↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第三章 朝日将軍
135/148

第二十三話 はおう は しんでしまった その4

三浦、上総、千葉達 三勇者の動向を調査していた吉次の報告です。

三勇者の動向を命じられた吉次は三浦、そして上総、千葉に会った。

そして、その結果をクロウや片岡兄妹。その他メンバーに報告した。


「そうですねぇ。会って見た感じ、三勇者様方の温度感は違いましたねぇ」

報告の冒頭、吉次はそのように言った。


「温度感?」

クロウは質問した。

足並みがそろっていないということだろうか?


「まず、三浦様。彼も片岡家の話を聞き、調査したそうです」

クロウは頷き、話の先を促した。

「三浦殿の調査では坂東の有力な領主や有能な戦士を勧誘し、勧誘を蹴った者は北条時政の手の者が裏から手をまわして闇に葬っていたようですねぇ」

吉次はすっと片岡兄妹のほうに顔をむけた。表情は黄金のマスクに隠れて見えない。

片岡八郎は表情がなかった。

片岡春は唇をぎゅっと噛んでいた。

二人とも覚悟を決めている顔をしていた。


静かな片岡兄妹。


その代わりに周囲の仲間たちがざわめく。


その様子を見てクロウは先を促す。

「三浦殿はそこで調査結果を源頼朝につきつけました。そして諫言しました。職務を全うしようとしたものを闇に葬るのはやめるようにと」


「それで、どうなったのだ」

「源頼朝はすぐに応じたようです。北条時政は不服そうだったと言っていました」

「・・・応じたのか」

「ええ、源頼朝も全く知らないという訳ではないようですねぇ。しかし、主導者はどうやら北条時政のようですねぇ。源頼朝は詳細を聞いてなかったのか驚いた顔をしていたと三浦殿はいっていました」


クロウは少し首をひねった。

詳細を知らないということがあるのかという疑念があったからだ。


「三浦殿はその様子を見て、源頼朝を糾弾するよりも正しい道に教導することを考えたようです。要するに源頼朝が悪いのではなく、補佐する者が悪かったと、だから自分が補佐をし、正しい道を示す。そう考えたようですねぇ」

「勇者の鏡みたいなやつだな」

「そうですねぇ」

「他の勇者。上総や千葉は?」

「上総殿はもっと攻撃的ですねぇ」

「攻撃的?」

「ええ、三浦殿のいうことを聞かないと斬るとおっしゃっていましたねぇ」

「そうか」

クロウはちらりと片岡兄妹を見た。

二人は動かない。


クロウは上総が動いたときが片岡兄妹の仇の手助けをするチャンスと考えた。


「千葉は?」

「千葉殿はどちらかと言えば北条殿贔屓ですねぇ」

クロウの顔がピクリと動く。

他の面々もざわめいた。


「千葉殿の理屈を要約するなら……敵を倒すのが戦士。敵対者をなぜ生かす。北条殿は敵を倒すという当たり前のことをやっただけ……と申していたようですねぇ」


「なんなんだそれは。そんな理屈が通るのは困るな。それでは真面目に仕事をするほうが馬鹿をみるってことになるんじゃないかな」

伊勢三郎が眉を顰めた。


「そうだよ。春のお父ちゃんは領主として、反乱を未然に防ごうと都に報告したんだろ? ただ普通に仕事しただけじゃないか」

喜三郎も抗議の声をあげた。


赤井藤も備前平四郎も同じく文句を言った。


クロウは黙ってその言葉を聞いていた。

しかし、何も言わなかった。


当事者の片岡兄妹が黙っているのだ。

クロウが声をあげるのは違うと思っていたからだ。


クロウは片岡八郎に声をかけた。

「片岡八郎の報告を聞きてぇな」


あえて駿河ではなく、片岡八郎に聞いた。

報告だけでなく片岡八郎の“意見”を聞きたかったからだ。


「俺は北条時政と一緒にいた奴を見た。 そいつは、そいつは……俺の家族を倒した奴だった」

片岡八郎は言った。決して激昂はしていないが、ここにいるみんなは片岡八郎の静かな怒りを感じた。

「本当なの? 本当にそこ仇がいたの?」

片岡春が兄を見る。

「ああ、春は避難していたからわからなかっただろうけど、俺は家族をめちゃくちゃにしたやつの顔を見ていた。忘れもしない。あいつだ」

片岡八郎が慈しむように春を撫でながら言った。


「その仇は人間じゃねぇ。亡霊戦士(エインヘリャル)だ」

駿河が補足した。


亡霊戦士(エインヘリャル)! 上位の魔物じゃない」

静が驚いた声をあげる。


「ああ、俺も驚いた。北条時政があのような上位の魔物を従えているとはな」

駿河が言った。


「その亡霊戦士(エインヘリャル)と北条は何をしていたんだ?」

クロウが尋ねる。


これに対して駿河が言い淀んだ。


「?」

クロウは疑問に思った。

駿河がこのような態度をとるのが珍しいからだ。


「すいません。俺が気を昂らせてしまい隠密活動が出来なくなってしまいました」

片岡八郎が頭を下げる。


「あの場面ではしかたがない。それよりも仇を見て動かなかったのはさすがだ」

駿河がフォローを入れる。そしてクロウと春へ顔を向けた。


「これ以上の隠密活動が難しいと判断したため、大変なことが起きる前に引き上げた。何としてでも兄を春のところに戻さなければならないからな」

駿河は言った。


クロウはうなずいた。

即、撤退した駿河の判断は正しいと考えたからだ。


しかし困ったことに詳細がわからない。


今のところ北条時政が使役する亡霊戦士(エインヘリャル)が片岡家をつぶした張本人ということがわかっただけだ。


「源頼朝の勢力を拡大しようとした北条時政が亡霊戦士(エインヘリャル)を使って反対者である片岡家を闇に葬った。ということか」


クロウが今までの報告をまとめるように言った。


「少し、お待ちください」

ここで佐藤継信が口を挟んだ。

「どうした?」

クロウが聞く。


佐藤継信はクロウではなく与一を見た。

正確には与一の首に襟巻のようにいる妖狐をだ。


この妖狐は与一の義母、玉藻御前の分身体だ。


「玉藻姉さん。お話しください」

佐藤継信はそれだけを言った。


クロウは何のことかわからない。

他の皆もだ。

佐藤継信がなぜここで玉藻御前に話をふるのかがわからない。


「玉藻姉さんは見ていましたよね?」

佐藤継信は多少、語気を強めていった。


「ふー。知ってたんだね。有能な弟弟子を持つと苦労するよ」

玉藻御前の分身体が言った。


「おい、説明しろ」

クロウがいら立って佐藤継信に言った。

「別に難しい話をしているわけじゃありません。玉藻姉さんも北条時政のところにいってたんですよね」

佐藤継信が言った。

「なにぃ」

駿河がおどろく。

駿河は片岡八郎と一緒に潜んでいたが玉藻御前の気配は一切感じられなかったからだ。

事実なら隠密を得意とする駿河にとってはショックなことだ


「ごめんねぇ。これでも魔王に堕ちた者なんだよ。人の目を欺くのは簡単なんだ」

玉藻御前の化身が少し申し訳なさそうに言った。


駿河は憮然としたが黙った。

”魔王”相手ではどうしようもない。

というか”魔王”が隠密活動するなよと、ちょっと拗ねた。


「ちょっと気になった魔力を感じてね。駿河さん達のあとをつけさせてもらった。駿河さんの撤収の判断は見事だったね。たいていの密偵は、そこで欲をかいて命を落とすからさあ」


魔王に褒められて駿河の機嫌パラメーターが上昇した。男は単純なのだ。


「ということは玉藻姉さんは駿河さん達が撤収した後もみてたんですよね?」

佐藤継信が尋ねた。


「そうね。私が感じた気になった魔力の正体がわかってすっきりしたよ」

「それはなんだったのです?」

「その前に……亡霊戦士(エインヘリャル)って高位の魔物なんでしょう?」


玉藻御前の質問に静が答えた。

「はい、英雄の魂が神や魔王に認められ、その戦士になったのが彼らと聞いています。その力は神である護法童子に匹敵するといわれています」


「その高位の魔物がさあ。北条とかいう一介の戦士が使役できると思う?」

「言われていれば……難しいですね」

「そうさ。護法童子は善神。そして守護するのが仕事だからね。まだありうる。でも彼らは暗殺なんてしない。亡霊戦士(エインヘリャル)は魔物だから暗殺は喜んでするだろうけど一介の戦士が使役できるような魔物じゃあないよね。じゃあ、どうやって使役してるんだろうね? 気にならない?」


「しかし、あの魔物は間違いなく片岡家を襲い、父母を倒したモノです。そして北条と普通に会っていた。あなたも見たでしょう」

片岡八郎が少し苛立った声をあげた。


片岡兄妹はいままで感情を出さないようにしていた。それは覚悟を決めたから。

決して、家がなくなった。その時を忘れたからではない。


「うん。見た、見た。だからなんでだろうっておもったのさ。それで君たちが撤収したあとも私は残ってみていた」


「どうなった?」

クロウが尋ねた。


「その亡霊戦士(エインヘリャル)は崇徳天の部下だった」

「なにっ」

クロウが鋭い視線を玉藻御前の化身にぶつけた。

片岡兄妹も強く、心が揺れた。

他の面々もその名前をきいて昂った。


「私が気になった魔力は崇徳天のものだったらしいね。納得したわ」

玉藻御前の化身が言った。


「俺は納得できない」

片岡八郎がこぶしを強く握った。


「それが事実なら、崇徳天は野心に猛る北条を動かして俺の家を滅ぼし、復讐心に縛られた春に憑りついてクロウ殿を襲うようにしむけたことになる」

片岡八郎が思いを吐いた。


「それが崇徳天だからね」

玉藻御前の化身が言った。


「玉藻姉さん。言葉が足りませんよ」

佐藤継信がつっこむ。


「うーん。みんなわかっているとおもったんだけどね」

と玉藻御前の化身は前置きしてから

「崇徳天はこの世を恨んでる。もう、めっちゃくちゃにしたいと思ってる。だから、世の乱れの種を探してる。世が乱れるなら誰でもいいのさ。世を乱すために手を貸す。だから北条さんにも手を貸すし、春ちゃんにも世を乱す力をあげた。敵味方も無関係。世が乱れるなら敵にも味方にも力を貸す。それが魔王 崇徳天」


片岡八郎と春は玉藻御前の化身の話を黙って聞いた。


やや、間があった。


そして口を開いた。


「それなら……俺達、片岡の家の真の敵は崇徳天になる」


「そうだね。北条さんも利用されているだけだろうし、それに実行したのは崇徳天の部下の亡霊戦士(エインヘリャル)なんでしょ?」


片岡八郎は頷いた。


「簡単な話なんだ。絵を描いた黒幕は崇徳天。そして実行したのはその崇徳天の部下。目的は世を乱すこと。そのために片岡家が犠牲になった」


「やっと理由がわかった。やっと本当の仇が誰かが分かった」

片岡春が絞り出すように言った。


「八郎、春。仇の亡霊戦士(エインヘリャル)の名は鎌田。覚えておくといい」

玉藻御前の化身が言った。


「鎌田……それが仇」

片岡八郎が心に刻むようにいった。


「ついでにクロウ」

玉藻御前の化身が言った


クロウは”なんだ?”という表情をつくった。


亡霊戦士(エインヘリャル)は鎌田のほかにもう1体いる。あの魔物は見た目が人と変わらない。人に紛れているだろう。注意したほうがいいよ」

玉藻御前は言った。

クロウは頷いた。


玉藻御前の化身は一つ大事なことを言わなかった。

北条時政と亡霊戦士(エインヘリャル)が上総の暗殺を謀っていることを


彼女がどのような心情なのかは誰も分かならい。


彼女もすでにヒトではない。

魔王に堕ちた者なのだ。


【神霊・妖魔紹介】

■大百足

 第十一話に登場

 琵琶湖の竜神を苦しめていた妖怪。

 平将門を倒した戦士 俵藤太に退治される。


■百々目鬼

 第十一話に登場

 宇都宮に伝わる妖怪。百の目を持つ鬼で、俵藤太に退治された。

 後に娘の姿となって現れるが、僧の説法によって改心したという伝説が残る。


■深沙大将

 第十一話に登場

 砂漠で三蔵法師を守護した鬼神 亀となり引き裂かれた恋人の縁を結んだことも


■サラマンダー

 第二十話に登場

 炎の中に棲み、火を操る存在として描かれる。

 ファンタジー作品では、炎をまとったトカゲや竜に似た魔物として登場することが多い。


■ミノタウロス

 第二十話に登場

 ギリシャ神話に登場する牛の頭と人間の身体を持つ怪物。

 クレタ島の迷宮に閉じ込められ、英雄テセウスに退治されたとされる。


■ベヒーモス

 第二十話に登場

 旧約聖書『ヨブ記』などに登場する巨大な怪物。巨大なカバや象を思わせる姿で描かれる。


■妖狐

 第二十話に登場

 「狐の妖怪」として、各地の伝承に登場する。義経関係では源九郎狐が有名。


【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

大百足や将門を倒した俵藤太はもっと英雄として高い評価があってもいいと思っている筆者です。


そういう英雄たちを活躍させたいと思って始めた物語なのですが、これをきっかけに、古代から平安時代にかけての他の英雄たちにも興味を持ってもらえたら嬉しいです。


こんな作品ですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。