第二十話 クエストを受けますか?:クロウの選択 その6
クロウは佐藤継信から連絡を受けた。
その内容は”奥州王がクロウ出陣の許可を出した”ということだった。
クロウは“おっしゃー”と喜ぶと同時に、疑問に思った。
過保護で心配性の奥州王がクロウ出陣に反対していることを知っていた。
クロウの事を思っての“反対”なのでクロウも強行にでることができずにいた。
むしろ
(仮に家族がいたら、このよう心配してくれるのだろうな)
と思った。
ありがたいという感謝の気持ちすらあった。
奥州王がクロウを孫のように見ていたと同じように、クロウもまた奥州王を祖父のように見ていた。
だからこそ佐藤継信からの報告に対して疑問に思った。
(俺なら許可しない)
そう思っていたからだ。
その報告をもってきたのが佐藤継信というのも疑問……というよりは疑惑を持った一因だ。
彼は常に何かしら裏の目的を持って動いていた。
クロウから「宇迦之御魂神に会いたい」という相談を受け、その段取り案内をする一方で、クロウを神域に閉じ込めようとした。
彼はそういう男だ。
その佐藤継信からもたらされた報告をまともに受けるには危険だということかをクロウは学習した。
ちなみにクロウは佐藤継信から報告を受けるにはあたって静、吉次を同席させた。
用心のためだ。
彼等なら佐藤継信が何かしら別の目的を持っていても、それを察知できる可能性があった。
「奥州王殿は反対ではなかったのか?」
クロウは佐藤継信に確認した。
彼の質問は常に直球だ。
「王はクロウ殿を孫のように可愛がっていますからね」
佐藤継信は頷いた。
その表情は何故か陰になって見えにくかった。
「ただ、奥州王は出陣にあたって条件をつけました」
佐藤継信は言った。
この言葉を聞きクロウ逆に安心した。
今までの経緯からスンナリ行くとは思っていなかった。
条件を出してくるほうが自然だ。
「それは何だ」
クロウが確認する。
「その条件をお伝えするにあたって、まずはこの事を理解してください。奥州王はこの地が戦火に巻き込まれる事は望んでいません」
佐藤継信は前置きから話し出した。
「ああ」
クロウは頷く。それはこの地。そして奥州王と接しているとわかる。
「つまりクロウ殿が奥州で挙兵したときに、この地が戦火に巻き込まれることを恐れております」
佐藤継信のこの言葉にクロウは苦い顔をした。
クロウが強行に挙兵できない理由でもある。
源頼朝が坂東平野で
木曽義仲が信濃国で
甲斐入道が近江国で
武田信義が甲斐国で
義円・神宮十郎が尾張三河で
それぞれ地元の勢力を傘下に収め挙兵した。
クロウは奥州で同じことを狙った。
そのために奥州にきた。
ところが……
この地は他の土地と決定的に違った。
平和なのだ。
他の国々が戦国時代なら、奥州大陸だけ泰平の時代だ。
仮に奥州で挙兵したなら、泰平の世は幻と消え戦国時代と同じくなるだろう。
他の勢力が狙うからだ。
また、奥州に攻める口実を与えることにもなるからだ。
「奥州王はそのため、クロウ殿の出陣に条件をつけました。挙兵ではなく援軍としていって欲しいと」
「なるほど」
クロウは納得した。
クロウ率いる奥州軍は独立勢力としてではなく、以仁王の令旨で挙兵した打倒覇王の勢力の手伝いに行くという建前ということだ。
それなら、“あくまでも援助しただけ”と他の勢力にも言い訳が出来るし、援助した勢力が伸びた場合、恩が売れる
「奥州王殿も苦労してるな。どう思う吉次殿」
クロウは苦笑しながら、隣にいる吉次に確認した。
「奥州王の立場なら当然でしょう。逆によくここまで妥協してくれましたねぇ。まあ、実際に戦場に立てば援軍であれ、本軍であれクロウ殿の目的である打倒覇王には問題ないでしょうねぇ。要は早く倒したもの勝ちですからねぇ」
吉次は奥州王の考えに理解を示しつつ、妥協点としてはちょうどいいと考えているようだ。
「そうね。むしろいいかも。援軍にいくところに露払いしてもらって、おいしいところだけもらっちゃうことも出来るんじゃない?」
静がニシシと笑った。
「ふん。利用するつもりが利用されるってこともあるぜ」
その静に対してクロウがツッこむ。
「むー」と静が頬を膨らませた。
「その条件であれば、クロウ殿の出陣に奥州兵をお貸しいただけるのですかねぇ」
吉次が確認する。吉次にとって名目はなんでもいい。
必要なのは勢力だ。
具体的には兵だ。
そのために奥州大陸まできたのだ。
ここで兵を借りることが出来なければ、ここまでクロウを連れてきた意味がない。
そのため一番気がかりなことを確認した。
「当然です。私の軍が共に行くことになります」
佐藤継信が言った。
「それはいい」
クロウは無邪気に破顔した。
佐藤継信の実力は知っている。クロウが奥州の人々と接した中で佐藤継信ほど軍隊指揮に詳しいものはいなかった。今でも佐藤継信の軍隊式の方法を習っている。
クロウの仲間たちには一騎当千が多い。
しかし軍隊指揮は不慣れだ。
そのクロウ達にとって佐藤継信率いる奥州兵もありがたいが、軍隊指揮のできる佐藤継信自身が参加してくれることが非常にありがたい。
「と、なると問題はどこに援軍にいくかよね」
静が言った。
以仁王の令旨を受け取った中で有力なのは
坂東平野の源頼朝
信濃国の木曽義仲
近江国の甲斐入道
甲斐国の武田信義
尾張三河の義円・神宮十郎
そして檄文の発行者である南都の以仁王・源三位頼政だ。
援軍にむかう先をここから選ぶことになる。
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【あとがき】
まだ、奥州には以仁王が負けたという情報が届いていません。その前提でクロウは援軍先を考えます。
近江の挙兵については3章で触れる予定です。
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