ヒロイン対策
王宮へと到着すると、そのまま、セドリック殿下の執務室へと案内される。
メイドがお茶の用意をすると、そのまま退出し、部屋の中は、俺と殿下とエリオットだけになる。
セドリック殿下が、お茶を一口飲んでから話し始めた。
「リリアーベルが心配だと思うけど、急ぎで確認したいことと、お願いしたことがあってね。」
「確認したいことと、お願いしたいこと?」
確認は良いけれど、お願いとは何を言われるのか警戒する俺に、殿下が笑いながら続きを話し始める。
「そう警戒しないで、まずは、確認だけど、最近のリリアーベルの噂を知ってる?」
(リリの噂?)
聞いたことがないと首を横に振る。
入学したての頃は、初等部の子が飛び級したとか、可愛すぎる新入生とか、噂があったはずだが、今はそんな噂も落ち着いて、特に何も聞こえてこない。
(リリの事だから、可愛すぎて本当は天使だったとか、美の女神様とか言われているのかな。)
リリの噂について、呑気に考えていると、殿下の口から耳を疑う言葉が聞こえた。
「噂というのは、リリアーベルがコルトブル男爵令嬢に嫌がらせをしていると言う話だよ。それから、君たちの誕生パーティーも嫌がるコルトブル男爵令嬢を無理やり参加させたと広まっている。」
「はっ?どう…いう…こと…です?」
リリが、嫌がらせなんてする筈がないし、そもそも理由もない。それに、誕生パーティーは、お母様が勝手に招待すると言い出して、俺もリリも反対していた側だった。
招待状を送ってからは、参加の返事が直ぐに届いていた筈だ。
「どうやら、中庭でリリアーベルとコルトブル男爵令嬢が話しているのを見た生徒がいて、その時にコルトブル男爵令嬢が泣いていたようです。そこから、嫌がらせの噂が広まったようですね。」
エリオットが、淡々と噂の元になった出来事について話していく。
「でも、それで…リリが、嫌がらせなんて、おかしい。二人の会話を聞いたんですか?本当にリリが、人を泣かせるような酷いことを?信じられません。そんなの…何かの間違いだ。」
見た人がいるだけで、会話が聞こえてないなら、本当の所はわからない。
俺は、リリが、人に酷いことをするなんて信じられない。
さっきだって、リリは、みんなに迷惑をかけたことに心を痛めていた。そして、本当はアンジュ嬢のお願いを聞いてあげたいと思って、それが出来ない事にも心を痛めていた。
だから、みんなに迷惑をかけることに謝罪し、その上で自分の代わりにアンジュ嬢の願いを聞いてくれたみんなに、ありがとうを伝えたんだ。
そんなアンジュ嬢を大切に思うリリが、彼女に嫌がらせをする筈がない。
「会話は聞こえてないと思います。ただ、コルトブル男爵令嬢が泣いていたから、嫌がらせをされていると受け取ったのでしょう。」
エリオットの声が、先程より低くなり、眉間に皺が寄る。
「私達も、リリアーベルが嫌がらせをするなんて思ってないよ。問題なのは、その噂をコルトブル男爵令嬢が、否定も肯定もせずに、曖昧な態度を見せているところだ。」
セドリック殿下の表情も怖いくらいに冷たく、アンジュ嬢の名を出すだけで、顔を歪める。
「そんなこと…、あっ、そう…言えば、誕生日前に、アンジュ嬢から呼び出されて、招待状の事で泣いて喜ばれたとリリから聞きました。まさか、その時の事が噂になったんじゃ…。」
その時のことは覚えている。アンジュ嬢が泣くほど喜んでくれたと、リリも嬉しそうで、招待状を出して良かったと喜んでいた。
その時の泣いていたアンジュ嬢を、悪い方に受け立った人が噂を広めたのか。
「それなら、何故、アンジュ嬢は、間違いだと否定しないんだ。」
俺が、当然の疑問を口にすると、セドリック殿下も頷いて同意する。
「私もそう思うよ。彼女は、わざと曖昧にして、噂を悪い方へ導いているように思う。多分、今日の事も明日には学園中に広がる。私が関与したことで、良い方に噂が変わればいいけど……、まあ、無理だろうね。」
一度、悪い噂が広まれば、そういう目でリリを見て評価する人が増える。特に、リリを知らない人は、噂の方が真実。
今日の図書室での出来事は、見ていた人が多かった。令嬢三人の声が大きくて、それだけを聞いた人は、やっぱりって思っただろう。
これも全て、アンジュ嬢の思惑通りなら、一体、リリを悪者にして何がしたいんだ。
まさか、本当にリリを悪役令嬢にしたいのか。
「そこで、君にお願いなんだけどね。まず、リリアーベルを絶対にアンジュ嬢と二人きりにしないで欲しい。リリアーベルにも絶対に二人にならないよう伝えて欲しい。リリアーベルを一人にしたら駄目だよ。そこを彼女は狙ってくる。なるべく、そうだな。ルミナを傍につけたらどうかな。」
ルミナなら、首に巻き付けておけば、ずっと傍に居られる。
俺は、殿下の言葉に頷いた。
「それから、精神に作用する魔法を全て無効化できるような魔道具が欲しい。もしかして、作ったりしてない?」
殿下の言葉に、ビクッと肩を震わせる。もしかして、昔作ったのがバレてる。
「確かに、リリに言って作って貰いましたけど、セドリック殿下が何故知ってるんですか?それに、まさか、セドリック殿下は、魅了魔法を、警戒してますか?」
そう、幼い俺は、前世の親友の言葉を思い出し、リリに作って貰った。
前世の親友は、言っていた。
『最近、ヒロインが魅了魔法を使って攻略対象者を虜にするって設定も多いんだよね。攻略対象者の気持ちを操るなんて、どっちが悪役か分からないね。』
その言葉を思い出してから、魅了魔法に警戒し、精神系魔法を無効化する魔道具を作り、俺は今でも利用している。
「いや、念のためだよ。今回のヒロインは魅了魔法は使ってないようだ。でも、これからは分からないだろう。どうやら本格的に動き出したようだから、念には念を…ね。」
セドリック殿下は、魔道具を人数分欲しいと依頼した。正確には、殿下を含めたエリオットやオリヴァーとビアトリス嬢のもの。
リヒトにリリもつけるようにと追加で言われた。
「分かりました。明日には持ってきます。」
「思ったより早く、用意出来るんだね。」
セドリック殿下が、少し驚いたような顔をする。
「リリを守るため、攻略対象者が魅了されないようにと、幼い頃に沢山作って保管していたのです。攻略対象が何人いるか分からないので、取りあえず20人分くらい作りました。」
「そんなに攻略対象は居ないでしょう。」
すかさず、エリオットが突っ込んでくる。
「そんなの分からないだろう。どんどん攻略対象が増えるかもしれないんだから、用意はして損はないよ。」
「増えるのは勘弁願いたいね。」
俺の言葉に、セドリック殿下が溜め息を吐きながら苦笑する。
「何にせよ、ヒロインがリリを悪役に仕立てようとしているのは間違いないだろう。これからも、ヒロインを警戒しつつ、学園がヒロインに乗っ取られないように注意して欲しい。」
「分かりました。」
この世界のヒロインって、呪いって言われたり、学園を乗っとると思われてたり、一体どんな存在なんだ。
でも、これではっきりした。王家は、ヒロインが攻略対象者を攻略していく事を知っている。それが、ゲームや物語だと思ってるかは別として、前世のそれらと同じ知識を持っている。
そして、今回の攻略対象者が誰なのか、登場人物に成り得る人が誰か、全てを把握しているって事だ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




