王女の来訪
ある日、花屋を立拗ねて来たのは……。
マクノートンさんと気まずくなった翌日。私は、朝から店先にある花の世話をしていた。プランターの花に水をやりながら、私はボーっと昨日の事を思い出す。
……どうしよう。マクノートンさんを困らせちゃった。よく考えれば、分かる事なのに。プロポーズまでした女の子が家族でもない男性の事を褒めちぎっていたら、そりゃあ面白くないよね。
それなのに私ったら、兄のように慕っているレックスさんとマクノートンさんが仲良くなれば良いとか、そんな事ばっかり考えて……。
私は、ジョウロを持つ手に力を込めて決意した。
そうだ。今日マクノートンさんが店に来たら、謝ろう。そして、好きだって伝えるんだ!
そして、水やりを終えた私が店内に戻ろうとしたその時。不意に後ろから声を掛けられた。
「ねえ。リリアンというのは、あなたかしら?」
私は、振り返って声の主を確認する。声を掛けて来たのは、長いブロンドの髪を靡かせた女性。年齢は、二十歳前後だろうか。簡素だけれど、仕立ての良い黄色のドレスを着ている。
彼女の側には馬車が停まっているけれど、その壁面を見て私は目を見開いた。王家の紋章が刻まれていたのだ。
「あの……確かに私はリリアンですけれど、何の御用でしょうか。……王家の方ですよね?」
私が震える聞くと、黄色いドレスの女性はニッコリと笑って言った。
「私はオリアーナ・オルブライト。このオルブライト王国の王女よ。今日は、あなたと話をしに来たのよ。……ヴァージル・マクノートンの事でね」
◆ ◆ ◆
その数分後、私はオリアーナ様と一緒にカフェでお茶をしていた。もちろん、ミラベルさんには仕事を抜けると話してある。
ちなみに、オリアーナ様は王女なので、護衛がいるとはいえ一般の席でお茶をするわけにはいかない。店の奥にある特別な個室でお茶を飲んでいる。
「あの……王女殿下であるオリアーナ様が、ただの花屋である私にどういった話があるのでしょうか……?」
私が恐る恐る尋ねると、オリアーナ様は一口紅茶を飲んだ後質問を返してきた。
「……リリアンさん。ヴァージルが、あなたに求婚しているというのは、本当なのかしら?」
私は、一瞬間を開けた後、ハッキリと答えた。
「……はい。結婚してくれと言われました。私が、マクノートンさんの番だからと……」
すると、オリアーナ様は、フフっと笑って言う。
「あなた、まさか、本気でヴァージルと結婚出来ると思ってるわけじゃあ無いわよね?」
「え?」
私がキョトンとした顔をすると、オリアーナ様は意地悪そうな顔で言葉を続けた。
「もしかして、知らないのかしら? ヴァージルが、王家の血を引いているという事を」
私は一瞬、何を言われているのか分からなかった。
話によると、マクノートンさんは、国王陛下の従妹が男爵家に嫁いで生んだ子供らしい。身分の違いもあり、駆け落ち同然で夫婦になった二人は堅実に暮らしながらマクノートンさんを育てたとの事だった。
「マクノートンさんが王家の血を引いていたなんて……」
私が呟くと、オリアーナ様は落ち着いた声で話を続けた。
「まあ、王位を継ぐ事も無いのだし、ヴァージルもあなたに言う必要性を感じなかったのでしょう。……でも、ヴァージルは次々と魔物の討伐を成し遂げ、もうすぐ騎士団長になるかもしれない人材なのよ? 血筋も良く活躍もしている貴族の妻が、ただの花屋で働く娘で良いのかしらね?」
私は、言葉に詰まった。オリアーナ様の言う事を否定できない。私が、マクノートンさんの未来を邪魔しているんじゃないだろうかと思わずにはいられなかった。
オリアーナ様は、更に言葉を続ける。
「それに、別に番同士が夫婦にならないといけないなんていう法律は無いのよ。どうしてもオスの獣人はメスのフェロモンに惹かれてしまうから、夫婦になるのが慣例になっているだけで……。新しいホルモン抑制剤の開発も進んでいるみたいだし、あなたがヴァージルと結婚する必要は無いのよ」
私は、愕然として視線を落とした。……そっか。私はマクノートンさんの妻になる必要性は無いんだ……。
「まあ、今後の身の振り方を考えるのね。安心して? 私は王女だし、淑女教育もしっかり受けているから、今後は私がヴァージルを支えるわ」
私は、チラリとオリアーナ様に視線を向ける。私に敵意がありそうな目をしていたけれど、やっぱりこの人、マクノートンさんの事が好きなんだ……。
「それじゃあ、私はここで失礼するわ。上位貴族とのお茶会も控えているし」
そう言って、オリアーナ様は席を立った。彼女は、自信に満ち溢れた様子でドアの方へと歩いて行く。私は、その背中をただ見つめるしか無かった。
どんどん距離が離れて行く二人の心……。




