第二十話 クエストを受けますか?:クロウの選択 その1
ようやく主人公登場です。
クロウ達はダンジョンを攻略していた。
ダンジョンの名は達谷窟という。
奥州王の政庁から南西にある岩山のダンジョンだ。
洞窟特有の湿っぽさは無いが、どこまでいってもいっても武骨な岩の壁天井から圧迫感を受ける。
目的は最奥にいるボスの攻略だ。
このダンジョンは2代目征夷大将軍 坂上田村麻呂が倒した魔王 悪路王が封印されていた。坂上田村麻呂が得意とした毘沙門天の魔法で封印されている。神域級の強力な結界だ。
ダンジョン内の魔王やモンスターは出てくることはできない。そのため周囲は安全だ。
今はもっぱら戦士達の修行の場としてつかわれている。
階層は全30階。
奥州王も若いころ挑戦したことがあるらしい。その時は20階までいったとのことだった。
ちなみに奥州王の子 母太郎の最高到達階は14階だ。
クロウ達がダンジョン攻略すると聞いて
「めちゃくちゃ大変だからな。お前らならせいぜい10階がいいところだろうよ」
とクロウの前にわざわざ言い捨てにきた。
佐藤継信は
「何をしてるんですか?」
と母太郎の襟首をつかんで引っ張っていった。
ダンジョンなので大人数はむかない。
そのため人数を絞ることにした。
6人パーティをつくるのだ。
クロウは当然行く。
静も行く。クロウがいくところなら当然ついてくる。
皆鶴姫も行く。彼女が奥州大陸に来た理由の一つに悪路王という他の魔王がどのようなものか知りたいという興味があった。当然行く。
残りは3人。
バトル=ゲーム思考の天才、那須与一も「行きたい」と手を挙げた。
これで残るは2人。
といっても少年少女はつれていけない。
となると吉次。伊勢三郎。亀井。駿河。千本。残夢から選ぶことになる。
公正な抽選の結果。
伊勢三郎と残夢が行くことになった。
母太郎が「10階がいいところだろう」と捨て台詞を吐いたが、そんなところで止まるメンバーではない。
10階どころか最終階にたどり着いていた。
彼らの通った後には火竜や牛鬼、獏達の死骸が床に転がっていた。いずれも最終階にふさわしい伝説級のモンスターだ。
「あー楽しかった」
といったのは与一だ。
彼は思う存分、強敵とのバトルを楽しめてご満悦だ。
「与一は強いねぇ」
と与一の首に襟巻のようにくっついているぬいぐるみのような妖狐が起き上がって与一の頭をなでた。この妖狐は与一の義母の分身だ。離れていても会話もできるし、今のように褒めることもできる。この妖狐の機能はスマホより一歩進んでいる。
「ああ、これだけの相手と戦える機会はない。いい経験になった」
とご満悦なのは皆鶴姫だ。
皆鶴姫は外来の魔王 クマラとの縁に連なるものだ。
そして単純な興味から他の魔王はどのようなものか知りたいと思っていた。
彼女の”知りたい”という興味は戦闘力に比重がおかれている。
つまり”どっちの魔王がつよいか”という興味だ。
そのため、他の魔王の方々と剣を交わしてみたいと考えていた。
このダンジョン内にいる古来の魔王 悪路王の配下と思われるモンスターに剣を使うものはいなかったが、それでも戦うことができたので機嫌がいい。そして、そのモンスターとの戦いに勝ったので、さらに機嫌がいい。
「ちょっと、疲れたかな」
反対に床に座り込んだのは伊勢三郎だ。
もっとも、その疲労の半分は戦闘のものではない。
那須与一と皆鶴姫が敵モンスターに突っ込んでいくので、パーティが分断されたり、背後が危険な場面があった。そのフォローにまわったことによる気疲れが大きい。
「なんだ。大の男がだらしない」
「へん。俺を見習え。あひゃひゃひゃひゃ」
皆鶴姫と那須与一が座り込んだ伊勢三郎を見て、思うがままに口にした。
(お前らのせいだよ)
と伊勢三郎は言いたかったが……言わない。
自分の感情をぶつけるよりも、パーティの連携を重視した。
物語が進むにつれて、伊勢三郎の胃に穴はあくだろう。
「だいじょうぶか」
残夢がそう言って丸い玉を差し出した。
「霊薬だ。少しは疲労が回復するだろう」
伊勢三郎は
「ありがとう」
と言って、その霊薬を受け取り飲んだ。
ぐいっと濃厚なカラメルのような甘さの後に、薬草の苦みが広がった。
霊薬そのものの効果よりも残夢の心遣いがうれしかった。
「見て」
静の声にパーティーメンバーが一斉に視線をうつした。
その視線の先には今までとは雰囲気の違う扉があった。
ボスのいる部屋ということは誰もが予想着いた。
「いくぞ」
クロウは扉をあけた。
扉のむこうは巨大な空間だった。
そこに巨大な黒い人影があった。
3mは超えるだろう。
目も鼻も口もない。皺すらもない。ただの黒い人影。
その黒い人影が聳え立っていた。
入室したクロウ達に気づいた黒い人影は近づき……
拳を振り下ろしてきた。
おそろしいスピードで。
クロウ達は飛び跳ねて避けた。
静が少し遅れたが、クロウが脇に抱えて難を逃れた。
黒い人影の拳が地面と衝突する。
地面が爆発。
衝撃波と地面の残骸が飛び散った。
避難に遅れた残夢に残骸が飛来する。
が、残骸は彼の体を通過していった。
仙人ならではの回避方法だ。
「あひゃひゃひゃひゃ(゜∀゜)」
強敵を目の前にして那須与一のテンションがあがった。
与一は魔法を唱える。
「南無八幡大菩薩! 日光権現! 宇都宮大明神! 那須温泉大明神!」
戦いは必ず先手をとる。それが尊敬する義母の教えだ。
今回、先に先手をとられた。挽回するため与一は自分の最強の魔法を発動させた。
4つの魔法の同時行使だ。
与一の武器が光り輝く。武器が強化された。
与一の背から4匹の魔法の蛇が出現した。
与一が魔法の鎧に身を包んだ。
与一の体から毒煙が噴き出した。
動きをとめた那須与一に残骸が飛んできた。
しかし、魔法の鎧で守備力をあげた与一に、その攻撃は通用しない。
残骸は魔法の鎧に衝突し砕けた。
与一が四匹の魔法の蛇からマジックミサイルを放つ。
そのマジックミサイルは途中で合流し、極大のレーザーとなった。
これが与一最大の攻撃だ。
「……大墓公」
黒い人型が魔法を唱えた。
空中に黒い人影と同じ5mの大きさの四角い巨岩が複数出現した。
その姿はまるで墓標だ。
それが落下してきた。
与一が放った極太レーザーの射線にも落下。
一つ目、二つ目の巨岩は破壊したが、威力を減じた極太レーザーは三つ目の巨岩を吹き飛ばす。しかし射線を大きくずらし、壁に衝突した。
黒い人影にはあたらなかった。
「……大墓公」
再び大きな人影は魔法を唱える。
さらに巨岩の数が増えた。
その巨岩が上下に大きく動いている。
「うそだろ!」
自分の最大威力の魔法を防がれた与一は驚いている。
その与一に巨岩が落下してきた。その質量はさきほどの地面の残骸とは比べ物にならない。
「あぶないな! 南無神変大菩薩!」
伊勢三郎が魔法を唱えた。
鬼神の力を借りる魔法だ。
その鬼神の力で棒立ちの与一を素早く抱え、離脱した。
直後、巨岩が落ちた。地響きがおきる。
皆鶴姫が接近しようとしているが、上下に動きプレスを繰り返す、巨岩が多数邪魔をしていた。
静が降神魔法で加茂大明神を降ろしサンダーアローの魔法で黒い人型を狙うが、これも巨岩に邪魔されていた。
「南無八幡大菩薩―鷹―」
クロウが魔法を唱え、大きく跳躍する。
常識を超えた跳躍力で5mを超える巨岩の上に飛び乗る。
その巨岩が急上昇した。
クロウを天井と墓石で挟み圧し潰すつもりだ。
クロウはふわりと別の巨岩に飛び乗る。
巨岩が急上昇する。
クロウは別な巨岩に飛び乗る。
これを繰り返した。
まるでプラットフォーム・ゲームだ。
クロウが跳躍する。
その目の前には巨大な黒い人型がいた。
「南無八幡大菩薩ー錬ー」
クロウは魔法剣を発動させた。
その魔法剣を振りかぶり……巨大な黒い人型の頭を脳天より両断した。
そのまま自由落下で体も斬りさく。
クロウが着地した。
黒い人影が真っ二つになった。
「「「おお」」」
みんなから賞賛の声があがる。
那須与一だけはちょっと悔しそうだ。
それをぬいぐるみみたいな妖狐が頭を撫でて慰めている。
「さっすがクロウ」
静がそう言ってクロウの元へ駆け寄り背中を思いっきり叩いた。
当然……むせる。
「お前な」
クロウは静に抗議した。
「危ない!」
皆鶴姫が叫ぶ。
見ると真っ二つになったはずの黒い人影が元に戻っていた。
そして、黒い人影はおそろしいスピードで拳を振り下ろしてきた。
拳の先にはクロウと静がいた。
先ほど地面を爆発させた一撃がクロウと静を襲う。
「南無八幡大菩薩―鷹―」
クロウは跳躍の魔法を発動。
静を小脇に抱きかかえ、素早く、大きく跳ぶ。
拳の一撃を躱す。
黒い人影の拳が地面と衝突する。
地面が爆発。
衝撃波と地面の残骸が飛び散った。
地面の残骸はクロウの魔法剣と静のサンダーアローで吹き飛ばしたが、衝撃波は避けられず。直撃を受けた。
「ぐああああっ」
「きゃーっ」
衝撃波でクロウと静の肉体と衣服はズタズタだ。
血だらけになった二人。
その二人をかばうように伊勢三郎と皆鶴姫が前にでる。
「南無日光権現!」
那須与一がその二人の後ろから魔法を唱える。
那須与一の背から蛇が現れ、その蛇の口からブレスが放たれた。
そのブレスは上下に動く巨岩に阻まれる。
「京八流 -閃電-」
皆鶴姫が高速接近からの居合切りを狙う。
その皆鶴姫の目の前に巨岩が落下し進路をふさぐ。
「南無神変大菩薩!」
伊勢三郎が魔法を唱える。
鬼神の力を借りる魔法だ。鬼神の足を借り、大きく跳躍。
そのまま鬼神の足で、皆鶴姫の進路をふさぐ巨岩を蹴り飛ばした。
皆鶴姫と巨大な黒い人型との間に道が出来た。
「はああああっ!」
皆鶴姫の高速移動からの居合切りが黒い人型の足を斬る。
黒い人影の足は切断された。
しかし、その切断された足はすぐに元に戻った。
皆鶴姫は残心しながら離脱する。
そして傍にいた伊勢三郎に話しかけた。
「おかしいです」
「何かな?」
「手ごたえがありません」
「手ごたえが無いってどういうことかな?」
「ええーっと、何というか空を斬っているようなのです」
「空を……」
伊勢三郎は懸命にその原因を考えたがわからない。
わかったのは、今のままではダメージを与えられないという事実だ。
【モデル紹介】
■アルテイ
本作の悪路王のモデル
陸奥国の王。征夷大将軍 坂上田村麻呂と戦う。
【お知らせ】
こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです
■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
ライバルたちが次々と挙兵するなか、ダンジョンアタックをしていたクロウです。
こんな作品ですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




