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最高に可愛い童顔令嬢は、最強の守護者達に守られている  作者: 文月みい


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早めの仲直りと、鈍感な天使



 テスト2日目は、筆記と実技に分かれる。残りの共通科目と、選択科目によって変わる。


 リヒトを除いた他の幼馴染み達と俺は、今日は経営科の筆記になる。

 リリやビアトリス嬢は、淑女科の筆記と実演があった。


「俺の方が早く終わるから、終わる時間に教室まで迎えに行くよ。」


 リリの淑女科のテストに実演がある分、俺より終わるのが遅い。

 今日は、淑女科のテストが最後で、そのまま帰る予定になっていた。


「別に先に帰ってもいいけど…、あっ、やっぱり運転手さんが大変だから、一緒に帰る方が良いわね。でも、ユーリはいいの?」


「俺は、リリを待ってる時間も楽しいから平気だよ。」


「フフ、いつもありがとう、ユーリ。よし、今日もテスト頑張りましょう。」


 昨日よりも笑顔に輝きが戻ってきた。リリの笑顔に釣られて、俺自身の尖った気持ちも穏やかになる。


 これ以上、リリを煩わす事が起こらないように願い、テストを受けるため席に着いた。



 ――2日目テスト終了――




「リリアーベル、話がしたいんだ。少しでいいから時間をくれないか。」


 リリのテスト終わりに合わせて教室に迎えに行くと、先にテストを終えていたリヒトが、リリに話しかけていた。急いで二人の元に向かう。


「リヒト、勝手にリリに話し掛けないでくれ。リリは、俺と一緒に帰るんだ。話す時間はない。」


 リリの気持ちを乱す者を、今は近づけたくなかった。それに、万が一のこともある。

 リヒトが、アンジュ嬢と繋がっていたら、リリに何かする可能性もある。

 ヒロインが動きだし、攻略を始めているのだ。リヒトも既に恋に落ちている可能性もある。


「ユーリ、私は大丈夫だから、少しだけリヒトと話してもいい?お願いユーリ。」


 俺が、リリのお願いを断れないのを知ってて、そんな言い方をするのだから困ってしまう。


「はぁぁ、分かったよ。その代わり俺も一緒に話を聞く。それでも良いよな?」


「ああ、ありがとう。それでいい。」


 話を聞いてくれると分かり、リヒトが嬉しそうに笑顔になる。


 廊下では邪魔になるので、空き教室まで移動して、三人で話をすることになった。


「それで、話しとは何だ。」


 教室に入ると同時に、俺から口を開く。早く終わらせて、リリをリヒトから遠ざけたい気持ちでいっぱいだった。


「この前の廊下でのことだ。あれは、本当に誤解なんだ。講義室に向かう途中に、あの令嬢が飛び出して来て、ぶつかって倒れそうになったのを支えただけだ。結果的に令嬢が抱きつく形になったけど、本当にそれだけなんだ。特別な関係とか、そう言う事は何もない。本当だ。信じてくれ。」


 少女漫画では無いのだから、そんな偶然あって堪るか。リヒトの取って付けたような言い訳に、腹が立ってきた。今すぐ、ここからリリを連れて帰りたい気持ちになる。


「そんな言葉を信じろと?お前とアンジュ嬢が抱き合っているのを実際見ているんだ。俺は、見たことしか信じない。大体、偶然抱きついた割には、お前、嫌がって無かっただろう。その後も腕を組まれて、仲良さそうだったよな。リリの事を陥れようとする令嬢と親しいお前の言葉は信じられない。これ以上、リリに近づくな。」


 リリにあんな顔をさせ、リリの敵になるかもしれない令嬢と抱き合っていたリヒトに、怒りが沸いて、口調もきつくなる。


 リヒトが、俺の言葉に顔を歪め、悲痛な面持ちで、途切れ途切れに言葉を続ける。


「でも、嘘は…言ってない。知らない令嬢に、抱きつかれて…驚いて…動けなくなった。腕を組んでたなんて、そんなの記憶に…ない。正直…リリアーベルに、見られて…頭が真っ白になったんだ。直ぐに、誤解を解きたかったが、あの時の…リリアーベルの顔を見たら…直ぐに…言葉が、出なくて。でも、本当に、誤解なんだ。令嬢とは、何もない。どうか、俺の事を信じて欲しい。」


 疑うことを知らないリリなら、直ぐに信じてしまいそうで、リリが何か言う前に、俺はもう一度リヒトを拒絶した。


「何度言われても信用できない。アンジュ嬢と親しい奴は、リリに近づけることは出来ない。」


 俺に何を言われても、リヒトはずっと目を逸らさず前を見ていた。

 必死に言葉を続けるリヒトに、黙って聞いていたリリが彼の前に立つ。


「リヒト、もう一度、私の目を見て真実だけを話して。」


 リリが真剣な目で、何かを見極めるように彼だけをじっと見つめる。


「あの時、倒れそうな令嬢を支えただけで、本当に誤解なんだ。抱きつかれて驚いて、反応が遅れたのも本当だし、それをリリアーベルに見られて、頭が真っ白になって、何も言えなくなったのも本当だ。あの令嬢とは、本当に特別なことは何もない。俺は、君にだけは、リリアーベルにだけは、誤解されたくない。君に誤解されて、避けられたままなのは嫌なんだ。どうか俺の言葉を信じて欲しい。お願いだ、リリアーベル。」


 リヒトは、真っ直ぐにリリだけを見つめて、今にも泣き出しそうな顔で、信じて欲しいと必死に懇願する。

 いつも余裕な彼の、こんな弱く必死な姿は初めて見た。


 そんなリヒトの両頬を、精一杯に背伸びしたリリが両手で包む。ぐいっとリヒトの顔を引き寄せ、自分以外が視界に入らないように、間近でしっかりと顔を合わせる。


「私は、リヒトを信じるわ。リヒトは嘘を言ってない。ずっと一緒にいるんだから、リヒトが嘘をついたら分かるのよ。私はリヒトの言葉を信じてる。」


 リリの信じてるの言葉を聞いて、リヒトが目を閉じ、何かを噛み締めるようにして、グッと息を飲む。

 そして、ゆっくりと目を開くと、リリの両手に自分の両手を重ねた。その手をぎゅっと握って、リヒトが甘えるようにして、リリの手に頬を擦り寄せる。


「俺は、リリアーベル以外の女性に触れたいとは思わない。あの時は、抱きつかれて仕方なかったが、いつでもどんな時でも、俺から触れるのはリリアーベルだけだ。それだけは覚えていて。」


 近距離で見つめ合う二人に耐えられない。


 二人が甘い雰囲気になってきたのを、綺麗さっぱりぶち壊すため、リリを後ろから抱きしめ、リヒトから引き剥がす。

 名残惜しそうに、リリの両手を離すリヒトに、イライラが収まらない。


「こんな嘘みたいな言い訳を本当に信じるの?リリは、それでいいの?」


「いいのよ。ユーリだって、本当はリヒトが嘘を言ってないって分かってるでしょ。それに、リヒトはアンジュの事を知らないみたいだからいいの。」


 リリの言葉に、それはないだろうとリヒトを見ると、本気で知らないって顔で此方を見ている。


「いや、リヒト、最近アンジュ嬢に会っているだろう。図書室では、彼女に意見してたし、勉強会にも彼女はずっと参加しているじゃないか。それ以前にも会ったことあるし、知らないわけ無いだろう。」


 リヒトは少し考えて、「あっ」と小さく声を出し、今思い出したような顔を見せる。


「会ったことのある令嬢だったんだな。余り令嬢の顔は覚えてないから知らなかった。ああ、だから誤解されて、俺が裏切り者として避けられてたのか。」


 リリは、そんなリヒトを見て、随分とスッキリした顔だ。ご機嫌で可愛い笑顔を見せている。誤解が解けて、リリもリヒトも嬉しそうだ。


「二人が良いなら何も言わないけど、俺だけスッキリしないのは、どうしたらいいんだ。はぁ、もういいや。二人とも、もう帰ろう。」


 二人の仲直りに、素直に納得できないまま廊下に出ると、ビアトリス嬢が心配そうな顔で待っていた。


「ああ、リリアーベル、リヒト様に呼ばれたと聞いて心配したのよ。」


「ビアトリス!待っててくれたの?心配させちゃったのね。ごめんなさい。でも、リヒトから事情を聞いて、仲直り出来たから大丈夫よ。」


 ビアトリス嬢が、リヒトを一瞬睨んで、リリに視線を戻す。


「リリアーベルは優しすぎて、直ぐに騙されるから心配だわ。ユーリアス様も一緒に話を聞いたのですよね?本当に大丈夫です?信用できるのですか?」


 ビアトリス嬢が、俺にも確認してくる念の入れように苦笑する。


「大丈夫です。アンジュ嬢とは無関係です。どうやら、彼女から接触してきたようですが、リヒトは彼女の事を覚えてないようですよ。」


 ビアトリス嬢は、驚いた顔でリヒトを見た後、疑いの目に変わり、リヒトの様子を観察する。

 その気持ちは十分理解できる。さっきの俺と同じ気持ちだろう。何度も会ったことのある人を覚えてないなんて、貴族としても人としても有り得ない。


「令嬢の顔は、リリアーベル以外みんな同じに見える。」


 リヒトの言葉に、唖然とした顔のビアトリス嬢が、ハッと何かに気づいて質問する。


「私の事は分かります?」


 これは、答えを間違ってはいけない質問だ。間違えばビアトリス嬢は、リヒトがリリと関わることは絶対に許さないと思う。

 答え次第で血を見ることになる。リヒト間違えるなよ。祈る気持ちで見守る。


「ビアトリス嬢だろ。リリアーベルの親友は知ってる。」


 親友という言葉に、ビアトリス嬢が反応して、我慢できずに笑みがこぼれる。どうやら大正解を引き当てたようだ。


「そう、そうです。私は、リリアーベルの親友ですよ。ちゃんと知っているならいいのです。」


「よかったね。ビアトリス。」


 リリも嬉しそうに笑う。その笑顔にビアトリス嬢に何かのスイッチが入ってしまったようだ。リリをぎゅうと抱きしめて、「可愛いわ。」と小さい声で連呼している。

 

 暫く、リリをぎゅうぎゅうと抱きしめてから、我に返ったビアトリス嬢は、今度はリリに質問を投げかける。


「それで、リリアーベルは本当に平気?胸のモヤモヤは無くなったの?」


「もう平気よ。あれは、少し昼食を食べ過ぎただけなの。それで、なんかお腹の辺りがムカムカ?モヤモヤ?してて変な感じになってたの。でも、翌日には良くなったから大丈夫よ。」


 健康をアピールするリリを、ビアトリス嬢が信じられないものを見るような目で凝視する。


「食べ過ぎた?えっ?待って、まさか…リリアーベルは、あれが何か気づいてないわけ?無自覚?冗談でしょ。あんな表情をしておいて?何それ。今も二人ともすごーく距離が近いのに気づいてないの?えっ?鈍感すぎない?」


 ビアトリス嬢の心の声がダダ漏れだ。普段は淑女の鑑と言われ、常に冷静で言葉も丁寧な彼女が、こんなに動揺して言葉乱れるのを見たことがない。


「ビアトリス嬢、落ち着いてください。全部声に出てます。」


「へぁっ…。ご、ごめんなさい。少し動揺してしまったわね。」


 俺の呼び掛けに、すぐさま令嬢の仮面をつけ直し、深呼吸して落ち着いたようだ。


「リリアーベル、その、あの時の事だけど…」


「ビアトリス嬢!待ってください。それ以上は駄目です。」


 ビアトリス嬢が、リリに答えを教えようと言葉を続けたので、俺は直ぐに、それを止める。


「ユーリアス様どうして……、いえ、そうですね。これは、自分で気づくべき事ですね。リリアーベルにとって大切な事ですもの。」


 ビアトリス嬢は、それ以上は何も言わなかった。

 リリは不思議そうに、俺とビアトリス嬢の会話を聞いていた。


 鈍感な天使には、まだ答えは教えない。まだ、今はこのままのリリでいて欲しい。

 だから、なるべくゆっくりでいいよ。その気持ちの正体を自覚するのは、ずっとずっと先でいい。

 

「そういうことで、リヒトも過剰な接触は禁止だからな。今回リリを悲しませた罰として、明日まで王宮で過ごすこと。」


「折角、許してもらったのに帰れないのは辛い…が、テストが終われば帰っていいってことだな。分かった。許してくれてありがとう。ユーリアス。」


 不満そうな顔から一転、明後日には帰れると知って、リヒトが笑顔を見せる。

 うん、リリも嬉しそうだ。結局俺は、リリの天使の笑顔に弱いんだよな。

 

 明日は、魔法科の実技がある。その前に仲直りできて、リリのためには良かったのかもしれない。

 

 初めて、教科書通りの決まった魔法を行使するのだから、リリの精神的な安定は大事だ。

 初めてのテスト最終日、明日が一番の正念場だ。

 

 


♢♢♢♢♢



 翌日、テスト最終日。



「ユーリアス!大変だ!リリアーベルが保健室に運ばれた。それで…そうだ!リリアーベルが落ちたんだよ!」


 信じられない言葉を、オリヴァーから聞いて、俺はそのまま保健室へと走った。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 

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