第四十六日[帰ってきた平和な彼ら]
矢「帰ってきたね」
梨「ああ、早く家に帰りたい」
雷「疲れたぜ!」
機内でも大人しくない。それがTHE STEGO生。
「…で結局、壊れた建物とかはどうしたんだ?」
陸は至極当然の質問をした。
「何々!?誰かが建物壊したの!?」
「えっ誰ですか!?」
そこに美毅と瑠美子が食いついてくる。
「あぁ、そうか、2人は知らないんだったな」
「うん知らない!」
「で、どうなったんですか?」
「うーん、これは…」
陸の目が宙を泳いだ。
「教えなさいよここまで来たら!気になるじゃん」
「そうですよ!」
「うーん、まぁ…」
陸はそこで愛想笑いを浮かべて手をヒラヒラとさせた。
「色々あったんだよ色々と」
「何それー!」
「こんな中途半端に終わらせることないじゃないですかー!」
「んーまぁー…ごめん」
「えー!…誰か知らないかなぁ?」
美毅は辺りをキョロキョロと見回した。
「そこの、カワイイカワ「カワイく…いいかどうかは置いといて、いけない、つい反射的に…」ん?どうしたの?…じゃなくて、」
美毅は話を強引に元に戻した。
「建物が壊れた話、何か知ってる?」
「え…」
未来は視線を宙に彷徨わせた。
「えええっと、何の話か私にはさっぱり…はは」
「ふーん」
愛想笑いを浮かべる未来に美毅はじとっとした目を向けた。
「未来ちゃん、隠し事するような子だったんだ。見損なったよ」
「まぁまぁいいじゃないですか、こだちゃん」
瑠美子がフォローに入った。
「小鷹が言わないせいでみんなも言いにくいんですよ。大体、こんな中途半端なことにしたのも小鷹ですし」
「それもそうだねー」
美毅はじとぉっとした目を陸に向けた。
「そうですよ。元はと言えば小鷹が悪いんですよ」
「だねー。小鷹が全部悪い」
「いやぁーまぁ…ホントごめん」
「…どうするんですの?この状況」
シルヴィーがこっそり隆次に尋ねた。
「どうするったって、名乗り出ろってか?」
「いいえ、そんな単純な問題じゃありませんわ」
シルヴィーはそこでニヤリと笑った。
「ここでもしあなたが、自分が犯人だと名乗り出たらどうなるか…」
シルヴィーはそこで自分の考えを纏めるように黙った。
「…まずは、リュージがホークの為に自ら自供したとあの2人が騒ぎますわ。その後、ホークがリュージを庇ったとあの2人が騒ぎますわ」
「腐ってやがる…!」
隆次はギリギリ周囲に聞こえない程度の大きさで叫んだ。
「そこのお2人は何の話をしているのかな?」
ついに美毅の目が隆次とシルヴィーに向いた。
「いやっ、何も!」
隆次は慌てて手の平を見せた。
「ふーん…まぁ、どーでもいいやー」
「それより小鷹の話ですよ」
「そうだね」
美毅は視線を戻した。
それから暫く瑠美子と美毅の取り調べが続いたが、誰も真実を口に出しにくい状況だった為誰も真相を話せず、
「…誰も言ってくれないじゃんか、もう。責任取って言えよ小鷹」
「そうですよ。最初からこいつ、いけないこいつとか言っちゃった、小鷹が言わないからいけないんですよ」
そんなこんなで、機内で陸は散々な扱いだった。
「…どうしてですの?」
各自解散の後シルヴィーは陸にこっそりと尋ねた。
「ん?何が?」
「どうして、リュージを庇ったんですの?」
「いやまぁさぁ、なんかさぁ…」
陸は言葉を探すように顔を漂わせた。
「言うのも、なんか可哀想じゃんか」
「…でもリュージは、あなたの鉛筆をへし折ったのですよ?」
シルヴィーは隆次からその話を聞いていた。
「…んー、まぁな」
陸は頷いた。
「まぁでも、それはそれじゃんか?」
「ホーク…!」
シルヴィーは陸の懐の大きさに、戦慄した。
そしてTHE STEGO生達に日常が戻った。
「シャドー、これ分かんね。教えて?」
「お嬢様に近づくな不埒者の中の不埒者」
「そんなに無理に突き離すこともありませんわ」
「う…畏まりました」
「…惟紋、まさかこの状況の雷堂に取り憑いて、デスなことやダイなことをする気はないよね?」
『…やっぱお見通し?』
「同じジョークは2回繰り返してはならぬってどっかの偉い人が言ってた気がする」
THE STEGOでの日常に2人(幽霊の数詞を『人』にする)が加わり、辺りはより一層賑やかになった。
今名似何達は、ラウンジで勉強やその類いのことをしているところだ。
「名似何ー」
「これはこれは人間の諸君」
深宮は手を上げて挨拶をすると紙コップにお茶を入れた。
そして紙コップを持ったまま、名似何の正面に座った。
「…名似何、俺、生まれ変わる」
深宮は力強く言った。
「どったの?」
「確かに睡眠は大切だ。だがな、人間欲望に流されているだけじゃなんにもなんないんだよ。だから、俺は起きる!起ききってやるぞー!というわけでこれを持ってきた」
深宮は机の上に缶を置いた。
「あー!レoドブル!」
隆次が叫んだ。
「そうだ。1日に48本飲んだら死ぬとか死なないとか言われてる位カフェインが入ってることでお馴染みの〇ッ〇〇〇だ」
「なんかお前最近、矢手弓に似てきたなぁ…」
隆次は独り言のように言いながらその実本人にストレートに言うという芸を披露した。
「そうか?」
「相乗平均以下略」
名似何は聞かれようが聞かれまいが構わないが、ともかく呟くという様を見せた。
「ん?何て言った今?」
隆次には聞こえなかったようだ。
「言わないよ。こういうのは鮮度が大事だから」
「はぁ…」
「…うん、目が覚めるようだ!」
深宮はいつの間にか〇o〇〇〇を飲み干していたようだ。
「さぁて、勉強だ勉強」
深宮は自分のリュックの中から塾のテキストを取り出した。
「おー、頑張れ」
「おぅ!頑張る!」
深宮はそう言うと目の前の問題に取り組みだした。
「さて…」
名似何も目の前の問題に取り組みだした。
「…惟紋」
『なんや勉強についての質問ならお断りやで?』
「いやこれはただの計算だから」
名似何はそう言って塾のテキストの余白に計算式を書き込んだ。
「…答えがこの式だったから計算したけど、計算が合わなかったんだよ」
『はぁ、』
「まずはこの式は正しい筈だから、こうなる」
名似何は既に電卓で計算した答えを式の下に書き込んだ。
『ひぃ、字が汚くてよく見えんな』
「で、次にこの式も正しい筈だからこうなる」
名似何は答えを式の下に書き込んだ。
『ふぅ、』
「で、私がこれを足し合わせると、こうなる」
名似何は数字を書き込んだ。
『へぇ』
「だけど正しい答えは…あっ!」
名似何はそこで手を叩いた。
『ほ?』
「そっかこっちの方1桁間違ってたじゃん!」
それから名似何はブツブツ言いながら計算し直したが、出てきた答えは模範解答と同じだった。
「そっかそれかそういうことか。有り難う惟紋。助かったよ」
『え、あ…おおきに』
それから1時間、隆次の叫び声やメイドの罵声や名似何の独り言を除けば、ラウンジはシャーペンの音と寝息しか聞こえない平和な空間だった。
「ぅをををををを!」
この男が来るまでは。
「うるさい!」
「静かにして下さいよもう!」
受付で駄弁っていた美毅と瑠美子からの非難の声も聞こえないのか谷津冶はドタバタとラウンジに駆け込んだ。
そして隆次の使っている机に体重をかけて肩で息をした。
そしてそれから少しして顔を上げて目線を隆次に合わせて口を開いた。
「助け」
「黙れリア充」
隆次はいきなりそう言い放った。
「いきなり!?」
「どうせ柳垣といちゃついてたんだろ?」
隆次が妬ましそうに言った。
「だったらなんで俺が逃げてきてんだよ!」
「でもどうせ柳垣の件だろ?」
「それはそうだけど!」
「ほら!やっぱそうじゃねぇか!」
「夫婦喧嘩は犬も食いませんわ」
隆次の右隣のシルヴィーが突き放すように言った。
「そんなことで騒がないで下さい」
シルヴィーの右隣のメイドが冷たい目で谷津冶を見た。
「というわけで帰れリア充!」
「いや雷堂、この場面を見るとどちらかというとお前の方が…」
「梨田くーん!?」
真夕が谷津冶の元に爆走してきた。
「げっ!」
谷津冶が小説みたいな反応をした。
「なんでこれを被ってくれないの!頭周りマッサージ機能まで付けたのに!」
真夕は麦わら帽子を突き出した。
「その機能が…、それにその…、高3になって、麦わら帽子は…」
「いいからほら!梨田君にも効くように強烈にしといたから!」
「リア充が…っ!」
隆次は谷津冶を睨みつけた。
「いや待て雷堂!これを見ろ!」
谷津冶は真夕から麦わら帽子を奪い取るとそれを隆次に見せた。
「…イボイボが付いてるだけじゃねぇか!」
「なんで麦わら帽子にそんなん付いてるんだよ…」
「いいじゃねぇか!柳垣が言うようにマッサージになるじゃねぇか!」
「それにしてはイボが鋭すぎるんだよぉ。先端の方なんか、削りたての鉛筆並みじゃねぇか…」
「被ればいいじゃねぇかよ!お前ならまぁなんとかなるだろ!」
「無理だろぅ…!」
「無理じゃない!」
真夕は谷津冶から麦わら帽子を奪い返すと谷津冶の頭にねじ込んだ。
「痛たたたたたたた!柳垣!痛い!」
「わー、梨田イターい」
隆次は揶揄した。
「ちょっ、誰か助けてくれ!」
谷津冶は隆次達を見回した。
「ファイトだリア充」
「お幸せにですわ」
「あなた達2人の問題です」
「お経を唱えると締まる輪っかだと思えばまぁね」
『諦めるしかないんと違う?』
「お前らっ、痛ててててててて!!」
その後谷津冶と真夕はラウンジと受付の間を駆けずり回って、受付にいた人達から怒られたのは言うまでもない。
THE STEGO生達に日常が戻り、基地が5つもそれなりに平和な日々を送っていた。
しかし彼らは平穏に嫌われているようだ。
旅行から帰ってきて1ヶ月と少しすれば、その平穏は逃げ出すように崩れ去ってしまった…




