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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第三章 朝日将軍
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第二十二話 Crossroads of Destiny その7

坂東平野の源頼朝、三勇者

甲斐国の武田義信、蒲殿

彼等は無事、駿河国で合流した。


平家の大軍到着前に合流できたのはラッキーだった。


武田義信はこの戦いは非常に重要と考えていた。

何しろ、以仁王の令旨で立ち上がった諸将も平家に負け続け、今やこの源頼朝と三勇者、そして武田勢のみだ。

この戦いで負けたら後がないのだ。


そのため、小さなプライドに拘るよりも、勝ちを目指すことを考えた。

「源頼朝殿。あんたが大将じゃ」

武田信義は言った。指揮命令系統の混乱は軍を弱くすることを知っていた。そのためそこを明確にしようとした。

自ら大将を譲ることで変に大将争いして空中分解する愚を避けたのだ。


源頼朝は目を見開いて驚いた。

彼の基本方針は徹頭徹尾、(自分の)命を大事にだ。

大将になって負けたらな、命を真っ先に狙われる。最初は断ったが、結局受けるとこになった。彼に味方する北条時政や三勇者も彼に総大将を願ったという事情もある。


特に北条時政が異様な圧をかけてきた。

(俺の大事な娘も彼氏なんだ。このくらい余裕で引き受けるよな)

という言葉が彼の背後から透けて見えた。


(やめてくれよ。なんで皆、俺を大将に押すんだよ。ここで断ったら、皆の不興を買っちゃう。そしたら、俺、ここに居場所なくなっちゃうじゃねーか。引き受けるしかないじゃないかよ。本当に勝ってくれよ。敗戦の将として首を狙われるのは御免だぜ)

源頼朝は内心、そう思って泣きたくなったが、そこは鉄のペルソナを被る男だ。

そのような内心は一切、見せずに堂々と引き受けた。


既に平家の大軍は到着し、富士川の西岸に陣を築いていた。

富士川は駿河国東部、富士郡を流れる大河だ。

この対岸にいる平家の大軍に勝たなければいけない。


ちなみにこの時の富士川は現代とは違う。

河口付近で何本もの流れに分かれる広い氾濫原だ。


要は沼地だ。


移動に負荷がかかるため守るには最適だ。

ただし、攻めるなら弓や魔法の的になる覚悟で進軍しないといけない。

平家軍が富士川の対岸に陣を築いたのもそういった理由だと推測される。

下手に攻めて損害が増えるのを嫌がったのだろう。


源頼朝はその状況下で攻めるか? 迎撃するか? の判断を迫られた。

北条時政、三勇者、武田信義などの歴戦の戦士がその判断をまっていた。

(俺、戦争の専門家でもなんでもないんだけど)

源頼朝は頭を抱えた。








一方、平家軍では小松維盛が頭を抱えていた。

「きいてないよ。こんな沼地で戦うなんて」


進軍で足をとられる。その間に攻撃をうけるのは目に見えていた。

戦術だけを考えるなら、この場で動かず。敵が攻めてきたときに迎え撃つのがいい。



後年、フランスの百年戦争で少数のイングランド軍が大軍のフランスを破った戦いがある。

戦いの前日に降った雨によって戦場はぬかるんでいた。

そのため重装備のフランス騎士たちは思うように前進できなかった。

密集したまま泥に足を取られたところを、イングランド軍のロングボウ部隊が次々とフランス軍を射抜き、大損害を与えた。



このように、足元が悪い地形では攻撃側の機動力が大きく低下するため、防御側が有利になりやすいのだ。


しかし……

防御に徹するという方法はとれない。


この大軍を維持する食糧がないからだ。

ないったら。ないったらないのだ。


防御に徹したら食料不足で軍が崩壊するのだ。


かといって攻めたら狙い撃ちにされる。

小松維盛が頭をかかえている理由だ。


「どうしたらいいと思います?」

小松維盛はともに従軍している斎藤別当実盛ににアドバイスを求めた

この老練の戦士なら何か知恵がでるかと思ったのだ。

「何をじゃ。儂にはお主が何で悩んでいるかがわからん」

「ええーっ。だって攻めたってこの沼地じゃ速攻できないですよ。敵に狙い撃ちにされてお終いじゃないですか」

小松維盛は頬をふくらませた。

「では、攻めなければよいではないか」

「食料尽きちゃいますよ」

ここで斎藤がカカカと笑った。

小松維盛がますますふくれた。

「攻めずにぼーっと待っているつもりか」

齋藤が多少の叱責を込めた声色で言った

「えっと、どういうことです?」

維盛が当惑した。


「いろいろやれるじゃろ。攻めるのが難しければ、敵に攻めさせればいい。退却を装えば、攻めてくるじゃろ。夜襲もありじゃ。別動隊を出して敵の補給路を襲うのもありじゃろ。食糧が無ければ、攻めてくるか、退却するかを迫られるのは敵も同じじゃ」

齋藤が呆れながら言った。


「むしろ、この沼地を有難いと思ったほうがよいぞ。このおかげで修羅のごとき坂東勢と正面から戦うことをせずにすむわい」

齋藤が言葉を続けた。

小松維盛はその言葉に頷いた。


今でもちょぴり、坂東の戦士と戦うのは怖い。

まともに兵同士をぶつけ合うような戦を避けられならさけたい。


「では、撤退を偽装して、敵を引き入れますか」

「それが、無難じゃろ。食糧不足での撤退という態なら自然じゃわい。それに追加して別動隊をつくって食料を狙う嫌がらせぐらいはしてもよいとは思うがの」

「わかりました」

小松維盛はたまにふくれたりするが基本素直だ。

素直に歴戦の諸将の意見を吸収するのだ。


小松維盛は斎藤と詰めの打ち合わせを行った。

その結果、敵を引き込むための偽装撤退は夜に行うことに決定した。


リアリティをもとめたためだ。

食糧不足での撤退を装うなら夜が真実味がある。

また、敵が攻めてきたとき、夜なら足元が見えない。

沼地の地形も見えない。

必然、足を取られるそこを狙い撃ちするのは容易だ。


小松維盛は今夜、勝負をかける。

【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

天下分け目の決戦前

これから源氏の大軍と平家の大軍が戦います。


余談ですが作中のイングランド VS フランスの事例は、ヘンリー5世の見せ場、アジャンクールの戦いを参考にしてます。


こんな作品ですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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