初めてのテスト ⑤
翌日、俺はセドリック殿下の願い通りに、精神系魔法を無効化する魔道具を持って来た。
「ありがとう、ユーリアス。これは、ペンダントになっているんだね。」
「指輪やピアスもあるんですが、ペンダントタイプの方が、何かと邪魔にならず使いやすいので、みんなコレにしました。」
指輪は、剣を使う時に邪魔になるし、ピアスは、見たら直ぐにお揃いだと分かるので抵抗があった。
友人同士でお揃いを身に付けるのは、仲良しアピールみたいで、何となく恥ずかしい。
ペンダントは、剣術でも魔法使用時でも邪魔にならない。それに服の中に隠せるので、お揃いでも気づかれない。魔道具と気づく人もいないだろう。我ながら、とても良い考え。
「殿下、この魔道具の凄いところはですね、一度装着すると、絶対に壊れないし外れません。万が一、敵が魔道具に気づいて外そうとしても大丈夫です。強化魔法と保護魔法が掛けられているので、本人以外は外せないようになっているのです。どうです、素晴らしいでしょう。」
折角の魔道具も外れてしまえば効果が無くなるので、そうならないように対策もバッチリだ。
「アハハ、流石だね。ユーリアスの熱意が伝わってくるよ。大事に使わせてもらうね。みんなに渡してもいいかな?」
「どうぞ。お好きなものをお選び下さい。」
セドリック殿下が、説明しながらペンダントをオリヴァーやエリオット達に渡していく。
「みんな、このペンダントは肌身離さずつけていて欲しい。特に、学園の中では外さないでね。」
「はぁ、何か色々付与されているな。これは、リリアーベルが作ったのか?」
オリヴァーが、ペンダントをじっと眺めながら、呆れたような顔を見せる。
「俺が、考えたものをリリが作ってくれたんだよ。言えばそのまま作ってくれるから、本当にリリは凄いよな。」
「凄いどころじゃないだろう。何だよ、このペンダント。精神系魔法を無効化するのは聞いたが、それ以外にも…いくつ魔法が付与されてるんだ。普通、こんなの作れないだろう。」
実は、俺もいくつ有るのか覚えてない。幼い俺が、思い出した脅威を全て防ぐために、色々と効果をつけて貰った。
多分、危機が迫れば何かしらが発動すると思う。
「みんな、ちゃんとペンダントを身に着けたね。それじゃあ、放課後は勉強会もあるから、しっかりね。」
セドリック殿下の言葉に、俺以外のみんなも深く頷く。
リリは、学園に広がる噂を知らない。リリを悪く言う噂なんて、リリには絶対に知られてはならない。
みんなだってリリと関われば、何も言わなくてもリリが優しい天使で、この世の何よりも可愛い女性だと自然と理解することが出来るだろう。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
勉強会初日、放課後の大講義室。
勉強会の話を聞いた生徒が、大勢詰め掛けた。俺たち一年生なのに、全校生徒対象だと殿下が言ったので、3年生まで参加している。
3年生のテスト範囲など、一年生の俺達に分かるわけないだろうと思ったが、質問されたらあっさり答えることが出来た。
やはり、学園の学習範囲は入学前までに家庭教師や父親から学んだ物ばかりだ。
昨日の令嬢達とアンジュ嬢も逃げずに参加している。
リリは何処に居るのか探すと、オリヴァーとセドリック殿下と一緒に魔法科の教科書を開いて勉強中だった。
アンジュ嬢は、どの教科が不安でリリに勉強を教えて欲しいと願い出たのか、つい気になり目で追うと、こちらの視線に気づいた彼女が近づいてきた。
「ユーリアス様、私に共通科目の勉強を教えてくれませんか?」
王国歴史の教科書を手に、上目使いで見つめてきた。
ただ、リリの方が、数億倍可愛いので、全く響かない。
「どこが分からないの?」
一切変わらない俺の態度に、一瞬だけ彼女の笑顔が崩れ掛けたが、直ぐに気持ちを切り替えたようだ。
彼女は、俺の隣にそのまま座り、教科書を見せなから体を寄せる。
「ここです。この英雄の戦いの所なんですけど……」
甘えるような声に、時折見せる笑顔。触れそうで触れない微妙な距離を保ちながら、彼女との会話が進んでいく。
「やっぱり、ユーリアス様は凄いですね。さっきまで、全然理解できなかったのに、とても分かりやすいです。」
「いや、そんなことない。アンジュ嬢の方こそ、少し説明しただけで理解するなんて、君こそ優秀だよ。これなら、教えを乞う必要ないんじゃないかな。」
俺の言葉に嬉しそうに笑って、頬を染めた。
実際、アンジュ嬢は優秀だと思う。Sクラスの実力があるのも頷ける。
これなら、2学期にはSクラスに戻っていてもおかしくない。(戻って欲しくないけど…)
「ユーリアス様にそこまで言って貰えて、私とても嬉しいです。また明日も分からないところを教えて貰いたいです。いいですか?」
両手を胸の前で合わせて、コテンと首を傾げる。近くに居た他の令息が、その姿に顔を真っ赤にしながら見惚れている。
ヒロインである彼女は、確かに可愛いのだろう。首を傾けた際に、肩から流れ落ちるピンクの髪はサラサラとして、思わず触れたくなる男もいるだろう。
見つめる潤んだ瞳に捉えられると、普通なら目の前の令息の様に、可愛さに見惚れるに違いない。
しかし、リリの可愛さを常に見続けている俺には、見惚れるほどの魅力も何も感じない。リリ以外の女性の仕草は、可愛さの欠片も無く、みんな同じように見える。
可愛さをアピールしているのかも知れないが、天使が近くにいるのだから、普通の人間が敵うはずもない。
「明日も質問があるなら答えるよ。」
表情を変えずに淡々と答える俺に、アンジュ嬢の表情は笑顔のまま固まり、その後の言葉は続かない。
「それじゃあ、質問も無いみたいだから、俺はもう行くね。」
彼女にそう告げて、俺はその場を離れて、エリオットと共に他の生徒の質問に答えることにした。
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