突然のプロポーズ
ハッピーエンド確約の、獣人同士のラブストーリーです!
よろしくお願い致します!
「これで良し……と」
私リリアンは、カウンターの上に乗った花束を見て満足げに頷いた。私は花屋で働いていて、今ちょうど花束を一つ作った所なのだ。
「リリアンちゃん、もうお昼だよ。そろそろランチを取らないかい? 美味しいサンドイッチを作ったんだけどね」
そう言って店の奥から出て来たのは、店長のミラベルさん。孤児院出身の私を住み込みで働かせてくれている、優しいおばさまだ。
「ありがとうございます、ミラベルさん。ちょうどお腹が空いていたんです」
私は笑顔でそう答えると、店の奥にある休憩室へと移動した。
休憩室にある木製のテーブルと椅子。私はミラベルさんの向かい側の椅子に座ると、テーブルの上にあるサンドイッチをもぐもぐと食べ始めた。
野菜がたっぷりのこのサンドイッチは、ウサギ獣人である私の大好物だ。同じくウサギ獣人であるミラベルさんは、美味しそうに食べる私をジッと見つめている。
「……どうかしましたか、ミラベルさん?」
私が首を傾げると、ミラベルさんは溜息を吐いて言った。
「リリアンちゃん……もう十八歳だろう? そろそろ良いお相手とか見つからないかねえ……。近頃は一生独身の女性もいるみたいだけれど、あたしゃリリアンちゃんに、好きな相手と結ばれる幸せを手に入れてほしいんだよ」
「いやあ……私はどん臭くて、地味で、地位も無いですからね……。そんなお相手なんて、見つからないですよ、ハハ……」
「何を言ってるんだい!!」
ミラベルさんは、テーブルをバンと叩いて立ち上がる。
「知らないかもしれないけれど、あんたは可愛いって評判なんだよ!? その緩い三つ編みにした銀髪も、パッチリした目も魅力的だって言われてるんだから!!」
「ええっ!!」
今まで、そんな話を聞いた事が無かった。ミラベルさんは、腕を組んで言葉を続ける。
「こうなったら、私が良い男を見繕うしかないかねえ……」
「いやそんな、そこまでして頂かなくても……」
私が言いかけた時、店の方でベルの音がした。私は、立ち上がって言う。
「あ、お客さんですね。私、行ってきます!!」
そして私は、逃げるようにして店の方へと向かった。ミラベルさんが私の事を大切に思ってくれているのは分かるけれど、私はもう少しこの花屋での仕事を楽しみたい。
もし結婚なんてしたら、家庭に入る事になり、仕事を辞めざるを得ない。
私がカウンターに入ると、店の中に一人の男性がいるのが見えた。その姿を見て、私はビクリと身体を震わせる。
その男性は、赤い髪を短く刈っていて、一見人間のようだ。でもその頭からは、三角の耳がピョコンと飛び出ている。
――狼の獣人だ。
私の脳裏に、幼い日の記憶が蘇る。孤児院にいた頃、私は近所に住む狼の獣人に虐められた事がある。その獣人が私を虐めた理由はただ一つ。私に親がいないから。
虫を括り付けた木の棒を持って私を追い回したり、泥団子を投げつけたり。大人からは単なるじゃれ合いに見えただろうけれど、私にとっては途轍もなく苦痛な日々だった。
私が何も言えずに震えていると、店の中を見渡していた狼獣人は、私の方に視線を向ける。そして、驚愕したように目を見開くと、ズンズンとこちらに近付いて来た。そして、頬を赤く染めながら、いきなり私の手を自身の手で包んだ。
「……見つけた……!!」
「え……」
私が戸惑っていると、狼獣人は私を真っ直ぐと見つめて言う。
「突然済まない。私は、このオルブライト王国で騎士団の副団長を務めているヴァージル・マクノートン。……あなたのお名前は?」
いきなり名前を尋ねて来るなんて、不審者かな?……でもこの人、上等な紺色の軍服を着ているし、それなりの身分の人というのは間違いなさそうだ。
私は、戸惑いながらも答える。
「……リリアンです」
「……リリアンか。良い名だ」
そう言って、狼獣人――マクノートンさんは、フワリと笑う。その瞬間、私の顔が熱を持った。
……どうして? どうして顔が熱くなるの? この人は、いきなり私の手を握って名前を尋ねるような失礼な人なのに。昔、私に意地悪をした男の子と同じ、狼獣人なのに。
それに、なんだかマクノートンさんから、甘い香りが漂ってくる気がする……。
マクノートンさんは、ハッとした顔で言う。
「そうだ。まだ用件を言っていなかったな」
話を聞くと、マクノートンさんは、退役する上司に贈る花束を買いに来たらしい。私は、彼と上司の思い出を聞きながら花束を作っていく。
「あの、こんな感じでどうでしょう?」
しばらくして私は、おずおずと完成した花束をマクノートンさんに手渡した。赤いスイートピーやオレンジ色のバラ等を集めた花束。それを目にしたマクノートンさんは、目を細めて微笑んだ。
「ああ……上司が喜びそうだ。ありがとう、リリアン」
「い、いえ……」
私が恥ずかしさに目を背けると、マクノートンさんは甘い声で言った。
「恥ずかしがる姿も可愛らしいな……。リリアン、こんな事を言われても信じられないだろうが、君は、私の番なんだ」
「つ……番、ですか?」
私は、目を見開いてマクノートンさんの方に顔を向ける。
私達獣人は、多くが人間と同じように恋をして結婚する。まあ、政略結婚をする場合もあるけれど。
そして、番というのは、ただの恋人同士や夫婦とは違う特別な関係だ。頭で相手と離れようと思っても本能で離れられない、魂そのものが繋がっている関係。
……私は狼獣人が嫌い。だから、私がマクノートンさんの番だなんて、とてもじゃないけれど信じられなかった。
そんな私を他所に、マクノートンさんは言葉を続ける。
「……リリアン、私と結婚してくれないだろうか。君から漂う甘い香り。この胸の鼓動。間違いなく、君は私の番なんだ」
……甘い香り? そう言えば、私もマクノートンさんから甘い香りが漂っている気がした。もしかして、本当に私は彼の番なの?
いや、そんなの、認めない!
「お、お……お断りしますううううう!!」
私はそう叫ぶと、バタバタとカウンターから逃げ出した。
◆ ◆ ◆
その日の夕方。花屋の営業時間が終わり、私は店の掃除をしていた。モップ掛けをする私に、窓を拭いていたミラベルさんが言う。
「全く、マクノートンさんから花の代金を貰うのを忘れて逃げるなんて……」
「す、すみません……」
私は、俯いて謝る。
私がカウンターから逃げた後、マクノートンさんは花の代金をまだ払っていない事に気付いた。そして、彼は「すみませーん」と店の奥に声を掛け、ミラベルさんが私の代わりにカウンターに出てくれたのだ。
そしてマクノートンさんは、代金を払いつつ番の件についてミラベルさんに話してしまったらしい。
ミラベルさんは、窓を拭く作業を続けながら言う。
「騎士団の副団長だなんて高収入だし、なによりマクノートンさんは真面目そうじゃないか。結婚の話、真面目に考えてみたらどうだい? リリアンちゃん」
「いや……それはちょっと……ハハ……」
私が笑って誤魔化すと、ミラベルさんはそれ以上何も言わなかった。
◆ ◆ ◆
そして、その翌日から、マクノートンさんは毎日のように花屋に顔を出すようになった。
ある日は「自宅に飾る花が欲しい」。またある日は「団長の執務室に飾る花を見繕いたい」。とにかく、色々な理由をつけて花を買う。
花を包む私をジッと見つめるマクノートンさんを見ると、私との結婚を諦めていないのが分かる。でも、私を無理矢理デートに誘う事も無いし、結婚の言葉を口にする事もない。
私が狼獣人に恐怖を抱いているとミラベルさんから聞いて、私とゆっくり距離を縮めようとしてくれているのかな。
何となく、マクノートンさんは他の狼獣人とは違うような気がしてきた。
ブックマーク等をして頂けると嬉しいです!!




