第二十話 クエストを受けますか?:クロウの選択 その4
”以仁王が打倒覇王の令旨を全国の戦士・領主に下し、全国の戦士・領主が立ち上がった”
この一報。
様々な思いが交錯した。
その中心はクロウの去就だ。
クロウ自身は当然、挙兵することを望んだ。
覇王と戦う、それが望みだ。
吉次もまたクロウが挙兵することを望んでいた。彼は商人として成功した。次の投資先としてクロウを選んだのだ。投資回収のためにも挙兵してもらう必要がある。彼がこの投資が成功したと勝利宣言できるのはクロウが立身出世し、吉次がその利益を享受したときだ。
母太郎は別な意味でクロウが挙兵することを望んでいた。母太郎はクロウが嫌いだ。それに下手に関わると中央の騒乱に奥州が巻き込まれると信じている。
そのため騒乱の元になりそうなクロウを早期に奥州から追い出したかった。
ついでに騒乱に巻き込まれ戦死してくれたらよいとまで思っていた。
奥州王はクロウの挙兵に反対だ。
奥州王がクロウを受け入れたのは抑止力強化という政治判断だ。
クロウ達は様々なアクションでその実力を見せている。
先ほども魔王 悪路王のいる達谷窟ダンジョンを攻略した。
民もクロウ達の強さに安心していた。
彼等が政治家である奥州王にとってありがたいのは強さを盾に暴れたり、無茶な要求をだしたりしないことだ。
大抵の強い者は強さにおぼれ傲慢になり、他を見下し、何をやってもいいと錯覚し、乱暴狼藉を働く野盗に成り下がる。
彼等にはそのようなところはなかった。
また、政治家としての奥州王ではなく、個人としての奥州王としてもクロウを引き留めたかった。
クロウはピュア過ぎた。挙兵して、その実力をもって仮に成功したとしても、都は権謀が渦巻く政治の魔窟。老練な政治家たちにいいように利用されすり潰され、人生を喰われる危うさを感じていた。
奥州大陸にクロウ達がいるなら守ってあげることができる。しかし、挙兵し、出ていってしまうと守ってやることはできない。
奥州王はそのように考えていた。
「さて、どうしたものか」
佐藤継信は考えている。
彼には奥州王、吉次、母太郎がどのような思惑を持っているかを理解している。
そしてクロウの望みも知っている。
そのうえで、どうしたら全員が納得するかを考えていた。
彼は何を考えているかわからない。冷たいとよく周囲から言われるが、彼が考えているのは常に対立した意見の落としどころだ。
ちなみに、その全員には母太郎は入っていない。
佐藤継信は母太郎が納得しなくてもかまわないと思っていた。
問題は奥州王とクロウの考えが正反対のベクトルをむいていることだ。
思案に思案をかさねたが、結論がでなかった。
どうしてもクロウと奥州王との溝を埋める落としどころが見つかられなかった。
特に奥州王はクロウの事を心配し、それゆえに反対していた。この気持ちは汲んでおきたい。そのうえで落としどころを検討しているのだがうまくいかない。
そのため佐藤継信は考えるための援軍を欲した。
彼は稲荷神の魔法を使用できる。
その魔法の中に妖狐を呼び出す魔法がある。
彼はその魔法の触媒となる鼓をポンっと鳴らした。
目の前に佐藤継信と同じ格好をした人物が現れた。
辛うじて狐耳と尻尾で妖狐が人に化けたとわかる。
彼が召喚した妖狐が忠信だ。
繰り返すが佐藤継信は妖狐を呼び出すことができる。
その数は一匹二匹ではない。妖狐だけで軍勢をつくることだってできる。
ただ、軍勢となると指揮官が必要だ。
佐藤継信は自分の配下の軍勢をもっている。とても呼び出した妖狐の軍勢を指揮する余力はない。
そのため佐藤継信は妖狐の中で、指揮に向いたものを指揮官にすることを考えた。徹底的に教育し、彼の右腕として指揮を任せることができるようになった。
その内、指揮官には名前がないと都合が悪いということに気づいた。
そのため指揮官の妖狐に対して名前を付けて呼ぶようになった。
名前は忠信とした。
特に理由はない。
ただ、信という時を充てることで、事情を知らない人がその妖狐を自分の縁者と勝手に勘違いしそうな名前をと考えたぐらいだ。
名前を付けると愛着が出る。
その内、指揮以外の用事があるときでも呼び出すようになった。
今では思考をまとめるための壁打ち相手として、呼び出すようになっていた。
「忠信。耳と尻尾が見えていますよ」
佐藤継信は忠信に注意した。
「すいません。兄貴」
佐藤継信とまったく同じ顔をした妖狐が慌てて狐耳と尻尾を隠した。
これで同じ姿の人間が二人いることになった。
ちなみに妖狐が佐藤継信を兄貴と呼ぶのはボスや頭という呼ばれ方を佐藤継信が嫌がったからだ。何回かの試行錯誤の末、“兄貴”という呼び方でおちついた。
さて、今回、佐藤継信が忠信を呼んだのは思考をまとめるためだ。
佐藤継信が現状を説明する。
「覇王が先の2回の大戦で天下を獲りました。その覇王、天下人ということで増長したのでしょう。法皇を監禁。所領を奪いました」
「ひどいやつですね」
佐藤継信は頷く。
「ええ、そうですね。それで不要な反感を買いました。法皇の子 以仁王が全国の有力な戦士や力ある領主に打倒覇王にむけて立ち上がれと檄文を送ったのです」
「自業自得ですね。アホですか覇王は」
「なんか、さっきから覇王へのあたりがつよくないですか?」
「気にしないでください。個人の感想です」
「わかりました。ではつづけましょう。その檄文を受けて全国の戦士・領主は立ち上がりました」
「よく立ち上がりますね、見ず知らずの法皇や以仁王のために。そんなに勤王の志がある理想家ばかりなのでしょうか」
「いえ、むしろ現実をみている人ばかりでしょう」
「現実をみているのに挙兵したのですか? 必ず勝てる保証もないのに。私には理解不能です」
「覇王が所領を奪ったのがよくなかったのでしょう。このままではいつか所領を奪われると危機感をもったのです」
「ああ、なるほど。やっぱアホですね覇王は。自分で自分の首を絞めてる」
「覇王がアホかはどうでもいいのです。自分で自分の首を絞めていることに関してはどうかんですけどね。それよりも問題はこの奥州に与える影響です」
「どんな影響があるのです? まさか奥州王が挙兵するのですか?」
「いや、それはありえません。奥州王の夢はこの平泉に極楽浄土をつくることです。戦は避けたいとおもっているでしょう」
「では、何も問題ないのはないでしょうか? 全国の騒乱を高みの見物していたらよろしいのでは?」
「そうはいきません。全国の騒乱が収まったら、次は奥州にその余波が来るでしょう」
「どういうことですか?」
「覇王なのか? 別な誰かなのか? それは分かりませんが、騒乱が終わったら再度天下人があらわれます」
「そうでしょうね」
「その天下人が富国の奥州大陸を放っておかないでしょう。天下人になった者が奥州大陸を併呑するために動きます」
「迷惑な話ですね」
「ええ、まったくその通りです」
「奥州王様はそのことについて手を打たないのですか?」
「まさか! すでに手を言っています」
「どんな手を?」
「クロウという一党を懐にいれました。彼らは強い。崇徳天といった魔王と互角に戦い。宇迦之御魂大神の結界をやぶり、悪路王のいる達谷窟を攻略しました」
「それ本当ですか? それって化け物ですよ。その話しが本当なら神も魔王も手に負えないじゃないですか」
「ええ、その通りです。彼らは強い。その強い彼らが奥州大陸にいる。仮に天下人が攻めてこようと考えても、手を出しにくいでしょう」
「クロウ殿は戦争の抑止力になる力をもっていると奥州王さまも兄貴も考えているわけですね」
「はい、その通りです。しかし、ここに問題があります」
「問題ですか。それは何でしょう?」
「クロウ殿が挙兵したがっているということです」
「なぜですか? 奥州にいればいいのに」
「クロウ殿はもともと覇王と戦いたい考えていました。しかし戦力がない。そのため奥州大陸でで戦うための戦力を得ようと考えていたようです」
「なるほど、もともと戦うつもりだったということですね。それなら全国の騒乱に参加したがるでしょうね」
「ええ、抑止力のためにクロウ殿に残ってもらいたい奥州王様。最初の志どおり覇王と戦うために挙兵したいクロウ殿。この二人の間をどのように調整するか良い案が浮かびません。そこであなたを呼び出したのです」
「相談相手としてですね」
「そうです。忠信は私が呼び出した影響なのか、非常に私に近い考えをします。それでいて第三者の立場です。当事者ではない私には無い視点を持っていますからね」
「では、期待に応えまして第三者の意見をいってもいいですか」
「どうぞ」
「お話を聞いて二つ疑問に思ったことがありました」
「二つですか? もし一つ目を聞いてもいいですか?」
「はい。奥州王様はクロウ殿に戦争の抑止力として期待しているのですよね」
「ええ、その通りです」
「本当に抑止力になるんでしょうか?」
「どういうことでしょう? 彼は神域から脱出し、達谷窟を攻略しているのですよ」
「はい、実力は本物でしょう。でも無名ですよね」
「……そうですね。無名に近いでしょう」
「私が疑問に思ったのがそこです。何か大きな戦で大活躍したわけでもないですよね。その無名の彼が抑止力になるか疑問に感じました」
「なるほど、確かにそれは道理ですね。いくら強くても、無名の彼が戦争の抑止力になることはない」
「ええ、抑止力なら実際の戦闘力はどうでもよい。“強い”という事で有名な人の方がいいわけです」
「もっともです。ではクロウ殿では抑止力にならないということですね」
「今のクロウ殿ならそうでしょうね」
「ああ、忠信の言いたいことがわかりました。抑止力にするならクロウ殿を有名にするしかない。そして有名にするには、これから起きる騒乱で活躍してもらうのがよい。そういうことですね」
「はい。抑止力として働いてもらうために、戦で活躍してもらう。ということならクロウ殿の目的も達せられます。奥州王様の望みも叶うと考えました」
「上出来です。忠信の考えで進めてみましょう。そういえばもう一つ疑問があると言っていましたね」
「はい」
「それも気になります。聞かせてもらってもよろしいですか」
「はい。疑問に思ったのは兄貴自身のことです」
「私ですか?」
「はい、兄貴はこの騒乱をどう考えているのですか?」
「質問の意味がわかりませんが」
「先ほどのクロウ殿ではないですが有名になる好機です。兄貴自身、文武に優れ、稲荷伸の魔法まで修めています。大変な努力の結果ですよね。その努力の結果を出せる好機がきました。兄貴は参加しないのですか?」
佐藤継信は妖狐の疑問に咄嗟に答えることが出来なかった。
常に彼は自分自身のことを考えていなかった。
それよりも周りの調整をどうするべきかということを常に考えていた。
調整役が自分自身のことを優先させると調整不能になる。
そのため、常に自分自身のことを後回しにしていた。
今、忠信に聞かれあらためて自分自身がどうしたいかを考えた。
「そうですね。私は……」
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【あとがき】
地の文が多い作品なのに会話が多かった。
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