ガーデンパーティー (突然の乱入者)
会場に戻ってくると、俺達を見つけたリリが、急いで駆けつける。
「アンジュのお出迎えするなら、声をかけてくれてもいいのに。二人だけでズルいわ。」
天使なリリを目の前に、アンジュ嬢が更に緊張するのがわかった。
「アンジュ、急なお誘いだったのに、今日は来てくれてありがとう。あっちでみんなと話してたのだけど、アンジュも一緒にどうかしら?」
リリを見た彼女が、そのまま俯き、固まったまま動かなくなった。心配して声をかけようとすると、何やらブツブツと呟きが聞こえてくる。
「いや、何…何なの。この世のものとは思えない。いえ……そう、そうよ。女神だったわ。人間では…なかった…のよ。この前は、天使様だと思ったけど…今日は…今日は、もう、神よ。嗚呼…美の女神様。それに…それに…可愛すぎて…美しすぎて…直視できない。嗚呼…可愛すぎる、鼻血出そう…。」
リリの事を、可愛すぎて女神だとか天使だとか言いながら、最後に鼻を押さえて動きが止まる。
「あの子、やっぱりユーリと似てるわね。言ってることがユーリと一緒よ。それに、前に戻ってる。ただの普通の女の子よ。」
「そうねぇ。今のところ悪い子には見えないわ。リリが天使や女神に見えるなんて、ユーリと似たタイプみたいね。ルミナの言う通り普通の子で、面白いわ。フフ。」
ルミナとお母様は、面白そうに彼女の独り言を聞いている。
俺と彼女が似てるって、良い意味で言ってるんだよな。
「アンジュ?どうしたの?」
俯いたままの彼女に、心配になったリリが顔を覗いて声を掛ける。
「ひゃあ……天使様。いや…リリアーベル様、あの…はい。ぜひ、ぜひ、ご一緒に……おね…お願いしま…す。あの、あの、今日は、御誕生日、おめ、おめでとう…ございま、す。」
顔を真っ赤にして、両手で頬を押さえなから、必死に言葉を繋げる。
リリをチラチラと確認しては、目を逸らし「ひゃあ」と小さな悲鳴を上げている。
リリが可愛すぎて直視できないんだな。わかるな、その気持ち。それでも、可愛いリリを見たくて、チラチラ見ちゃうよね。
アンジュ嬢の気持ちが手に取るように分かる。
「フフ、ありがとうアンジュ。あっちでみんなが待ってるわ。ユーリも、一緒に行きましょう。」
リリが、アンジュ嬢の手を引き歩き出すと、「ぴゃゃぁぁ」と、今日一番の面白い悲鳴が上がった。
♢♢♢♢♢♢♢
ガーデンパーティーは、その後も何事もなく進んだ。
そもそも、悪意が有るものは、屋敷に入れないようになっているから、何か起こることはないのだけれど、念には念をということでベルにも警護は頼んである。
アンジュ嬢も、緊張で会話は変だけど、リリを慕っているのが見て分かる。
この子が、従姉に有りもしないことを吹き込んだり、リリに危害を加えようとしていたなんて、信じられないくらいだ。
実は双子で、アンジュ嬢とそっくりな姉妹が、アンジュ嬢の振りをしてましたって言われた方が、信じられるかもしれない。
「ユーリアス、彼女は、コルトブル男爵令嬢は、屋敷に入ることが出来たんだな。」
セドリック殿下が、声を抑えながら確認してくる。
「そうです。何の抵抗もなく普通に通れました。」
「そうか。やっぱり通れたのか…。」
セドリック殿下が、何か考えるように視線を下げる。
この間から、ヒロインに関することを、セドリック殿下は、知っているように思える。
(まさか…殿下も転生者ってことはないよな。)
考えなかった訳ではないが、俺が転生してるなら、他にも転生者がいてもおかしくない。
一番の候補がヒロインだったが、今のところ微妙だな。今日の様子からは、彼女が転生者なのは否定できるが、花祭りの彼女なら、有り得るかもしれない。
「何にせよ。ユーリアス彼女に気を許すなよ。」
「わかってますよ。」
殿下の言葉に、考えに集中していた意識を戻し、笑顔で答える。
すると、可愛い天使の声が、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ユーリ、ちょっと、こっちに来て。チェリーちゃんとタイガ君が話があるって。」
可愛い天使に呼ばれ、セドリック殿下に一言告げてから、その場を離れた。
「やあ、二人とも楽しんでいるかい?」
チェリーちゃんとタイガは、俺達の従姉弟にあたる。
初めてビッガートル家に行ってから、交流は続き、今日も招待していた。
叔父は、お母様の弟にあたり、叔父と叔母は、今は俺達の両親と少し離れたところで談笑中。先ほど、挨拶したが、相変わらず穏やかで優しい方達だった。因みに、リック兄様も来ているが、魔法塔の人達と楽しんでいる。
「ユーリ兄様、もう楽し過ぎて困るくらいです。私、あのチョコレートフォンデュが、とても気に入りました。我が家のパーティーでも、ぜひ取り入れたいです。今すぐ、持って帰りたいわ。」
真面目な表情で詰め寄るチェリーちゃんに、笑ってしまう。
先ほど挨拶したときは、澄ました顔で丁寧なお辞儀に、すっかり淑女の顔も出来るのかと思ったが、やっぱりチェリーちゃんはチェリーちゃんだった。
可愛い従妹の願いには応えなければいけないな。
「もちろん、チェリーちゃんが望むなら、早めに領地に送るよ。リリは平気?」
作成はリリなので、確認すると満面の笑顔で胸を張る。
「任せて頂戴。すぐに作るわ。他にも殿下やオリヴァー様や、沢山の人から注文があったから、まとめて一気にやっちゃうわね。」
リリの言葉に、これは売れるのでは?と期待しつつ、お父様に相談しようと決めた。
「ユーリ兄さん、それよりも、今年は俺達の領地に遊びに来てくれるだろう?去年、約束したよな。」
タイガが、期待を込めた笑顔を寄せて聞いてくる。
そういえば、去年は領地に帰るからビッガートル家に行けなくて、来年の夏休みに行くからと約束していたんだったな。
「もちろん、覚えているよ。8の月にはビッガートル家に行く予定だけど、二人とも予定は大丈夫かな?」
「平気だよ。二人が来るから予定は入れてない。」
確か、チェリーちゃんは学園の中等部に通っていたけど、俺たちと夏休み時期は一緒だから、領地に戻る予定だよな。
大抵の貴族は、長期休みには領地に帰るのが普通だろう。俺とリリは、色々あって王都に居ることが多いけど、面倒な問題が最近一つ片付いたから、領地に帰りやすくなった。
「チェリーちゃん、領地に行ったら、久しぶりにピクニック行かない?あの湖、本当に綺麗で、私、大好きなの。」
「私もよ。リリ姉様と久しぶりにお出掛けするの楽しみだわ。ピクニックだけじゃなくて、お買い物にも行きましょうよ。」
女子二人は、すでに何処に行こうかと楽しそうに話し合っている。
(リリ嬉しそうだな。リリとの遠出も久しぶりだな。楽しみだ。)
そう思った時だった。
「それなら、私も一緒に行ってみたいな。愛し子と出掛けるのは、さぞ楽しかろう。よければ、我が国に招待してもいいぞ。どうだ?可愛いリリアーベル。」
突然、発せられた聞いたことのない男の声に、一気にその場が緊張する。
「ちょっと、嘘でしょ。どうして顔を見せちゃったの。もう精霊王様、まだ来ちゃ駄目って言ったでしょう。しかも、こんなに人間が沢山いるところで姿を見せちゃって、どうするのよ!」
ルミナが空に向かって、大声で怒っている。空を見上げると、綺麗な青空に一人の男性が浮かんでいて、ただ一人を、リリを見つめていた。
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