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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第一章 英雄集結
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第五話 ルート分岐 その5

クロウ達のルートが確定します。

クロウ達は場所を変えた。

吉次が地図を見せながら話したいと言ったからだ。

確かに、これから吉次から売ってもらう情報は路地でする世間話の類ではない。


「まず、東国の状況をお伝えしましょう」

吉次はクロウに告げる。

クロウは頷く。


「平清盛は覇王となりました。しかし、それを良しとしない勢力が多数おります」

吉次は地図を広げる。

クロウは地図を初めて見た。

東西に細長い国であるということを理解した。

「信濃国に木曽義仲。甲斐国に武田信義。近江国に甲賀入道。近場では摂津に源三位頼政」

吉次は一つ一つ地図を指さしながら告げる。

クロウに勢力の位置関係を伝えようとしていた。地政学教育だ。

「源三位頼政殿か」

クロウが呟く。

「気になりますか」

「当然だ。鵺退治の勇者だ。子供でも知っている。……それに都に近い」

吉次は頷く。

地図を見せながら話をした意味があった。


「その鵺退治の勇者が挙兵したら他のどの勢力よりも早く覇王に挑むことはできますねぇ」

吉次は地図を指さす。

「ああ」

クロウは考え込む。

「軍勢を得るなら既存の勢力に入り込むのも手ですねぇ。その候補の一つにいかがでしょう?」

「吉次殿。俺は気が短い。試すような真似はよせ。俺が源三位の勢力下に入ったら吉次殿に報酬が支払えねぇよ。それをわかってるだろうに」

「そうですねぇ。情報という投資をした意味がなくなりますねぇ」


吉次は薄く笑った。

源三位の摂津ルートは消えた。吉次は脳内でそのルートに×をつける。


「なら、話を続けましょうか。 覇王 平清盛を良しとしない勢力は他にもあります。クロウ殿。あなたの兄達ですよ。あなた達兄弟からすると覇王は親の仇ですからねぇ」

「ほう。俺に兄がいるのか」


クロウはとぼけているわけではない。

本当に兄弟の存在を知らないのだ。


彼はずっと鞍馬山を住処としていた。


そこで共にいたのは静であり、静の師匠であり、陵介だった。

それがクロウの“家族”だ。


彼の“家族”には兄はいなかった。


とはいえ、彼は紛れもない源氏の棟梁の子だ。

そしてクロウ→九郎の名が示すとおり九男だ。

つまり長兄以下、上の兄弟姉妹は存在する。


彼の“家族”には兄はいなくとも生物学上の兄は存在していた。

クロウにとって会ったこともない知らない“他人”ではあったが。


だからクロウは兄の存在を知らない。

だからクロウは素直に吉次の言葉に驚いた。


(権力者の子ですねぇ)

吉次は思った。

権力者の子は親にあったこともなければ、兄弟にもあったことは無いという事柄は普通にあった。


権力者の親は子育てを乳母などに任せる。親の顔を知らずに育つ

兄弟ごとに別々の乳母に任せた場合、兄弟の存在を知らないということは普通にある。

権力者の子に生まれた代償として“家庭的な”という環境を知らずに育つケースは多い。


クロウもそうなのだろうと吉次は感じた。


「おりますよ。ただし、生き残っているのは僅かですけどね」

吉次は冷酷な事実を告げる。


これだけでクロウは「ああ」と納得した。


クロウの父は覇王 平清盛と争った源氏の棟梁だ。

そして敗北した。

その戦いのときに父と一緒に年長の兄たちは散ったということは十分あり得ある話だ。

吉次の言葉からそのことを知った。


「生き残っている源氏の棟梁の子で有力なのは3人でしょうかねぇ」

吉次は話を続ける。


クロウは黙って聞く。

クロウにとって喉から手が出るほど欲しい天下の趨勢を占う情報だ。こればかりは術に優れ神を降ろすことが出来る静からも、鬼一法眼から剣を学んだ剣士、皆鶴姫からも得ることはできない。


「坂東の頼朝殿。甲斐の武田と接触している蒲殿。源三位頼政の弁士 神宮十郎と接触している義円殿。かれら3名が有力でしょう」

「坂東か」

クロウはつぶやいた。


坂東は昔から荒武者を輩出する。

有名どころでは新皇を名乗り独立を企てた平将門だ。


その荒武者を輩出する坂東というワードにクロウは一番、興味を惹かれた。

あわよくば荒武者の多い坂東で勢力を作る構想も心の片隅にあったからだ。

坂東は強者を好むのではないかとも考えていた。勝負して強者と認めさせることが出来たなら勢力も簡単に作れるのではないかとも考えていた。


吉次はそんなクロウをじっと見る。

(兄弟の名前ではなく”坂東”に興味をお持ちですか。もしかしたら坂東に変な憧れでもありますかねぇ)


「坂東に興味がおありで?」


「ああ。強者が多いと聞く。それに坂東には俺の親友がいる」

「なるほど強者ですか。失礼ながらその強者の意味をわかっています?」

「ん? どういう意味だ?」

「人に従わないって意味です」

「む?」

「かの有名な平将門も時の帝 朱雀天に従わず自ら帝を名乗りました。人に従うことを嫌うのです」

「力には力だ。それ以上の力を見せればよいのではないか?」

「そんな殊勝な心根ではないですねぇ。正々堂々勝てなければ、裏で足を引っ張ります。生き馬の目を抜く世界が坂東です。どんな手を使おうが他者よりも功名、名利に素直、貪欲。それが”強者”という意味です」

「む」

「力で抑え込もうとすることは、彼らの功名名利を傷つけることになります。とても従わないでしょう」

「なるほどな。情報の重要性をあらためて感じた。思い込みで突っ走っていたら逆に敵を作るところだった。難しいな男の矜持ってヤツは」


そう言ったクロウの頭の中には陵介の姿が浮かんでいた。

陵介の言葉を今もクロウは思い出す。

「坂東武者の矜持だ」

と陵介は吠えた。

クロウが「助けに行くのが遅れた」と言った後に歪んだ陵介の顔を思い出していた。

(おそらく、あの一言が陵介の矜持を傷つけた)

クロウは後悔していた。

そして、そのことを思い出した。


「しかたねぇ。それなら坂東勢力をもって覇王に挑むのは無理か」

クロウは頭を掻く。

端正な髪がぐしゃぐしゃになった。


「坂東武者を味方につけたいなら一つ方法がありますよ」

吉次が試すような視線をクロウにむける。


「なんだ?」

クロウは眉を寄せる。


クロウにはその方法が思いつかない。

陵介のようにプライドを傷つけて去っていくか、反感を買うかしかイメージがわかない。


「ある意味簡単ですねぇ。何もせず。坂東武者がやりたいようにやらせるのです」


クロウはさらに額を険しくする。

「それだと覇王にはなれんだろう?」


「もちろん誘導は必要ですねぇ。私が天下をとったらこの土地をあげましょうとかですかねぇ。それで坂東武者が平家に背くような世論をつくり、自身は出しゃばらず何もせずに坂東武者が功を競うように仕向け、坂東武者に覇王 平清盛を倒してもらう。坂東に勢力を持つならこの戦略でしょうねぇ」

吉次の試すような視線が鋭くなる。


クロウは目をつぶっている。

吉次の言っている戦略が実行可能か?

自分なりに検討していた。


「無理だな」

クロウはしばらくたった後、口を開いた。


「ほう。なぜ、そう思われました?」

「俺は先日、平家一門と戦った」

「ええ、そうですねぇ。あれで一気に有名人の仲間入りしましたねぇ」

「俺は勝てる自信がある。が、さすがは覇王の将達だ。決して弱くはない」

「そうでしょうねぇ。そうでなければ覇権は握れませんからねぇ」

「吉次殿の戦略ですすめるのならば、各将が思い思いのまま統率も取れずに戦うことになる。勢いが強いときはそれでも勝てる。しかし、逆境になれば単なる烏合の衆だ。一気に瓦解する」


(へえ。戦いのことになると、年に似合わない合理的な分析をするんですねぇ。なるほど、坂東武者を率いることは出来ても戦に勝てるとは限らないということですか。これは逆に勉強になりましたわ。源頼朝はさっきの戦略を実行して坂東武者で勢力を創ろうとしているようですが、それでもって平家との一戦に勝てるかどうかは怪しいということですか。なるほど)


頼朝の坂東ルートは消えた。吉次は脳内でそのルートに×をつける。


「覇王になるってのは、楽な場所を選ぶことじゃねぇってのは分かってるんだがな。俺に見落としがあるか? なぁ吉次殿、まだ言ってねぇ情報はあるか?」

クロウは頭を掻く。

髪がさらにぐしゃぐしゃになる。


「そうですねぇ。確認ですが……坂東に興味をもった理由は坂東武者が強いからですか?」

「当然。強い坂東武者が軍勢をつくると強い軍隊になるだろ?」

「そですねぇ。なら、もっと強い人たちを集めたらよろしいのでは?」

「む」

虚を突かれ言葉に詰まるクロウ。


「ちょっと待って。坂東武者よりも強い人たち何て聞いたことないわ」

静が思わず口を挟む。


強者=坂東武者 

この公式はクロウ達の いや世間一般の常識だ。


そんな静に吉次は黄金のマスクの奥から鋭い眼光を見せる。

「固定概念に縛られるのは感心しないねぇ。盲目になりますなぁ。一つ質問しましょうか? なぜ坂東武者は一般に精強と思われているのでしょうねぇ?」

「考えてみてよ。平将門を生んだ土地なんだよ? 弱いなんて、あり得ないじゃない」

「そこが盲点なんですよ」

吉次が静の言葉に笑った。

「平将門は坂東武者を率いて時の帝。朱雀帝に反旗を翻しましたが負けました。負・け・た・ん・で・す・よ。つまり、坂東武者の代表である平将門を討った将がいるんです」

「誰だ。そいつは?」

「俵藤太。竜神の加護を受けて大妖怪大百足や百目鬼を倒した勇者です。そして、その子孫が奥州大陸におります」


「奥州大陸か」

クロウは思案する。


奥州大陸は検討エリアに無かった。

なぜなら人が住むエリアというよりも悪鬼が住む魔界のイメージがあった。

ここは昔、悪路王という古き魔王と、都から来た勇者が戦った場所だ。


どちらかと言えばRPGのラストステージのイメージが強すぎた。


「興味があります」

と言ったのは皆鶴姫だ。


そこにいた全員が皆鶴姫を見る。


「私の義父の主は外来の魔王クマラ様に仕えております。クマラ様の配下の方々とも剣の稽古をつけていただいたことがあります。奥州大陸はかつて悪路王という古来の魔王が住んでいた場所とききます。悪路王が滅んでも生き残っている者もいるでしょう。是非、他の魔王の方々と剣を交わし闘ってみたいのです」

とバトルジャンキー的理由を赤裸々に語った。


皆鶴姫は魔王の側で育った。

他の人が恐れる魔境も彼女にとってみれば別チームというだけで、ライバルではあるが畏れる対象ではない。


「はぁ。あんたって娘は。まあ、いいんじゃない。奥州大陸なら誰も恐れてこないでしょ。平家もね。それに魔王城のお隣さんだった私たちの価値観でいうなら。別に今まで住んでいた環境と変わらないしね。それにしてもクロウ」


「ん? なんだ」


「あんたよっぽど魔王に縁があるのね。怨念の魔王”崇徳天” 外来の魔王”クマラ”そんで古来の魔王”悪路王”の故地に行こうか検討している」

静は苦笑する。


静自身は魔王と付き合うのは懲り懲りだ。

怨念の魔王”崇徳天”の騒ぎでお腹一杯だ。


それでもクロウにとって必要なら行くべきだと考えている。


(考えには無かったが……案外、面白い場所かもしれないな。普段から悪鬼と戦っているのであれば坂東武者よりも精強かもしれない。俺自身も鍛えることができるか)

クロウは思案を続ける。

もっとも静と皆鶴姫が反対しないことから、ほぼ、クロウの中ではルート選択は決まりかけていた。


「クロウ殿。これからあなたが戦う平家は坂東武者を率いたあなたの父を倒しているのです。坂東武者以上の力をもった勢力を持つことが必要ではないですかねぇ」

吉次が黄金のマスクの奥で射るようにクロウを見つめる。


クロウが頷く。

「行こう奥州大陸へ」


静と皆鶴姫も頷いた。


クロウのルートが決まった。

【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【お願い】

源平合戦というマニアックな題材を読んでいただき感謝

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