッと笑う。
魔王クマラはその答えを聞き笑った。
「ブラボー! 気に入ったよクロウ君。なら僕から君に更なるプレゼントをあげよう」
クマラが指を交差しクロスをつくる。
「エンガチョ。エンガチョ」
魔法を唱えるとクロウが金色の光に包まれた。
「何をした?」
「何をした? 違うよ。君の覇王にならんとする夢の邪魔になっているものを取り除いただけさ。」
「夢の邪魔?」
「そう。君には変なものが憑いていた。呪いではないけど君にとってはそれに近いものだ」
「なんだそりゃ?」
「人の言葉で言ったらどういったらいいかな? そうそう”決められた運命”という表現があっているかもしれない」
「決められた運命?」
「そう! 君がどのような人生を歩もうとも、最後には復讐に終わる運命。そのようにルートが定まっていたんだ」
「ふざけんな! 俺の運命は俺がきめる」
「そう、僕もふざけるなと思うよ。君にこの運命を課した存在に対してね。人の強みは、本人次第でどこまでもいけるところだよ。時には神をも超える。ところが君はその人としての強さが制限されていた。だから解放した”決められた運命”ではなくフリーシナリオにしたんだ」
静は魔王クマラの言う”決められた運命”に心当たりがあった。
崇徳天から放たれた闇をクロウは幼子の時に受けた。その中に常盤に代わって平清盛に復讐するという”決められた運命”が定められてのではないか?
「なるほど、俺は自由に自分の運命を決められるんだな」
「そう。決められた運命なんて面白くないだろう」
「確かに、何か……上手く言えねぇが……軽くなった。礼を言うべきなんだろうなここは」
「礼は不要さ。僕は一所懸命頑張っている少年少女が好きなんだ。自由に羽ばたいてくれたらそれでいいさ。ああ、そうそう一つ忠告だ」
「なんだ?」
「覇王になった後、どうするか? 考えておいたほうがいいよ」
「覇王になったあと?」
「そう、覇王になった。そこで君の運命は終わりじゃない。覇王になった後も運命は続く。今じゃなくていい。追々、考えておいたほうがいいよ」
【モデル紹介】
■鬼一法眼
本作の護法童子 鬼一法眼のモデル
超人的な力をもたらす秘宝「六韜」の所有者
源義経から貸してほしいと相談される。
が断る。
鞍馬天狗と同一視されたり、吉岡流剣法の祖とされたり伝説の出張性能が高い人。
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