第二十話 クエストを受けますか?:クロウの選択 その8
「今の状況で源頼朝を倒せますか?」
この片岡八郎の問いにクロウは真剣に考えた。
相手は真剣に魂をぶつけてきた。こちらも真剣に答えなければいけない。
「難しいだろうな」
クロウは考えた末に答えた。
源頼朝と1対1なら勝てる。
しかし、源頼朝と戦っているうちに平家が必ず襲ってくるだろう。そうなると泥沼だ。
もはや、どうなるかは誰にもわからない。
また、源頼朝を討つために奥州王が兵を貸すとは思えない。
「そうです難しいと私も思います。それはいろんな要因が絡まってくるからですよね」
「ああ」
「1対1ならどうです」
「負けるわけないだろう」
クロウは半眼で片岡八郎を見た。気負いではなく当たり前に勝てると思っている。
「私もそう思います。クロウ様は1対1なら負けません。じゃあ”1対1の状況”になればいい。そう考えました」
クロウは黙った。徐々に片岡八郎の言いたいことがわかってきた。
「つまり、先に平家を倒してから源頼朝を倒す。そのために一時的に源頼朝の勢力下にはいる……という筋書きか? 本当にそれでいいのか? 親の仇と一緒に戦うことになるんだぞ」
クロウはまっすぐ片岡八郎、そして片岡春を見た。
ここで片岡八郎がふっと力を抜く。
「多分、俺一人だったら勝てなくても特攻したでしょうね。でも、俺には春がいる。たった一人。たった一人残った家族なんです。その家族を一人残すなんてことはできない」
「家族か……」
クロウは憧憬をもった目で片岡兄妹を見た。
「仇を討つために、敵の元に潜入するというのはよくある話じゃない?」
片岡春がクロウに笑って言った。
その笑いは、すぐに壊れそうな儚い、貼り付けた笑みだった。
「春っ!」
静は片岡春を抱きしめた。
静はどんな覚悟で片岡春がこの言葉を紡いだかを知った。
親の仇と
家族を奪ったものと
一緒の陣営にいるのはつらいはずだ。
それが一時的であってもだ。
静に抱きしめられた片岡春は笑みを顔に張り付けたまま涙を落した。
「か、勝てますよね? 1対1なら勝てますよね」
震える声で片岡春はクロウに聞いた。
「当たり前だ」
クロウはまっすぐ片岡春を見ていった。
片岡春はその回答を聞いて、感情の堰が崩壊した。
そのまま静にしがみついて顔を埋め、嗚咽をこぼした。
「ありがとうございます」
そんな片岡春を見て、兄の片岡八郎がクロウに礼を言った。
「春はかつて崇徳天の影響を受けていました。崇徳天の影響をうけたままなら、このような考えをもつことはできなかったでしょう。そしてそのまま返り討ちにあっていたでしょう。崇徳天から解放していただきありがとうございます」
片岡八郎は頭を下げた。
クロウは出会ったころの片岡春を思い出した。
何の勝ち目もなく、クロウ達を襲い、逆に捕らえられた片岡春たちをだ。
あの時、片岡春は崇徳天の影響を受けていた。
そのため無謀にもクロウに突撃した。
あの時はあまりの弱さに拍子抜けし、護法童子である弁慶に捕えてもらったが、まともに戦ったら片岡八郎や片岡春の命はなかっただろう。
同じく崇徳天の影響を受けているクロウだからこそわかる。
崇徳天は世の乱れを望んでいる。そのため、因果を狂わせ、人々の間に争いを生み出そうとしている。崇徳天の影響を受けた者は争いを生むのだ。
そして場合によっては死ぬ。さらに新たな争いを呼び出す火種となって。
片岡春はその因果から抜けることができた。
そのことを片岡八郎は感謝しているといった。
その感謝に対してクロウは黙った。
どのように反応していいかわからないからだ。
片岡兄妹は敵討ちを諦めていないことはわかった。
そして、感情のまま敵である源頼朝を襲撃、特攻し、死ぬのではなく、確実に実行しようと考えたというのも理解できた。
そのために、いったん、棚上げにするというのも理屈ではわかった。
一方で「本当にそれでいいのか?」という疑問があった。
だから黙った。
「先ほどの春の話だが、潜入調査なら任せろ」
駿河が言った。
この男は源頼朝軍に援軍として合流した後、調べるために内偵するつもりらしい。
この場合の内偵の中身は、片岡兄弟が敵討するためにちょうどよい、タイミングや場所などを探ることになるだろう。
「それに俺も参加したいです。俺に隠密の業を教えてもらってもいいですか?」
片岡八郎が駿河に聞いた。
駿河は少し面食らった顔をしたが、いいだろう。と答えた。
「ヘマしてつかまらないでよね」
片岡春が兄を揶揄う。
「そこまでドジに見えるか?」
「ああ……自分ではそうおもってるのね」
「ちょ、ちょっと待て。お前、俺を信頼してないだろ」
「何言ってんの。信頼してるから念を押してるんじゃない」
この片岡兄妹の掛け合いをきいて、クロウが大きくため息をついた。
「つったく。お前ら。俺が源頼朝に援軍に行く前提で話しやがって……それでいいんだな」
クロウは片岡兄妹を真剣な目で見た。
ここでルートが決まる。
後戻りはできない。
だから、確認した。
片岡兄妹は頷いた。
「他のみんなは!」
クロウの確認に他のみんなが「応」と頷いた。
「だ、そうだ」
クロウは佐藤継信に言葉を投げた。
「では、源頼朝殿へ援軍に行くということで段取りしましょう」
佐藤継信は表情の見えない顔で言った。
その後
クロウ達は佐藤継信率いる100騎の奥州兵とともに出陣。
坂東平野の源頼朝の援軍にむかった。
この時の彼等は知らなかった。
今回、以仁王の令旨で全国の戦士・領主が立ち上がった。その理由は、領地を奪われるかもしれないという恐怖が主な原動力だ。
片岡兄妹が敵を討つことを一時棚上げしたのは、様々な理由はあるが、行動におこすことによって大切な兄妹を失う恐怖があったからだ。
人が動くときはいつだって恐怖からだ。
怖いから、人は凶暴にもなる。
そのことを、今の彼らは知らない。
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【あとがき】
これにて以仁王の令旨を受けたライバルの動向を主題とした2章終了です。
次話からは木曽義仲の動きを中心とした第3章になります。
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