第二十一話 再び魔王があらわれた その6
木曽義仲と愉快な仲間サイドの話になります。
「腕が鳴る」
「早く撤退してくれないかしら? 早く攻めて攻めて攻めまくりたいわ」
「巴お嬢。まだ何日もたってないぜ」
今井、巴、樋口が軽口をたたいていた。
木曽義仲軍は新宮十郎のアドバイスを受け、日野川を堰き止め火打城のまわりの地形を水に変えた。
作業自体は水魔法と土魔法の使い手がいたので、そこまで大変ではない。
結果は良すぎた
言い出した新宮十郎がおどろくほど巨大な水たまりができた。巨大な堀程度を考えていたが、実際にできたのはそれをはるかに超えた水たまりだ。もはや見た目は湖だ。
湖の中に火打城が浮かんでいるようにも見え、ちょっと幻想的だ。
敵は到着すると同時に火打城を取り囲んだ。
しかし、湖が邪魔で攻めることができない。
腹いせなのか、大いに鬨の声をあげたり、届かない矢や魔法を撃ったりしている。
それを10万の兵が行うのだ。
大迫力だ。
大迫力ではあるがそれだけだ。
火打城に手を出すことができない。
想定通りだ。
この後、敵はこの湖の復旧作業をするだろう。
そこを伏兵で襲う。
伏兵により復旧不可能となれば平家は詰みだ。
食糧不足に陥り撤退する。そこを追撃するのだ。
今井、樋口、巴は伏兵舞台を率いる将として平家が湖の復旧作業を開始したときに、すぐに攻撃できるように待機していた。
そして、その伏兵部隊はこの3人の将だけではなかった。
根井、楯も参加した。
「お前らだけ喧嘩に参加するのはずるいっす」
という訳だ。
№2のポジションを手に入れるため実績が欲しい新宮十郎も伏兵部隊に参加。
他にも手柄が欲しい将兵は皆、伏兵部隊に参加した。
ついでに総大将の木曽義仲も
「俺も喧嘩にまぜろ」といって伏兵部隊に当然のように参加した。
今、火打城内にいるのは、どちらかといえば戦に参加したくない少数の人員だ。
総大将の木曽義仲が伏兵部隊にいるため、大半の兵が伏兵部隊となった。
総大将が城を守らず奇襲部隊を率いるというのは稀だろう。
後年、安芸国の英勇・毛利元就が陶晴賢を討った厳島の戦いでは、宮尾城を囮とする奇策によって陶軍を厳島へ誘い込み、勝利を収めた。このように総大将が城を守らないというのは、奇策として成立するほど希だ。
新宮十郎も木曽義仲が城にいないことを危惧した。しかし、喧嘩祭りでワクワクしている木曽義仲をみて、何も言わなかった。
木曽義仲は総大将であると同時に最大戦力でもある。その最大戦力が伏兵部隊にいるというのは案外、良い手ではないかと思い直し、自分を納得させた。
その夜、異変がおきた
轟音がなった
地響きが起きた
湖の水位が下がる
堰き止めていた川の流れが元に戻る。
「なんで。何が起こってるっすか」
根井が叫ぶ。
始め平家軍が復旧工事を始めたのかとも思った。
しかし平家軍はまったく動いていない。むしろ伏兵部隊のおおよその位置がわかるのか、城を背にし伏兵部隊の方をむいていた。
「あれを見てっ!!」
巴が叫んだ。
木曾義仲達にとって信じられない光景だった。
火打城の守兵が魔法で川の復旧していた。
火打城の守兵は、簡単に川の復旧ができるポイントを知っていた。
そうでなければ安心して孤立する城に立て籠もることは出来ない。
火打城の守兵が平家軍に裏切ったのだ。
これは木曾義仲の知らないことだが、平家10万の大軍が火打城を攻める気炎をあげたため、守兵は相当怯えていた。
元々、火打城にいたのは木曾義仲軍のなかではやる気のない連中であった。
やる気のある大多数は木曽義仲とともにいた。
火打城の守兵たちは湖で攻められないとは理性では分かっていたが、その大軍の気炎を受けて生きた心地がしなかった。
そんな中、場内で不審死が発生した。
それも一人二人ではない。
特に部将クラスが倒れた。
それも身体中のあちらこちらが膨れたおぞましい姿でだ。
(場内は安全じゃなかったのか、話が違う)
場内は恐慌状態となった。
これは斎藤の仕業であった。
齊藤は召喚魔法を使う。召喚できるのは”蟲”だ。
この”蟲”は人の血を吸う。
これだけなら蚊とかわらない。
実際、一匹、二匹を倒すのは簡単だ。蚊と同じく叩き潰せばよい。
違うのは殺傷力だ。
多数で集中的にこの”蟲”に血を吸われると体中が膨れ上がったおぞましい姿で死ぬ。
この”蟲”は空も飛べる。
湖はこの”蟲”を止める手段にはならない。
齊藤は”蟲”を多数召喚し、火打城の守兵の主だったものをその”蟲”に襲わせた。
これが不審死の正体だ。
10万の大軍の気炎。不審死と重なり、場内が恐怖に包まれた。
そのタイミングで維盛が厳選した水魔法で水の上を歩ける技能を持つ使者が夜、訪れた。
内容は簡単に書けばこうだ。
「城にいても無駄だ。こちらはいつでも殺すことが出来る。それよりも味方しろ。生き残りたければ。抵抗して死ぬか? 生きて栄誉をつかむか? どちらにする?」
この書面だけでは効果なかっただろう。反発して終わりだ。
”実際に人が死んでいる”この恐怖が場内の人たちを動かした。
彼らは平家軍に味方し、川を復旧した。
この時、場内に木曽義仲。または今井、樋口、巴、根井、楯、新宮十郎がいたならば裏切りは無かっただろう。
彼らは”裏切られないためにはどうするか”よりも自分の戦闘欲、栄誉欲を優先した。
そのため城にこもるよりも、攻撃するほうを選んだ。
その結果がこれだった。
川の流れが戻り、湖が消滅した。
湖がなければ火打城は10万の攻撃には耐えることはできない。
そうでなくとも守兵は裏切り平家に味方していた。
火打城は平家の手に落ちた。
木曽義仲は越前国を失った。
【人物紹介】
■毛利元就
戦国時代に活躍した、中国地方を代表する戦国大名
陶晴賢を破り躍進。三本の矢で有名。
【お知らせ】
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■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
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