第二十三話 はおう は しんでしまった その1
富士川の戦い後、源頼朝に、また判断の仕事がきた。
▶西に進み、都を攻めますか?
▶東に戻り坂東平野の平家勢力を駆逐しますか?
(自分の)命を大事にという方針の源頼朝は東に戻るを選択した。
皆、勘違いしているが彼に天下に覇を唱える気はないのだ。
それよりも自分の身の安全のため、自宅周辺の治安を良くしたほうがいい。
それが彼だった。
武田信義が味方というのも理由の一つだ。
平家が攻めてくるとしたら駿河国を切り取った武田信義とまず戦うことになる。
源頼朝からすると防御壁だ。
この防御壁を捨ててまで都を攻める気はないのだ。
また、クロウが参陣したことも理由の一つだ。
彼は奥州兵をつれてきた。
つまり奥州大陸は味方だということが判明したということだ。
仮に奥州大陸が平家側についた場合、源頼朝は西と北から挟み撃ちにされる。
その心配がなくなった。
クロウが奥州兵をつれて参陣した意味は大きいのだ。特に源頼朝の安全と言う意味では。
挟撃の心配がないということで安心し、坂東を固めようと源頼朝は思った。
その様子をクロウは黙ってみていた。
違和感があった。
片岡兄妹から聞いていた源頼朝像とあまりにもかけはなれていたからだ。
クロウ達は源頼朝軍とともに坂東平野に向かった。そこで割り振られた屋敷で生活することになった。
屋敷に戻ったクロウは思案顔を続けていた。
そのクロウに枕をなげつけた人がいた。
静だ。
「何ずっと。悩んでんの! 何か悩み事があるならお姉ちゃんにいいなさい!」
静はクロウの前で手を腰に当てつっ立っていた。
(それで枕を投げつける奴がいるかよ)
とクロウは思ったが口に出さない。
それよりも自分の考えを相談することを優先した。
思考の整理整頓相手に静ほどの適任者はいない。
変に枕を投げたことについて文句を言って、その機会を失うことを避けた。
彼はいつだって最短距離を進もうと考えるのだ。
「源頼朝のことだ」
クロウは言った。
「ずいぶん、よそよそしいのね。アンタのお兄ちゃんじゃない」
「兄ねぇ。血は繋がってるんだろうけど、会ったのはこの前が初めてだからな。正直、家族って気がしねぇ。俺にとって家族は静ぐらいなもんさ」
このクロウの言葉に静は気を良くした。
唯一の家族と言ってくれたのがうれしいのだ。
「それにしては、アンタのお兄ちゃん、ずいぶん感激して涙を流してたようだけど」
「あれって実際どうよ。よく、あれだけ感激できるよな。俺は今まであったこともない奴だぜ。他人と変わらねぇよ」
「そこは人それぞれじゃない。逆にアンタが冷たすぎるんだって。一緒に泣けばよかったじゃない。感動のシーンよ。あとで物語になるかも」
「よせ。みっともねぇ」
クロウはそう言った。
男同士が抱き合って泣いているシーンについて健全な物語になるイメージがクロウにわかない。
「それよりもだ」
「あいよ」
「源頼朝を見てどう思った」
クロウの質問に静は少し思案した。
クロウは思考の整理をするために静に話をしている。クロウが悩んでいることの解決の方向に話をもっていかなければならない。静はクロウが何で悩んでいるかおよその検討がついていた。
「そうね。アンタと似てないわね」
静はそう言ってニシシと笑った。
「なんだよ。それどういうことだよ」
「アンタは自信家。だから覇王を倒すなんてことを考えている」
「あ? 男として生まれたならテッペン目指すだろ」
「多分、彼はそんなことは考えていない。そこがアンタと違う」
「考えていない? それなのにあんな勢力もってるのか」
「それは周りから担がれたんじゃない? クロウもそこに違和感を感じたんじゃないの?」
「ああ、そう、そうなんだ。違和感……そう違和感がある」
クロウは自分の考えをまとめながら言葉を続ける。
「静。俺は違和感をもった。片岡兄弟の話にあった源頼朝と違いすぎる」
「そうだね。確か……お兄さんは坂東平野の領主や戦士達に味方になれって誘ってたんだっけ」
「そうだ。それで味方にならんって言った片岡家が滅ぼされた」
「片岡のお父さんは真面目に仕事をしようとしたのにね」
「そうだ。それで片岡八郎も春も流浪の身となり奴隷に落ちた」
「あらためて、ひどい話よね」
「そうだ。この話を聞いたとき、俺は源頼朝について野心家で敵対する者を処断する。覇王よりも苛烈な修羅の様な奴だと思った」
「そうね。覇王はなんだかんだ言って子供には甘いものね」
子供に甘いため、覇王の敵の子である源頼朝、蒲殿、義円、クロウは生き残った。
最近では以仁王の子 北陸宮も処刑されなかった。
「だが……」
「実際にあったお兄さんは違ったのね」
「そうなんだ。あれは何というか……」
「周りに気を使っている苦労人。天下を目指すよりも自分ん家を守るために頑張る人。つまり修羅ではない」
「ああ。どうみても反対者を滅ぼす奴にはみえねぇ」
「それがクロウの悩みね」
「ああ、最初に言ったとおり違和感がある」
静はクロウの悩みを引き出すことに成功した。
ミッションコンプリートだ。
ここから先は、お悩み解決の時間だ
静は少し思案し口を開く
「私はさっき”周りから担がれたんじゃない”って言った」
「ああ」
「同じじゃない?」
「同じ?」
「お兄さんが指示したんじゃない。別な誰かがお兄さんの勢力拡大のために実行した。むしろお兄さんは知らないんじゃない?」
「待て。ちょっと待て」
クロウは考えている。
静は待った。
今、クロウは思考を組み立てなおしていた。
それを邪魔する気はない。
「つまり、片岡兄妹の仇は源頼朝ではない。別にいるってことか」
クロウが結論にたどり着いた。
この時、この部屋のふすまがバンっと開いた。
そこにいた片岡春があけたのだ。
その奥にいつものメンバーがいた。
盗み聞きしていたのだろう。
前回も同じようなシーンがあった。
クロウと静はもう驚かない。
そうだろうなと思って話していた。
「父の仇が別にいるって本当なのっ!」
片岡春が言った。
クロウは短く
「その可能性がある」
と言った。
「じゃあ。誰?」
片岡春がつめよる。
「それを調べる必要がある。……駿河殿、調査を頼めるか?」
クロウ一行の中で隠密の業にもっとも優れているのは駿河だ。
その駿河が盗み聞ぎメンバーにいたので、そのまま調査を頼んだ。
「了解」
駿河は短く言った。
「待ってください。俺も一緒に連れていってもらえますか? 父の死の真相を知りたいのです」
その駿河に同じく盗み聞きメンバーにいた片岡八郎が言った。
駿河は鋭い目で片岡八郎を見た。
そこに不退転の決意を読み取ると、
「ヘマするな」
とだけ言った。
OKを出したのだ。
「私も」
と片岡春が言ったが、これには駿河も片岡八郎もNOを出した。
片岡春は文句を言ったが
「今のように衝動でふすまを開けるんじゃ。危なくて隠密はできねぇよ」
という駿河の一言であきらめざるを得なかった。
「俺が春の分も真実を見てくるから」
と兄の片岡八郎が慰めていた。
「あとは三浦達だ。彼ら三勇者が源頼朝の味方をしているのが気になる。もし、気に入らない連中を片岡家のように潰しているのであれば、彼らが味方するわけがないんだ。……吉次殿。それとなく三浦達に確認お願いしてもらえるか」
クロウが吉次に頼んだ。
「そうですねぇ。確かに気になりますねぇ。承知しました確認しておきましょう」
吉次も盗み聞きメンバーにいた。吉次は承知した。
「みんなで片岡兄弟の真の敵を探ってくれ。たのむ」
クロウが頭を下げた。
皆がそれぞれの言葉で応じた。
皆が去り、クロウと静だけになった。
「みんないい仲間ね」
静がポツリと言う。
「ああ、サイコーの仲間だ」
クロウが頷いた。
ここでクロウがちょっと気になったことを聞いた。
「それにしてもなんで枕なんだ」
「へっ? えっと 近くにあったから? 石投げられるよりはいいでしょ」
「なんだ、俺はまた下心かなんかあったかとおもった」
「バカ!」
静は真っ赤になって退出した。
【神霊・妖魔紹介】
■賀茂別雷命
第一話登場
川から流れてきた矢をひろった女性が生んだ神様 雷とともに天に帰った。
本作では矢にちなんでサンダーアローで活躍。
■八雷神
第一話登場
黄泉の国にいたイザナミ神の身体に生じた八柱の雷神
本作ではだいたい天神様で決着がつくので出番がまだない
■武御雷命
第一話登場
雷神でありながら剣神も兼ねる武神 ”とつかのつるぎ”の切っ先に胡座をかく器用な神様
建御名方という神様を倒す武闘派
本作ではだいたい天神様で決着がつくので出番がまだない
■雷獣
第一話登場
雷とともに現れる妖怪。 正体はハクビシンという説もあるらしい。
本作では黒いポメラニアン
諜報で活躍する予定だったが吉次と駿河がいるため出番がない。影の薄いもふもふ担当
■烏天狗
第二話登場
カラスの頭と翼をもち山伏の格好をした天狗
本作では魔王クマラの部下
【お知らせ】
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■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
”男同士が抱き合って泣いているシーン”って需要あるかな?
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