第十九話 決戦! 川中島 その1
源三位頼政を破ったあとの平知盛の話になります。
「厄介な」
平知盛は咳をした。
以仁王や源三位頼政を破った男は戦勝パレードもそこそこに自宅に戻った。
咳がひどくなっている。
本人にとっては戦勝パレードよりも自宅に戻り薬を飲むほうが重要だった。
もちろん政治として戦勝パレードが重要ということは理解している。
当地のためには民衆に平家の強さをアピールする必要があった。
ただ、自分が出るのは面倒だ。
表に出ると様々な人間関係や感情と対応しなければならない。彼は感情の整合性をあわせることに興味がなかった。彼が興味をもっているのは数字の整合性をあわせることだ
だから、彼はあくまでも影の人間でいたかった。フィクサーのポジションがちょうどいい。
そのため火炎将軍重衡や若手の成長株 小松維盛にパレードを譲った。
火炎将軍重衡は「何で俺がそんな面倒なことを」と抗議していたが、そんなものは無視だ。心の平穏の方が優先だ。ちなみに若い維盛は喜び友達をつれて参加していた。
(なんか、仲間とウェーイとかやってたな)
平知盛はあのノリは苦手だ。
参加しなくてよかったと心から思っていた。
さて、戦勝パレードという厄介ごとを火炎将軍重衡や小松維盛におしつけたあと、平知盛は別な厄介ごとに思考を割くことにした。
以仁王の令旨だ。
「厄介な」
平知盛は再び、ため息をついた。
全国の戦士を一斉蜂起させた檄文だ。
その首謀者である以仁王や源三位頼政は平知盛が速攻で片づけたが、それで蜂起が収まるわけではない。むしろ物語でいえば序章というところだ。
厄介なのは平家のボス 覇王が暗にこの状況をつくっていることだ。
覇王は戦場の男だ。
戦がない世の中がつまらないらしい。
暗に戦をしたがっていた。
そこで戦の火種をあちらこちらにバラまいた。
源頼朝・義円・クロウといった、かつて覇王と天下を争った男の遺児を生かした。
法皇を幽閉し、尊王の志をもった人々が立ち上がりやすい環境にした
各地の領地を没収し、全国の領主の危機感を煽った。
権力の主が扇動しているようなものだ。
平知盛が厄介と思うのがそこだ。
ある意味、主君が統治の敵だった。
「まあ、愚痴ってもしょうがないな」
平知盛は紙を用意した。
思考が混乱したとき平知盛は紙に書いて考え方を整理するのが癖だ。
そこに大きく二つの文字を並べた。
源頼朝
木曽義仲
彼らは以仁王の令旨を受け取った中で、平知盛がもっとも厄介と思っている人物だ。
いろいろ令旨がバラまかれているようだが、この二人を倒せば終わる。
平知盛はそう見ていた。
そして源頼朝の横に坂東と書く。
その横に三浦、千葉、上総と書いた。
次に木曽義仲の横に信濃国と書いた。
その横に越後国 城助職と書いた。
次に火炎将軍重衡と書いた。その横に三井寺残党掃討と記載する。
その後、斎藤別当実盛、小松維盛と書いた。
次に菊王丸と書き、都と書いた。
最後に悪七兵衛景清と書いた。
平知盛はしばらくその文字を眺める。
人差し指で膝をコンコン叩く音だけがした。
やがて、大きく丸を書いた。
城助職が書かれていた場所だ。
そして その丸と悪七兵衛景清を線で結ぶ
「越後から崩す」
平知盛はそういうと悪七兵衛景清を呼んだ。
彼の側には、彼がアイデアをだしたらすぐに実行できるように、誰かが常に控えている。
その側仕えのものが速やかに悪七兵衛景清を呼びにいった。
やがて、悪七兵衛景清がきた
「どうされた」
普通の男が闇を伴って現れた。
悪七兵衛景清は魔剣士と呼ばれている。
魔剣をつかうというシンプルな理由だ。
その魔剣の名は「癡」という闇を操る魔剣だ。この闇を操るというスキルの副次効果として闇の中でも見えるというのがある。闇の中で見えなければスキルが使えなくなるからだ。
悪七兵衛景清にとって実はこの副次効果が重要だ。
彼は盲目だ。
しかし、この魔剣で闇を作れば見える。この魔剣は視覚補助具なのだ。
この事情を知るものは少ない。
知らない人物からは常に魔剣から噴き出る闇を伴って現れる不気味な男と認知されていた。
「越後国に行っていただきたい」
平知盛が要請した。
「うむ。越後国がどれだけ遠いかわかっているのかね」
悪七兵衛景清は笑顔で「いいえ」を選択した。
「……のどぐろや甘えびがうまいぞ」
「なに!」
「あと酒もうまい」
「よし、この景清に任せよ」
悪七兵衛景清は笑顔で「はい」を選択した。
HAHAHAHAという声が聞こえてきそうだ。
平知盛はため息をついた。
「冗談はここまでにして理由を聞かせろ。さすがの私も理由がわからなければ動きようがないからな」
「それはそうだ」
平知盛は頷く。
悪七兵衛景清は横にある平清盛が書いた落書きを見た。
越後国 城助職 と書いてある。そこに大きく丸が書かれていた。
「ほう、城助職を攻め滅ぼせばよいのか? よいぞ、越後国を我が領土にしてくれる」
悪七兵衛景清が言った。
「焦るな。攻め滅ぼすのはこっちさ」
平知盛が木曽義仲と書いている文字を指さした。
「うむ。木曽義仲を滅ぼせばよいのだな。それはよい。任せてもらおうではないか。それよりもなぜ、越後国にいくのか説明がほしいものだ」
「木曽義仲を滅ぼすために越後国の城助職の力を借りたいのだ。彼を味方につけ信濃国の木曽義仲を滅ぼす」
「めんどうな。直接攻めたらよいではないか」
「・・・食料をどうするつもりだ。都から兵を連れていっても食わせることはできないぞ。食糧不足で即、撤退だ」
「そうか、食べ物は重要だな。失敬失敬」
悪七兵衛景清はHAHAHAと笑ってごまかした。
平知盛は「はぁ~」とため息をついた。
平知盛が「厄介」と思っていることの一つに食糧問題がある。
今年は不作だ。
大量に食料を消費する軍隊の移動は避けたいというのが本音だ。
「つまり城助職に木曽義仲を攻めさせれば良いのだな」
「ああ、そうだ。あいつは北信濃を欲しがっている。領地は切り取り次第と言えば喜んで討伐にむかうさ」
「よい、わかった。この景清に任せよ。ついでにひとつお願いがある」
「なんだよ」
「ただ使者にいくのだけならつまらん。俺も戦いに参加するぞ」
「もちろんだ。そのために行ってもらう。越後にも信濃にも平家がどれだけ恐ろしい存在か見せつけてくれ。反乱をおこす気が今後、おきないようにな。頼むよ」
「おお、任せておけ」
悪七兵衛景清はドォンと胸を叩いた。
…………
…………
…………
悪七兵衛景清が去ったあと、平知盛はつぶやいた
「もう一つの厄介ごとをどうするべきか」
以仁王や源三位頼政を平知盛は倒した。
しかし、これはイレギュラーだった。
元々は覇王自ら出馬する予定だった。
覇王は平和に飽きていた。鵺退治の源三位頼政なら覇王の相手にちょうどよい対戦相手だ。
実際、覇王は源三位頼政との戦いを楽しみにしていた。
それはもう、背景にウキウキという文字が見えるくらいに
しかし覇王は動けなかった。そのため平知盛がピンチヒッターで出撃することになった。
覇王が戦えない
これこそが平知盛が一番頭を悩ませている「厄介」事だった。
そして、この解決方法の正解を彼はしきりに模索していた。
【モデル紹介】
■城長茂
本作の城助職のモデル
越後国を支配する越後平氏 横田河原の戦いで木曽義仲と戦う。
源頼朝の死後、倒幕の兵をあげた。
【お知らせ】
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【あとがき】
新潟といえばタレかつ丼だと思っているカロリー大好き人間です。お酒よりタレかつ丼がすき。新潟のお米との相性バツグンです。
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