初めてのテスト ⑦
ここ数日は、勉強会も当たり前になって、放課後になると自然と大講義室へ集まるようになった。
「リリアーベル、意識的に魔力を巡らせる事は、出来るようになったかい?」
「勿論、ちゃんと出来てますよ。''無意識ではなく自分で意識して感じて''ですよね。大丈夫です。」
リリが、可愛い天使の笑顔でセドリック殿下に答えている。
「リリ、体に魔力を巡らせる方法を知らないで、今までどうやって魔法を使っていたの?」
魔法を使うには、魔力を体に巡らせ固有の名称を唱えることで、体の外に魔力を調整して放出し発動する。
魔力を持っていても、魔力の流れを知らないと魔法は発動できないはず。
「最近分かったんだけど、私の魔力は意識しなくても全身を巡ってたみたいなの。余りにも普通だったから、これが魔力って分からなかったのね。でも、今はちゃんと知ってるから大丈夫よ。」
俺の疑問に、最高の笑顔で答えるリリが、可愛すぎる天才で困ってしまう。
つまりは、リリは意識しなくても魔力が溢れんばかりに体を巡り、息をするような感じで魔法を普通に使ってたのか。
「リリアーベルは、本当に規格外だよね。」
セドリック殿下が、苦笑しながらリリの言葉を聞いている。
幼い頃からリリの魔法を見ているけど、リリが基礎を知らないで使ってるなんて、誰も分からなかった。
「……?リック兄様も、リリの魔法について、気づいてなかったのか?」
天才魔法師と言われるリック兄様が、リリに魔法を教えていたのに、基礎を教えないなんてあるのだろうか。
「リック兄様も同じように幼い私に教えたらしいの。でも私が、そんなことしなくても魔法が使えるって、ポイポイ魔法を使い出して、面白そうだからって、そのままにしていたんですって。私は、記憶に無いんだけどね。」
リック兄様なら有り得る。面白いこと大好きだからな。そのまま伸ばした方が、リリの為って事なんだろうけど、一般知識が無いと結局リリが困るから、大事なことは伝えていて欲しい。
「それじゃあ、リリアーベル。昨日と同じように、上手く出来ているか確認しよう。」
セドリック殿下が、リリに向かって両手を差し出すと、リリが殿下の両手を握った。
それを見て、咄嗟に体が動いて、リリの両手を殿下から奪う。
「ちょっと何してるんですか!」
リリの両腕を横からガッチリ抱きかかえ、殿下が触れない様に、リリと後ろに一歩下がる。
「何って?魔力の確認だよ。」
真面目な顔で、当然の事のように言ってくる殿下を強めの視線で威圧する。
「ユーリどうしたの?これも魔法を知る為に必要なんだよ。邪魔しちゃ駄目だよ。」
リリが両腕を拘束されたまま、俺を見上げて注意する。
その下から見上げる怒ったリリも、女神の如く最上の可愛さで、思わずぎゅっと抱きしめる。
「リリ、騙されちゃ駄目だよ。魔力の確認は一度やれば分かるんだから、一人で魔力を巡らせる事が出来るリリには、必要ない事なんだよ。こういう悪い男に騙されないようにと、いつも言っているだろう。」
「えっ?そうなんですか?」
驚いた顔で目をまん丸くして、小リスの様に俺と殿下を交互に見つめるリリ。
今日一番の可愛い顔を、腹黒殿下に見せるのが勿体ない。
「そんなことないよ。リリアーベルは長い間、魔力の巡りを知らなかったのだから、意識的に出来ているかの確認は必要なんだよ。これは、リリアーベルだから特別なんだ。」
澄ました顔で理由を述べる殿下に、リリが納得して頷いている。なんなら、''私の事を考えてくれてありがとう''と、感謝の気持ちまで込められた視線を送っている。
「ユーリ、殿下の言う通りだよ。これも、試験の為に必要なことなんだよ。だからね、離してユーリ。」
リリが、殿下を信じて両手を差し出そうとしている。
うっ、笑顔の殿下が憎たらしい。こうなったら、仕方がない。
「オリヴァー、今すぐこっちに来てくれ。」
リヒトと話しているオリヴァーを呼ぶと、こちらを振り向いて、面倒くさそうにしながらも、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。
「何だよ、ユーリアス。試験の範囲で、何か分からないところでも有るのか?」
「違うよ。リリの魔力が、ちゃんと流れているか確認して欲しい。ほら、両手を出してくれ。」
セドリック殿下は嫌だけど、オリヴァーなら何となく許せる……気がする。
「はっ!?どうして俺が?」
オリヴァーの顔が、みるみる赤くなっていく。
「そうだよ、ユーリアス。私は駄目で、オリヴァーが良いのは納得できないな。」
「そんなの……何か嫌なので、害の無さそうなオリヴァーに任せます。」
指名されたオリヴァーは、口をパクパクしながら、赤い顔で硬直している。
「オリヴァー様?えっと、よろしくお願いします。」
リリが、オリヴァーの両手を握ろうと手を伸ばすと、オリヴァーが「うわぁ!」と悲鳴を上げて、両手を引っ込めた。
「セドリック殿下が居るだろう。殿下にお願いしろよ。俺は、その…忙しい。」
その殿下が危険だから、オリヴァーに頼みたかったのに、拒否されては困ってしまう。
「仕方ないね。オリヴァーは忙しいようだ。やっぱり私が確認するよ。」
殿下がリリの手を握ろうとするのを、また阻止すると、困った顔の殿下から苦情が入る。
「ユーリアス、これは必要なことなんだから、リリアーベルも言っていただろう。邪魔をしないで欲しいな。」
「ここは譲れません。」
俺と殿下のやり取りを、不安そうに見ていたリリが、何かに引っ張られる。
「オリヴァーもセドリック殿下も無理なら、俺が確認するよ。」
リヒトが、リリの両手を握り、真っ直ぐにリリを見つめる。
「どう…かな?上手くできてる?」
リリが、少し照れたように、リヒトと視線を合わせる。
「大丈夫だ。ちゃんと出来てる。」
リヒトが、そっと右手を離して、そのままリリのフワフワの髪を撫でる。
「フフ、良かった。ありがとう、リヒト。ほらね、私もちゃんと魔力を流せてるでしょ。」
リリが、可愛いドヤ顔で俺達の方へと視線を送る。
「うん…。そうだね。良かった。流石、リリだね。」
セドリック殿下を阻止できたが、リヒトに全て持っていかれた感があって、モヤモヤする。
「ユーリアス、魔力の流れは誰でも出来るのだから、次からはユーリアスが確認したらどうだ?」
「あっ…。」
リヒトの言葉に、俺でも良かったんだと思い出し、更に悔しい思いでいっぱいになった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
【○✕∇■△視点】
「どうして、何故、上手くいかないの!私はヒロインなのよ!」
攻略対象が、全くこちらを見てくれない。それどころか、私に対する態度が冷た過ぎる。
この物語のヒロインは、私なのに―。
「私のための世界なのよ。」
あの女が本当に邪魔だわ。攻略対象に囲まれるべきは、この私なのよ。
今すぐ邪魔な女を消し去りたいのに、精霊が常に一緒に居るから、私では…あの女に近づくことも出来ない。
「もしかして、あの女…転生者なの…?」
許せないわ。前世の知識を利用して、私から攻略対象者達を奪うつもりなのね。
「ここは、私のための世界。あの女には、悪役令嬢になって貰って、私の世界から消えて貰わなくちゃね。手始めに、もう一人、彼なら接触が出来そうね。」
明日、彼に会って何としても攻略を進める。
そして、あの邪魔な女には、物語の正しいルートを辿ってもらい、世界から消えてもらうわ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次は、明日の夜に投稿予定です。よろしくお願いします。




