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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第三章 朝日将軍
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第二十一話 再び魔王があらわれた その7

木曽義仲の判断は素早い。ほぼ脊髄反射だ。

彼はこの喧嘩は負けたと判断した。

すぐに撤退を指示した。


巴が不服そうに、

「えーっ。戦っても無いのに帰んの?」

と不平を言った。


木曽義仲はその巴の気概を愛した。

見ると今井、樋口、根井、楯も同じく撤退に不服そうな顔をして並んでいた。

彼らは撤退に不服なのだ。


「頼もしい奴らめ」

と木曽義仲は今井の頭をくしゃくしゃに撫で、樋口の肩を叩き、根井、楯に笑みを返した。


しかし、彼の勝負勘はここでの戦いはダメだと警報をならしていた。


「見ろ」

木曽義仲は今井達に味方の将兵の状態を確認させた。


火打城落城を目の当たりにし、意気消沈していた。

「もう終わりだ」という絶望の声も聞こえていた。

士気が下がっていた。戦意を失っていた。


ここまでやる気の下がった兵が何万人いても意味はない。

それよりも木曽義仲軍の中核を担う、信濃兵を失うことを木曽義仲は恐れた。


やる気のない兵よりも、このようにやる気をみせてくれる信濃兵の方が木曽義仲にとって大事だ。


今井達も味方の将兵の士気低下を目の当たりにして唇を嚙んだ。

これでは戦えない。

敵は10万という大軍よりも、味方の士気だということに気づいた。


「テメェらぁ。次に勝つために、いったん退くぞ」

木曽義仲は撤退の合図をした。


この合図を待ってましたとばかりに他の将兵が逃げ出した。

その無様な逃げ方に木曽義仲は眉をひそめたがどうにもならない。

今井達も撤退した。


そのタイミングで平家軍が一塊で突撃してきた。


木曽義仲軍は奇襲のため森に点在していた。

このままでは各個撃破される恐れがあった。

早く逃げなければならない。


幸い、戦場は木々のある森だ。大軍の利は生かしきれない。馬も使えない。

逃げる分には問題ない。


木曽義仲がそう思ったとき、悪寒が走った。

振り向くと見知った顔がいた。


「カッカッカ。小僧。この儂に挨拶もなく引き返すとは薄情じゃのう」

そう平家の将がいった。

斎藤別当実盛だ。


平家軍の突撃時に、まっすぐ木曽義仲のもとへきたのだ。


「爺……! くそったれぇ! そうか爺がいたのか」

木曽義仲はそう言って悪態をついた。


木曽義仲は斎藤が”蟲”を使うことを知っていた。

何しろ彼は斎藤に一時的にだが養育されていた。そのときに斎藤からいろいろ教えてもらっていたのだ。


この斎藤の使役する”蟲”は偵察にも使える。


伏兵の位置も斎藤には丸わかりだったのだ。

それどころか木曽義仲がどこにいるかというのもすでにわかっていたのだ。


そのため的確に木曽義仲軍の位置がわかっていたのだ。



「くそっ。爺! 少しは手加減しろっ」

そう言って木曽義仲は剣を繰り出す。

かつての養父とは言え、今は敵味方だ。

戦士として、ここで戦わないという選択肢はない。


「カカカ! 手加減はしたぞ。平家のボンボンには伏兵がこのあたりにいるとは伝えたが、正確な場所までは伝えておらん。その証拠にここにきたのは儂だけじゃろう?」

木曽義仲の剣を同じく、剣で斎藤は受けた。


「爺! ぜんぜん、衰えてはいねぇな」

「当たり前じゃ! この黒々とした髪をみろ! まだ、若いじゃろ」

「嘘だ! 染めてんじゃねぇか。そんな艶々なわけねぇだろ、不自然すぎらぁ」

木曽義仲は斎藤の剣を力で押した。

木曽義仲は体が大きい。パワーは上だ。


齋藤が後ろにさがった。


「一人で何しに来やがった」

木曽義仲が剣を構えなおす。


「カッカッカっ。腕白小僧がどれだけの腕前になったか気になるからのう。信濃国、越後国、越中国、加賀国、そしてこの越前国まで手を伸ばすとは大したもんじゃ」

齋藤が剣を繰り出す。

ここから斎藤と木曽義仲の打ち合いが始まった。


「おお、そうだろう。だからよ。ここで見逃せ。ここで知り合い同士戦っても意味がねぇ」

「小僧に意味が無くても儂にはあるわい。今じゃ小僧は一端の総大将じゃ。小僧を討ち取れば手柄になるわい」

「ひでぇ」

「何を言う。それが戦士の生き方じゃろう? そして、小僧は戦士の生きたかを選んだ。それなら戦士の流儀にのっとって相手するだけじゃ」

「そうだけどよ」

「なあ」

「なんだよ」

「戦士を辞めろ」

「はあ? ボケたか爺」

「ボケとらんわ。小僧が戦士を辞め、総大将を辞めれば儂は小僧を討つ理由がなくなる」

このセリフの後、木曽義仲の表情が消えた。

そして、木曽義仲は大きく距離をとった。


「なめんなよ」

木曽義仲は冷えた声で言った。

齋藤は黙って剣を構える。


「俺に憐れみをかけてるんじゃねぇ」

木曽義仲はそのように叫び魔法を唱えた。

「南無八幡台菩薩―旭―!」

木曽義仲の剣から光が放たれる。


その光が視覚も気配も音もすべて打ち消した。

全てが光に包まれた世界。


木曽義仲はその光の中で斎藤の背後をとり両断するため振りかぶった。


その木曽義仲の目の前に一匹の”蠅”がいた。

彼は驚いた。

この魔法は五感すべてを光で塗りつぶす魔法。


その光の中で”蠅”が視認できるというのはありえない。


その“蠅”は気が付くと木曽義仲の周囲を雲霞の大群でとりかこんでいた。

「やべっ!」

木曽義仲は気づいた。

その“蠅”が斎藤の召喚した“蟲”であることに。


斎藤の“蟲”

一匹一匹は手でつぶせるほど弱いが、集団となると別だ。

数度、血を吸われると体中が膨れ上がり、むごたらしく死ぬ。


「それならば戦士として対応するだけじゃな」

“蟲”の集団の後ろにいた斎藤が言った。

その顔は“蟲”の集団に隠れて見えなかった。


その言葉に応じ、“蟲”が一斉に木曽義仲に向ってきた。

この“蟲”は火魔法などの範囲攻撃には弱いが、剣相手にはめっぽう強い。

一匹、二匹、剣で倒されても問題ないからだ。


この“蟲”と戦うには範囲攻撃が必要だが、木曽義仲にその攻撃方法はない。

急いで光の魔法を解除。


しゃがみ。

地面を転がり。

“蟲”を避けようとするが、“蟲”は執拗に追った。

既に何か所か“蟲”に食われていた。

あと、数か所喰われると、皮膚が膨れ上がり死ぬだろう。


(ここまでか)

木曽義仲が諦めたとき、騎馬武者が走ってきた。

森の中だというのに巧みに馬を操り、“蟲”の集団の中にいる木曽義仲めがけてつっこんできた。

この脱出の好機を逃すような木曽義仲ではない。

走っている騎馬武者の後ろに飛び乗った。

騎馬武者はそのまま走りすぎ、“蟲”攻撃圏内から離脱した。


斎藤はその走り去るその背を黙ってみていた。

【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

斎藤別当実盛 VS 木曽義仲でした。


次回、第二十一話のタイトルを回収します。

こんな作品ですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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