第3章 扉を開いた先に
「ねえ、亮」
「何ー?ママ」
「何か習い事でもしてみよっか?」
「ならいごと?」
「うん。スポーツとかお絵描きとかお習字とか」
「おしゅーじて、なーに?」
「筆で字を書くの。半紙って言う薄い紙に綺麗に書くの」
「ふーん」
「興味無さそうだね」
「ママー?」
「んー?」
「音楽の先生がピアノ弾いてるのに憧れるんだ」
「ピアノのかぁー!いいねぇ!どこのお教室が良いか色々回ってみようか?」
「う...ん...」
「どうしたの?」
「もし、やっぱりやりたく無いって気持ちになったらママ怒る?」
「そんなことないよーー。パパだって言ってるでしょ。色んなことに挑戦して、どれがやりたいか決めるのが良いって」
「僕...」
「亮の心を聞かせて欲しいなぁママ」
「僕には何にもやりたいことがなかったらどうしようって...」
「見つかるまでママと探せば良いんじゃない?」
「ゆりあちゃんも居るし...」
「関係無いよ。今はママと亮のお話し」
「僕、ピアノが気になる」
「じゃあ、まずはピアノが合うかどうか実験してみよう」
「ママ」
そう言って亮は母親に抱き付いた。
翌日から色んなピアノ教室の体験入学をした。
自宅でやってるピアノ教室に亮と同い年の男の子がいた。
先生の子供だった。
「うちの子は全くピアノに興味が無くて」
先生はそう言っていたが時々ピアノ教室に顔を出していた。
女の子ばかりの生徒の中に亮がいる。
同じ一年生と知り亮に興味を持ったらしい。
「名前、なんて言うの?」
「どこ小?」
少しずつ話し掛けて来ては距離を縮めてくれた。
「オレ航太って言うんだ」
「こうた君」
「みんな、こうちゃんって呼ぶから、そう呼んで」
「うん、わかった。こうちゃん。僕は亮。みんなチビクソキモ男って言うんだ。でも、そう呼ばれたくない」
「当ったり前じゃん!誰が言ってんだ!オレがやっつけてやる!」
「ママとかに何て呼ばれてる?」
「普通に亮だよ」
「んじゃ、亮な。そう呼んでいい?」
「うんっ」
「こうちゃんはピアノやらないの?」
「だって女ばっかりだぜ」
「でも僕がいるよ」
「だなー。亮が居るならオレもピアノ始めよっかな」
「うんっ、一緒に習おう」
学校では友達が出来なくて寂しい思いをしていたがピアノに行けば航太がいる。
保育園の友達はみんなバラバラで同じ小学校ではない。
亮にとって航太は初めて出来た友達だった。
「ママ、今日ピアノでね、こうちゃんがね」
「こうちゃんってメッチャ面白いんだよ」
「こうちゃんがね」
「こうちゃんは」
家で航太の話をする亮を見て両親は安堵した。
「ねえ、アナタ」
「んー?」
「そろそろ、ゆりあちゃんも大きくなったし、このマンションじゃ手狭なの」
「だよな」
「最近、よくピアノ教室の航太くんの名前も出るし」
「うん」
「毎回、お教室に連れて行くのも大変なのよ」
「ゆりちゃんを家に置いとけないしなぁ」
「そう。今の学校では亮が可哀想だしピアノ教室の近くに引っ越すのはどうかしら?」
「だよなぁ。今度の休みに不動産巡ってみるか」
「アナタ、有難う」
休みの日に不動産を回った。
何軒目かの不動産でピアノ教室の近くに空き地が有る、持ち家は考えていませんか?と聞かれた。
今の賃料で持ち家が持てると言われ両親は家を持った方が良いと考え始めた。
その年のクリスマス前に家が完成し航太と同じ小学校へ転校した。
そして航太と同じクラスになった。
登下校もピアノも休みの日も、いつも航太と一緒だった。
「亮、ザリガニ釣りやったことある?」
「ザリガニ?」
「うん、エビみたいな形なのに手がハサミになってんだぜ」
「うわー!」
「なあ!気になるだろー」
「うんっ」
「学校の近くの沼でザリガニ釣れるって四年生が言ってたんだ」
「でも僕、道具無い...」
「亮、なに言ってんだよ!棒に糸括ってスルメイカとか付けてやるんだよ。俺、棒いっぱいあるから行こうぜ」
「うんっ、行きたい!
よっちゃんイカで釣れるかな?」
「ぎゃはははは!りょーーー!」
「えー?違ったかな?」
「亮はおもしれーなっ!よっちゃんイカは酸っぱいから釣れ無さそうじゃね?」
「じゃあ、パパに餌になるスルメ買って貰う。それでこうちゃんも一緒に釣ろう!」
「今度の土曜日学校終わったら行こうぜ」
「うんっ!」
「ザリガニ釣りかぁーー懐かしいなぁ」
「パパもやったことあるの?」
「あるある。スルメイカで釣るんだよ」
「今度の土曜日に学校終わってから、こうちゃんと行く約束したんだよっ」
「こうちゃんが棒持ってるって」
「じゃぁ、亮はスルメ用意するか?」
「うんっ!」
「明日、仕事終わりに買って来てあげるよ」
「パパありがとーー」
「良かったわね亮」
「うんっママ」
「ねえ、アナタ。家を建ててくれて有難う。亮が楽しそうに過ごしてるのが嬉しくて」
堪えていた涙が母の頬を伝った。
「こちらこそだよ。本来の亮に戻ってくれて嬉しいよな」
何気ない毎日が
子供の笑顔が
永遠に続いて欲しいと願う両親だった。




