思い浮かぶのは
マクノートンさんから離れる事にしたリリアンですが……。
オリアーナ様と話した一週間後。私は、レックスさんが運営する植物園を訪れていた。昼の柔らかな日差しの差す畑には、沢山の薬草が植えられている。
私が薬草に水をやっていると、レックスさんが声を掛けて来る。
「リリアン、もう昼だよ。ランチにしよう」
私は、笑顔で答えた。
「そうですね。この辺りの水やりが終わったら、休憩します」
植物園の事務所でサンドイッチを食べながら、レックスさんが言う。
「それにしても驚いたよ。リリアンが急に僕の運営する植物園で薬草の勉強をしたいって言うから」
私は、テーブルに置いてあるバスケットからサンドイッチを取りながら答える。
「以前から考えていたんです。せっかく植物について勉強しているんだから、薬草についても学んでみたいって」
嘘だ。本当は、あの花屋で働いているとマクノートンさんと顔を合わせるかもしれないから。マクノートンさんに別れを告げるのが怖いから。だから、私は逃げるように休職し、ここで働きながら勉強する事にしたのだ。
幸い、マクノートンさんは忙しいらしく、私が逃げる前に顔を合わせる事は無かった。植物園の事務所の二階に住む事もレックスさんに許され、私は充実した毎日を送っている。
マクノートンさんと一緒に行く予定だった植物園よりは小規模だけれど、十分な給料も貰えて、私は恵まれているんだなあと実感した。
「……そういえば、リリアンはマクノートンさんにプロポーズされてるんだよね。彼は、君がここにいる事を知ってるの?」
レックスさんに聞かれ、私はサンドイッチを口に運ぶ手を止めて答えた。
「あの方は知らないです。……でも、いいんです。私は結局、あの方とは結ばれないんですから」
レックスさんは、何か言いたそうにしていたけれど、結局何も言う事は無かった。
それから、私はレックスさんから薬草に関する講義を受けたり、雑草を抜く作業などをして一日を終えた。
◆ ◆ ◆
寝る時間になり、私は自室のベッドにボスンと横になる。そして、暗い天井を見ながらここ数日の事を思い返す。
この植物園での生活は、充実していて楽しい。でも、ふとした拍子に思い出すのは、マクノートンさんの顔だ。
情熱的な瞳で私にプロポーズするマクノートンさん。真剣な顔で剣の訓練をするマクノートンさん。穏やかな顔で花を見つめるマクノートンさん。
どのマクノートンさんも、大好きだ。……会いたい。マクノートンさんに会いたい。でも、私じゃあの人を幸せに出来ない。
いつの間にか、私の目からは涙が零れていた。
いけない。いつまでも引き摺ってないで、前に進まなきゃ。
そう思って手で涙を拭った時、ふと焦げ臭い匂いがした。私は、ガバリと起き上がってドアの方に駆け寄る。そして、ドアを開けて呆然とした。
目の前の廊下に、オレンジ色の大きな炎が広がっている。――火事だ。
「……嘘でしょ……!!」
私は、震える声で呟いた。炎は既に廊下を包んでいて、とてもじゃないけれどここから逃げられる状態じゃない。
レックスさんは、いつもこの事務所ではなく近くにある自宅アパートで寝泊まりしているから、助けは期待できない。
それに、この事務所は木造だ。いつ建物が崩れるか分からない。一刻も早く逃げないと!
私は、踵を返して窓の方へと近寄る。そして、窓から下を覗き込んだ。この窓の下の地面は、固い土で覆われている。
ここは二階だから、飛び降りても死なない可能性は高い。でも、見れば見るほど地面が遠く、固く見えてきた。
「あ、あ……」
私はよろよろと後ずさり、その場に立ち尽くす。どうしよう。震えて足が前に進まない。飛び降りる勇気が出ない。
部屋中に、煙が充満してきた。身体も熱くなっている。もう時間が無い。どうしよう、どうしよう……!!
私がギュッと目を瞑った時、下から声が聞こえた。
「リリアン、いるのか? リリアン!?」
私は、ハッとして再び窓の下を覗き込む。窓の下に駆けて来たのは、見慣れた赤い髪の副団長――マクノートンさんだった。
リリアンのピンチに駆けつけたのは、やっぱりマクノートンさん!
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