第四十三日[逃げ場があるから逃げるんじゃない、逃げるから逃げ場があるんだ]
雷「くらえリア充!」
梨「待て待て!一体何の事だ!?」
矢「厄介になってきたな」
『えぇい、こうなったら仕方無ぇ!俺が直々に粉砕してやるぜ!!』
隆次は谷津冶をビシッと指差した。
「…グダグダですね」
未来は生暖かい目で画面の奥の隆次を見つめた。
『吹き飛べリア充!』
隆次は銃器の様な物を取り出した。
「…なんですかあれ?」
未来は銃器を指差した。
「なんですかあれ?」
名似何はピエールに目を向けた。
「はぁーい、あれは恐らく、MG42。ドイツ最強と言われる程強力な重機関銃でして、なんと毎分、1800発もの弾丸を撃つことが出来るんですっ!」
「ほぅ、だが、そんな凄まじいものだと、お高いのではないか?」
彦九郎はピエールをじっと見つめた。
「そう、普通なら、これだけのご商品、当然、値が張る筈ですよね?」
「静かにしてくれ」
陸にビシッと言われ、場は静まった。
名似何は改めて画面を見たが、そこには毎分1800発による弾幕など影も無く、ただチョコチョコ逃げ回る谷津冶に隆次が振り回されている映像だけが流れた。
『お前…、いい加減…、おい、撃つぞ?周りのモン色々壊れるぞ?それでいいのか?』
隆次は谷津冶のいる方に銃口を向けながら疲れきった様子で言った。
『どうぞご自由にー』
谷津冶も疲れているようだが、これ位は慣れっこのようだ。
『畜生!』
ボォォォォォォ!
隆次は辺り構わずMG42を乱射した。
『ちょっ、変態!邪魔です!』
『当たったらどうすんだぎぃゃや!』
メイドと真夕が抗議するが隆次は聞き入れていないようだ。
「…ピエール、ちょっとシャードゥーに視点変えてみて」
「はぁい、お任せあれマイギバー。ポチッとな」
ピエールがそう言うと同時にカメラがシャードゥーを映した。
「どうしたのだ矢手弓?シャドーに覚醒の兆しでも見えたのか?」
「てかここから暫く雷堂見ててもつまんなさそう」
シャードゥーは崩れゆく店から店へ飛び回りそれらを盾にすることで防御していた。
「…なんでシルヴィー先輩、この場から逃げないんですか?」
未来は誰に言うともなく尋ねた。
「ふはははは、普通こんな心臓中の血液という血液を海神の渦に掻き乱されるようなことがあったら、間近で見届けるものではないのか?」
『なかなか白熱してきましたわ!』
それに答えるように、シルヴィーは興奮気味に叫んだ。
「…そういうものなんですか」
未来は自分とは別世界の話だと言わんばかりの顔をした。
「いかにも」
彦九郎は徐に頷いた。
『くぅっ…カメラを持ってきてなかったのが悔やまれますわね…!』
『それならばこちらに』
メイドが戦いの最中急に現れ、シルヴィーにデジカメを差し出した。
『まぁ!気が利きますわね!』
シルヴィーはデジカメを受け取った。
『ふふ、不肖この私、お嬢様のお役に立てて光栄です』
メイドは満足そうな笑みを見せた。
『それはいいのですけども…前、大丈夫ですの?』
『あぁ…ご安心を』
『ぐちゃりすちゃぁ!』
メイドは真夕が突き出したナイフをかわしながら真夕の手首を掴んだ。
『…お嬢様はどこか出来るだけ安全な所へ、この少女は私が絶対に始末しておきます』
『…分かりましたわ』
シルヴィーは誰もいない方へ駆け出した。
シルヴィーは暫く駆け出すと近くの店に腰を下ろした。
『ふぅ…、ここならば安全…』
右の方から銃声が近づいてくる。
『…やはりフラグでしたわね』
シルヴィーはそう言って立ち上がるが、近くにあった店を盾にするだけでその場から離れる様子はない。どうやら間近で見る気のようだ。
そして銃声と、それに紛れた足音が大きくなってきた。
『おわっと!』
谷津冶がシルヴィーの眼前に躍り出た。
『…』
隆次の動きが止まった。
「…まぁ梨田にしてみれば、ただ単に逃げ惑って着いた所だろう」
名似何は静かに呟いた。
谷津冶は背後にいるシルヴィーに気づき、流石にシルヴィーに当たりかねないのは(後で何言われるか想像するだけで恐ろしい為)まずいと思ったのか、シルヴィーの元を離れた。
「…しかし、雷堂にしてみれば?」
名似何は小さく笑みをつくった。
『てっめ、このリア充野郎が!』
隆次は叫んだ。
『えぇー!?』
谷津冶も叫んだ。
『身を呈して彼女を守ろうとしやがって!そしてそれを、俺に見せつけやがって!!』
『えぇぇ!?いや、どんな解しゃ…』
『問答無用!!』
ボォォォォォー!!
『ぅぉおおおい!』
谷津冶は逃げ出した。
『今だ!』
隆次はシルヴィーに駆け寄った。
『何ですの!?』
隆次は状況が把握出来ないシルヴィーの背後に回った。
『こいつがどうなってもいいのかぁ!!』
隆次は左手を使ってシルヴィーを臍の辺りで両腕ごと拘束し、右手のMG42をシルヴィーのこめかみに突き立てた。
『…リュージ?MG42は、その使い方には向きませんわよ?』
シルヴィーは冷静に言った。
『お嬢様!』
メイドは叫んだ。
『ャハハ、あの子動き止まってるじゃん』
真夕は高笑いした。
『今すぐ駆けつ…』
『じゃぁあ、そろそろ、こっちも終わらしちゃってもいいよねえぇえ!』
真夕がそう言うと、真夕の姿が消えた。
『っ!』
ガッ!
真夕は左手でメイドの首を掴んだ。
『なんで、こいつ、急に強く…』
『残念でした、元々強いんですよ…!』
真夕はそのまま右手で、近くにあった10kg程の店の残骸を掴んだ。
『スタンガンクロー!』
『ぐっ!』
メイドは数m吹っ飛ぶと空中で姿勢制御をしてひらりと降り立った。
『ぴぐらとるにだぁ!』
真夕の容赦無い追撃。
『くっ!』
『ふははは!さぁどうする谷津冶?お前が大人しくこのなんか凄いやつ『MG42ですわ』…なんちゃらっていうやつの餌食になると約束するなら、こいつを解放してやってもいいぞ!』
隆次はシルヴィーを拘束したまま谷津冶を見据えて高笑いした。
『りゅーぅじぃー、落ち着けぇー。な?話し合お?そすれば分かるって。…てかシャードゥーさん、あなたなんとかして下さいよ。強いんでしょ?』
『隙だらけすぎてつまらないですわ。ピアー、あなたがなんとかなさい』
『シャードゥーさん!?』
『いちゃついてんじゃねえ!』
ドドドドドド!
『おかしいだろぉぉ!』
恐らく今の谷津冶の頭の中は、どうやったら後で責任を追及されないかということでいっぱいだ。
万が一シルヴィーが怪我を負えば、例えそれがシルヴィーの招いたものでも、責任の一部を谷津冶が負う可能性が高い。周りがそういうのだからだ。
現在の状況は圧倒的に隆次が有利。
『…懐かしい臭いがすると思ったら、なんだ子供の火遊びじゃないか』
しかしそこに、アスカが現れる。
「…およよよよよよ、予想外のことが次々とぉ!」
「まぁこれは、仕方無いね」
名似何は画面を見つめながら淡々と言った。
『ア、アスカさん…』
隆次はシルヴィーのこめかみにMG42を突きつけながら固まった。
『まぁ雷堂、まずそのおもちゃを降ろそうか』
「ふははは、まぁ雷堂とマーライオンは…」
「静かに!」
「…」
陸に制され、彦九郎は大人しくなった。
『…』
隆次は頭の中で必死に計算しているようだ。
『降ろせって』
しかしアスカはそれを許さなかった。
アスカは隆次に接近するとMG42を蹴り飛ばした。
『え…』
隆次は呆然と立ちつくすばかりだった。
『…梨田』
アスカは谷津冶に目を向けた。
『はっ、はい』
谷津冶は気をつけの姿勢で固まった。
『随分と楽しそうじゃないか。うん?』
アスカはゾクリとするような笑みを見せた。
『えっ、いや、そんな楽しくなんか…』
『はははは。まぁそう意地を張るな。…まぁ、』
アスカは視線を真夕とメイドが戦闘している辺りに向けた。
『あっちの方が、楽しそうだがな…』
アスカはゆっくりと谷津冶に歩み寄った。
『な、なな何なんすかアスカさ…』
アスカは谷津冶の胸ぐらを掴んだ。
『…というわけで、お姉さん達と遊ぼうじゃないかなぁ梨田?』
『え…何言ってんのかよくぅわぉ!』
アスカは真夕達のいる方向へ谷津冶を思いきり投げた。
「柳垣にパン!」
名似何は慌てて叫んだ。
『あはははは!メイドさん凄く強ぃょ!くろっつぉりらぷがんだぅわっ!』
メイドに接近していた真夕は突然降ってきた物体を避けようとしたのか飛び退いた。
『…梨田君!?』
真夕とメイドの間に谷津冶が割って出た。
『…痛ててて』
谷津冶がゆっくりと立ち上がった。
『まぁ、地面に埋まらなかっただけよしと…』
谷津冶は土をパンパンと払いながら何気無くか辺りを見た。
そして、固まった。
『梨田くーん?ちょっと聞きたいことがあるから、お話ししよっかー?』
真夕はそう言いながら拳を固めた。
「いやまっ、柳垣それ話し合う体勢じゃ…」
『そうですね、これは重罪になる可能性もありますから、ゆぅっくりとお話ししましょう』
メイドは新しい真剣を取り出した。
『ちょちょちょ、お2方とも待っ…』
『待ったは無ぁい!』
『コロスコロスコロスコロス!』
『うぇえぅうぇえ!』
『なかなか盛り上がってるじゃないか。さて、私も混ぜてもらおうか。勿論、途中から来たからといって何も躊躇う気は無いぞ?闘いとはそういうものだからな』
『ぅえぇうぅえぅぇ!』
「雷堂先輩が完全に無視されてる…」
未来は呟いた。
「…」
名似何は立ち上がった。
「どうされましたか我がギバーよ?」
ピエールは名似何に目を向けた。
「…暫くここを離れる。後は任した」
名似何は部屋を出た。
「闘いは見てても分からんに」
名似何は自分の携帯電話からシルヴィー家の衛星中継を見た。
但しそれは、皆が見ているものと別の衛星が映したもの。
いつかどこかで使うだろうと、繋げておいたのだ。
名似何は自室に戻って携帯電話を充電しながら隆次にカメラを向けた。
『リア充この野郎!』
携帯電話から聞こえた最初の声がこれだ。
『…いきなりどうしたんですの?』
流石のシルヴィーもこれにはついていけなかったようだ。ついでにシルヴィーは既に解放されている。
『あれを見ろよ!』
隆次は谷津冶達を指差した。
『あれがどうかしたんですの?』
『どう見ても女に囲まれてんじゃねぇか!ハーレムじゃねぇか!』
『…リュージ、あなた、そんなに女性に飢えてるんですの?』
シルヴィーは半分絶句したように言った。
『いやあれはどう見てもそうだろ!』
『…なんなら、私があそこに放り投げて差し上げても宜しくてよ?』
『それは勘弁』
コンコン
部屋の扉を叩く音がして名似何はそちらを見た。
「はあい!」
名似何は首だけ扉の方に回して答えた。
ガチャ。
「こんにちは」
魔女は微笑んだ。
「…こんにちは」
「…あの子への実験、失敗だったわ」
魔女は床に腰かけた。
「でしょーね」
「あら?そのことを、分かってたの?」
「小康は一見寝てばっかりのぼんやりした人に見えるけど、あの人の睡眠にかける思いは尋常じゃない」
「…あら、そうやって言うってことは、私が何をしようとしているのか分かっているってこと?」
「まぁ、聞きましたね」
「まったく、あなたにはなんでも話すのね」
「自分のことは言わないくせに」
名似何がそう言うと、魔女はクスリと笑った。
「…それで、本題はここからなの」
魔女はゆったりと微笑んだ。
「代わりの被験体が見つかったわ」
「…」
名似何は大きく息を吐いた。
「というわけで、異変が起きたらあなたがフォローしてね」
「…誰ですかその人は」
「ふふ…全部知ったら、面白くないじゃない」
魔女はそう言うと、踵を返して去っていった。
「その言葉は、殆ど何も知らない人が知っている人を敵視してつくったんだけどなぁ…」
名似何の呟きは、部屋に拒絶されて自然に消えた。




