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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第三章 朝日将軍
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第二十一話 再び魔王があらわれた その8

「助かった」

木曽義仲は馬上、救出にきた騎馬武者に言った。

もはや、死地は離脱した。

“蟲”いない。


「よかったー。よかった。よかった。心配させないで」

騎馬武者は振り向かずに言った。

騎馬武者は巴だった。


巴は木曽義仲が魔法を発動させたのを知った。

なにしろ木曽義仲の魔法は派手だ。

光り輝くのだから。


そこで木曽義仲に何か不測の事態が起きたのではないかと考え一人で引き返した。

そこで“蟲”に襲われている木曽義仲をみつけ、そのまま馬で救出にむかったのだ。


巴は振り向いた。

木曽義仲は絶句した。


巴の顔が。

凛々しく綺麗な巴の顔が腫れていた。

“蟲”の死の腫れだ。


巴はそのまま馬上から落ちた。

「巴―っ!」


木曽義仲も慌てて馬から滑り降りた。


気が付かなかったが馬も“蟲”の攻撃を受けていた。

木曽義仲が降りた時点で力尽きたか、馬もどさっと倒れた。

体中が腫れていた。


巴は木曽義仲を救うために“蟲”の大群を突っ切ったのだ。

当然の結果だった。

「巴―っ!」

再び木曽義仲は巴を抱きしめ、叫んだ。

巴は腫れた顔から除く、僅かな口で笑みをつくった。


「よかった無事で」

巴は言った。

その瞬間、巴から力が抜けた。




「巴―っ!」

木曽義仲が三度叫んだ。


今度は・・・


反応が無かった。


「巴っ!巴っ!巴―っ!」

何度叫んでも巴に反応がない。

見るも無残な、“死の腫れ”が体中のあちらこちらにできていた。


今井、樋口、根井、楯……そして巴は。


昔からつるんでいた仲間だ。

親のいない彼にとっては家族といっていい。


木曽義仲は源頼朝の父と戦い、敗れた戦士の子だ。

そのまま殺されるところを当時、父の部下であった斎藤に救われた。


斎藤は坂東平野にいては木曽義仲が殺されると思い、信濃国に彼を連れていって一時養育した。

その時に一緒に育った幼馴染が彼等だった。


親代わりだった斎藤はその後、地元の人に木曽義仲を預けて信濃国を出た。

斎藤は根っからの戦士だ。

不器用なくらい戦士だ。

一時、木曽義仲を救うため戦士家業を辞めて、養育に専念したが、ある程度の成長を見届けると戦士家業に戻った。ただ、坂東平野には戻らずに覇王に仕えた。


斎藤がいなくなった後、木曽義仲の家族と言えるのは今井達だけだった。

彼等は常に一緒だった。


別れるという事は思考の外だった。


ましてや、このような形で別れるということは考えられなかった。


巴は彼らの中の紅一点だ。

可愛らしいとは無縁だが凛々しく美しかった。

その彼女は今、見る影もない。


木曽義仲は叫んだ。

それは人の言葉ではなかった。

狼の遠吠えににも似た慟哭だった。


家族を失う。

そのことがどれだけの恐怖なのかを知った。


神でも魔王でもなんでもいい。彼女を取り戻したいと願った。


気づいたとき、周囲は闇に包まれていた。

その闇の中から闇より黒い瘴気があふれ出ていた。


その瘴気のから一つの顔が現れた。

その顔は綺麗だった。

作り物かと思えるくらい造形美に満ちた男性の顔だ。

ただ、その顔はひっくり返っていた。


木曽義仲は驚き、それでも剣を構え、巴を庇うように前に出た。


「何者じゃーっ!」

木曽義仲は剣を構えたまま、立ち上がり、瘴気より現れた端正な顔を見下ろした。


「怨念の魔王 崇徳天」

瘴気より現れし“魔”が答えた。

「魔王だとーっ!」

木曽義仲は剣を振り上げた。

魔王は人の理の外にあり、人の力の外にあり、死の理の外にある人外の魔だ。

人にとって害悪にしかならない。


そう思った木曽義仲は崇徳天を両断しようとした。


「よいのか? その娘を大切にしているのだろう? 元に戻したいのだろう? 余を殺せば元に戻らぬぞ」

崇徳天は平坦な声で囁く。


「巴を戻せるのか?」

木曽義仲の剣がとまる。


「然り、然り! 汝の願いが余を呼び出した。その因果は必然。その願いに答えることが出来るのは余しかおるまい」


「巴を元に戻せるのだな」

木曽義仲は剣を落とした。


「頼むっ! 俺はどうなってもいい。こいつは。こいつは、こんなところで、こんな姿で死んでいい奴じゃねぇんだ」

木曽義仲は剣を手放した両手で巴を抱いて訴えた。


「どうなってもよいか? そのような言葉、軽々しく言うものではないぞ」


「軽い気持ちで言ってるんじゃねぇ。巴は俺の家族だ。家族を救うのに躊躇ってどうするってんだ!」


「然り、ならば力を貸そう」


闇の中から手が現れる。


細い、細い。

爪の長い、指の長い手だ。


その指が巴を指さす。


巴の腫れから黒い液体が噴き出た。


黒いシャワーを浴び木曽義仲と巴の体が黒く染まった。

「先の戦で汝は光の魔法を使った。しかし、敵の蟲魔法には対抗できなかった。なぜか? 単純な話だ。魔力に差があった。それだけよ。ならば、この蟲魔法を超える魔力であれば蟲魔法を無力化できる」


黒いシャワーがとまった。


巴は元の顔に、体に戻った。腫れはもうどこにも見当たらない。

巴の口から、安らかな呼吸音が聞こえてきた。


「ああーっ。巴っ!」

巴が復活した歓喜から木曽義仲はぎゅっと彼女を抱きしめた。


「さて、汝はどうなってもよいと言った」


「ああ」

木曽義仲はそっと巴を降ろすと、立ち上がった。

覚悟ができた男の顔だ。


「余の願いは世の乱れ。少し手伝ってもらうぞ。何、そう難しく考えることは無い。今まで通り暴れてくれたらそれでいい。あとは因果が導いてくれる」

崇徳天がそう言ってにやりと笑う。


同時に周囲の闇が瘴気が木曽義仲にに吸い込まれた。


「ぬおおおおおおおおおおおおっ」

木曽義仲の中に異様な力が注ぎ込まれる。

体がその異物を拒絶しようとする。

痛みが走る。走る。走る。


やがて、それが終わった。

木曽義仲は片膝をつき、荒い呼吸をした。額から脂汗が、そして鼻血も、涎も出ていた。

「汝の好きに生きよ。それが余の望みとなる」

崇徳天がはそのように言うと地面に魔法陣が現れた。


その魔法陣から一人の人物が現れた。

その人物は木曾義仲よりも大きかった。見たこともない青い鎧まといを巨大な弓をもっていた。


「余の力を受けたとして、それでも覇王と戦うには心もとなかろう。余のもっとも信頼する右腕を贈ろう」

崇徳天はそう言って魔法陣から現れた男を紹介した。

「彼は鎮西八郎。かつて余と共に戦った剛の者也。彼の力を借りるがよい」


崇徳天はそういって哄笑と共に消えた。


【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

「よしなか は のろわれた」 

こんな作品ですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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