第15章 力になりたいのに
「先生、お気を付けてお帰りください」
大河の家へ担任が来たのだ。
親子喧嘩し家を飛び出し何日も帰って来ていないと相談したのだ。
「学校へも来ておりませんし、クラスメイト、特に仲の良かった元バスケ部の子達も知らない様子で逆に私が質問されるほどでした」
「一応、警察へは届出ましたけど。心配で」
口から出まかせで言ってしまったが、本当は警察に届け出ていないのである。
そのうち帰って来るだろうと、どこかで思っていた。
ただ休みが続く状況では流石に担任へ説明しないわけにはいかず、家で起きた事を話したのだ。
「お母さん、湯川君がそれ程、お嫌いですか?」
「嫌いと言うか、その…。やはり、また何かのきっかけで大河が大怪我したらと思うと心配で。親としては付き合って欲しくない友達です」
「そうですか。お母さんのお気持ちは私も子供のいる身ですので良く分かります」
「ですが、贔屓目無しで湯川君の事を申しますと、非常に仲間思いで、自分より相手、という子です。これは仲のいい子たちにだけではありません。クラスメイトにもです」
「常に謙虚で、自分に出来ることならと元バスケ部だった子たちに毎日勉強を教えていたそうです」
「彼はみんなが帰った後に自分の勉強をしていたと湯川君の親御さんから伺いました」
「はい…息子からも聞きました」
「正直、大河君が大きく成績を伸ばしたのは湯川君の存在も大きかったと思いますよ」
「大河君の怪我は本当にお気の毒だったと思います。湯川君は大河君の仇打ちをして少年院へ行きました」
「だとしてもです。先生、仇打ちの更に仇打ちが来たらと思うと…。やはり親としてはお付き合いを控えて欲しいお友達ですよ」
「お母さんのお気持ちは分かります。ただ、今の状況で、もし大河君に何か有ったらどうされるんですか?」
「あの時、無理に私立を進めなければ、家出をしなければと後悔しても遅いんですよ」
「学校側で出来る事など限られていますし」
「もう少し大河君を信じて見守っても良いのではないでしょうか?」
「はい…。私が至らない母なのは重々承知しております」
「そういう事を申してるのではありません。学校へ来たら報告します。では今日はこの辺で失礼します」
「わざわざ、いらして下さって有り難うございます」
大河の母は頭を下げた。
「はあ、疲れる。あの親では大河も大変だろうな。せめて俺に連絡くれればな、助けてやれるのに」
担任は呟きながら車のハンドルを握っていた。
「大河、お前そろそろ家に帰れ」
「えーー」
「母ちゃんと父ちゃん心配してんじゃねーか?」
「やだよーー!友明にーちゃん、ずっと居ていいって言ったじゃん」
「言ったけどよ。やっぱり俺にも良心てのがあんだよ」
大河は従兄弟の友明が大学入学を機に一人暮らしを始めていたのだ。
そこへ逃げ込んだのである。
「一回、電話させろ」
「なんて言うの?俺の事、言わないでよ!」
「分かったから、一回な」
「もしもし、お久しぶりです。友明です。あ、はい。元気です。あはは」
「はい、ちょっと大河に手伝って欲しい事があってバイトしないかなーって思って。大河いますか?」
「そうなんですね。わっかりましたー」
「じゃ、また時間見計らって掛けます。あ、それか大河に電話くれって伝えといてください」
「はい、じゃ、お願いします。失礼します」
携帯を切った。
「友明兄ちゃん、何だって?」
「大河は今、友達と遊びに行ってるってよ」
「伝えとくってよ」
「母ちゃんは俺が居なくても心配してねーんだな。まっ、そんなもんか」
友明はその返答の軽さに違和感を感じた。
大河が家出をした事の心配の色が見えなかった。
いつもと変わらぬ声色だった。
以前、友明の両親が
「あの人は見栄っ張りで、あれじゃ旦那さんが大変よね」と言っていた事を思い出した。
大河が家を出た事が恥なのか。
見栄で隠しているだけなのか。
夜、友明は考えた。
翌朝
「大河、お前、これからどうすんだ?」
「仕事見つけて働く」
「未成年が働ける場所なんて少ないぞ」
「年誤魔化して働く!」
「はぁ。バカか、お前は」
「この部屋に居たいなら俺のバイト手伝え」
「どんなバイト?」
「動画編集」
「えーーパソコン使った事ないし持ってない!」
「俺の貸すから。いいか、お前は今年一年で高卒認定取れ。俺が教えてやる。そして来年から動画編集しながら勉強しろ。バイト代は大学に行く資金作りだ」
「俺、頑張る」
「中学には行けよ、帰って来てから手伝え」
「うん」
「俺だって親にバレたら怒られるかも知れないんだ」
「分かってるって」
だが大河は中学へは行かなかった。
行ったら親が乗り込んで来るのが目に見えて分かっていたから。
「大河くん、卒業式にも来なかったね…」
亮が言うと
「なっ。何でだろうな?」
「何が有ったんだろう…」
「大人は教えてくれねーし、俺等じゃ分かんねー事ばっかよな」
「高校行ったら会えるのかな?」
「会えたら良いな!」
そう言いながら航太は、
本当に家を出たんだと感じた。
いつか会えたら
仲間うちだけでも大河の卒業式が出来たらいいな。
俺にだけは連絡くれよ、大河。
と思っていた。




