初めてのテスト最終日
テストの最終日は、騎士科と魔法科の生徒の実技テストになる。
騎士科は俺だけ、魔法科にリリとセドリック殿下、オリヴァーとリヒトがいる。
それ以外を選択している生徒は自宅待機となっているので、エリオットとビアトリス嬢は、今日は登校していない。。
「騎士科は実技だけなの?いいな。魔法科は、筆記もあるのよ。オリヴァー様とセドリック殿下に教えてもらって、何とか覚えられたけど、魔法を使うって本当に大変なのね。」
珍しくリリが弱気だ。朝起きてから、ずっと溜め息ばかり吐いている。
昨日までは自信満々だったのに、当日になって、急に不安になってしまったのか、魔動車の中でも教科書とにらめっこしている。
「新しい魔法を作ったり、魔道具作りの得意な人が何を言っているの。あんなに簡単にポイポイ魔法を使ってたのに、何か不安なことでもあるの?」
教科書を見ながら唸っているリリに、隣から顔を覗き込む。
眉間にシワが寄っているので、ツンツンと皺をつつくと、プクッと頬を膨らませて不機嫌に、俺の手を押し返した。
「はぁぁ、テストの前から疲れたわ。覚えることが多すぎて、全ての答えを書けるか心配なの。頭がパンクしそうよ。魔法の名前なんて無くていいのに、みんなちゃんと覚えてるなんて凄いわね。」
両手で頭をモミモミとマッサージしながら、リリが小さい声で魔法の固有名を順番に口にする。
「リリ以外の人は、リリの方が凄いと思っているよ。魔法の全てを無視して、高等魔法を使ってるんだからさ。」
「違うわ、何も考えないから、簡単なのよ。」
リリらしい答えに、つい笑ってしまう。
一生懸命なリリの可愛さに、俺の方は癒されつつ学園に到着した。
「リリ、今日はルミナが居ないから、気をつけるんだよ。この間の嫌な気配も正体が分かってないから、油断しないでね。」
あの日、リヒトとアンジュ嬢が抱き合っていた廊下で、嫌な気配がするとルミナは言っていた。しかし、その気配が何なのか、未だに分かっていない。
「油断はしないわ。油断したら赤点だもの。ちゃんと、気持ちを引き締めて頑張るだけよ。」
(俺の言葉は届いてないな。)
テストの事で頭がいっぱいなリリを、魔法科の教室まで送り届け、先に教室に居たオリヴァーにリリを託す。
「それじゃあ、リリ頑張ってね。俺が先に終わるから、リリが終わる頃に迎えに行くよ。」
「……あっ、ありがとうユーリ。後でね。」
去り際にリリが気づいて、笑顔で手を振る。俺も、リリに向かって手を振って、そのまま別れて騎士科の教室へと向かった。
騎士科の教室は、渡り廊下を歩いて向かい側の校舎にある。
今日は実技だけなので、その校舎にある更衣室で、動きやすいように着替えてから、訓練場へと向かう。
訓練場は、校舎から少し離れた場所にあるため、遅刻しないように急いで向かう。
ふと視線の先に、校舎に入っていく人影に、ヒラリと揺れるスカートの端が見えた気がした。
(こんな所に、令嬢が居るわけないよな。見間違いか?)
一瞬見えただけなので、見間違いかもしれない。気にはなるが、今はテストが最優先なので、取り敢えず訓練場へと急いだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢
騎士科の実技は、思ったよりも簡単だった。学生同士の一対一の模擬戦で勝負する。勝利するのは当たり前だが、剣筋も点数に加算される。
俺の場合は、どちらも学年一の実力なので、全く問題なく終了した。
(リリが終わるまで、教室で待ってようかな。)
今頃、魔法科の生徒は、筆記テストが終わって、実技テストの最中だろう。
(不安がっていたけど、上手くいったかな。)
リリが、どんな顔で戻ってくるか想像しながら、楽しみで待っていると、誰かの走ってくる音が近付いてくる。
ガラガラッと、乱暴に扉が開かれる。
「ユーリアス!やっと見つけた!大変だ!リリアーベルが保健室に運ばれた。それで…そうだ!リリアーベルが落ちたんだよ!」
肩で息をしながら、汗だくになったオリヴァーが、教室に入ってきて、信じられない事を言う。
「どういうことだ!リリが…リリが、怪我したのか。どうして……どこから落ちたんだ!まさか、教室からじゃないよな…それとも、階段か?階段から落ちたのか!リリは、リリは無事なのか!」
オリヴァーの両肩を掴んで前後に激しく揺らす。多分、必死で走ってきたであろうオリヴァーは、次の言葉を続けるため口を開こうとする……が、俺はオリヴァーを突き放し、そのまま教室を飛び出して、保健室へと走った。
「リリ!リリ無事か!」
保健室のドアを勢いよく開けると、セドリック殿下とリヒトが、深刻な顔で二人話している。
「ああ、ユーリアス。オリヴァーに会えたんだね。まずは落ち着いて。リリアーベルは無事だよ。」
「リリはどこです?怪我はないんですか?」
落ち着いているセドリック殿下に詰め寄り、リリの居場所を、状況を聞き出す。
「ユーリアス、落ち着いてくれ。リリアーベルはベットで眠っている。怪我もない。」
リヒトも冷静で落ち着いている。リリに何かあれば、二人も冷静では居られないはずだ。
「リリは…、無事なんだな?」
「無事だ。魔力暴走を起こしそうになったが、俺とセドリック殿下とオリヴァーで抑えた。ペンダントの効果とピアスの守護の効果もあって、大事にはならなかった。」
リヒトが、シャツの中からペンダントを引っ張りだし、それを見せる。
最近、ヒロイン対策でみんなに渡していたペンダントだった。
「いろんな魔法が付与されていただろう。それのお陰で抑えることが出来たようだよ。あとはピアスの守りで、リリアーベルは傷一つ付いてないから安心して。」
「リリの顔を見たい。リリは、どこですか?」
殿下が、真ん中のカーテンが閉まったベットを指差す。
そっとカーテンを開けて、中に入ると穏やかな顔で寝息を立てながらリリが眠っていた。その姿に安心して、全身の力が抜けた。
「よかった。リリ…、本当に…よかった」
リリの無事な顔を見て、その場を離れる。
「一体何があったんですか?リリはどこから落ちて、魔力暴走なんて事になったんです?」
俺の問いに、二人が首を傾げて、顔を見合わせる。
「ユーリアス、君はオリヴァーから何て言われたの?」
セドリック殿下の言葉に、今度は俺が首を傾げる。
「だから、リリがどこかから落ちて、保健室に運ばれたと……」
ガラガラッ――
「はぁ…はぁ…はぁ…、ユーリアス……おま……人の話は……最後まで…ちゃんと聞け」
保健室のドアが勢いよく開くと、先程よりも息を切らしたオリヴァーが入ってきて、苦しそうに息をしながら、何とか言葉を紡ぐ。
「ユーリアス、いいかい。」
セドリック殿下が、オリヴァーの様子を見て察したのか、事情を説明してくれるようだ。
「リリアーベルは、どこからも落ちていないよ。実技試験の時に、上手く魔法を発動出来なくて、魔力を暴走しかけたんだよ。魔力暴走に関しては、さっき話した通り問題なく落ち着いたんだけどね。問題は、リリの魔法についてなんだ。ユーリアス、落ち着いて聞いて、実は、リリアーベルが魔法を使えなくて、実技試験に落ちてしまったんだよ。」
はい?今、殿下は何と言った?リリが魔法を使えない?
「落ちたは落ちたでも、何処かから落ちたではなくて、試験に落ちたってことだ。」
リヒトが、真剣な顔で冗談の様な事を言う。
「魔法の天才が、試験に落ちた…?」
俺は、頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
次は、明日の夜に投稿予定です。よろしくお願いします。




