趣味を認めてくれる人
読んで頂けると小躍りして喜びます!
マクノートンさんから求婚されて約二週間が経った。
今日は休日。私は、街にある公園に本を持ち込んで読書をしていた。
と言っても、読んでいるのは植物の専門書。花屋で働く私は、植物の特徴や生態を勉強するのが日課になっている。いや、趣味と言った方が正しいかもしれない。
へえ……やっぱり、この植物も硬水を使って栽培しちゃダメなんだ。そんな事を考えながら本を読んでいると、不意に声を掛けられた。
「リリアン? こんな所で会えるなんて嬉しいな」
ベンチに座っていた私は、無言で本から顔を上げる。目の前にいたのは、優しい笑顔でこちらを見つめるマクノートンさんだった。
「……おはようございます、マクノートンさん。今日もお仕事ですか?」
彼の軍服に視線を向けて私が聞くと、マクノートンさんは辺りを見渡しながら言った。
「ああ。最近この辺りで人身売買をする犯罪組織が暗躍していると聞いてな。持ち回りで街を巡回する事になったんだ。リリアンも夜に街を歩き回らないようにしてくれ」
「分かりました……物騒ですね」
そう言って私は、また本に視線を落とす。すると、それを見たマクノートンさんが本を覗き込みながら聞いて来る。
「リリアン、何を読んでいるんだ?」
私は、昔の事を思い出していた。以前にも、似たような事を聞かれた事がある。そうだ、あれは私が八歳の時。
当時孤児院にいた私は、先生に字を教えてもらったばかりで、読書をするのが楽しくて仕方無かった。
そして、ある日私が孤児院の庭で本を読んでいると、外から狼獣人の男の子が入って来た。私より一歳年上だというその少年は、本を読む私を見ると聞いてくる。
「お前、何を読んでるんだ?」
私は、いつも意地悪をするその少年に怯えながら答えた。
「お、お姫様が出て来るおとぎ話……」
「なんだ。つまんなそうな本だな」
そう言うと、狼獣人の少年は私の本を取り上げ、あろう事か私の本をビリビリと破いた。
「あ……」
私が呆然として声を漏らすと、少年は意地悪い笑みを浮かべて言う。
「こんなつまらない本を読んでいる暇があったら、近くの公園で砂遊びでもした方がマシだろう。……もし公園に来たら、俺が砂遊びの道具くらい貸してやるよ。俺は今日公園で遊ぶ予定だからな」
そう言うと、少年はスタスタとその場を後にした。一人になった私は、地面に落ちた本を拾う。もうバラバラになっていて、読めそうもない。折角孤児院の先生が貸してくれたのに……。
先生は、事情を話せば分かってくれるだろう。私を怒る事は無いはず。それでも、私は本を台無しにされた事が悲しくて、悔しくて、ボロボロと涙を零していた。
嫌な事を思い出してしまったけれど、私は落ち着いた声でマクノートンさんに答える。
「これは、植物の専門書です。私は花屋に勤めているので……」
数秒の沈黙が流れる。どうしよう。マクノートンさんにも、私の趣味を否定されるのかな。
そう思っていたけれど、マクノートンさんはフワリと笑って言った。
「そうか。リリアンは勉強熱心なんだな」
「え……」
私は目を見開いた。まさか、そんな事を言ってくれるとは思わなかった。マクノートンさんは、私の本を覗き込んで言葉を続ける。
「難しそうな本だな。私も植物の知識を身に付ければもっと君と話が出来るのだが……」
考え込む彼を見て、私の心が温かくなった。ここまで私に歩み寄ろうとしてくれる人は、初めてだった。
私は、微笑んで言う。
「あの……よろしければ、今度一緒に植物園に行きませんか? 学芸員の方が、解りやすく植物の特徴を教えて下さいますよ」
「なん……だと……!?」
マクノートンさんの目が見開かれる。もしかして、植物園には行きたくなかっただろうか。
不安に思った私だけれど、マクノートンさんはこう呟いた。
「……まさか、リリアンからデートに誘ってもらえるなんて。死ぬのか? 俺はもうすぐ死ぬのか?」
一生分の運を使い果たして死ぬような事を言わないでほしい。それと、私はデートのつもりで誘ったんじゃない。
「あの……死なないで下さいね。植物園に行くの、楽しみにしていますから」
私が苦笑して言うと、マクノートンさんは満面の笑みを浮かべて答えた。
「ああ、絶対死なない! 死んでもデートに行く!!」
何という矛盾……あ、まただ。また、マクノートンさんから甘い匂いがする。もしかして、甘い匂いがするのは、私がマクノートンさんの番だからなのかな……。
春の風が、サラリと私の頬を撫でた。
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