ヘンリックの可愛い双子
最後の授業が終わり、急いで帰り支度をする。
(早く、リリを迎えに行かなくちゃ。)
朝の爆弾発言を思い出し、胸がキュッと締め付けられて、息が一瞬苦しくなる。
リリは、貴族の身分などに興味がない。ただ魔法が好きで、魔法に関わるのなら、貴族だろうが、平民だろうが関係ないと思っている。
そんなリリを、引き止めるだけの何かを示さないと、リリは本当に学園を退学してしまう。
まずは、リック兄様に相談しよう。少し不安は残るが、今は身近に信用できる大人がリック兄様しか居ない。領地にいる両親に話すと、もっとややこしい事になりそうだから、それは最終手段だ。
それから今日もリリを必ず連れ帰ること。駄々を捏ねても、必ず連れて帰る。
そうじゃないと、朝の件もあってズタボロになった俺の心は、今にも干からびてしまいそうだ。
リリには、ちゃんと責任を取って、癒してもらおう。早く可愛い笑顔が見たい。
リリの可愛い笑顔を思い、自然と表情が和らぎ笑顔が溢れる。
早くリリの所に行きたくて、足早に扉の方へと向かう。
「ユーリアス様、今からセドリック殿下達とお茶をするのですが、ユーリアス様もいかがですか?」
教室から出ようとした途端、甘ったるい声に呼び止められる。
聞こえないフリで教室を出たかったが、殿下の名を出されては無碍にできず、仕方なく振り返る。
そこには思った通り、笑顔のアンジュ嬢が立っていた。
「折角のお誘いですが、私は急いでいるので遠慮させて頂きます。すみません、セドリック殿下。」
わざとアンジュ嬢ではなく、横に立つ殿下に向かって言葉を返す。
「ええ、そんなこと言わずに、ユーリアス様ともっと仲良くなりたいです。」
俺の言葉を無視して手を伸ばそうとするアンジュ嬢を、後ろに下がって避ける。
言葉の意味も理解できないのかと苛立ち、心底不快に思う。
「コルトブル男爵令嬢、君の気持ちも分かるけど、ユーリアスは急用があるようだ。無理を言ってはいけないよ。君は、私たちとお茶をするだけでは物足りないのかな?」
セドリック殿下が、悲しそうに見える表情を作り、アンジュ嬢に向かって告げる。
「そんなことはありません。ただユーリアス様も居れば楽しいだろうなと思っただけですよ。だから、そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。セドリック殿下。」
アンジュ嬢が、殿下の手を取り、甘えるように体を寄せる。
後ろに控えるオリヴァーが顰めっ面で二人を見ており、エリオットは無表情だ。
これから、楽しいお茶会に参加する表情とは思えない。
「セドリック殿下も嫉妬してしまうので、今回は諦めます。ユーリアス様、次はぜひ一緒にお茶しましょうね。」
扉を譲ると、4人はそのまま出ていった。
セドリック殿下の何を見て嫉妬するなんて言葉が出てくるのか。張り付けた表情と本物が分からないのに、よく言える。
セドリック殿下達には悪いが、彼女に構ってくれるお陰で、アンジュ嬢は上機嫌で過ごせている。
その為、リリに理不尽な悪意を向けることも無くなった。
アンジュ嬢としては、可愛いリリを追い出せて、自分が一番だと喜んでいるのだろう。
本当に、ヒロインというものは利己的で、全く好感を持てない。確実に俺の敵だな。
♢♢♢♢♢♢♢♢
リヒトと二人、可愛い天使を迎えに魔法塔へとやって来た。
教室を出る前の嫌な記憶を、今は目の前の可愛い天使の存在で浄化している。
はぁぁ、凄く可愛い。俺の姉、可愛すぎ。
「ユーリ、リヒト、ちょっとだけ、あと少しだけ待っててね。ここだけ話したら終わりだから、もう少しよ。」
魔法は使えなくても研究は出来る。魔法塔の魔法師達と、毎日魔法について議論しているリリは、本当に楽しそうで幸せそうだ。
「まだ大丈夫だよ。俺もリック兄様に話があるから、リリも話してて良いよ。」
リリにそう言うと、俺はその場にリヒトを残して、リック兄様の研究室へと向かう。
――コンコン――
「ハイハイ、どうぞ。」
中から声がしたので扉を開けると、何やら訳の分からない道具に囲まれたリック兄様が、俺の訪問に喜んで歓迎してくれる。
「誕生会以来だね。俺の可愛い甥っ子くん。今日はどうしたの?またリリが帰らないって駄々捏ねてるの?仕方ないな。俺からも話してみよう。」
リック兄様が、立ち上がり部屋から出ていこうとするのを慌てて止める。
「違うよ。今日はリック兄様に相談があって来たんだよ。」
「相談?なになに、リリに何かあったの?」
少し楽しそうにしながら、ソファへ座るように促す。
ちょうど助手が出掛けてるとかで、リック兄様がお茶を入れてくれる。
「さあ、それで、何があったの?お兄様に何でも話してごらん。」
ワクワクと楽しそうに言われて、やっぱり相談相手を間違えたかなと思ったが、今朝の事を全て話した。
「そうか。リリが退学を考えてるね。これは、流石にマズいな。義兄さんや姉さんに知られたら、最悪国が滅びるかもよ。」
「まさか、国が滅びるまでは、流石に無いよ。」
リック兄様が首を横に振りながら、真面目な顔で答える。
「何を言ってるんだ。君たち双子は、あの二人の宝物なんだよ。その宝が、誰かに傷つけられ魔法が使えなくなり、学園からも追い出され、その結果、貴族に未練は無いって平民になってごらんよ。義兄さんは、リリが平民になれないように、絶対に王都を破壊するね。姉さんは、リリの安全を守れなかった学園に制裁を与え、止めるものは容赦なく攻撃するだろうな。ユーリ知ってる?君の両親はね、世界で一番の剣の使い手と、魔法師なんだよ。この世にあの二人に敵う相手は居ないんだ。」
確かに、リリの話を聞いて、俺も街を破壊しようと考えたが、国が滅びるとは?
俺たちの両親、そんなに怒らせたらヤバイ人たちだったの?
お父様が世界一の剣の達人だとは知ってたけど、お母様も国を滅ぼせるほどの魔法師だとは知らなかった。
「それに、俺もリリが平民になるのは反対だな。別に平民でもリリは問題なく生きていけるだろうけど、リリの将来を思うとな。平民では掴めない幸せがあるだろう。」
リック兄様が、誰かを思い出すようにして、そう告げる。
多分、俺と同じことを考えているのだろう。平民では掴めない幸せ。
貴族で、しかも侯爵家だから叶う幸せもある。
「分かったよ。国の平和の為、何より可愛いリリとユーリの為に、ここは俺に全て任せてくれ。」
ドンと胸を叩いて、リック兄様が何かを思い付いた様に、楽しそうに笑う。
「任せて平気?リリの考えを変えられる?」
少し考える素振りを見せるが、リック兄様は自信満々に答える。
「絶対に上手くいくから安心して。そうだな。作戦決行は、邪魔が入らないように、今度の休日にしよう。これは、楽しくなってきたな。フフフ。」
不安は残るが、リック兄様が大丈夫だと言うなら、リリを任せても平気だろう。
本当に大丈夫だよな…。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。
次は祝100話目。リック兄様の作戦とは?リリを説得出来るのか?
次も読んでくれると嬉しいです。応援よろしくお願いします。




