新しいクラスメイト
「アンジュ、あなたもSクラスだったのね。今日から一緒なんて嬉しいわ。こちらこそ、よろしくね。」
リリが、目をキラキラさせてアンジュ嬢を歓迎している。
他の友人達は、表情には出さないが警戒しているようだ。
一部の生徒からリリが悪者の様に言われてるのも彼女のせいだ。彼女の曖昧な態度が、リリに脅されていると勘違いされ、少しずつリリの事を悪く言う者が増えている。
そんな要注意人物とリリが関わるのは避けたいのに、同じクラスでは難しくなる。
リリは、何故か彼女には心を許していて、信用しているから、アンジュ嬢がリリを陥れようと画策してるとは言いにくい。
今は、何とか距離を取って欲しいと伝えて、リリも俺の言うことならと了承してくれたが、同じクラスだとそれも難しくなる。
「リリアーベル様、よろしくお願いします。ぜひ、私とも仲良くしてくださいね。」
アンジュ嬢が、リリの言葉に笑顔を見せる。でも、何だろう。今の言葉に何か引っ掛かる。
アンジュ嬢の言い回しが気になり、二人から一瞬だけ意識が逸れた。
「キャア!!リリアーベル様、そんなに怒らないで下さい!やっぱり私が嫌いなのですね。そんな顔されると怖いです。」
いきなりアンジュ嬢が叫んで、両手で顔を覆いグスグスと泣き出した。
突然の事に意味が分からず、リリも俺も友人達も唖然とする。
「あ…あの、アンジュ?私、別に、怒ってないわ。えっと…泣かないで。」
少しの間、みんな言葉が出なくて、アンジュ嬢の一人劇場を見せられていたが、リリの戸惑う声に、我に返る。
気付くと、リリがアンジュ嬢の隣に移動して、優しく背中を擦って彼女を宥めていた。
「だって…その蛇は、リリアーベル様の契約精霊ですよね。その精霊が睨んでくるんです。それは、契約している方の感情と同調するのですよね?リリアーベル様が、怒っている証拠ですよね。」
契約精霊と契約者が繋がっているのは事実で、感情が伝わることも有るかもしれない。但し、それがリリが怒ってる証明にはならない。随分なこじつけに腹が立ってくる。
「アンジュ嬢、その言い方は少し失礼じゃないか。リリは先程、貴方と同じクラスで嬉しいと伝えたはずだろう。それを、ルミナが睨んでるから、リリが怒ってるなんて、勝手な解釈でリリを悪く言うのは止めてくれ。」
我慢できずに、アンジュ嬢に声を荒げて抗議する。
今の言い方は他の者が聞けば、リリがアンジュ嬢をSクラスに受け入れてない様に聞こえる。
他の噂を知ってる者なら、リリがアンジュ嬢を虐げて居るのが事実だったと、余計に勘違いする者も居るかもしれない。
アンジュ嬢の発言は、完全にリリの立場を悪くする悪意有る言動だ。
「そうよ。リリは心の底からアンタと同じクラスなのを喜んでいるわ。私が睨んでる事と、リリの感情は別物よ。シャアー!!」
ルミナも怒って、彼女を威嚇する。
その姿に、アンジュ嬢が更に怯え、それを見た他の2人の生徒が、ヒソヒソと心配そうな顔で話している。
「コルトブル男爵令嬢、ユーリアスとルミナの言う通りだよ。リリアーベルは、君を歓迎している。憶測で彼女を貶めるような発言は控えた方がいい。さあ、淑女がみんなの前で泣いてはいけないよ。初めてのクラスで君も緊張しているようだね。あそこの席が空いているから、そこで少し落ち着くといい。」
セドリック殿下が、いつもの作り笑顔でアンジュ嬢へと声をかけ、端の離れた席へと案内する。
彼女は何を勘違いしたのか、顔を赤らめ、恥ずかしそうに殿下を見つめながら、端の席へと着席する。
「流石、セドリック殿下ね。彼女、すっかり勘違いして殿下をうっとり見つめているわ。ただ、目障りで邪魔だから端に連れて行かれただけなのに、何を思えばあんな表情で殿下を見ることが出来るのかしら。」
ビアトリス嬢が、辛辣な発言をしながら、感心したように二人のやり取りを見ている。
「リリアーベルへの発言に対する非難と、淑女としての行いについて窘めているだけなんですけどね。彼女にとっては、殿下が自分を心配してると受け取ったのですね。」
エリオットが、ビアトリス嬢と笑顔で言葉を交わして、その後に軽蔑の目でアンジュ嬢へと視線を移す。
「おい、リリアーベル。あの女の言うことは気にするな。勝手に勘違いして、勝手に怖がっているだけだ。リリアーベルが悪くないのは、ここにいる皆が知っている。だから、そんな悲しそうな顔をするな。」
オリヴァーの言葉に、慌ててリリの方へと視線を向ける。
今にも泣き出しそうな悲しそうな顔で、小さく笑って、アンジュ嬢を見ていた。
「オリヴァー様、ありがとう。でも、彼女を怖がらせてしまったのは事実だわ。仲良くなりたいけど、あの彼女は、私を嫌いなのかもしれないわね。」
リリの表情に、言葉に、胸が痛くて、すぐさまリリを抱き寄せる。
「大丈夫だよ。リリの可愛さや優しさを知れば、すぐに誤解は解けるよ。リリはアンジュ嬢が好き?」
「勿論、アンジュが、彼女が大好きよ。お友達だと思ってるわ。」
まだ少し悲しそうに笑って、アンジュ嬢を見つめるリリ。
そんなリリの首元からは、ルミナが嫌そうな顔をして、アンジュ嬢を睨んでいた。
「私は、嫌いよ。嫌な気配が教室中に広がってるわ。あの子のせいじゃないの?前はやっぱり良い子だと思ったのに、今日は嫌な子だったわ。」
尻尾をプイプイと振って、アンジュ嬢を敵視する。
「ルミナ、それはどういう……」
ルミナの言葉が気になって声を掛けようとすると、先生が教室に入ってくる。
「ゴルドリッチ侯爵令嬢、少し話がある。学園長がお呼びだ。」
リリが学園長室へと呼び出された。前の事もあるので、嫌な予感しかしない。
「分かりました。今行きます。」
リリがすぐに気持ちを切り替えて、先生に返事をすると、教室を出て行こうとする。
「俺も行く。」
俺もすぐに後を追う。
「駄目だ。学園長からは、一人で来るようにと言われている。」
リリが心配で、一緒に行くと告げれば、先生に止められた。
「ユーリは待ってて。一人で大丈夫だから、心配しないでね。」
そういうと、リリは教室を出ていき、それからその日は、教室へ戻って来なかった。
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