第二十一話 再び魔王があらわれた その4
越前国の最前線にいたネイ様達は無事、帰還することができました。
「よく無事だった!」
木曽義仲は立ち上がった。
そして無事戻ってきた根井と新宮十郎に大声で安堵の声をあげた。
「それにしても10万か」
「大丈夫だ。うちらは3万。一人で3人を倒せばいい」
「計算が合わないよ。4人倒さないと」
今井、樋口、巴が景気のよい言葉を並べた。
北陸宮を戴く木曽義仲の元に続々と将兵が集まり、万を超える勢力となった。
しかし、それでも兵数は平家に及ばない。
木曽義仲軍は3万だ。
対する平家は10万だ。
3倍以上の兵力差があった。
先ほど今井、樋口、根井の言葉を聞いた他の将兵達の反応は様々だ。
やってやろうじゃないかと勇を振るうものもいた。
そんなことできるわけないじゃないかと怯えるものもいた。
武勲立て放題と勇むものもいた。
笑え。笑えと不安を打ち消すために武者震いするものもいた。
酒は無いかと現実逃避するものもいた。
木曽義仲はそんな味方を黙ってみている。
彼らは古くからの臣下ではない。
烏合の衆ではないが、それぞれがそれぞれの思惑で集まっていた。
味方ではあるが、どのように動くかわからないところがある。
木曽義仲は敵の数10万と聞いても「ただ、打ち破るだけだ」と思っていた。
しかし、味方の動揺を見て、この動揺を鎮めなければ勝てる喧嘩も勝てないとも思った。
木曽義仲には信頼できる仲間がいる。
今井、樋口、根井、楯、巴だ。
彼等は勇猛で木曽義仲のためなら、どんな戦いでも演じてくれる。
しかし、この急激に集まった味方の将兵の動揺を収めるには向かない。
ただ、幸いなことに今の木曽義仲軍には、この動揺を収めるにうってつけの人材がいた。
「新宮殿。お知恵を貸していただきたい。どのようにしたらよいと思うか?」
木曽義仲はまっすぐ新宮十郎を見た。
他の将兵も新宮十郎を見る
彼が水津の戦いで根井に的確なアドバイスをし、損害を出さずに平家を撤退させたことを皆、知っていた。
新宮十郎がどんな提案をするか皆、注目した。
一方の新宮十郎は優越感に高揚する自分を感じていた。
(みろ、皆が俺を頼っている)
元々、自尊心のめちゃくちゃ高い男なのだ。
この男にとって現在の頼られている状況は最高のご褒美だ。
同時に彼は頭の回転が速い。
木曽義仲や周りの皆の期待に応えられなければ、頼りにならないとレッテルをはられる。
それはこの自尊心の高い男にとって我慢できないことだ。
そのために慎重に頭を回転させた。
この時にぼさぼさの髪をぐしゃぐしゃにするのは癖だ。
しばらく、そうしているうちに考えが整った。
新宮十郎は口を開いた。
「10万という話ですが平家は誤りました。まあ、問題ないでしょう」
新宮十郎は何でもないことのように言った。
その態度を見て新規参陣の将兵の動揺が収まっていくのを感じた。
(どうだ? 木曽義仲。これが望んだことだろう?)
新宮十郎は木曽義仲が自分に期待していることは何かを考えた。
こういう時は相手の立場になって考えるのが基本だ。
木曽義仲は戦いそのものにはあまり不安を感じていない。
それよりも彼が恐れているのは、味方が動揺し、味方から崩壊していくことだと察した。
そのため、敵を破るのではなく味方の動揺を抑える策を考えた。
「はっはっは。さすがは新宮殿じゃ。その意気じゃあ! それで問題ないという中身を聞かせてくれんか?」
木曽義仲は言った。
新宮十郎は“味方の動揺を抑えろ”と解釈した。
彼は頷くと口を開く
「私と根井殿で平家を退けました」
新宮十郎は自分の成果のPRも、これから話する策に織り込む予定だ。そのため平家に勝利したという実績をまずは伝えた。
「これは敵の食料不足という弱点をついたのですが、今回も弱点は変わりません。食料不足です。むしろ10万という大軍です。食料の消費は激しくなるでしょう。敵の足止めが重要になるでしょう。足止めができれば兵糧不足で撤退します。そこを襲えば問題ないでしょう」
新宮十郎の言葉に木曽義仲は大いに頷いた。
具体的に敵の弱点を明確にすることで新規参加の将兵の動揺が収まり、どうやって勝つかという方向に意識統一が進んだ。
我が意を得たりだ。
こればかりは今井達にはできない芸当だ。
「となると問題は足止めだな。どうやって10万の大軍を足止めする?」
木曾義仲は皆を安心させるため、さらに具体的なプランの提示を要求した。
「人で足止めするのは愚かなことです。自然を利用しましょう。越前国の国境に火打城という城があります。ここで仕掛けましょう」
「どうやるんじゃ? 悪いが火打城は堅城ではないぞ」
「重要なのは城ではなく火打城近くを流れる日野川です。ここを堰き止め街道ごと水に沈めます。巨大な湖ができるでしょう。平家がいかに大軍でも魚ではない、湖はわたれない。火打城は小高い場所にあります。湖には沈まない。そこで待っていれば敵は食料を失い、帰っていくでしょう」
新宮十郎がこのように言いきったあと、ざわめきのような歓声があがった。
勝ち筋が見えたのだ。
しかも敵が戦うのは自分達ではなく、川や湖だ。安全に勝てる策だ」
ここで木曽義仲が獰猛に笑う。
「その湖をどうやって攻略しようか右往左往している敵の背後から仕掛けるのも面白いな。よしその喧嘩でいこう! テメェら勝つぞぉ!」
「「おう」」
ここで木曽義仲軍の意識がひとつにまとまった。
孫氏いわく「兵に常勢なく、水に常形なし」という。
必勝パターンはない。一つの勝ちパターンに固執するのは愚かだという意味の戒めだ。
新宮十郎が今回、提案したのは水津の戦で用いた作戦の変形だ。
敵の食料が尽きるのを待つという作戦。
自身も知らず知らずのうちに新宮十郎は同じ必勝パターンを考えたのだ。
これが吉と出るか凶と出るかは、まだ誰もわからない。
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【あとがき】
次回は福井県の燧ヶ城をモデルにしたバトルです。
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