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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第二章 覇王包囲網
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第十八話 婚約破棄されたでの抗議したら元婚約者の彼女から手紙がきた件

100話目到着です

読者の皆様に感謝。


源頼朝の話に戻ります。

しかし、記念すべき100話目のタイトルがコレってどうなんでしょう?

源頼朝は死にたくない。

死にたくないのだが、その方針を続けていたら代官を襲撃し挙兵することになってしまった。

挙兵すると当然、それを討とうとする相手が現れる。つまり命が狙われる。

源頼朝は頭が痛かった。


(どうしてこうなった。これもあの以仁王の令旨のせいだ。神宮十郎め。ほっとけばいいのに厄介なもの持ってきやがって)

源頼朝は心の中で悪態をついたが、それは分厚いペルソナで表にださない。

彼は自分の心の中にあるものを出すと、命が危険になるということを知っていた。


法皇幽閉、覇王による敵対勢力の所領没収を受けて以仁王が檄文を出した。

打倒覇王に立ち上がれ。

という内容だ。

それが以仁王の令旨だ


対する覇王は”以仁王の令旨を受け取った者は反逆者として処断する”とした。


源頼朝は使者である神宮十郎から”以仁王の令旨(不幸の手紙)”を受け取ってしまった。

このままでは反逆者として処断されてしまう。


そのため挙兵した。

幸い彼には北条時政という戦術眼にすぐれた男がいた。

その男の策で初陣には勝利した。


そして伊豆国を手に入れた。


しかし伊豆国のみで覇王に対抗できるとは思っていない。

源頼朝は自らの命を守るため強力な仲間を増やす必要があった。


「どうしましょう?」

源頼朝は信頼する軍師である北条時政に相談した。


ちなみに源頼朝は北条時政の娘とつきあっている。北条時政の反対を押し切ってだ。

そのため頭が上がらない。

自然、丁寧な言葉になる。

「ああん? そのためにすでに手は打ってるだろうが?」

北条時政は何でもないことのように言った。


北条時政は早くから坂東平野の武将たちを味方につける工作を進言していた。

源頼朝は安全性を増す策は大歓迎だ。その策を実行した。

この策。企画は北条時政が行ったが、実務は土肥実平という実直を絵にかいたような男が行った。

その策はある程度成功している。

特に傾国の魔王 玉藻御前を倒した勇者パーティである三浦、千葉、上総に渡りをつけることが出来たのは大きい。


「まずは三浦と合流する」

北条時政はそう断言した。


勇者パーティの一人三浦は南相模を治めている。

伊豆国で挙兵した源頼朝に近い。

それに三浦の治世は良いと聞いている。過去には移住したい国№1になったこともある。

最初に手を結ぶ大勢力としてはベストな相手だ。


「では、さっそく行きましょう」

源頼朝は珍しく軽々と腰をあげた。普段、石橋を叩きに叩いて、それでも渡らないこと男がだ。

それだけ三浦と合流しなければ命が危ないという危機感があった。

北条時政と土井実平は頷いた。


「では、私が使者となります。連絡しておきますよ」

土肥実平が三浦にアポイントをとるため、席をたった。










その令嬢の名前は八重という。

伊豆の有力貴族の伊東の娘だ。


有力貴族の娘のには”政略結婚”という宿命がある。

彼女もその宿命を背負っていた。


彼女の相手は源頼朝だった。


源頼朝は覇王と天下を争った男の遺児だ。

覇王の気持ちは誰もわからないが、なぜか源頼朝よりも年少の子は生かされた。

子供達の中には義円のように学問の府である三井寺に入学できたものもいた。


源頼朝は伊豆国に幽閉された。

彼は遺児の中でもっとも年長だった。遺児の代表とみられていた。

そのため義円のような甘い待遇ではなく、幽閉という軟禁状態におかれた。


伊豆の有力貴族である伊東には源頼朝が変な勢力に担ぎ上げられないようにするという仕事と義務があった。

その仕事と義務を実行するには血縁続きとなるのが望ましい。

政略結婚だ。


そのために源頼朝と婚約していたのが伊東家の令嬢。八重だ。


彼女は自分の役目を理解していた。

源頼朝にふさわしい相手となるため礼節を学び、恥ずかしい話だが夜の秘め事についても学んだ。


彼女は自分の宿命について悲観していない。

むしろ

「貴族令嬢と生まれたからには当然。見事に勤めをはたしますわ」

とファイトを燃やしていた。


源頼朝の容姿が美青年とまではいかなくても、整った優しそうな顔立ちだったこともその感情を後押しした。

また、たまに親公認のおうちデートをするときもあるのだが、その時の源頼朝の細やかな気遣いにも好意以上のものをもった。


もっとも、その気遣いは源頼朝が

「やべぇ。伊東の令嬢を怒らせたら命にかかわる」

という危機感から出た行為だということは神ではない八重は知らない。


単純に悪くない相手だと安心していた。

八重は政略結婚がガチャみたいなものだという事を理解していた。


運が悪ければ、自分の父親みたいな相手と結婚する場合もある。正室ではなく妾扱いのケースもある。また、相手によってはDVの可能性もあった。


しかし、源頼朝という男はその心配がない。


年齢も八重と変わらない。

正妻になれる。

DVの心配はまったくない。仮にDVをしたら父の碇を源頼朝は買う。彼は幽閉の身だ。有名人の子ではあっても。立場は弱い。父を怒らせることはできないのだ。


(もしかしたら、理想の相手じゃないかしら?)

八重はそう思った。ベストではないがベタ―な相手。

それが源頼朝だ。


ところがだ。


八重は婚約破棄された。

別に貴族パーティの最中に源頼朝に「あなたは私の妻にふさわしくない」と言われたわけではない。

「あなたはこの娘を苛めていただろう」と身に覚えのない罪を着せられたわけでもない。



現実はもっと単純。



他の令嬢に奪われたのだ。

奪った令嬢の名前は北条政子。

同じく伊豆国の有力貴族の娘だ。


政子の猛アプローチに陥落したのだ。

「だらしのない」

八重は怒るというよりも呆れた。


「あなたは貴族の義務をなんだと思っているのですか」

八重は手紙を送った。

直接会って詰問してもいいが、その場合、自分の感情がどう振れるか自分自身わからなかった。


そのため手紙にした。現代だったらメールしただろう。


返ってきたのは源頼朝からの手紙ではなかった。

北条政子からの手紙だった。


この差出人の名前にピクリとこめかみが動くのを八重は感じた。

振るえる手で手紙を開く。


そこにはこのように書いていた。


「初めまして。彼の現在の婚約者 北条政子です。

彼に届いた手紙を見てしまいました”どうして私じゃなかったの?”という内容でした。でも、その答えを聞いてもきっとつらいだけだと思います。

彼は今、とても幸せそうです。休日は私と過ごし、将来の話をして、一緒に新居を探しています。あなたと約束していたことかもしれませんが、今は私との約束になりました。

でも、安心してください。あなたが彼のためにしようとしていたことは、これから私が全部やります。ですので、もう彼の人生に関わろうとしないでください。終わった恋にしがみつく女性だと思われる前に、お互いのためにも、そのほうがいいと思いますわよ」


八重はこの手紙を破り捨てた。


「どうした八重」

父と母がきた。

無意識に叫んでしまったらしかった。


父と母は目を真っ赤にしている娘を見て思わず抱きしめた。

八重は目から涙があふれることをとめることはできなかった。事情をとぎれとぎれで話す口をとめることはできなかった。


父は怒った。

源頼朝に対しても、そして北条政子の実家、北条家に対しても


貴族どうしにも礼儀がある。今回の件はその礼儀を破るものだ。

感情的には源頼朝も北条家もすぐに攻めて捕虜にし、娘の前に連れていき詫びさせたいと考えたが、今動けば私闘扱いとなり裁判次第では領地没収の可能性がある。


だから時を待った。


そして……その時がきた。


源頼朝と北条時政が挙兵したのだ。

(よし、今なら源頼朝と北条時政を討つ兵をあげても私闘にはならない。討伐軍として堂々と討つことができる)


伊東はすぐに大庭という三浦と相模国を二分する大勢力の国王に通報した。

単独で戦うよりは確実な勝利を得るため大庭の力を借りようとしたのだ。

大庭はマジメな平家の部下だ。


源頼朝が挙兵したというのであれば反逆者として滅ぼさなければならない。

そのため約3000騎の兵を動員した。

その兵を見て伊東は頷く


(八重。必ずお前の前に源頼朝と北条政子を連れてきて謝らせるからな)

伊東は強く心に誓った。











三浦の元に源頼朝の使者、土肥実平が現れた。

なんでも伊豆国で挙兵したため力を貸してほしいということだった。


三浦は考えている

(読みは正しかったか。それにしてもどうしようかな。少し前まではすぐにでも源頼朝に味方するよって言えたんだけどね)


彼は幽閉されている源頼朝に前々から注目していた。

源頼朝はどういう意向か。坂東平野の戦士、領主、国王と繋がりを作ろうと頻繁に使者をだしていた。


三浦はそれを”覇王に挑戦するため準備を進めている”と解釈した。


彼の推測では、源頼朝は遅かれ早かれ挙兵することになる。

周りが焚きつけるからだ。


そして源頼朝は慎重だという情報も得ていた。

慎重な人間が立ち上がったのだ。勝算があって立ち上がったのだと考えた。


三浦やその仲間の千葉、上総は源頼朝が挙兵したら味方するつもりだった。

これは源頼朝に味方したいというよりは、朝廷に近い覇王に味方したくないという理由だ。

彼ら三人と彼らの仲間である那須温泉郷の領主 資さんは朝廷に含むものがある。

そのため朝廷とかかわりのない源頼朝を立てたいと考えていた。


しかし、三浦は片岡春に会った。

片岡春は言った。

「自分の家は源頼朝に滅ぼされた」と


源頼朝は坂東平野の領主・戦士達に声をかけている。

片岡家にも声をかけたらしい。

その結果、片岡家はマジメに平家に相談しようとしたらしい。

それで源頼朝は片岡家を滅ぼした。


そのように三浦は片岡春に聞いた。


(自分に逆らうものは滅ぼすというのであれば覇王とかわらない)

三浦が危惧しているのがそこだ。


覇王を退けたら、また覇王が出てきたというのであれば意味がない。


そのため三浦は源頼朝の合流依頼に対してすぐに返事が出来なくなっていた。


(どうする?)


三浦はなやんでいる。


三浦は使者としてきた土肥実平を見た。


THE 実直という男だ。

そして真剣だ。


片岡家を滅ぼした男の部下には見えない。


(やはり実際に会ってみないと判断がつかないな)

三浦はそう思った。


「事実を確かめねばならん。そして……………………場合によっては斬る」

三浦は上総の言葉を思い出す。


そうだな仮に源頼朝が覇王と同じ暴王であれば倒せばよいだけだ。


覇王よりは倒すのは容易だろう。


三浦は源頼朝の使者としてきている土肥実平にOKの返事をした。










天は曇天 空色はグレー

「雨が降ってきそうですね」

源頼朝は空を見ていった。

「ああ、こういう天気は好かねぇな」

北条時政がその質問に応じた。


今、源頼朝は馬上の人となっていた。

自分の手勢を全てつれている。


この頼朝軍団は伊豆国を出て東に向かっている。

東には三浦が国王を務める南相模の国がある。


先日、土井實平を使いとして三浦に合流希望を伝えた。

三浦は了解した。

そして顔合わせを提案してきた。一度会いたいという。


もっともな話だ

そのため源頼朝は北条時政など主要メンバー……と言っても人数が少ないため全軍だが……その軍勢をつれて三浦のいる南相模へ向っていた。


「あっ、雨」

兵の誰かが言った

ぽつ ぽつと雨が落ちてくる。


「ちっ」

その雨を見て北条時政が舌打ちをした。

「どうしました?」

源頼朝が聞いた。

確かに雨は濡れるので不快だ。

しかし、その程度の不快で、この尊敬する軍師が舌打ちすることはない。

戦場で血の雨をかぶっても動じない男だ。

普通の前に動じるわけがない。 多分。


「ここから南相模に向かう途中に川がいくつかある。雨で氾濫したら渡れねぇ」

北条時政が苦々しく言った。

酒匂川、花水川、相模川と途中、川を越えなければならない。治水の技術・概念がない時代だ。雨が降れば自然のまま氾濫する。


「確かに……これでは合流は難しくなりますね。どこかで雨宿りしますか?」

源頼朝は北条時政に確認した。

氾濫する川を無理に超える必要はない。

雨が止んでから行けばよいという判断だ。


「……しかたねぇ。ただ偵察だけは……」

北条時政が言いかけて言葉をつぐんだ。

ある一点を睨んでいる。

源頼朝が不思議に思いその視線を追った。

そこで気づいた。敵軍が接近していることに。

「あれは……伊藤殿か」

敵勢の中に知り合いを見つけた。

源頼朝は内心、ものすごく都合が悪かった。

伊藤殿の娘 八重と婚約していたことがあった。


その後、北条政子に妙に気に入られ、猛アタックを受けている内に北条政子と恋人になった。

結果、許嫁であった八重と婚約解消することになった。


その後、八重にも伊藤殿にも会っていない。

しかし、恨んでいるだろうということは想像できた。

源頼朝は逃げ出したい気分になった。


もちろん、そんな表情にださない。どんな時でも彼のペルソナは鉄壁だ。


「くそっ。大庭もいやがるっ!」

北条時政が悪態をついた。


大庭は三浦と相模国を争っている相手だ。三浦と勝負できる戦力をもっている。

三浦と合流する前の源頼朝軍では勝負にならない。

北条時政がざっと敵を見た。10倍以上の戦力差だ。


「頼朝! 八重に謝ってもらうぞ!」

伊東はそう告げると騎兵による突撃をしかけてきた。


策も何もない。人数でのごり押し。しかし必勝の作戦だ。

敵軍が津波のように襲ってきた。


(八重って、思いっきり私情だよね”平家に仇なす”とか公の大義名分じゃないのかよ)

源頼朝は内心、つっこんだが一言もそれについては何も言わない。

下手に言うと墓穴を掘りそうだ。


北条時政は源頼朝を睨んだ。

(だから、言わんこっちゃねぇ)

と言いたげだ。


彼は最愛の娘を源頼朝にとられた。

珍しく政略結婚ではなく恋愛結婚でだ。

そして伊藤家の八重姫との婚約は解消された

北条時政はその伊藤家の八重の事情も知っている。


愛娘をもつ父として伊東の言い分はよく理解できる。

むしろ心情としては伊藤の味方だ。


ただし、政治としては別だ。

伊東は同じ、伊豆国の有力貴族だ。互いに潰しあう運命だ。


「うおらぁ! 行くぞテメェ達!」

北条時政も伊東の突撃にあわせて手勢をつれて突撃する。


策は事前に行うものだ。この場で、しかも不意を突かれた時点で策も何もない。

自分たちの肉体運動で切り抜けるしかない。

そのことをこの戦場の男は知っていた。


源頼朝は内心

(どうしようと焦った)

明らかな負け戦だ。


源頼朝には優れた戦術眼をもつCOOの北条時政がいる。忠誠心MAXの義将 土肥実平がいる。しかし一騎当千の戦士がいない。


そのため源頼朝がこの乱世を乗り切るには、情報戦で勝ち、事前準備を入念に行い、戦うときにはすでに勝っている状態をつくらないといけない。


今回はそれが出来ていない。


源頼朝は目の前真っ暗になりそうなのを辛うじてこらえていた。

少なくとも総大将が不安な顔をしてはいけない。


(いけない。呆然としていても何もならない。俺は俺のできることをしないと)

源頼朝は剣を抜き切っ先を敵にむける。魔法を詠唱した

「南無八幡台菩薩!」


敵に目を向ける。

伊東の姿が見えた。


その姿が、源頼朝の不義理で婚約解消となった八重と重なった。


「あっ」

源頼朝の剣がひび割れて砕けた。

魔法が不発。暴発。空発したのだ。


その後、何度やっても魔法は成功しなかった。


「若っ! 逃げますぞ」

土肥実平が魔法を発動させようとして失敗している源頼朝の体を無理やり引っ張って自分の馬に乗せて駆けた。


源頼朝はムキになって魔法を発動させようとして気づくのがおくれていたが、敵がすぐそばまできていた。


つまり、源頼朝軍は四散していたのだ。


彼は敗戦の将となった。


ざまぁ? By 八重

【モデル紹介】

■八重姫

 源頼朝と通じ、子どもまで産んだが、その頼朝は北条政子と一緒になってしまった。

 そして子どもも失った悲劇の人。

 八重姫のことを調べれば調べるほど、源頼朝が婚約破棄モノの悪役王子に見えてしまう・・・


■伊東祐親

 本作の伊東のモデル

 八重姫の父  娘の恋愛がもとで源頼朝と対立。

 石橋山の戦いで源頼朝を破る。その後、富士川の戦いにも参戦


■大庭 景親

 本作の大庭のモデル

 石橋山の戦いで源頼朝を破る。 


【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

北条政子の手紙の内容を作るのに5日かかった筆者です。

★いただけると苦労が報われます。よろしくお願いします

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