第七話 炎の剣 その6
「テメェ。下がってろっ言ったよな」
陵介が若い執事に向かって吠える。
その陵介に対して若い執事は薄く笑う。
「あなたが不甲斐ないからですよ」
「なんだと?」
「このような女一人捕縛できない。不甲斐ないですよね? しかたなく僕が手助けしてるんですよ」
「この野郎っ!」
陵介は立ち上がろうとしたが、クロウとの戦いのダメージが大きく動けない。
しかし陵介には魔法がある。
ファイヤーボールの魔法をつかうべく集中する。
「おっと魔法はやめたほうがいい。この姫に当たったら大変なことになるよ」
執事が機先をとり告げる。
「くそっ」
陵介が吠える。
そのやり取りをじっと観察するクロウ。
(気配を感じなかった。静が倒れているのもそれが原因だろう。いくらなんでも気配があれば静なら迎撃する。多分、背後から気づかないうちに昏倒させられたというところだろう。皆鶴姫は不意に弱い。静が倒れたことで動揺し、捕らえられたか?)
いずれにせよ一瞬のことだ。
(正規の武士ではないだろう。隠密を得意とする奴か……とすると密偵か? 陵介の執事っていうのも怪しくなってきたな)
「何者だ?」
クロウが問う。
「おい、何言ってるんだ? クロウ。あいつは俺の執事で……」
陵介がクロウにツッコミを入れる。
「阿呆。あの早業。密偵だ。誰かの手の者がお前の執事に成りすまして入り込んでるって考えた方が自然だ」
「へえ。するどいね? それとも勘かな?」
執事が薄く笑う。
「僕の名は青葉。平敦盛様の護法童子さ」
「なんだとお」
驚きの声をあげる陵介。
自分の館にいた、たった一人の執事が平敦盛の護法童子ということを聞かされて混乱した。
「敦盛様は皆鶴姫にぞっこんでね。何をおいても手に入れたいらしい。ところが上手に隠れちゃってね。今まで見つけられなかった。それなら居場所がわかる陵介様のところに網を張ってみるのも方法だと思ってね。執事として潜り込んだけど、結果的に上手くいったみたいだね」
「ずいぶん。口が軽いじゃねぇか?」
「そりゃ、そうさ死人に口なし。これから死ぬ人に何を言っても問題ないよね?」
その瞬間。
クロウは嫌な予感がした。
気配も 殺気も
何も感じられないにもかかわらずだ。
「来い! 弁慶!」
クロウは自身の護法童子”弁慶”を召喚。
弁慶は召喚と同時にその剛腕を振る。裏拳だ。
”ブオン”という風切り音が響く。
「きゃっ」
と黄色い悲鳴と同時に、弁慶の裏拳を受けた何者かが吹き飛んだ。
その吹き飛んだ方向は、燃えている陵介の館だ。
そのままでは燃える館に突っ込むことになる。
「小枝っ」
陵介の執事であった青葉が慌てた声をあげた。
青葉は捕えていた皆鶴姫を離し、弁慶に吹き飛ばされた何者かの元に走りキャッチした。
間に合ったのは青葉が護法童子という”神”であったからか。
いずれにせよ、吹き飛ばされた何者かは炎に海に放り込まれる寸前で助かった。
「む」
「なんだぁ」
「これは……」
クロウ達は驚いた。
弁慶が吹き飛ばした”小枝”と呼ばれた人物の顔が青葉と瓜二つだったからだ。
「護法童子の双子か? 聞いたことねぇな。いずれにせよ俺の仲間を傷つけた代償は高くつくぜ。」
クロウは素早く皆鶴姫や静を守れる位置に移動する。
弁慶が雄たけびを上げて青葉と小枝に突進する。
「くっ、小枝の奇襲に気づくなんて」
「青葉、今は逃げよう。奇襲が通じないならどうしようもできない」
青葉と小枝はさっとその場を離れようとする。
「「逃がすと思うか!」」
クロウと弁慶の言葉が重なる。
クロウの魔法剣から緑に光る短いレーザーが無数に発射された。
弁慶が突撃速度をあげる。
「「僕たちを捉えることはできない」」
青葉と小枝はスゥっと闇に溶け込むように消えようとして……クロウの広範囲レーザーに貫かれ悲鳴をあげる。
予想外の広範囲で避けられなかったらしい。
「ぬうん」
その間に肉薄した弁慶が薙刀を大きくふるい二人を文字通り一刀両断した。
「くそったれ。あの執事が平敦盛の手の者とは気づかなかったぜ」
陵介が悪態をつく。
「フン。陵介は人が良すぎるんだ」
クロウが薄く笑う。
そして館を見て
「それよりもコレどうするんだ?」
陵介もまた館を見て
「これでいい。いや、これがいいんだ」
と言った。
不思議に思うクロウを置いて陵介は皆鶴姫に語り掛ける
「皆鶴姫」
「は、はい」
不意に声をかけられた皆鶴姫は戸惑いながら答える。
「これであんたは自由だ」
「え?」
何をいっているのかがわからず戸惑う皆鶴姫。
「あんたを捕えようとした陵介という男は捕らえることが出来ず反撃にあい、重傷を負い、その戦いで館も消失した。その戦いで平敦盛の護法童子も倒された。その後、皆鶴姫はどこに行ったかは誰にもわからない」
陵介はそう棒読みすると皆鶴姫にむかってニヤっと笑った。
「え、いや、その、それでは陵介様の武名がっ」
「武名? ああ、そうだな。俺は女一人捕らえられず反撃にあい館を焼失させた男として歴史に残るかもしれないな」
陵介が薄く自嘲気味に笑う
「そ、そうです。ですから……」
「だから、どうした」
何かを言おうとして皆鶴姫の声を陵介は遮る。
「あんたが無事だ。それだけでいい」
と陵介はいい、クロウに首をむける。
「クロウ」
「ああ」
「俺がここまでやったんだ。皆鶴姫を泣かせる真似したらただじゃおかねえ」
「ここまでやったか……」
クロウは陵介を見る。
地面に大の字に倒れていた。
クロウは館を見る。
全てを燃やす紅蓮の炎がうねっていた。
「もっとうまくやる方法もあったろうに」
「馬鹿言え。本気じゃなきゃ意味がない。俺は本気でお前と戦った」
「ああ」
「そして負けた。お前は皆鶴姫を守り切った。そうだろう」
「ああ。そうだな」
「もう一度言う。俺がここまでやったんだ。皆鶴姫を泣かせる真似したらただじゃおかねえ」
クロウは陵介の目を見て、一呼吸置いた後、
「当然だ」
と答えた。
やがて四方から大勢の声が聞こえた。
炎に包まれた館を見て近隣の人々が集まってきたのだ。
「行け、クロウ」
「ああ」
クロウは弁慶に命じて気絶中の静を担いでもらった。
ここで逡巡する皆鶴姫。
「あのな。俺のケガを無駄にしないでくれよな」
そんな皆鶴姫に陵介が倒れながら苦笑する。
「…………っ」
皆鶴姫は黙って頭を下げた。
大勢の声が近づいてくる。
クロウと共に皆鶴姫は駆けた。
「じゃあな」
陵介はその背に声をかけた。
【モデル紹介】
■小枝・青葉
平敦盛の笛 一ノ谷の戦のときにも持って行き笛を吹いていたようです。
小枝は「人生五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻のごとくなり」で有名な幸若舞「敦盛」でも登場します。
【お知らせ】
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■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
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