小さな火種
「お母様、ガーデンパーティーにするなら、入り口をお花のアーチにして、シャボン玉作製機で、沢山のシャボン玉を飛ばして、お客様を迎えるのはどうかしら。きっと綺麗よ。」
「良いわね。子供も参加するから喜ぶわよ。」
リリとお母様が、楽しそうに誕生パーティーの会場や料理について話し合い、着々と準備を進めている。
「警護の問題も解決して、セドリック殿下も招待できて良かったわ。ルミナのお陰よ。ありがとう。」
リリが、自分の首に巻き付いているルミナを撫でながら、お礼を言う。
「リリとユーリの為だもの。これくらい何てことないわ。」
セドリック殿下を招待するため、ルミナに協力して貰い、屋敷全体に結界を張ってもらうことにした。
この結界は、人でも物でも魔物でも、悪いものを弾く効果があり、悪意があるものは会場に入ることが出来ないようになっている。
人の命を奪う物も通れないため、屋敷の中は安全。これで、セドリック殿下も安心して招待出来るようになった。
「別にそこまでしなくても、殿下を招待しなければ済む話なのに、仕方ないわね。」
お母様も、渋々、許可を出してくれたので、先日無事に、殿下にも招待状を手渡した。
殿下は、リリから直接貰った招待状を、とても嬉しそうに眺めてから、大事に上着のポケットにしまった。
招待状も全て送り済み。招待するのに抵抗あるが、アンジュ嬢にもお母様が招待状を出してしまった。
まだ、本人とは会えていないが、招待状は届いているだろう。
両親もいるし、友人達も近くにいる。そんな場所で何か仕掛けるとは思えないが、警戒だけはしておこう。
「お庭でのパーティーだから、当日は晴れたらいいな。」
「大丈夫よ、リリ。その日は絶対に晴れるわよ。私が保証するわ。」
ルミナが、自信満々に答える。何か企んでいそうだが、取りあえず黙っておく。
「ねえ、ユーリ、家族以外と初めての誕生日って、どういう感じかな。すごく楽しみだね。」
瞳を輝かせて、微笑んでいる天使なリリが、今日も変わらず可愛らしくて、俺もつられて笑顔になる。
「リリとお母様が、一生懸命考えて準備しているから、きっと素晴らしいものになるよ。俺も楽しみで待ちきれないよ。」
「フフ、ユーリったら、小さな子供みたいね。まだ少し準備があるから、今度はユーリも手伝ってちょうだい。」
リリが、俺の手を引いて、外に向かって歩き出す。
「俺に出来ることなら、何でも手伝うよ。」
誕生日まで、あと少し。
大切な16歳の誕生日が、素敵なものになるようにと、そっとリリの握る手に力を込める。
♢♢♢♢♢♢♢
ある日の放課後。
「ねえ、あそこ見て、あの女生徒、こんなところで頭を下げて、謝ってるみたい。何かトラブルかしら。」
「本当だわ。あっ、顔を抑えて……もしかして、泣いてる?」
校舎の3階から中庭を覗く生徒が数人。
「あの小さい子が、何か言ってるみたい。あっ!あの泣いてる子、やっぱり謝ってるみたいよ。」
「もしかして、あの小さい子が泣いてる子を責めてるの?私、あの小さい子の事、知ってるわ。確か、ゴルドリッチ侯爵令嬢よ。」
「私も知ってるわ。最近、先輩と対決してた子よね。あの泣いてる子は、先輩の取り巻きじゃなかった?」
「えぇ、それじゃあ、侯爵令嬢が、一人の女生徒を泣かせているの。まさか…いじめ?」
この日の出来事が、静かに、でも確実に、人々の中に浸透していく。
今はまだ、小さな小さな種だが、何かの切っ掛けで芽が出ると、いずれ大きく成長し悪意となって、襲いかかる。
その日まで、もう少し。あと少しだけ猶予をあげる。だから、まだ、今を楽しんで…。




