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第四十九日[必見!迷探偵柳垣真夕]

「…」

葉子はふらりとラウンジを出た。

「…な、なんか、やりすぎじゃないか?」

谷津冶は隆次とシルヴィーとメイドを見た。

「ふんっ、リア充なら当然の制裁だ!」

隆次は驕るように椅子に座った。

ガチャッ

先程葉子が出た扉が開いた。

「っ!…なんだ小康か」

隆次は僅かに浮いた体を下ろした。

「ん?俺は小康だが?…それより、葉子、どうしたんだ?」

「…やっぱり、相当落ち込んでました?」

未来が不安そうに深宮を見た。

「落ち込むっつーか…相当怒ってたぞ」

深宮が思い出すようにしながら言った。

「え!?」

隆次が叫んだ。

「おー。…なんか心当たりとか無いか?」

隆次は深宮のその言葉を無視してシルヴィーとメイドに顔を向けた。

「どどど、どうする?あいつ、相当怒ってるらしいぞ」

「いざとなれば私がお嬢様を守るから大丈夫です」

メイドは冷静に言った。

「俺は!?」

「あなたは生き餌です」

「おとりじゃねーか!」

「安心して下さい、あなたの分までしっかりとお嬢様が」

「いやだーっ!齢17でくたばりたくなぃぃい!」

「…何が起きてんだ?」

深宮が隆次を見ながら呟いた。

「その説明は私から」

名似何はぐったりと手を挙げた。

「じゃあ名似何、何がおきてるのか説明してくれ」

「…ここで『あなたは、こども宣長!』とか言う人がいないんだよね。信長でも妥協するけど」

名似何はひとしきりぶつぶつ呟いた後、

「…まぁ専門的なことはともかく、」

要領を得ない説明を始めた。

「…へぇえ、」

深宮はある程度納得したようだ。

「という流れで涅月が機嫌悪いってなったから、ああやって雷堂がびびってんの」

「成る程ー」

深宮は頷いた。

そんな話をしていると、陸が歩いてきた。

「出たなリア充!」

隆次は叫んだ。

「…またそれかよ」

陸はうんざりしたように言った。

「今日いつもより遅かったじゃねぇか!さてはデートか?」

「…なんでそうなるんだよ」

「煩せぇ!リア充は逆さ吊りだ!」

「…こいつなんかあったのか?」

陸は隆次を指差して名似何と深宮を見た。

「リア充っぽい人が1人増えたの」

名似何がゆったりと言った。

「へー…で、それがこの状態に、どう影響してるんだ?」

「そうなると、非リア充じゃない自分をより強く思い知ることになる」

「んん…そもそもさ、そのー、リア充ってのはさ、その、なんて言うんだ?、恋人がいる、とか、それだけの意味じゃないだろ?別に、他の理由で現実が充実してれば…」

「ところが事態はそう単純ではない」

陸が頑張って紡ぎだした言葉を、名似何はあっさりと切り捨てた。

「そうなのか?」

「君が言っているのは、原義のリア充だね。しかし今や、相思相愛の3次元の恋人がいることをリア充と示すようになってきた」

「へぇー…」

「まっ、私としては、恋愛したからといって現実が充実するわけじゃないと思うけどね」

名似何はひきつった笑みを浮かべた。

「そうか…じゃあ、なんで俺に恋人がいるってことになってんだ?」

「ただ単に君の見目が麗しいと多くの人が評価しているから、これだけ麗しいなら恋人もきっといるだろうって連想するんだよ」

「はぁあ、」

「…そこ否定しないんですね」

「まぁ事実だけどさ」

陸の背後から瑠美子と美毅の冷ややかな声。

「えいやだってさ、」

陸は振り向いた。

「その俺の外見に対する評価はさ、あくまで周りが言ってるだけじゃんか。だから『そう思ってます』って言われたら、『そうなんですか』としか言えなくないか?」

「…なんか正論っぽいけど腹立ちますね」

「そうだよねー、なんか腹立つ」

「…」

陸は諦めの表情を浮かべてラウンジの人のいない机の近くの椅子に座った。

「…それで、随分盛り上がってたけど何の話してたの?」

美毅は陸から目を離して尋ねた。

「今日ホークがTHE STEGOに来るのが遅かったそうで、女の所に行ったんじゃないのかとリュージが危惧していたんですわ」

「なんかその説明おかしくないか!?」

「へぇ…」

美毅は冷ややかな笑みを隆次に向けた。

「…束縛する男は、嫌われるよ?」

「だからなんでそうなるんだ!」

 隆次は助けを求めるように周りを見たが、味方はいなさそうだった。

「人の不幸は以下省略ですわ!」

「お嬢様の幸福は以下省略です」

「畜生!」



「涅月さん、大丈夫なのか…?」

翌日になって、谷津冶は名似何の後ろから心配そうに言った。

「見事に傷口に塩塗られてたからね」

「いやだってさぁ、あんなに落ち込んでた涅月さん初めて見たぞ俺…」

「解決したいんなら、そもそもなんで高上が怒ったのか突き止めてみれば?」

「いやそれは遠慮しとくわ」

谷津冶は両手を広げた。

 「梨田君おはよう!」

 そこに真夕が現れた。何故か彼女は中にバイオリンでも入っていそうな真夕よりも背の高い容器を持っている。

 「あぁ、柳垣」

 「何何?どうしたの?梨田君のテンションが異様に低いけど」

 「え…そうか?」

 「悩み事?悩み事なら、私にお任せなさい!」

 真夕は力強い目をした。

 「万世は常々フォルティシモ、だけどちょっぴりメゾピアノ。どんな悩みもこの私、柳垣真夕に相談すれば、あぁっという間にぎっくり解決!」

 「…柳垣、なんかあったのか?」

 谷津冶はきょとんとしている。

 「…ってな感じの女子に男子は弱いって電子辞書に書いてあった」

 「最近の電子辞書は高性能だね」

 名似何は呟いた。

 「さぁさぁさぁ、で、何がどうなってるの?」

 「…なんか、テンション高くないか?」

 「高いよ!今日は当社比120000000ppmのテンションでお送りしてるよ!」

 「そ…そうか」

 「ってなわけでお悩みプリーズ!」

 「…お、おう」

 という流れで、谷津冶は『涅月リア充かも事件』のあらましを語った。

 「…成る程」

 真夕は頷いた。

 「なんかこのままだと、雷堂と涅月さんが鉢合わせることが死を意味するからさ、なんとかならんかなぁと思って」

 「…まず真面目な意見を1つ、未来ちゃんが明らかに異常だよね?」

 「んぅ、まぁ、」

 「まずそこで梨田君が未来ちゃんに事情を聞く」

 「えっ!?直球だな…」

 谷津冶は遠回しに止めさせようとした。

 「あのね、梨田君が遠回しに未来ちゃんに尋ねてるとこ想像してみた。警察呼びそうになった」

 「なんだ!?俺は、『よぅそこの姉ちゃん、ちょっと俺っちと遊ばない?』とでも言ってんのか!?」

 「だって梨田君じゃん」

 「え…いや、でも…」

 「分かった。で、他に真面目な意見は?」

 名似何は谷津冶の退路を断った。

 「とにかく雷堂君と葉子ちゃんを会わせる。そして雷堂君に謝らせる」

 「それをしない為の話し合いじゃなかったのか!?」

 「…流石にそれで平和に解決はしないだろー。ドラマじゃあるまいし」

 今回は名似何も苦言を呈した。

 「逆にさ、この事件が平和に解決したらそれこそ漫画だよ?」

 「まぁそうか…」

 「おい矢手弓!騙されるな!」

 「難しいな…」

 「…というわけで、雷堂君には素直にジャンピング土下座してもらうとして、その後葉子ちゃんが殴ったり蹴ったりした方が、お互いさっぱりするよ」

 「待った。拳で語り合って仲良くなったらそっちの方がアニメだ」

 「まぁそこはあれなんだよね…」

 「矢手弓、出来れば2人が遭遇しない解決法を探さないか?…っていうか一方的すぎて拳で語り合えない気がする」

 「拳のドッヂボールか。悲しいことに、無くならないな」

 「…というわけで、まずは雷堂君を幽閉します」

 「は!?」

 「そしたらば、幽閉した雷堂君と一緒に葉子ちゃんに会いに行きます」

 「ちょっまっ柳垣!」

 谷津冶が慌てたように真夕を制した。

 「ん?どうしたの?」

 真夕はきょとんとした表情で谷津冶を見た。

 「なんで2人を会わせる前提で話進めてんだよ!」

 「え?そこから?」

 「いやまだそこ決定してないし!」

 「いやだって、こうなったら私達に出来るのは救急車を手配すること位で…」

 「諦めるなぁぁあ!!」

 「大丈夫大丈夫!雷堂君を幽閉する物は丁度用意してあるから!」

 「なんでそんなの用意してるのかは置いといてとにかく救急車のお世話になることは避けないか?」

 「うーん、でもぉ…」

 真夕は困ったような表情をした。

 「どっちにしろ、救急車にはお世話になるしぃ…」

 「は!?」

 「えいやだって、雷堂君に試せないなら予定通り梨田君で試すしかないし」

 「幽閉用具をか!?」

 「うん」

 真夕はあっさり頷いた。

 「ていうかなんで幽閉するだけで救急車のお世話になるんだよ!」

 「それは、現の物を見てもらえば分かるよ」

 真夕はそう言って持っていたバイオリンケースの様な物を手にとった。

 「…私さ、〇探偵コナンのアイテムに憧れてるんだよねー」

 「…はぁ、」

 急な話に谷津冶は対応出来ないようだ。

 「…というわけで取り出しましたるはっ!」

 真夕はバイオリンケース型の物体の蓋を開いた。

 「じゃんっ!バイオリンケース型…」

 「…拷問処刑用道具」

 名似何が言葉を引き継いだ。

 そのバイオリンケース風の物体の内側にはまばらだが刺が生えていた。

 「待て待て待て待て待て待て!」

 「ん?どうしたの、梨田君?」

 「幽閉したやつ死んどるじゃん」

 「2人共大袈裟だって」

 真夕はあははと笑った。

 「死なないように調整してあるから。…ほら、あんま刺無いでしょ?」

 真夕の言う通り、拷問処刑用にしては刺が疎らすぎる。

 「…ってことは、あれの続編として、『人はどれ位針に貫かれたら死ぬか』の実験すんのか?」

 ていうかあれ冗談じゃなかったのか。谷津冶は小さな声で呟いた。

 「違う違う。あんなネガティブな企画没に決まってんじゃん」

 真夕は笑った。

 「…で、でも、なんかの実験なんだろ?」

 「うん」

 真夕は頷いた。

 「やっぱり人間の生命力の強さを誇りたいからね、『人はどれだけ血を流しても死なないか』というテーマに…」

 「被験者の末路は変わってねぇじゃん!」

 「まぁまぁまぁ、梨田君ならまだ死なないよ。きっと」

 真夕はそれの蓋を開け、谷津冶に暗にその中に入るよう促す。

 「ちょっと待てぇえ!!」

 谷津冶はその場から逃走した。

 「あはははは、待てー」

 「おぉぉぉ!?こっち来るなぁあ!捕まりたくないぃい!!」

 2人はラウンジから駆け出した。

 「…そしていつものオチに戻る、っと」

そんなこんなで名似何が勉強と見紛う程の行いをしていると、隆次がラウンジにやって来た。

「これはこれは人間の諸君」

名似何は手を挙げた。

「よぉ」

隆次はそう返すと紙コップにお茶を注いだ。

 「…梨田が、またリア充してやがった」

 隆次は使う机の所に行きながら恨めしげに言った。

 「はは、だねー」

 それから雑談をしていると、昨日葉子が出ていった扉が開いた。

「…」

そこから葉子が入ってきた。

(あっさり揃ったな)

 さっきまでの話は一体何だったんだろうと名似何はこっそり思った。

「っ!」

隆次は一度身構えた後、

「く、来るなら来い!」

椅子から飛び出して戦いの構えに入った。

「…」

葉子は隆次を冷静に見据えた後、

「…どうしたんだ?」

怪訝な表情を浮かべた。

「…来ないのか?」

隆次はゆっくりと椅子に座り直した。

「…矢手弓、こいつに何があった?」

「私は何も言わない」

名似何は両手を挙げた、

「逃げんな矢手弓!」

隆次は叫んだ。

「…で、どうしたんだ雷堂?」

「…なんか昨日、小康が言うには、殺気が漂ってたらしいから」

「殺気…?」

葉子は少し考えるような素振りをした後、

「少なくとも、お前達に向けたものじゃない」

静かに言った。

「へ…?」

葉子は隆次をよそに自習室に消えていった。

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