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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第一章 英雄集結
2/8

第二話 クエスト:魔王城の秘宝を入手せよ その1

「おい、静。あそこに言ってみようぜ」

目の前のツンツン髪の少年が静を誘った。

顔はこの世のものとは思われぬほど整っている。

美形と言っていい。


静はこのキレイな顔が嫌いだ。


嫌でも崇徳天のことを思い出すからだ。


静もあの崇徳天降臨の時より成長し、すでに少女と言ってよい年ごろになっている。


目の前のツンツン髪の少年はあの崇徳天降臨時に全ての闇をその体に受けた幼子だ。

名をクロウという。


彼もまた成長し、少年と言ってもよい年齢となった。


クロウは静の師匠のところに預けられていた。


その経緯は多少面倒だった。


あの崇徳天降臨後、闇を受けた幼子がどのようなことになるか?


静の師匠は危惧をしていた。

そして、後悔と責任を感じていた。


自分の降神魔法が神ではなく、魔王を呼び、その結果、無垢な幼子に何らかの影響を与えてしまったのではないかという後悔だ。


そしてその責任を感じた師匠は幼子の状態を確認するため常盤に幼子の一時預かりを提案した。


常盤は反対した。

反対という言葉が生ぬるいほど荒れ狂った。

自分の願いを叶えてくれる力を授かった我が子を、誰が渡すかと

常盤の主観からは師匠の申し出は、力を持った我が子を奪い去ることとしか聞こえなかった。

師匠は「長じてどのような影響がでるかわからない。それがわかるまでの間だけでいいのです」と食い下がったが一蹴された。


その時の常盤の表情は恐ろしかった。

まるで話に聞く鬼女だった。

静はその顔を一生忘れないだろう。


その時はそれで喧嘩別れのように終わったのだが、まだ続きがあった。


5年後、常盤はクロウを師匠の下に送り付けてきたのだ。

事情を聞くと、クロウは相当なやんちゃ坊主に育ったらしい。

なんでも5歳で覇王に挑んだとか。当然勝てるわけもない。常盤は覇王に平謝りに謝ったらしい。

そのような乱暴者に育ったのは師匠の所為だから、師匠が責任を持てと常盤は主張してきたらしい。打倒覇王を望んで魔王の力を借りたのに、その魔王の加護を受けた我が子が覇王に挑み負けると我が子を捨てる。


支離滅裂だ。

静は思った。


要は手に負えなかったのだ。

手に負えないことを他責にして手のひらを返し、我が子を他人に送り付ける。

そのことに静は怒りを覚えた。


「お姉ちゃんが守ってあげる」

静は心に誓った。


クロウを押し付けられた師匠は魔法により鑑定した後、難しい顔をしていた。

やがて静を呼び、「子供は子供同士がよかろう」と言って静に預けた。


実のところ師匠は崇徳天降臨の際に相当なダメージを受けていた。

神ではなく最悪の魔王をその身に宿したのだ。

その代償は重かった。

そのダメージは薬や魔法では治癒できず、立つことが難しくなっていた。

見た目も一気に老人となった。


師匠は「代償じゃ。生気を貢がされたのじゃ」と自嘲気味に笑っていたが、日常生活は目に見えて難しかった。


そのような事情もあり、静に預けたことはやむを得なかった。

自らの体ですら満足に動かせぬ状態で少年の相手は難しかった。


さて、クロウを預けられた静だが、クロウガ成長するにつれ、常盤がクロウを送り付けてきた意味がわかってきた。


異常なのだ。


とにかく速い。

お前はウサギか? と思うほどジャンプ力もある。

クロウが屋根まで平気な顔で跳んだときもあった。

静は肝が冷えた。

静が「危ないから降りなさい」と言っっても、このやんちゃ坊主はあっかんベーをして揶揄うだけだ。


静も持ち前の負けん気の強さで「こんのーっ! いたずら坊主!」と追いかけてみても、身体能力はクロウの方が遥かに高い。

静は常にへとへとになった。


(崇徳天の闇を受けたためか? この身体能力で普通の子供のように駄々をこねられたらたまったもんじゃない)

静は少し常盤の気持ちが理解できた。


困ったことにクロウは魔法まで使って見せた。


クロウは源氏の棟梁の子だ。

源氏固有の魔法として“八幡神の加護”というのがある。

鍛冶の神である八幡神の力で武器の攻撃力を倍加させる魔法だ。

何倍になるかは、使用者の魔法レベルによる。


その“八幡神の加護”を誰にも教わらずに使用して見せた。

恐るべき能力だ。

さらに静や師匠を驚かせたのがクロウの使用する“八幡神の加護”の魔法が通常とは違うことだ。


繰り返すが源氏固有魔法“八幡神の加護”は武器の攻撃力を上げる魔法だ。

武器がないと意味がない弱点がある。

ところがクロウが魔法を使用すると何もないところから剣が出現するのだ。

しかも普通の剣ではない。

緑色の光の刃を持つ剣だ。

クロウはその魔法を「薄緑」と呼んでいた。


いずれにせよ「無」から武器を生み出すという恐ろしい魔法を使って見せた。

クロウ少年はその能力をもってやんちゃをするのだ。


(通常じゃない身体能力をもって、通常じゃない魔法を使う。それでやんちゃ坊主。こりゃ常盤が持て余したわけだ)


静はクロウを見てそう実感した。


崇徳天は魔王とは呼ばれていたが、ちゃんと常盤の願いを叶えたのだと静は思った。

つまりクロウに常盤の恨みを晴らすだけの能力を与えた。

その結果として常人以上の権能を付与されたクロウは通常の養育が困難となった。

3歳児のイヤイヤ期を常人以上の身体能力と魔法で行われたらたまったものではない。

通常の養育ですら体力と時間が削られる。であればクロウの養育の苦労は推して知るべしということだ。

結果として母親に捨てられた。


もっとも静も通常ではない。

幼いころからおかめの神の魔法“降神魔法”の使い手だ。

だからこそ師匠は静にクロウを預けた。


通常ではないものには通常ではないものを当てたらよいという理由だろう。

静はそう理解し、母親の愛を受けられないクロウに憐憫の情を抱いた。

「私が母親の代わりだ」

静はそう決意した。


もっとも、幼い少年少女の考えだ。

実際の母親の代わりなど勤まることはない。


せいぜい遊び相手がいいところだ。


ただし、尋常ではないもの同士だ。

その遊びも子供の喧嘩も尋常ではない。


一度、大切にとっておいた甘栗をクロウに食われたとき静はマジ切れし、自ら禁じていた天神様を“降神魔法”で降ろし、クロウをコテンパンに懲らしめた。

その後、静もクロウも教育狂の天神様の勉強を強いられたのは言うまでもない。

そして静はいつもの頭痛に悩まされるのであった。


さて、その母親の愛情を受けられぬ身であったクロウではあるが、静のお陰でそれなりに育っていった。クロウにとって静は親友以上のなくてはならない存在である。

だから何をするにも一緒だ。


だから、これからクロウガ行こうとするところに静を誘った。


しかしながら、誘った場所が問題だ。


とても、とてもデートに誘う場所ではない。

そして少年少女の遊び場としても適当ではなかった。


「は? 何言ってんのあそこは魔王がいる場所だよ。あんた死にたいの?」

静は呆れたような、うんざりしたような顔をした。

クロウが誘った場所は静やクロウが住処としている鞍馬の寺の奥だ。


そこには通称、鞍馬天狗と呼ばれる「外来の魔王」が住んでいた。

その「外来の魔王」の住む魔王城には戦いに関するSSS級アイテムがあり、強さを示すとそのアイテムを授かるという。

戦士などの戦闘職や腕自慢が能力UPを目指す場所として知る人ぞ知るな場所だ。


静はそこには行きたくない。

デートの場所には不似合いということもあったが、魔王の城というのが行きたくないもっとも大きな理由だ。

「怨念の魔王」崇徳天の件もあり魔王にはもう関わりたくはないとうんざりしていた。

懲り懲りであった。


同時にクロウが魔王に近づこうとするのは、崇徳天の力を受けた影響かも思った。


「えー、行こうぜ。なんか面白れー。お宝があるらしいぜ」

クロウはしつこく誘う。


クロウは常人離れした能力を持つが、その実、その能力を過信して独断専行することはない。少なくとも必ず静と一緒に行動する。


寂しがり屋かかまってちゃんだと静は思っている。


「お宝ねー」

静はジト目でクロウを見上げる。

既にクロウは静の身長を追い越していた。


冒険少年のセリフに静は思案する。

(このあたりの魔物の強さじゃクロウは物足りないんだろうな。もっと強い敵と戦いたいというのはわからなくないけど)


静とクロウが住む鞍馬山には魔物が出現する。

常人には恐ろしいエリアだ。


ところがクロウは崇徳天から授かった力のおかげか魔物を苦も無く倒す。

無双状態だ。

物足りないのだろう。


そして、良い環境なのか悪い環境なのか。

この魔物が出現する鞍馬山の一角に魔王が住んでいた。

戦ってみたい。

その魔王の住む城にあるお宝をゲットしたい。

というのはある意味、自然な感情である。

静はクロウの誘いをそのように理解した。


問題は危険度だ。

クロウや静の手に負えるレベルの強さかどうかだ。


「俺もいきたい。いきたい。そのお宝とやらに興味があるんだ」

と言ったのは横で静とクロウの会話を聞いていた幼馴染の陵介だ。


彼はこの辺一帯のガキ大将だったが、クロウに喧嘩を挑みコテンパンにされた。

それ以来、クロウとつるんでいる。


彼もまた、一般人レベルにはとどまるものの、戦闘力は高い。

クロウと普段喧嘩しており、それが陵介の戦闘レベルをひきあげる良い訓練になっていたからだ。


少なくとも、この一帯ではクロウと静以外で陵介に勝てる相手はいない。


「お! 陵介もか! だよな。男子はそうじゃなきゃ。じゃあ行こうぜ!」

そう言ってクロウと陵介は静を両脇からガッツリ掴んで、「外来の魔王」の方へ向かった。


「あたしは男じゃないっつーの!」

という静の抗議は無視された。


【モデル紹介】

■陵介

本作の陵介のモデル。


義経記に登場。

義経が鞍馬寺にいたとき「何かあったら俺を頼れ」と格好いいことを言った人。

義経がその言葉を真に受け訪ねたら「平清盛が亡くなってからにしようよ」と日和ったため義経の怒りを買い家を燃やされた人。


本作では幼馴染にしてみました。義経記通りに家を燃やされるかは思案中。

ちなみに「りょうすけ」ではなく「みささぎのすけ」と呼ぶそうです。


【お知らせ】

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■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/

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