第四十七日[その時、彼らは叫んでいた]
それは、突然の出来事だった
「よーーし!おっちゃんがこれから皆の家を家庭訪問をするおーー!!」
事務員の仕事場で突然システムデスクから立ち上がり高らかに宣言するドゥーンを別件で遊びに来ていたTHE STEGOの女王瑠美子がため息交じりに一瞥する
「ハァ…何なんですかいきなり。とうとう痴呆にでもなったんですか。まあ普段も普段で痴呆みたいな言動ばかりですけどね」
「じゃあまずヤッツーの家にでも行こうかお」
華麗に女王様からの皮肉をかわしたドゥーンは、机に置いてあるファイルを手に取り何かを調べ始める
「そういえばもうすぐ家庭訪問の時期だったね」
「……いつからいたんですか?」
瑠美子が振り返るとそこにはいつの間にか矢手弓の姿があり顎に手を当て、何やら考えているようなポーズを取っている
「さっきからだけど」
「いるならいるで声をかけてください」
「それは失敬」
瑠璃子からの睨みつけを軽く流しラウンジに向かう事にした矢手弓の後ろを漂っていた幽霊少女、シナモンは名似可に話しかける
『なあなあ、ヤチュミはん』
「何だい?」
『家庭訪問って、何なん?』
首を傾げて尋ねるシナモンに、ほんの少しだけ考え込み矢手弓は答える
「そうだね……ただの殴り合いの事だよ。谷津冶みたいな人がするような事だね」
『へー』
「全然ちゃうわ!んな危ないもんわけないやろが!?それになんでそんな物騒な具体例で俺の名前が出てくるんや!?そして納得すなや!!」
先にラウンジで過ごしていた梨田は間髪入れずにツッコミを入れる。その様子を別のテーブルから眺める三人がいた
「フハハハハ!家庭訪問、即ちDEAD OR KILLEDというやつだよなぁ小鷹?」
「いや待て蒲生。何で生きるか死ぬかのDEAD OR ALIVEじゃなくて、死ぬか殺されるかっていう意味のDEAD OR KILLEDなんだよ」
「何だよ小鷹、まさか英語の自慢でもしてイケメンアピールするつもりなのか。死ねリア充」
「……何故そうなるんだ。落ち着けよ、雷堂」
「うるさい、このモテ野郎!お前には俺の気持ちなんて一緒分からないんだよぉ!」
「フハハハハ!今日の雷堂は何やらペシミスト気味だなぁ!!」
別のテーブルに腰掛けていた蒲生、小鷹、雷堂の三人は独自の主張が激しい過ぎる余り本来あった会話の路線を別方向に脱線させてしまっていた
その様子を眺めていた名似可は一度ため息をついてから再びシナモンと向き合う
「だそうだよ、シナモン。これで分かってもらえたかな?」
『ん〜まあ良く分からんけど今おもろいからええよ!』
シナモンもシナモンであまり興味はなかったようだ。矢手弓に返事をするとすぐに何処か別の場所へ面白い物を探しに行ってしまった。まさに自由気ままとはこの事である
「そうか、それは良かったよ」
そう言って矢手弓はお茶をコップに注いでから適当なテーブルにつく
「そういやさ」
「ん?」
テーブルの上に並べた教材を矢手弓が解くのを始める間際で、向かい側のテーブルに腰掛けていた梨田が声を上げる
「家庭訪問って、去年やってたか?」
梨田から尋ねられた矢手弓自身も縦に振る事なく首を傾げる
「さあ。私はあまり上の学年とは親しくなかったから知らないけど、隆次はどうだい?」
「んー、どうだろな?上の先輩達は問題児ばかりだったからな。お説教ついでにやってたとは思う」
「ふーん」
矢手弓から話を振られ梨田のテーブルに移った雷堂からの返答に梨田は相槌を打つ
「そういえば、さっきあの筋肉ダルマが最初は谷津冶の家に行くと言っていたね」
先程の会話を思い出した矢手弓が呟くと梨田がオーバーに驚く
「マジで!?」
筋肉ダルマと言っただけでドゥーンだと分かる梨田も梨田である
「うん。マジ」
「そうかー。ドゥーンさん、うちの親とはもう会ってるから別に来なくてもいいのにな」
「君の両親と面識があったのか?」
「そりゃあったさ。一時期なんてうちに毎日入り浸っていたからさ。嫌でも顔を合わせるんだよ」
「ご両親とはどんな関係なんだい?」
「仲は良い方だよ。最後に会った時なんて『二度と来るなこの肉ダルマ!!』って親父が顔を真っ火にして怒鳴ってたぐらいだからな」
「成る程。大変仲が良いみたいだね」
矢手弓が適当に相槌を打ち、話を切り上げようとしたがそうは問屋が卸さなかった
「んなわけないだろ!?何で仲が良いのに二度と来るななんて怒鳴るんだよ。おかしいだろ!」
「…隆次、もう少し静かにしてくれないかい?」
「いやいやいや。何で俺が悪いみたいな雰囲気になってるんだよ!」
「騒がしいからじゃないかい?」
凄まじい勢いでツッコミを入れる雷堂を矢手弓はため息交じりに見つめる
「んな!?」
「確かにちょっと騒がしいかもな」
「…谷津冶、お前までもか!?」
「ブルータスネタは要らないよ」
「チィッ!」
目的を果たせずに舌打ちをつく隆次に別の人物が声をかける
「雷堂」
「ん?ッブポラ!?」
腹に一発をもらい雷堂はそのまま綺麗に弧を描きながら飛ばされていく
「全く、受験でストレスが溜まっているのは仕方がないが、ここまでうるさいとつい手を出しそうだ」
「もう出してるじゃねーかよ!」
壁に減り込む事なくスグにリカバリーしてきた雷堂を涅月が睨む
「もう少し周りの迷惑を考えて欲しいものだ」
「全くだぜ」
首を縦に振る梨田に対し涅月は再びため息をつく
「梨田、お前もだが」
「いやいや、俺は騒いでないぞ」
「代わりに常日頃から周囲を威圧しているだろ」
「俺はどこぞの田舎のヤンキーか!?」
「あと肌黒いし」
「生まれながらの地黒だよ!」
「ここまで来たらもはやただの理不尽な言い掛かりだね」
涅月と梨田のやり取りを矢手弓はお茶を飲みながら観察する
「あと柳垣先輩といちゃつくなら余所でやってくれ」
「必死に逃げ回る男性と満面の笑みで包丁片手に追いかける女性を見てイチャイチャしていると見えるなら君はスグに眼科に行きなさい」
疲れきった笑顔で涅月を聡そうとする谷津冶に向けて隆次が叫ぶ
「それをリア充だって言うんだよ!」
「何処がだよ!?」
「全部だよ!」
「いや意味分かんねえよ!?」
「昼間から女子と追いかけっこしたんだろ!それで充分満喫してんじゃねえかよ!」
「それは命の危険がない時だけだ!?だいたいこの前なんかあいつ『ねーねー、梨田君。人って一体何か斬れば死ぬのかな?』って聞いてきたんだぞ!洒落になってないぞ!」
「……お前ら」
「「へ?」」
「まとめて、吹っ飛べ!!」
ドン!
より強い力で殴り飛ばされた雷堂と梨田は今度はきちんと壁に食い込む
「ーーーそして、彼らは星になった」
自習室に戻る涅月を見送る一方、壁に減り込んだまま気絶してしまった二人を眺めてから、名似可はそのまま勉強を始める事にした




