嫉妬
新キャラ登場!
私がマクノートンさんの世話をやめてから約一週間が経った。私が花屋のカウンターで花束を作っていると、店先のドアベルがチリンチリンと軽やかな音を立てる。ドアを開けて中に入って来たのは、穏やかな笑顔のマクノートンさん。
「あ、おはようございます、マクノートンさん!」
私が元気よく挨拶をすると、マクノートンさんはニコリと笑って挨拶を返す。
「おはよう、リリアン。君は今日も笑顔が素敵だな」
私は、赤くなっているだろう顔を背けて聞く。
「あ、ありがとうございます。……マクノートンさん、今日も花を買って下さるんですか?」
「ああ。実は、私の部下が結婚する事になってな。祝いの花を買おうと思うんだ」
「わあ……おめでとうございます!」
私は思わず手を叩いた。そして、いそいそとマクノートンさんに依頼された花束の作成に取り掛かる。
アナトリアキキョウと呼ばれる、この国より少し東にある国に生息する花。結婚祝いによく使われる花だ。
私は、マクノートンさんの部下が幸せになれるよう祈りながら花束を作る。そして、花束を紙に包みながら考えた。
……私もいつか、マクノートンさんと夫婦になる日が来るのかな……。
花束が完成し、私はそれをマクノートンさんに手渡しながら言う。
「部下の方達、幸せになれると良いですね」
「そうだな。……リリアン、改めて言わせてくれ。私は……」
マクノートンさんが言いかけた時、また店のドアベルが軽やかな音を立てた。ドアの方に目を向けた私は目を見開く。
そこにいたのは、銀髪をショートカットにしたウサギ獣人の青年。眼鏡を掛けて穏やかな笑みを浮かべるその青年を、私は知っていた。
「……レックスさん……!!」
私は、パアっと目を輝かせて彼の方に駆け寄った。レックスさんは、ニコリと笑って私に話し掛ける。
「やあ、リリアン。久しぶりだね。……半年ぶりかな? 元気にしてた?」
「はい、元気です! レックスさんも元気そうで良かった……!!」
私は、呆然として私達を見つめるマクノートンさんに気付くと、慌てて彼を紹介した。
「マクノートンさん、こちら、ミラベルさんの息子さんのレックスさん。彼はまだ二十歳なんですけど、既に薬師として独り立ちしている秀才なんですよ」
すると、レックスさんが頭を下げて挨拶する。
「お初にお目にかかります。レックスと申します。その紺色の軍服、騎士団の方ですよね? いつも街の安全を守って頂き、ありがとうございます」
マクノートンさんは、戸惑いながらもレックスさんと握手をする。
「あ、ああ……騎士団で副団長をしているヴァージル・マクノートンだ。よろしく。……私と同い年なのに、薬師として独り立ちしているなんて凄いな」
「いえいえ、母が薬草に詳しい薬師と知り合いで、僕はその方のお世話になっただけですから」
レックスさんが謙虚に答えるけれど、マクノートンさんは何故か引き攣った笑顔を浮かべている。
私は、不穏な空気を振り払うように言った。
「そう言えば、レックスさん。今度、宮廷薬師の試験を受けるんですよね! それなりの実績が無いと受験資格すら与えられないのに、凄いです! 頑張って下さい!!」
レックスさんは、フワリと笑って言った。
「ありがとう、リリアン。頑張るよ。……ところで、母さんはいる? ちょっと話があるんだけど」
「あ、はい。ミラベルさーん!!」
私がカウンターの奥に呼びかけると、奥からミラベルさんが出てきた。ミラベルさんは、レックスさんを見ると腕組みをして言う。
「レックス。あんた、もう少しこっちに顔を見せな! 一人暮らしをしているとはいえ、そんなに遠い距離に住んでるわけじゃ無いんだから」
すると、レックスさんは困ったような笑顔で答える。
「ごめん、母さん。勉強が忙しくて……。試験が終わったら、もっとこっちに顔を出すようにするよ」
そして、少し言い合いをした後、ミラベルさんとレックスさんは自宅スペースの方へと向かって行った。
店内に二人きりになると、マクノートンさんがポツリと言った。
「……レックス殿は、優秀な方なのだな」
「そうなんです!」
私は、勢い込んでレックスさんを褒める。
「レックスさんとは一年前に知り合ったんですけど、優秀で優しくて、自慢のお兄さんみたいな存在なんです! 是非マクノートンさんとも仲良くして頂きたいと……」
「君は、レックス殿に惚れているのか?」
「……え?」
私は、笑顔を引っ込めて声を漏らした。マクノートンさんは、どこか醒めた表情で言葉を続ける。
「そりゃそうだよな。彼は賢くて性格も良さそうだ。おまけに、君と同じウサギの獣人。君が彼に惹かれるのも当然だろう。それに比べて俺は……番とはいえ、剣と武術しか能の無い男だ。……こんな事は言いたくないが、もし君が彼と結婚したいと言うなら、邪魔をする事は……」
こちらの方を向いたマクノートンさんは、それ以上言う事が出来なかった。私が、ボロボロと涙を零していたからだ。
「リ、リリアン……!?」
オロオロするマクノートンさんに、私は言う。
「……どうして、そんな事言うんですか……。そりゃあ、初対面でいきなりプロポーズされた時は驚きました。でも、あなたと関わる内に、あなたの優しさ、誠実さを知ったんです。もっとあなたと仲良くなりたいと思ったんです。それなのに……どうして、私がレックスさんと結婚しても良いなんて言うんですか……!?」
マクノートンさんが目を見開くのが見えた。……駄目だ。今日はもう、マクノートンさんの顔を見られない。
「……すみません、マクノートンさん。私、今こんな状態なので、今日はもうお引き取り願えませんか……?」
私が俯きながらそう言うと、マクノートンさんは「……分かった」と言って店を後にした。
一人になると、私はその場に蹲ってしまった。
どうしてこんな事になっちゃったんだろう。ついさっきまで、幸せな気持ちだったのに。マクノートンさんの部下を祝福していたのに。彼との将来も、考えていたのに。
私の目から、またボロボロと涙が零れた。
二人の仲はどうなってしまうのか!?
感想等お待ちしています!




