↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第三章 朝日将軍
131/147

第二十二話 Crossroads of Destiny その10

源頼朝サイドです。

時は少し戻る。


源頼朝は攻めるか? それとも敵が攻めてくるのを待って迎撃するか判断できずにいた。

どちらも良い手とは思えなかったからだ。


攻めたとしても泥濘に足をとられ思うように進軍できない。もたもたしている内に狙い撃ちされる。


迎撃するとしても相手は大軍だ。

最初は泥濘に足をとられている相手を狙い撃ちして有利になるだろうが、犠牲を気にせずに物量で攻めてくるのであれば、いずれ数の暴力で蹂躙される。


源頼朝はそう考えていた。

源頼朝自身には兵を運用する能力は低い。そのため地形を利用するといった思想は皆無だ。

地形など敵も味方も同条件だから、戦局に影響しないという考えだ。

一騎当千の力で苦境を切り開くといった考えも力も無い。

敵の情報を集めるという発想もでない。


彼は戦いを数字で考えていた。

その考えを究極に推し進めると、どのような策を用いようと数の暴力の前では無力という考えになる。


つまり、彼は勝てないと考えていた。

考えているのは“どう生き残るか”だ。


その算段を考えている内に、敵に動きがあった。

何故か敵が撤退し始めたのだ。


源頼朝はほっとした。

これで生き延びることができると思った。


しかし、周囲は違った。

追撃の好機とみた。


特に武田信義が

「攻める好機じゃんか!」

と迫った。


武田信義は“戦”というものを知っていた。

だから、平家に対して黒星がない。

彼は“戦”を知っていたからこそ、単独で戦うのではなく、源頼朝のような他勢力と連合することを画策したし、トップの意見が割れると軍が崩壊することを知っていたがためにトップを源頼朝に譲った。予定戦場を早期に奪取する必要を知っていたために駿河国を陥落させた。

すべては戦に勝利するためだ。


戦に関して武田信義以上に知っている者はいない。


彼はこの平家軍の撤退が本物であれ、偽装であれ、ここを攻めないと戦が動かないことを知っていた。そしてここを攻めずに専守防衛した場合、徐々に兵力差ですり潰されることを知っていた。


だから、ここは勝負に出る場面だった。


そのため源頼朝に攻めようと進言したのだ。

これに三浦や上総も同調した。


(敵が逃げようとしてくれているのに何で攻めるんだ? そのまま逃げてくれたらそれでいいじゃないか?)

(自分の)命を大事にが大方針の源頼朝には彼らの考えが理解できない。

放っておけば安全なのに、わざわざ危険な場所に向かうというのはワケガワカラナイのだ。


ここで北条時政が口を開く。

「おい。何迷ってんだ? 武田殿のいうことは一理あるぜ。そんなら総大将のテメェがやることは決まってらぁ。“武田殿、お願いします”これを言うだけだろうがよ」


千葉が続いた。

「北条殿のセリフは乱暴ですが、私もそう思います。総大将らしく先陣は誰かに任せ、頼朝殿は総大将として奥で構えているのがいいでしょう」


この言葉に源頼朝は素早く頭を回転させた。

その結果、

(俺が攻めに行かないのだったら問題ないんじゃね?)

と言う結論に達した。


「義父殿。いつもお叱りありがとうございます。おっしゃるとおりです。武田殿おねがいできますでしょうか?」

と源頼朝は言った。彼は決して本心は出さない。常にペルソナをかぶりつづけている。


武田信義は苦笑しつつも安堵した。

ここで強硬に訴えれば、軍が割れるのだ。それはこちらの敗北を意味する。

「そうけ、わかった」

承知の言葉を返し、北条時政に感謝の目礼をした。


北条時政は今の結果に満足した。

源頼朝は自分の意見を飲んだ。そして武田信義にも恩義を討ったことになった。

最近、発言力の低下を気にしていた彼はその自尊心を満足させた。


このようなやり取りの後、武田信義は甲斐軍をまとめ、出撃の準備を整えた。


その時だ、平家軍の周囲を篝火が取り囲んだ。

源頼朝や武田信義がなんだ? と疑問に思う間もなく轟音がなり、富士川で寝ていた水鳥が一斉にとびたった。


その後、平家軍が潰走した。


(なんなんだ???)

源頼朝や武田信義は呆気にとられた。

狐に化かされた気分だ。


その後、こちらに駆けてくる一団があった。


源頼朝達は警戒した。


一団の数は200騎ほど。

平家の大軍と比べたら少なすぎるが、警戒は必要だ。


今夜は不思議なことがおきた。その直後に来た一団だ。

さらに奇妙なことに全軍騎兵という贅沢な一団だ。

警戒するには十分だ。


「あれ? クロウ殿じゃないか?」

三浦がその一団を見て叫ぶ。

三浦、上総、千葉達は那須温泉でクロウ達と面識があった。

なんなら千葉はクロウと斬り結んだ仲だ。


三浦はおーいと手を振った。

相手の一団も手を振り返していた。


「クロウ? もしかして俺の弟か?」

源頼朝は三浦に確認した。源頼朝自身はクロウという母違いの弟がいるということは知っていたが、大貴族の常であったことがない。


「ええ、その通りです。確か彼は奥州大陸で兵を集めると言っていました。おそらく奥州兵を率いて参陣にきたのでしょう」

三浦は言った。


やがて、騎兵の一団は源頼朝の前に現れた。

その中の一人、クロウが馬を降り、礼をした。彼の配下も全員、馬から降り礼をとった。

この礼については静や天神様からめちゃくちゃ鍛えられていた。

そのため、綺麗な儀礼となって見えた。


「クロウです。平家、そして覇王を倒すため参陣しました」

クロウは言った。

源頼朝は感動した。

これで自分の生存確率が上がったと思った。


「ちなみに先ほどの平家軍でおきた轟音と撤退は、もしかしてクロウの仕業か?」

源頼朝は聞いた。

「ちょっと悪戯したんだ」

クロウはそう返した。

悪い顔をしていた。


ぷっと源頼朝は噴き出した。

悪戯と言ったクロウが末弟らしく可愛ららしく見えたし、悪戯で平家の大軍が撤退したのがおかしかった。


「はっはっは。悪戯で平家を潰走させるか!」

源頼朝はそう笑うとクロウを抱きしめた。

彼は涙を流していた。

それは半分、安堵の涙だ。

クロウのお陰で平家の大軍を退けることが出来たという安堵の涙だ

もう半分は違う。

彼は、平家の大軍を退けたクロウの機嫌を損ねるのはまずいと考えた。

戦力としてこれから必要だ。

また、敵になったら、源頼朝自身の安全安心が脅かされると考えた。


そのため末弟の参陣に感激する長兄というペルソナをかぶった。


クロウは彼に抱き着かれ正直、とまどっていた。

(この男が本当に片岡春の家族を殺したのか?)

目の前で感激の涙を流す源頼朝。

クロウにはそのように見えなかった。





それはペルソナのなせる業か?

家族愛に飢えた弟が兄の愛を注がれたせいか?


それとも……別な真実があるのか?


【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

木曽義仲、新宮十郎以外の源氏勢力が、それぞれの運命をたどり、富士川に結集しました。


ここからは三国志ではないですが、「平家」「木曽義仲」「源頼朝」の三勢力の戦いになります。


こんな作品ですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。