第一話 魔王があらわれた
新作はじめました
源平合戦、義経モノです。
ただし、歴史通り進めません
IFです。
タイトル通り魔法も出します。
妖怪もだします。
よろしくお願いします。
子供がいた。
名をクロウという。
彼に父はいない。
幼子の頃に死んだからだ。
母は父が死に狂った。父を殺した相手に復讐することのみを考えた。
そのため彼は父母の愛を受けなかった。
家庭の愛を受けずに育った。
彼は愛を受けずに育った。
そして、歪に成長した彼にとって愛は憧憬となった。
その憧憬を得るための目的としてヒーローになることを夢見た。
なぜなら身近にヒーローがいたから
ヒーローになれば憧憬を手に入れると思った。願った。
これはそんな少年の物語。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
静は白拍子の卵だ。
古来から続く白拍子の
白拍子とは何か?
簡単に書くと芸人・タレント・ミュージシャンだ。
芸事で人を楽しませる文字通りの芸能人
ただし、“古来から続く”となると意味合いが異なってくる。
おたふくの神の加護を受ける巫女という意味になる。
このおたふくの神の加護を受けている巫女は他の白拍子とは一線を画す芸を持っていた。
その芸とは
降神魔法と呼ばれる神降ろしの魔法のことだ。
天に住まう神々をその身に宿し、様々な奇跡を行使する。
静もまた、古来から続く白拍子の一員であり、降神魔法の使い手であった。
その静は今、師匠の仕事の手伝い……という名の見学をしていた。
静はまだ若い。
若すぎた。
現代に例えるなら未就学児だ。
師匠の手伝いなんかできるレベルではない。
しかしながら魔法の才はあった。
特に雷系の降神魔法は静の得意技だ。
賀茂別雷命や八雷神に武御雷命。全力を出せば天神様まで可能だ。
もちろん未就学児レベルでそんな大技をつかうと魔力は空になる。
比喩でも何でもなく三日三晩寝込む。
起きた後もしばらくの間、頭痛や吐き気に悩まされるので静も滅多なことでなければ使わない。
普段使用するのは専ら雷神の使いである雷獣だ。
それも普通の降神魔法とはちょっと違う魔法行使をする。
手順を書く。
①降神魔法で雷神をその体に降下させる。
②雷神の能力で雷獣を召喚
③雷獣だけ残して雷神の降下を解く
結果、雷獣だけ場に残る。
こんな、どこかのカードゲームのような手順を踏んで雷獣だけを現世に残す、正当な魔法使いから見ると変則的な魔法行使をする。
今も静の横にいる。
黒いもふもふの獣がそれだ。
一見、黒いポメラニアンに見えるが、間違いなく雷獣だ。
決してワンコではない。
ともかく降神魔法を行使するだけで凄いのに応用技まで使用してくるのである。
魔法の天才である。
静が雷獣を呼んだ理由が、ぬいぐるみが欲しいという欲求からだったとしてもだ。
この魔法の天才を師匠は愛した。
折に触れて仕事場へ連れまわし、自分がやっている降神魔法を見せた。
見て覚えろという教育手法だ。
かといって師匠がスパルタという訳ではない。
今は平安時代。
学校も教育方法もない。
教える方法が一般的にこれだったというだけだ。
さて、静はいつも通り師匠の仕事場にちょこんと座って師匠の仕事を見学していた。
師匠はせっせと降神魔法の準備をしていた。
今回の降神魔法の準備は大がかりだった。
位の高い神ほど準備がいる。
その大がかりな準備からとてつもない神を降ろそうとしているということは幼少の静かでも理解できた。
理解はできたが、静にはひとつだけ困ったことがあった。
さっきから嫌な予感がとまらないのだ。
虫の知らせというかなんというか。
最初はむずむずしていたが、徐々に体が痺れてきた。
今では寒気すらする。
静は依頼人を見る。
静よりも小さな幼子を抱いた母親だ。
名を常盤という。
千人の美女を集めたミスコンで優勝したというだけあって美人だ。
仮に白拍子という名のアイドルを職業としても、その容姿だけで十分、やっていけるだろう。
彼女が師匠に降神魔法を依頼した人物だ。
直に神頼みしたいことがあるらしい。
静は師匠がこういう職業をやっているから、あまり言わないが本心では神頼みはやめたほうがよいと思っている。
この国の神々は現世利益をもたらすというよりは、「あなたのことをお祈りしますから災いをよこさないでくださいね」という側面の方が強い。
それに静は降神魔法を使えるため神々の本音をたまに聞くことがある。
それを聞いて静が感じたのが人と神々とは基準が違うということだ。
善悪の基準も違う。価値観も違う。細かいことを記載すると食べ物に対する価値も違った。人を食べ物としか見てない神々もいた。つまりベースが違った。
ベースが違う存在にお願いしても相互理解できるかどうか怪しいと静は思っている。
たった、一つだけ例外があった。
天神様だ。
彼は人のことも理解してくれている。ただ勉強魔なので静は二度と呼ばないと心に誓っている。前回、呼んだときには半日強制的に勉強させられた。天神様は「絶対に世の中を渡っていくに必要な知識だから」といって静に知識を詰め込んだ。天神様を降ろす降神魔法使用後に必ず起こる頭痛はその勉強のしすぎが原因と静は思っている。
それはともかく。
静は神々の本音を聞いてしまっているがために、神頼みということに対してどちらかといえば否定的だ。
さらには、この依頼人の依頼内容が問題だ。
恨み。
このために神々に直接お願いしたいという。
静の価値観からすると気がふれたか?
と思わざるを得ない。
何せ恨む相手が相手だ。
天下の覇王が相手なのだ。
依頼人、常盤の夫は武士の棟梁だ。
正確には武士の棟梁の一人だった。
当時の武士は大雑把な書き方をすると平氏と源氏がいた。
平氏の棟梁が平清盛
源氏の棟梁が常盤の夫だ。
平氏と源氏は天下分け目の戦を行った。
結果、平氏が勝ち、源氏が負け、常盤の夫は死亡した。
常盤は勝者となり、覇王となった平清盛の妾となった。
常盤は夫を倒した平氏を。そしてその棟梁、平清盛を恨んだ。
常盤は恨むだけではなく彼らを倒すべく神頼みをしたいと願った。
そして“古来から続く白拍子”の御業を持つ静の師匠に降神魔法を依頼した。
恨みで神を呼ぶ?
静はこの依頼内容に神をも恐れぬ不遜を感じている。同時に嫌な予感もした。
先ほども書いたが、その嫌な予感は徐々に強まっていた。
悪寒がするほどに。
常盤からすると「夫を倒した」相手を恨むのは当然だった。
また、ミスコンで優勝するほどの美貌を持つ自分を戦利品というモノ扱いは到底許せるものではなかった。
静からすると戦闘を生業とする武士が負けたからといって恨むというのは違和感があった。武士の妻としてどうなのかと感じていた。
そして妾とはいえ覇王の妻となるのは逆に名誉なことではないかとも思っていた。覇王の妻などなろうとしてもなれるものではない。
つまり、静は常盤に反感をもっていた。
それに加え常盤の不遜な願い。
消えぬ嫌な予感。
どう考えてもこの場は楽しい場所ではない。
「……この場から去ろうかな?」
静は心の中でポツリとつぶやいたが、そこは幼少の身である。
どうにもならない。
その間に師匠の準備が終わったのか魔法の詠唱。そして降神魔法が発動した。
「うえっ」
静の嫌な予感はピークに達し、悪寒を通り越し、吐き気が襲ってきた。
静は耐えた。耐えた。
ここで吐いたら何言われるかわかったもんじゃない。その気概で耐えた。
その吐き気と同時に師匠の姿が変った。
静は眉をひそめた。
「乗っ取られた」
とつぶやいた。
降神魔法の失敗事例の一つだ。
降ろした神に体を乗っ取られたのだ。
問題は師匠を乗っ取った神が何であるかということだ。
師匠はベテランだ。
その師匠を乗っ取ったとなればよほど、力を持った神霊である可能性が高い。
師匠の体からどす黒い瘴気があふれ出る。
その瘴気は闇となって一面を覆う。
やがて、その闇から一つの顔が現れた。
その顔は綺麗だった。
作り物かと思えるくらい造形美に満ちた男性の顔だ。
ただ、その顔はひっくり返っていた。
髪が下で顎が上になっていた。
それだけで人ならざる者であることを示していた。
『余は崇徳天なり。誰ぞこの魔王を呼び出した酔狂な者は?』
闇から現れた顔はそう名乗った。
「怨念の魔王」
静は眉を顰め呟く。
師匠が呼び起こしたのは神々ではなく魔王だったらしい。
この国には魔王と呼ばれる存在がいる。
その内、崇徳天は怨念の魔王と呼ばれていた。
その呼び名の原因は出自にある。
この魔王はもともと、この国の帝王だった。
ところが愛人に現を抜かした父に帝位を追われたのだ。
愛人の子を帝位につけるために。
さらには帝位についた弟に攻められ都を追われた。
「大魔王となり、皇を取って民とし民を皇となさん!」
といって呪詛を振りまき、舌を噛みきり魔王となったのは有名な話だ。
静は幼いながらも覚悟した。
この魔王はその力で人心を惑わし、都を炎につつみ、死を振りまく存在。
下手すると殺される。
切り札である、天神様を呼び出してでも切り抜けねばなない。その後、天神様に猛勉強させられ頭痛に悩まされても、呪い死ぬよりはましだ。
「おお! 神よ。わらわの願を聞き届けておくれ」
常盤が目の前の異形に歓喜の声をあげて近づいていく。
「おいおい大丈夫か?」
と静は眉を顰める。もちろん声には出さない。
何がきっかけで怨念の魔王の呪詛がこちらにむかうかわからない。
迂闊な行動はとれなかった。
崇徳天もこの常盤の頓狂な行動に驚いたか、じっと常盤を見る。
「我が夫を殺した者たちに呪いを! 復讐の刃を与えておくれ」
常盤がそういって崇徳天にすがる。
崇徳天はしばらく沈黙していた。
美形であるからこそ、その無表情の沈黙はより不気味であった。
やがて崇徳天は哄笑した。
「それが望みで神を呼んだか。然り、然り! ならば余が呼び出されるのも必然と言えよう。その望みに答えることが出来るのは余しかおるまい」
「おお! ではわらわの望みを叶えてくれるとっ!」
「然り、余の願いは世の乱れ。そなたの望みと余の願いは同じよ。力を貸そう」
「おお、ありがたし」
常盤は歓喜の涙を流す。
静は眉を顰め続けている。
常盤は目の前の異形が神ではなく魔王だということに気づいているのだろうか?
闇の中から手が現れる。
細い、細い。
爪の長い、指の長い手だ。
その手が一点を指さす。
その指の先には常盤が抱いている小さな幼子をいた。
『その者に恨みを実現できる権能を授けよう』
崇徳天がそう言ってにやりと笑う。
同時に周囲の闇が幼子に吸い込まれた。
幼子は驚き泣いた。
その傍で常盤が「ありがたや ありがたや」と涙を流して感激していた。
魔王も闇もすでにない。
静は異様な光景に言葉を無くした。
そして遂に我慢しきれず、吐いた。
1話目からヒロインが吐いてスイマセン。
こんな作品ですがよろしければ見ていただけると嬉しいです。
【モデル紹介】
■源義経
本作の主人公 クロウのモデル
言わずと知れた源平合戦の英雄。源平合戦を勝利に導いた後、兄である源頼朝と不仲になる。その後、紆余曲折を経て奥州で匿われるが、源頼朝の圧力に屈した奥州藤原氏に攻められ衣川で自刃。
本作ではこのような悲劇は避けたいなぁ。IFだし。
■静御前
本作のヒロイン 静のモデル
源義経の愛妾。源義経が源頼朝と対立時に捕らえられた。
捕虜になったにもかかわらず、源頼朝の前で義経大好きと歌った度胸のある人。
怒った頼朝に殺されそうになるところを頼朝の奥さん北条政子に救われるのは名シーンの一つ。
源義経の子を産んだが、その子は源頼朝に殺された。悲劇の人。
本作では絶対に悲劇の人にしません。悲劇の人にはせんぞー。
■常盤御前
本作の常盤のモデル
千人の美女を集めたミスコンで上位10名に選ばれた人。
その後、源義朝の愛妾となり義経を生んだ。
源義朝が平清盛と戦った平治の乱で敗れると、身を隠したが母を人質にとられ出頭。
平清盛の愛人になったとかならなかったとか。
■讃岐院
本作の崇徳天のモデル
鳥羽上皇の子
天皇となったが、親の鳥羽上皇が愛していた藤原徳子の子を天皇にするため。親の命令で天皇の座を追われた。
鳥羽上皇崩御後、新たな天皇となった後白河手天皇と戦う。
しかし、源義朝や平清盛が味方した後白河天皇には勝てず敗北。讃岐に流刑となる。
「日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん」という呪詛が有名。
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