第二十四話 倶利伽羅峠の戦い その1
平知盛サイドです。
富士川で負けた平家を彼はどのように立て直すのでしょう?
平知盛は情報を集めていた。
富士川の敗戦。
そして、何よりも覇王の死により彼に判断の業務が集中した。
適切な判断を下さなければ平家は滅亡する。
そのため、彼は判断材料を欲した。
元々、彼は体が弱い。
覇王死後、無理をしているせいか咳が多くなった。
覇王が変な相続財産を残さなければ、ゆっくり事務仕事をして人生を終えるつもりだった平知盛は苛立った舌打ちをした。
このようなときに無茶のきかない体に対して、言いようもない苛立ちがあったのだ。
「大丈夫なの?」
妻のミナミが薬をもってきた。
「ありがとう」
平知盛が薬を受け取る。周囲には報告書や書き散らかした紙が散乱していた。
平知盛は思考するとき紙に書く癖がある。
その紙が散乱しているということは考えがまとまってないということだ。
ミナミが紙を片付け始めた。
平知盛が咳込んだ。
「大丈夫なの?」
ミナミが平知盛のところにいって体をさすった。
「すまない」
「え?」
突然の謝罪にとまどうミナミ。
「私は体が弱い。長生きはできないと思っている。だから生涯一人でもよいと思っていた。私が結婚しても妻を未亡人にしてしまうからね。そんな私に政略結婚とはいえ来てくれただけでも申し訳ないのに、どうやら戦になりそうだ。戦になると私も死ぬかもしれない。そうなると、それこそ君を未亡人にしてしまう」
平知盛がそう言ったとたん吹き飛ばされた。
見るとミナミが怒っていた。
平手打ちを受けたと理解した。
「はあ? 何言ってんの。結婚ってそういうもんなの? 夫が病弱で死ぬかもしれないからしないものなの? 戦死するかもしれないからしないものなの?」
ミナミは手を腰に当てて怒った。
その後、平知盛に近づき、しゃがみ、両手で軽く頬を挟み、顔を近づけた。
目と目が近づく。
「確かにね。政略結婚だよ。いまをときめく平家の男と朝廷貴族の娘のね。でもさ、好きでもない男と結婚すると思ってるの?」
「いや、それは」
「私の目を見て」
「……私のこと好き?」
「あたりまえだろ」
「なら、それでいいじゃない」
彼女は軽くキスをして離れた。
「うだうだいってるんじゃないよ。死ぬこと考えてどうすんのさ。私の好きな人はいつも憎たらしいほど余裕ぶってるキザったらしい男だよ」
「キザったらしいって」
「うっさいな。ぐだぐだ言ってないで格好つけろ。こんな戦なんか簡単に終わらせて、私を惚れ直させろ!」
むんすと妻が平知盛を見つめた。
「まいった。そう言われたらこの戦。勝つしかないじゃないか」
「当たり前でしょ。私の夫よ。それくらいこなしてみせなさい」
ミナミはそう言ってバシンと平知盛の背中を叩いた。
そしてニカっと笑うと
「片付けてくるわね」
といって書き散らかした紙をまとめると、捨てにいった。
その後、ミナミが人知れず泣いていることを平知盛は知らない。
ミナミに気合をもらった平知盛は勝つために、勝利をミナミに捧げるために戦略を練り直す。
情報を取捨選択する。
平家の敵となる可能性は2つ
信濃国の木曽義仲
坂東平野の源頼朝
この勢力だ。
この2つの勢力を倒せばいい。
木曽義仲は信濃国から越後国、越中国、加賀、越前と侵攻を進めたが、火打城の戦で敗北。
その勢力は越中まで後退した。
源頼朝は一時、敗北したものの三勇者の力を借りて復活。甲斐国の武田信義とも手を組み富士川の戦で勝利していた。
(源頼朝の動きが変だな)
平知盛は考えた。
彼は富士川の勝利の戦果拡大のため西進し尾張三河に攻め込むのではないかと思っていた。
彼が源頼朝の立場ならそうするのだ。
しかし、源頼朝は平家のいる都にむかって進軍しなかった。
坂東平野に戻り三勇者の力で常陸国の佐竹秀義を攻めたという情報を得ていた。
また武田信義も駿河国、遠江国を攻め取っていた。
(地盤固めか)
平知盛はそのように考えた。
(放置すると危険だな)
力を蓄えられると厳しい戦いになる。
では、力を蓄える前に源頼朝討伐にむかうのがよいかといえば難しいところだ
木曽義仲がフリーになるからだ。
こちらにも手当てが必要になる。
つまり、平知盛は以下の選択肢をえらぶことになる
▶源頼朝が力を蓄える前に攻める。ただし坂東平野と北陸道の2方面作戦になる。
▶源頼朝が坂東平野にいる間に木曽義仲を滅ぼす。ただし、源頼朝は力を蓄える。
どちらがいいか。
平知盛は悩んだ。
どちらもデメリットが強いのだ。
(悩んではいけない。考えるんだ。どれが最適かを)
平知盛は情報を精査し、脳内でシミュレーションを繰り返した。
その結果、この選択をした。
▶源頼朝が坂東平野にいる間に木曽義仲を滅ぼす。ただし、源頼朝は力を蓄える。
この判断をした理由はいくつかある。
多方面作戦をさけたいというのも理由の一つだ。特に源頼朝と戦おうとして進軍しても、その前に武田信義がいた。
この武田信義と戦っている間に、信濃国から木曽義仲が、坂東平野から源頼朝が攻めてきたら、平家の猛者とは言えさすがに厳しい。
これは避けたいシナリオだ。
また、今、源頼朝が戦っている相手は常陸国の佐竹秀義だ。
彼は有名な戦士である八幡太郎の孫だ。
祖父には及ばないが、その血をひいている。三勇者が相手だが容易に負けるとは思えない。
上手くいけば源頼朝軍の力を消耗させる可能性があった。
上手くいけば木曽義仲を滅ぼし、坂東平野に兵を向けたとき、まだ、源頼朝軍は佐竹秀義と戦っているかもしれなかった。
そうなれば挟み撃ちができる。
(と、なると……どれだけ速く木曽義仲を倒すか。ここが運命の分かれ道だ)
彼はそのように決断すると急いで小松維盛と斎藤別当実盛を呼んだ。この二人は木曽義仲を火打城で破っている。
前回は食糧不足で敗走させたあと滅ぼすまではできなかった。
今回十分に食料を持たせたならば滅ぼすことは可能と考えた。
(みてろミナミ。望み通り惚れ直してもらうぞ)
彼は勇気をくれた妻にそう誓った。
【モデル紹介】
■治部卿局
本作のミナミのモデル
平知盛の奥様 夫や子が源平合戦で死んでいく中、彼女は80歳まで生きた。
■佐竹秀義
常陸国を治める佐竹氏の当主。源頼朝の挙兵に対して敵対する。
金砂城の戦いで頼朝軍に敗れて逃亡。
その後、頼朝に降伏して、奥州合戦にも従軍。
【お知らせ】
ダンジョンに落ちたリサ教授を救うために地底帝国と戦ってきた赤石、アオイ、山吹の戦いも残り3話となりました。彼等のラストバトルも見ていただけると嬉しいです
■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
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